公務員では珍しく、ゲイであることをカミングアウトしている永田さん。LGBTQ当事者の立場で切り拓いた、ダイバーシティ推進の道のりとは。
※下記はジチタイワークス公務員特別号(2021年3月末発行)から抜粋し、インタビューの内容やプロフィールは原稿作成時(同年2月中旬)のものです。
東京都渋谷区
総務部
男女平等・ダイバーシティ推進担当課長
永田 龍太郎 さん
ながた りゅうたろう:大学卒業後、1999年「株式会社東急エージェンシー」に就職。2002年に「ルイ・ヴィトンジャパン株式会社」へ転職し、2007年に「ギャップジャパン株式会社」にて宣伝・広報・マーケティングの業務に従事。ギャップジャパン在籍中に自身がゲイであることをカミングアウトし、社内外に向けたLGBTQ※施策立ち上げをリード。その経験を買われ、日本で初めて同性カップルへのパートナーシップ証明書交付を始めた渋谷区より、LGBTQインクルージョン推進を担う任期付き職員としてオファーを受ける。2016年9月より現職。
※LGBTQ=性的マイノリティの総称。(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー、Q=クイア、クエスチョニング)
当事者でなくてもLGBTQの啓発は進められるはず。
Q.LGBTQ当事者であることをカミングアウトしている自治体職員は少ないとか?
国・自治体の管理職では、全国で私一人だと聞いています。人口の7~8%がLGBTQ当事者といわれますし、いないはずはないのですが。私は前職時にゲイであることを職場でカミングアウトしましたが、役所がオープンにしづらい環境であることは否めません。多様性の啓発を行う自治体の組織が変わらなければ、住民もついてこないのではないかと、課題に感じています。
着任後は、LGBTQに関することを気軽に相談できる相手として、職員の方々から頼ってもらっています。例えば福祉分野でのLGBTQ当事者への対応など、新たな課題も見えてきました。日常会話をきっかけに適切な対応が検討され、より良い行政サービスにつなげることができるのは嬉しいことです。
一方で、そういった啓発を行う担当者が私のように“当事者である必要はない”とも感じます。私がよく話すのは、「LGBTQは、いないのではなく見えていないだけ、という想像力を持つことから始めてください」ということ。LGBTQは未知の宇宙人ではなく身近な“隣人”であるという気づきがあれば、セクシュアリティを問わず推進を担うことは可能だと信じています。
Q.永田さんが担当してきたLGBTQ人権啓発への活動内容とは。
いまだ国レベルでLGBTQの人権に関する一元化された取り組みや指針がない状態のため、事業の全てが手探り。“LGBTQを知ってもらう、性の多様性を自分事にしてもらう”ために、区民に“伝える”ではなく“伝わる”仕事となるよう、様々な事業につながりを持たせながら開拓してきました。
主な取り組みの一つとして、孤立しがちな当事者が交流できるコミュニティスペースの立ち上げがあります。また、企業や学校などへの講演、研修や視察対応を年間約100回実施。区立小中学校26校をまわって行った教員へのLGBTQ研修は、渋谷区ならではだと思います。さらに、LGBTQが身近な存在だと伝える目的で、広報誌「しぶや区ニュース」の表紙へパートナーシップ証明を受けたカップルに出てもらったことには、大きな反響をいただきました。
Q.任期終了まで約1年、今後、取り組みたいことは。
差別や偏見のため、LGBTQは地域に根差して暮らすことが難しいという障壁があります。しかし、活動の甲斐があってか、渋谷区では5年目となる令和2年度のパートナーシップ証明は最も多い申請数でした。LGBTQアライ(=理解者・支援者)な企業や学校も増えてきましたし、今後は、行政主導ではなく、地域や市民の発信でLGBTQインクルージョンが推進されるまちづくり=「シブヤローカル」にこだわった取り組みを、より深めていきたいです。企業、学校、まちづくり団体への働きかけなどを通して人と人をつなげ、地域の社会資源がLGBTQにとっても機能するようにしていきたい。その上で、LGBTQ人権啓発や当事者支援に関する取り組みをひな型化し、他自治体でも応用できるよう発信してゆくことも、先進自治体としての使命だと感じています。
私はあくまで、区の施策の過渡期を支える存在なので、しっかり道筋をつくって、後任につないでいきたいです。