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公開日:2022-09-09

読み手ファーストの文章を書くコツとは?

学び
読了まで:8分
読み手ファーストの文章を書くコツとは?

「文章を書くことに対して苦手意識がある」「資料をつくっても、伝えたいことが伝わらない」......。
公文書、報告書、予算要求資料など、文章を書くことが多い自治体で働く中で、こういった悩みを持つ人は少なくないのではないだろうか。

本企画では、国・都・区、3つのステージでキャリアを積み、職員採用試験・管理職試験にも携わる工藤勝己さんに、「公務員の文章力アップ」について執筆していただく。

第2回のテーマは「文章との付き合い方」実践編。
工藤さんは「読み手を最後まで見守ってあげようとする姿勢が大切」と述べている。どういうことなのか、早速詳しく見ていこう。

読み手ファーストの文章を書く

ある日、新幹線の切符を買うためにJRの駅を訪れました。みどりの窓口のシャッターが閉まっていたため、駅員に「みどりの窓口は何時に開きますか?」と尋ねると、「2年前に閉鎖しました」という答えが返ってきました。

その後、「どのようなご用件ですか?」と聞かれたので、お盆の帰省切符を買いにきたことを伝えます。

すると、駅員は優しく笑みを浮かべながら、「隣の駅にありますよ」「新幹線の切符なら当駅の券売機でも買えます」「券売機での発売は10時10分からとなります」「在来線との乗り継ぎ切符も対応可能ですよ」などと、私が知りたいことの全てを丁寧に教えてくれました。

気の利かない駅員なら、「2年前に閉鎖しました」というひと言だけで終わらせていたかもしれませんが、その駅員は私のニーズを満たそうとお客さまファーストで対応してくれたのです。

このとき、ふと「ドリルの穴理論」を思い出しました。ともすればプロダクトアウト(売り手都合)になりがちなマーケット業界には、思考回路をマーケットイン(買い手都合)に転換するための格言があります。それは、「ドリルを買う人が欲しいのは“穴”である」というものです。

ドリルを買いにきた客に、その客が欲しいと思っているドリルを売るのではなく、客にとって最善のドリルを提供するために、「どんな穴を」「どのような材質のものに」「どれくらいの頻度で」開けたいのかを把握すべきだと説いているのです。

実は、文章を書く際も「ドリルの穴理論」は大いに参考になります。

思考回路をプロダクトアウト(書き手都合)からマーケットイン(読み手都合)に転換しなければ良い文章が書けないと、私は肝に銘じています。

読み手がどのような情報を求めているのか分からない中でも、読み手のニーズを推し量り、知っておくべき情報を惜しみなく提供しようと心掛けています。

そして、「こんな内容も盛り込もう」「これを書いたら喜ばれるかな」「エピソードも紹介してみよう」などと思いを巡らせ、かゆいところに手が届く「読み手ファースト」の文章にしたいと、強い思いを抱きながら筆を走らせています。

ちなみに、この記事の冒頭で登場した駅員は、私が券売機の前に立つと、すかさず近くまで走ってきてくれて、操作が終わるまで優しく見守ってくれました。文章を書く際も同様だなぁと思いながら、私は駅員にお礼の言葉を伝えます。

読み手を最後まで見守ってあげようとする姿勢が大切だということを、改めて思い知らせてくれた出来事でした。

 

文章で行動変容を促す

「フレーミング効果」という言葉は、誰もが一度や二度は耳にしたことがあるはずです。

特定の情報を相手に伝える際、どこにフォーカスするかで相手の受け取り方がガラリと変わってしまう認知バイアスのことです。

物事を表現するためのフレームを工夫して読み手の印象を操作できれば、行動を起こしてもらうため背中をそっと押してあげることができます。

例えば、「あなたはメタボ予備軍です。特定保健指導を受ければ万歩計がもらえます」というポジティブフレームにはめ込んだ文章があります。

一方で、「あなたはメタボ予備軍です。このまま放置すると手遅れになるリスクがあるため、特定保健指導を受けてください」というネガティブフレームにはめ込んだ文章もあります。

どちらのフレームを使うかはケース・バイ・ケースですが、特定保健指導の受診を強く促すなら後者が効果的だということが分かります。

つまり、「利益追求行動」に着目するならポジティブフレームを使い、「損失回避行動」に期待する場合はネガティブフレームを活用すればよいでしょう。

読み手の心を動かすために効果的な文章が書きたいと思う場面は、日常業務でもよくあります。

説明会やイベントの参加者を増やしたい、地方税の徴収率を高めたい、職員採用試験や昇任試験の受験者を増やしたい場合などもそうでしょう。

いざという時に行動変容を促す効果的な文章が書けるように、「フレーミング効果」を頭の片隅に置いておくと、きっと重宝するはずです。

 

刺さる1行を紡ぎ出す

インターネット上には様々な情報が氾濫していますが、どの記事を読むか決める際にタイトルや見出しを見て判断する人は多いはずです。

そう考えてみると、タイトルや見出しが極めて重要な役割を果たしていることに気づかされます。

それでは、魅力的なタイトルやインパクト抜群の見出しを考え出すためには、どうしたら良いのでしょうか?

