ジチタイワークス

佐賀県

【円城寺 雄介さん】公務員、本を書く。

全国初となる救急車へのiPad配備を実現し、ICTや最先端テクノロジーの活用を佐賀から全国へ広げている円城寺さん。その原動力とは。

※下記はジチタイワークス公務員特別号(2021年3月末発行)から抜粋し、インタビューの内容やプロフィールは原稿作成時(同年2月中旬)のものです。

佐賀県
政策部 企画チーム ディレクター
円城寺 雄介 さん

えんじょうじ ゆうすけ:2001年、佐賀県に入庁。唐津土木事務所用地課では用地買収、生産振興部では農協や漁協等の系統金融機関の指導検査などを担当。その後、県職員の人材育成を行う自治修習所教務課を経て、2010年健康福祉本部医務課配属。救急車へのiPad配備による救急搬送時間短縮や、佐賀県初のドクターヘリ導入を実現。2014年配属の統括本部情報・業務改革課では、総務省委嘱でICTの活用を全国へ普及。2016年より、政策部で大河ドラマ連携や最先端テクノロジー活用、宇宙政策等に取り組み中。著書に「県庁そろそろクビですか?『はみだし公務員』の挑戦」(小学館)。


“普通の公務員”が、諦めず取り組んできたことが、より良い未来に結びつくと信じています。

Q.著書は、とても目を引くタイトルとイラストですね。

“クビ”だなんてドキッとしますよね(笑)。書店で手に取ってもらえるようにと、タイトルは出版社の編集長の案なんです。イラストは、親交のある漫画家の江川達也さんに描いてもらいました。この本は“すごい公務員”の自叙伝ではなくて、普通の公務員が地道に頑張ってきたことを書いています。まさにこの絵のように、汗をかき、涙目になりながらやってきたこと。私たちは、3年ごとに部署を異動するたび、新しい部署の業務や専門用語などをゼロから必死で勉強し業務を遂行しなければならない。それは県民や地域社会に対する責任でもあるし、そうしないと、社会や日本が良くなっていかないんですよね。でも本音で言えば“痩せ我慢”しているときもあります(笑)。そういう思いを込めて、汗と涙をたたえた表情の絵にしました。

 

Q.本書では、異動のたびに現場第一で行動される姿が印象的でした。

私は元々、歴史学者になりたいと思っていたこともあって、自分のバックボーンには常に歴史がありました。例えば、地元佐賀藩主の鍋島直正公は、自ら現場に立って行動する“現場主義”と“率先垂範”の人でした。幕末期、佐賀藩は日本の近代化をリードしていた存在だったんです。このような先人たちの歴史は、私の行動に大きく影響しています。

また、最初に配属された用地課で、現場を見ることをせずに土地所有者へ挨拶に行き、怒鳴られ失敗したという経験も、“現場を必ず自分の目で見てから、物事を進める”ことの原点になりましたね。

 

Q.医務課に配属されて、まず向かった現場が消防局だったとか。

救急医療の担当になったのですが、いわゆる“救急患者のたらいまわし”問題など、実際にどのような課題があるのか全く分からなかったんです。だったら、実際に救急車に乗せてもらって実体験を……と消防局へ行き「救急車に同乗させてください」とお願いしました。当然「なんば考えとっとね、君は!」と呆れられましたね。ただ、私には「現場を知らなければ良い仕事などできない。効果的な政策など打てるはずがない」という行動原則があったので、その後何度も通って頼み込んで、極めて異例ですが、一晩だけ救急車に同乗させてもらえたんです。

実際に、救急隊員が必死で医療機関を探して何件も電話し頭を下げ続けている光景を見て、スイッチが入りました。この状況を根本的に解決することが、自分のやるべき仕事だと。この現場での経験をきっかけに、平成23年4月、佐賀県全ての救急車にiPadを配備し、救急搬送時間短縮の実現につなげることができました。

公務員の良いところは、何か大きなことを変えられなくても、ほんのちょっとでも現場で頑張っている人たちの支えになれること。そんな風に考え方を変えると、やりがいがたくさんあるんですよね。私がやってきたことには、単に上司から言われて行ったことはありません。救急隊員の横顔を見てスイッチが入ったように、社会のためになることは、外からどんな評価をされようがやるのみです。自分の中にエンジンがありますから。私はそれで突破してきたと思っています。
 

