初めて住むまちで“居場所が欲しい”と始めたのが、特技の書道を活かしたイベント。この輪が広がり、地方活性化への小さな波が起き始めている。
※下記はジチタイワークス公務員特別号(2021年3月末発行)から抜粋し、インタビューの内容やプロフィールは原稿作成時(同年2月中旬)のものです。
山口県萩市
農林水産部 農政課
岡﨑 后咲 さん
おかざき みさき:小学校3年生から書道を始め、大学で文学部書道学科に進学し、書道の教員免許を取得。大学卒業後、2018年に萩市へ入庁し、農林水産部農政課に所属。特技の書道を通して町での居場所をつくろうと、バーでお酒と書道を楽しむ「筆に酔ふ会」を企画、2019年4月より毎月1回開催。2021年1月時点で16回開催している。さらに、「へのへのもへじ」を楽しく描く「萩たまちテーブル」への出店、「隷書の技法を楽しむワークショップ」や「美の遊美 木の枝やススキ等の自然を使って作品作り」を主催するなど、様々なイベントを企画。SNSでの情報発信も積極的に行っている。
書道イベントを通して、一緒に地域を盛り上げる仲間を増やしたい。
Q.萩市で書道を活かした活動を始めたきっかけは。
私は福岡県北九州市出身ですが、「しまね留学」(島根県が全国からの高校入学生を募集する取り組み)1期生として島根の高校に通っていました。当時は、入学後の制度やフォローなどが確立しておらず、地域を盛り上げたい機運は高くとも、行政・地域・学校とで手段に対する考え方や価値観がかみ合っていない場面にも遭遇しました。そこで、「行政の立場から地域活性化の力になりたい」という思いを抱くようになったのです。萩市を選んだのは、資源豊かでほどよい規模感のまちであること、そして何度か訪れたことがあったからです。
知り合いがいないまちで働き始め、「仕事以外での楽しみを見つけたい」、そして「このまちで居場所や仲間が欲しい」と、特技である書道を活かすことを考え始めました。私は書道学科出身で、学生時代に居酒屋などでお酒を飲みながら書道を楽しむ会を開催していたんです。その経験をヒントに、「筆に酔ふ会」を企画。風光明媚な萩市の町並みにもよく合うと思いました。
Q.「筆に酔ふ会」の輪を、どのように広げてきましたか。
まず会を始めようにも、やってきたばかりのよそ者である私が場所やサポーターを探すのは難しく、最初はいろいろなお店を飲み歩いて仲間集めや情報収集をする日々。少しずつ仲間を増やし、約1年後にようやく第1回目の「筆に酔ふ会」を開催できました。
毎月1回、バーでお酒を飲みながら気ままに書道を楽しむという内容。地元の人や偶然訪れたバーのお客さん、時には観光客の方が参加してくれ、交流を楽しむ場になったこともあります。回を重ねるごとに仲間が増え、地域の様々なイベントに呼んでいただけるようになりました。「へのへのもへじ」を自由に描くなど、アートのようにゆるく楽しめるものから、専門的な技法に挑戦できるものまで、多彩で敷居の低い書道イベントを企画しています。仲間の協力もあり、それなりに形になっていく中で、手伝ってくれた方から「自分もやってみたいことがある」と、ポジティブな声が上がる機会も増えました。
Q.このイベントの実施が公務員としての岡﨑さんに与えた影響とは。
地域活性化に貢献したいとの思いで市職員になりましたが、どの土地にも、地域性や難しい問題などがあり、行政に対しある種の嫌悪感を抱く方もいると感じています。ですが、このような個人的な活動を通じてたくさんの仲間をつくることで、行政への印象も変えていけるのではないかと。さらに、業務上で何か難しい問題に直面した際、味方になってくれる方も多いはず。サポーターを増やすことが、多方面からまちの課題を解決できる大きな力につながると思っています。そのためにも、今は「筆に酔ふ会」の拠点や実績を増やしていきたいです。時には市外で活動して萩市のアピールを兼ねたり、移住者と地元の人をつなげる機会をつくったりして、ポジティブな波を市内に広げる一助になれれば嬉しいですね。
公務員の仕事は異動が多く、キャリア形成が難しいという面もあると思います。でも、特技などを活かせる居場所を持つことで、自分自身をコントロールしやすくなり、気分転換にもなります。その上、人脈やプラスαのアイデアも生まれ、結果的に公務員としての仕事にも良い影響が生まれると思います。