ここでは、私が実践している方法をご紹介したいと思います。それは、「自称コピーライターになる」というものです。

テレビCMには、刺さる1行のお手本が満載です。「そうだ京都、行こう。」や「ココロも満タンに。」「地図に残る仕事。」などは、「刺さる1行」の効果が絶大であることを私たちに教えてくれます。

少ない文字数で相手の心をとらえるために「刺さる1行」を考える癖をつけると、キラリと光るタイトルやインパクト抜群の見出しを紡ぎ出すセンスを磨くことができます。

最も簡単な方法は、電車の中づり広告にあるキャッチコピーをリメイクしてみることです。

例えば、「花めぐり、京都。」というキャッチコピーを掲げている中づり広告があったとします。

自称コピーライターの私は、もっと洗練されたキャッチコピーにできるはずだと考えて、電車の中で言葉あそびを始めることになります。

そして、「心の居場所は京都。」「秋深し 京都に心を置いてみる。」「心に京都の風を通す旅。」「おいでやす おこしやす 京都。」などのオリジナル作品を考えて、言葉あそびを堪能します。この方法なら、電車の中で感性を磨くことができます。

ありきたりなタイトルやつまらない見出しを掲げたことが原因で本文を読んでもらえないとすれば、苦労して書いた文章も書き手の自己満足で終わってしまいます。

皆さんも自称コピーライターになって、「刺さる1行」を紡ぎ出してみてはいかがでしょうか?
 

走り書きのススメ

係長や課長になると、議会答弁書を作成したり部下が書いた文書をチェックしたりする機会が確実に増えますので、文章が書けないと仕事は務まりません。このため、昇任試験では論文を課している自治体が多いはずです。

普段、文章を書く機会が少ない人や文章に苦手意識がある人にとって、論文試験は最大の試練だと思います。

試験本番に向けて気合を入れて、過去の出題テーマで論文を書いてみようと机に向かってはみたものの、一向に筆が進まないという声をよく耳にします。

そんな人たちに対して、私は「走り書き」を勧めています。

論文としての体裁にこだわらず、思いつくことをひたすら書き出していくのです。接続詞や助詞の使い方など細かいことは一切気にせずに、出題テーマの背景や具体的な課題、解決策などを箇条書きにしていきます。

ひととおり書き終えたら、今度はそれをグルーピングします。

昇任試験論文の場合は課題と解決策を3つずつ述べますので、3つのグループに仕分けしながら必要のない表現を断捨離していきます。

そして、いよいよ接続詞を使って文と文をつなぎ合わせていくことになります。

この方法ならレジュメを作成する必要がないため、文章を書き慣れていない人も思考がフリーズしなくてすむはずです。

外山滋比古さんの『思考の整理学』(筑摩書房)に思慮深い文章があります。

「書き出したら、あまり、立ち止まらないで、どんどん先を急ぐ。こまかい表現上のことなどでいちいちこだわり、書き損じを出したりしていると、勢いが失われてしまう。

全速力で走っている自転車は、すこしくらいの障害をものともしないで直進できる。ところがノロノロの自転車だと、石ころひとつで横転しかねない。速度が大きいほどジャイロスコープの指向性はしっかりする」。

このように外山さんは書いていますが、文章を自転車に例えた比喩表現は絶品だと思います。

ここでは昇任試験論文を例に挙げましたが、議会答弁書など日常業務で作成する文書も同様です。

自転車のペダルをこいでいくように、ひたすら走り書きをして白い紙が文字で埋まってくると、出口が見えなかったトンネルの先にポッカリと明かりが見えてくるから不思議なものです。
 


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【連載】公務員の文章力をアップさせる極意を学ぶ

「文章を書くことに対して苦手意識がある」「資料をつくっても、伝えたいことが伝わらない」......。
公文書、報告書、予算要求資料など、文章を書くことが多い自治体で働く中で、こういった悩みを持つ人は少なくないのではないだろうか。

本企画では、国・都・区、3つのステージでキャリアを積み、職員採用試験・管理職試験にも携わっておられる工藤勝己さんに、公務員の文章力をアップさせるポイントを教えていただく。
 


プロフィール

工藤 勝己(くどう かつみ)さん
葛飾区 総合庁舎整備担当部長

1985年運輸省(現 国土交通省)入省、港湾施設の地震防災に関する研究に従事。その後、1989年葛飾区役所入庁。東京都庁派遣、特別区人事委員会事務局試験研究室主査、区画整理課長、道路建設課長、立石・鉄道立体担当課長、立石駅北街づくり担当課長、都市整備部参事を経て、2022年4月より現職。道路及び下水道施設の設計、橋梁の架替え、土地区画整理事業、都市計画道路事業、連続立体交差事業、市街地再開発事業に携わる。

特別区職員採用試験及び特別区管理職試験の問題作成・採点・面接委員、昇任試験の論文採点を務める。

また、都政新報の連載記事「文は人なり」の執筆、実務研修「文章の磨き方」の講師を務める。著書に『公務員の伝わる文章教室』(学陽書房)がある。技術士(建設部門)、技術士(総合技術監理部門)、土地区画整理士。

著書

一発OK! 誰もが納得! 公務員の伝わる文章教室 | 工藤 勝己 |本 | 通販 | Amazon『公務員の伝わる文章教室』(学陽書房)

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