以前から肝臓がんによる死亡率が全国的に見ても高く、その対策に課題を抱えていたという鳥取県。そこで、自治体と地域の医療機関が連携し、早期発見・早期治療に向けた新たな動きが始まっている。取り組みを推進する日野病院の病院長、孝田 雅彦さんに話を聞いた。
【慢性疾患のリスクが高まる現状を打破するための対策とは?】
(1)【インタビュー】健康寿命の延伸を目指して、慢性疾患に立ち向かう。
(2)始まっています!新たな対策【肥満症】
(3)始まっています!新たな対策【非ウイルス性肝疾患】←今回はココ
(4)慢性疾患対策をもっと知るためのQ&A
※下記はジチタイワークスPICKS(2024年11月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
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日野病院組合 日野病院
病院長
孝田 雅彦(こうだ まさひこ)さん
プロフィール
日本肝臓学会専門医。大阪回生病院、池田回生病院、鳥取大学医学部で勤務後、エアランゲンニュルンベルク大学(ドイツ)医学部に留学。帰国後は鳥取大学に戻り、同大准教授、鳥取県肝疾患相談センター長などを経て日野病院へ。鳥取大学医学部臨床教授も併任しつつ現在に至る。
非ウイルス性肝疾患の増加を放っておくわけにはいかない。
同県では、かねてより肝臓がん対策に力を入れており、県と医師会、鳥取大学の三者で構成する鳥取県健康対策協議会内に「肝臓がん対策専門委員会」を設置している。肝臓がんの成因として多いB型肝炎・C型肝炎については、全国でもいち早く平成7年からウイルス検査を実施してきたという。しかし、現在では状況が変化していると孝田さんは指摘する。「肝臓がんのもとになる肝疾患は、以前はB型・C型肝炎などウイルス性のものが9割を占めていました。しかし近年はそれが減少し、非ウイルス性の肝疾患が増えているのです」。
それらの主な原因は、“アルコール”と“肥満”だという。「ウイルス性の肝疾患については、国の施策や医療の進歩もあり、早期発見と早期治療ができるようになりました。その反面、非ウイルス性の肝疾患は増加しているものの、特に対策がなされていないのが現状です」。こうした状況に危機感をもった同委員会。非ウイルス性肝疾患からの肝臓がん高リスク者の抽出を目的として、新たな部会を立ち上げ、試験的な取り組みを始めたという。
自治体と医療機関の連携により、肝臓がんの“水際作戦”を開始。
令和3年、同病院のある日野町(ひのちょう)を含む近隣5町の協力を得て、「特定健康診査・後期高齢者健診からの非ウイルス性肝疾患拾い上げ事業」を開始。全国でも例がなく、海外のデータや手法なども参考にしたそうだ。
自治体は、特定健診で生活習慣病が疑われた住民に、精密検査の案内と併せて本事業に関する資料を送付。住民が検査を受けると、医療機関がその結果を自治体に送り返す。自治体から結果を受け取った孝田さんが住民の同意書にもとづき、血液検査の血小板数から“FIB-4(フィブフォー)インデックス”という数値を測定。リスクを高・中・低に分けて判定結果を自治体へ戻す(図4参照)。
これは肝臓の線維化を知る指標であり、数値が高い人は肝硬変や肝臓がんを発症するリスクが高いという。高リスクの住民に自治体から定期検査を勧めることで、早期発見につなげるという流れだ。「肝臓がんは、自覚症状が出た時点ではすでに手遅れになっていることが多い。定期検査で見つかった人と、症状が出てから病院に行った人では、その後の生存率が大きく異なります。リスクの高い人に定期的な検査を促し、できるだけ早く小さいうちに見つける仕組みをつくりたいのです」。
また、この取り組みを進める上で重要なのは、自治体と医療機関の協力だと強調する。「この先、肝臓がんによる死亡者の増加を防ぐために必要な取り組みです。それを理解してもらえたので、県も各町も協力的でした。医療従事者の力だけでは、この事業は成立し得ません。できるだけ自治体に負担をかけないような仕組みにしたいと考えています」。
今後必要な対策だという確信のもと、広報・啓発活動に取り組んでいく。
スタートから4年目となる、この事業。3年間の成果としては、318人の住民に対してFIB-4インデックス測定を実施し、高リスク者49人を抽出(図5参照)。令和5年度からは、高リスク者の定期検査受診費用に対して、年2回まで県から助成金が出ることになった。また、定期検査受診者の中から、肝臓がんを1例発見できたそうだ。しかし、この数値は満足のいくものではないという。「多くの対象者から拾い上げる仕組みなので、特定健診の受診率が重要ですが、まだまだ分母が少ない。まずは健診の受診者を増やす必要があります」。
非ウイルス性肝疾患は、アルコールや肥満が原因になることが多く、生活習慣病とも深い関わりがあるという。こうした現状に、いち早く手を打とうとしているこの取り組み。事業について関心や質問があればぜひ応えたいという言葉とともに、孝田さんは次のように展望を語ってくれた。「ウイルス性の肝疾患は、長年の施策により、大きく減らすことができました。同じことが非ウイルス性のものでも可能なはずです。これから間違いなく患者は増えていくと思いますし、今のうちに体制づくりに取り組むのは非常に意義があること。住民だけでなく、地域の医療機関や開業医などへの啓発も必要だと思っています。試行錯誤中ですが、ともに取り組む仲間が増えていくことを願っています」。
自治体と医療機関が協力して、肝臓がんから地域住民を守る。
日野町
健康福祉課
保健師 大塚 愛美(おおつか まなみ)さん
住民の健康に寄与する意義ある事業
以前から県全体で肝臓がんの対策に力を入れていたため、B型・C型肝炎が陽性になった人へのフォローは実施していました。この取り組みは異なる角度からのアプローチですので、個別訪問・電話でのフォローの際は、対象者に取り組みの重要性を理解してもらうことを意識しています。自治体と医療機関が共通の目標に向かって多角的に取り組むことこそが、公衆衛生活動の意義だと思いますし、保健師としてのやりがいでもあります。
繰り返し、地道に伝えつづける
自治体の役割として心がけたのは、住民への伝わりやすさです。受診勧奨の書面も、できるだけシンプルに、分かりやすい内容にすることを意識して作成しました。事業に関する質問を受けることもありますが、その住民がきちんと定期検査を受診して、県の助成金も受けたと聞くと、やっていてよかったと感じます。リスクのある人には、繰り返し伝えつづけることが大事です。地道な努力が必要ですが、全国にも広がるよう、引き続き頑張りたいと思っています。
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