医務課では、救急医療データの分析で佐賀県へドクターヘリを導入。令和元年度は、500名以上の命が救われたそうだ。

 

Q.現在、熱心に取り組んでいることを教えてください。

平成28年からは政策部で、佐賀に必要と思われる政策を自分で見つけて実現まで行うという、特定の業務を持たない“独立機動遊軍”として動いています。大きく二つあって、まず一つは、“大河ドラマ連携の実現”。今、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種の話題がありますが、170年も前に佐賀藩ではワクチン接種をしています。天然痘が大流行したとき、前述した鍋島直正公が牛からつくった牛痘というワクチンを、誰よりも先に大事な跡取り息子に打たせた。殿様が自分の息子に打たせて大丈夫だったことで領民も接種し、佐賀で成功したので東京(江戸)に牛痘を持っていったんです。そういった佐賀の歴史を知ってもらう取り組みを行っています。

もう一つは“テクノロジー”。ロボットやドローンなどを活用して少子高齢化といった地域課題の解決や災害時の救命等に役立てようというものです。その延長で現在取り組んでいるのが“宇宙”です。5年ほど前から私は、「宇宙技術が地域課題を解決する」と言い続けていて、“宇宙×地方創生”を進めようと行動しています。

 

Q.“宇宙×地方創生”は、内容をイメージするのが難しいですね。

そうですよね。取り組み始めた当初は「宇宙なんてバカじゃないの?」といわれていましたが、令和2年度にやっと予算を取りました。佐賀とか日本とか、小さい単位で物を見ていては先がないと思っているんです。人類が月や宇宙に住むとなると、考え方が変わると思うので、少子高齢化といった社会課題も変化するんじゃないかと。もしかすると宇宙の方が、地球より快適に過ごせるかもしれないですよね。宇宙に行くことで、我々人間の生活そのものを“再発明”しようと考えているんです。ただ、これはとても難しい。何より宇宙の価値をたくさんの人と共有して、広げていかないといけない。でも、分かってもらえるまでの苦労というのは、これまでの現場でもさんざんやってきたことなので、私にとっては「チャンス!」だと思っています。

歴史を振り返って考えれば、テクノロジーこそが人類の進歩。テクノロジーはもちろん、制度や法律というものは、その時代時代で人生を全うできなかった、夢や希望を踏みつけられた人たちが後世に託したもの。つまり、「未来はこうあってほしい」という“願いのバトンリレー”であって、それがずっと現代まで続いている。そのバトンを受け取り、しっかりつないでいくことが私の天命だと思っています。

また、まさに今、新型コロナウイルスで全人類が共通の痛みや苦しみを持っている。これをテクノロジーで乗り切っていくことも、人類の進歩であり、そのために必要な行動を起こしていきたいと思います。

 

Q.著書で伝えたかったことは何ですか。

出版社から連絡をもらったとき、最初は断ったんです。正直なところ、公務員が本を出すことはメリットよりもデメリットの方が多い。しかし、これまでは“組織の中の個人”でよかったものが、それだけでは通用しない時代になってきた。さらに今後は、個人が組織と対等に向き合って、助け合わないといけないようになってくる。その過渡期にいて、苦しんでいる人たちが、自治体だけでなく企業にも多くいると思うんです。そんな人たちに、「可能性はたくさんあるし、私のように普通の人でも頑張れる」ということを知ってもらい、それがエールになるならば……と出版を決めました。大変なことも多かったですが、今のところ私は元気に生きていますから、その点でも勇気づけることができたのではないかと(笑)。

また、特に公務員の仲間達には“義”を忘れないでほしい、と伝えたいですね。私たちは、税金を納めてくれた人のおかげで、給料をもらっています。そこにはきっと「社会や未来を良くしてほしい」という願いが込められている。だから、何か行動を起こすときには、“社会のために、未来のために”という視点を持って挑戦してほしいと思います。

私も“義”を常に持ち続け、たとえバカにされても、批判されても、一歩ずつでも前に進んでいく覚悟です。皆さんも、ともに先人達の願いや祈りのバトンを、未来につないでいきましょう。

「きっと未来はより良くなる!!」。
 

現在、“宇宙×地方創生”の取り組みを「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」と連携し、進めている。

 

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