府の管理職から市へ転職するという、非常に稀な官から官への転職を果たした領家さん。そこには、公務員の仕事への確たる思いがあった。
※下記はジチタイワークス公務員特別号(2021年3月末発行)から抜粋し、インタビューの内容やプロフィールは原稿作成時(同年2月中旬)のものです。
奈良県生駒市
地域活力創生部 部長
領家 誠 さん
りょうけ まこと:1987年、大阪府に入庁し、健康福祉総務課、商工振興室ものづくり支援課などで勤務。同府では、要介護認定の広域化や自治体初のオープンイノベーション型ビジネスマッチング、ものづくり支援拠点「MOBIO」開設などに取り組み、自治体の外では、関西ネットワークシステム(KNS)世話人、JICA※等の専門家としてベトナムでのものづくり人材育成事業などの社会活動に取り組む。2020年に生駒市へ転職。地域活力創生部部長を務めている。著書に「町工場からアジアのグローバル企業へ」(中央経済社・共著)など。
※JICA=Japan International Cooperation Agency(独立行政法人国際協力機構)
官民協働が進む中、公務員のキャリア形成も転換期を迎えている。
Q.長年勤めた大阪府から生駒市へ転職したきっかけとは。
大阪府に33年間勤め、53歳で転職しました。その根底には元厚労省・炭谷茂さんから学んだ「40歳以降に関わる仕事は全てライフワークに」という考え方がありました。私も異動の度に、築いた人脈がリセットされるのがもったいないと感じていたのですが、この考えに触れ、どの部署でも「この仕事を一生続ける」という思いで臨めるようになりました。結果、志を持った仕事ができ、人とのつながりも自身の世界も広く深くなり、公私ともにより一層充実しました。
しかし、定年まで10年を切り、次長級以上になるとこれまでのキャリアから遠ざかる未来が見えてきました。これまで培ったものを活かすのは難しいと思っていたところ、隣県・奈良県の生駒市が「官民プロ人材」を公募。募集7分野のうち「地域活力創生」が、まさに私のキャリアを活かせる場だと感じ、応募を決意しました。府でのポストを捨てての転職に、上司や部下には呆然とされましたね。
Q.“府”と“市”で感じる違いや課題は何かありますか。
令和2年4月に生駒市の地域活力創生部部長に着任。それまでのキャリアとネットワークを活かし、裁量を持ちつつ現場でも動けて、部内の風通しもよく、やりがいのある職場です。よそ者だと孤立することもなく、様々な面で頼ってもらえています。
業務に当たる中で課題に感じているのが、企画力のある職員が少なく、商工政策のノウハウも不足している点。今はまだ新規企画はほぼ私が担っています。アイデアを事業にし、組織に落とし予算を取って、議会を乗り越え、広報や周知をし……と、ここまで通しで行うのが“企画”。これには経験の積み重ねが必要です。今後は人もお金も減り、企画こそ活きてくる時代なので、できるだけ部下にも多くの経験を積ませたいと考えています。また、生駒市は魅力的な事業を多く行ってきたのですが、単発で完結しているのが残念。複数の事業を戦略的に企画し、つながりを持たせながら展開することで、もっと効率・効果が高い事業になるはず。オムニバス映画のように、“一見バラバラだけど、実は伏線があった”という形が理想だと思います。
現在、部では「100の複合型コミュニティ事業」や産学官民金の連携で企業・人材発掘を行う「エコノミックガーデニング」なども始め、“活力ある地域形成”へのつながりを持たせた展開を図っています。
Q.“官→官”の転職は今後、増えると思いますか。
私のように管理職での転職はレアケースかもしれませんが、居住地の変更などでその地域の役所に勤めるなど、すでに官から官への転職は一定数あると思います。ただ、昨今は専門スタッフ職採用や社会人採用、レンタル公務員などスペシャリストを求める自治体が増えているので、キャリアアップとしての転職も増えるかもしれません。そもそも定期的に異動がある公務員はゼネラリスト養成が基軸のため、やりたいことを見つけたら民間企業へ、という選択に流れがちです。しかし、あくまで公務員として自分が“どこにいれば組織や社会の役に立てるのか”という考え方を持っておくべき。
今いる場所で信頼や実績を固めながら、公務員として自らのキャリアを活かす道も、選択肢の一つではないでしょうか。