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【相談】公務員に向いていないのでは…転職すべき?

異動や昇進、副業、転職…公務員を悩ませるキャリアの問題。

この連載では、キャリアコンサルタントの国家資格を持ち、公務員の仕事やキャリアに関する著作も多い小金井市の堤直規さんに、公務員のキャリアに関するお悩みに答えていただく。

第2回は、「公務員に向いていないのではないか?」というお悩みについて執筆いただいた。

 

今回の相談者

「公務員に向いていないのでは…と悩んでいます。転職した方がいいですか?」(20代男性)

活躍している同期と比べて、自分は目立った成果も出しておらず、注意を受けることも多く…。公務員に向いていないのでは、転職した方がいいのでは、と悩んでいます。

 

こんにちは。本日はご相談ありがとうございます。

ミスが続いて先輩に叱られた。仕事はうまくいかないし、面白いと感じられない。職場にも何かなじめないものがある。しっかり楽しくやっているように見える同期と比べて、自分は公務員に向かないのではないかと強く感じる…ということなのですね。

転職すべきかとも思って悩んでいるということですね。もちろん、あなたの輝く未来がほかの職業や職場にあるということもあるかもしれませんけれど、1つ1つ一緒に考えていきましょう。

「適職」より「天職」を

公務員が自分に「向いている」「向いていない」。そう思うのは、自分に適した職業「適職」がどこかにあると思うからですよね。

中野裕史さんはその著書『天職の見つけ方』(PHP研究所)の中で

 「適職を見つけたい=適した仕事でストレスなく働きたい」
 「天職を見つけたい=やりたいことで充実感をもって働きたい」

と「適職」と「天職」を区別しています。私もこの考え方はいいなと思っています。

もし、「公務員が向いていないかも」という悩みの中で、「ストレスなく働きたい」「特に苦労なく働きたい」という思いが強いなら要注意です。なぜなら、どんな仕事にも何らかのストレスはあると考えられるからです。一方で、やりがいも同時にあればストレスや苦労もあまり嫌とは感じられない…ということではないでしょうか(ハラスメント・ブラック職場の場合は別です)。

「自分に向かないかも」と思うときには、「やりたいことで充実感を持って働きたい」という前向きな思いからそれが出ているのかを、よく自問自答するといいですよ。

私も、何度も「向かないかも」と思いました(今も「向いている」とは思っていません)。けれど、まちに愛着を、仕事にやりがいを、公務員に大きな可能性を感じているので、大変なこともあるし、やらかすことも多いけれど、これが私の「仕事」なのだと思えるようになりました。

本気でやって初めて分かる「仕事の面白さ」

とは言え、何が「やりたいこと」なのかなんて、自分でもよく分からないものですよね。

まず、お伝えしたいのは、私たちにはまだ自分も知らない大きな可能性がある。だから、いろいろやってみる中で確かめていくことが大事だということです(啓発的経験)。興味はなかったけれどやってみたら面白く思えるものも、逆にやりたいと熱望していたのにそうでもなかったことということも、それぞれ数多くあったりします。

なので、まず今の1つ1つの仕事に本気で取り組んでみることが大事です。その仕事の本当の意義・面白さ・大変さは、本気でやってみないと分かりません。そのときに役立つのが「ジョブ・クラフティング」です。個々の作業・人との関係・捉え方を変えることで、よりよい形で仕事に取り組んでいけるようにすることができます。なかなか急には難しいかもしれませんが、次の1~9をぜひ意識してみてください。

ジョブ・クラフティング尺度(Sekiguchi, Li, & Hosomi, 2017)

【タスククラフティング】
1. 仕事をしやすくするために必要な作業を追加したり不必要な作業を減らしたりする
2. 必要と感じれば新たな作業を自分の仕事に加える
3. 仕事の中身や作業手順を自分が望ましいと思うように変更する

【関係クラフティング】
4. 仕事を通じて積極的に人と関わる
5. 仕事を通じて関わる人の数を増やしていく
6. 仕事で関係する人々の状況を把握し、相手の便宜をはかる

【認知的クラフティング】
7. 自分の担当する仕事を見つめ直すことによって、やりがいのある仕事に見立てる
8. 自分の担当する仕事を単なる作業の集まりではなく、全体として意味のあるものだと考える
9. 自分の担当する仕事の目的がより社会的に意義のあるものであると捉えなおす

転職などを考えるとしたら

いまの仕事に本気で取り組んでみても、異動したりして別の業務に取り組んだりしたとしても、「やはり公務員には向かない」「別の職業の方がいきいきと働ける」という結論になるかもしれません。

私の場合、IT関係の仕事についていた29歳のときにそう結論しました。知識・スキルとしては多少得意ではあったし、収入もよいけれど、自分の「やりたいこと」ではないと考えました。中高年になってもやっている自分の姿がピンとこなかったのです。それで、いろいろ考えてみる中で運よく小金井市役所に採用され、いまに至っています。あなたにとって、それがいまの仕事なのかもしれません。

私が納税課に在籍していた頃、国税専門官として採用されて転職していった若手職員がいました。業務に励む彼女の転職は痛手でした。けれど、元々税務にそれほど関心がなかった彼女の、それを専門に働いていきたいという志に触れたとき、これ以上慰留すべきではない、新たな門出を応援すべきだと思ったのです。そういう前向きな転職もあるでしょう。

転職や起業などを考える場合には、「自分は何を大事に、どんな仕事をしたいのか」、「そのためならどんな苦労ならば耐えられるのか」、そして、「自分のスキルや経験で『売り』になるものは何か」、そうしたことを冷静に考えてみましょう、特に「何ができる」というスキル・実績はよく棚卸ししてください。転職では、それが特に重要です。

また、どんな転職・職場でも、事前に考えていたのは違ったというギャップ(リアリティ・ショック)はある程度あります。これから働く職業・職場について、よく調べて理解しておくことがその備えとなります。

ご参考になりましたでしょうか?

「向いていないのでは」という悩みも、仕事に対する自分のあり方を問い直すよい機会になります。ただ、仕事には色々な面があります。きっと「向いていない」面だけでなく、「向いている」面もあるはずなのです。その両面を考えることが、よりよい未来につながります。ぜひ自分らしく自分なりのキャリアを。応援しています!

今回の処方箋

・なぜ「向かない」と思うのか、踏み込んで考えてみる

・目の前の仕事に「本気で」取り組んでみる

・自分の「売り」は何か、スキル・実績の棚卸しをしてみる


この連載で取り上げてほしいお悩みを募集しています!コチラよりお待ちしております。

 


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堤 直規(つつみ なおただ)さん

小金井市福祉保健部新型コロナウイルス感染症対策担当課長、キャリアコンサルタント(国家資格)。

1971年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業、同大学院社会教育専攻修了。2001年小金井市入所。前職はIT関係。情報システム係、国保税徴収担当、企画政策係長、納税課長、行政経営担当課長を経て、2021年10月から現職。2018年にキャリアコンサルタントとして登録。
著書に『公務員1年目の教科書』(学陽書房 2016年)、『公務員ホンネの仕事術』(時事通信出版局)等4冊。2020年度は月刊『ガバナンス』に「未来志向で考える!自治体職員キャリアデザイン」を連載。趣味は旅行と日本酒・ワイン。特にキャンピングカーでの気まま旅。

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