ジチタイワークス

【インタビュー】健康寿命の延伸を目指して、慢性疾患に立ち向かう。

国や自治体の健康づくり事業で、今や重要な位置を占める“健康寿命の延伸”というテーマ。数年で成果が出るものではなく、長期的な視点で施策を考える必要があるという。

深刻な慢性疾患の克服を掲げる製薬会社「ノボ ノルディスク ファーマ」の医療政策・渉外本部 本部長 濱田いずみさんが、自治体とともに目指す未来を語る。

【慢性疾患のリスクが高まる現状を打破するための対策とは?】
(1)【インタビュー】健康寿命の延伸を目指して、慢性疾患に立ち向かう。←今回はココ
(2)始まっています!新たな対策【肥満症】
(3)始まっています!新たな対策【非ウイルス性肝疾患】
(4)慢性疾患対策をもっと知るためのQ&A

※下記はジチタイワークスPICKS(2024年11月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[PR]ノボ ノルディスク ファーマ株式会社

ノボ ノルディスク ファーマ
取締役
医療政策・渉外本部 本部長
濱田 いずみ(はまだ いずみ)さん

プロフィール

1987年、大学病院にて臨床検査技師としてキャリアをスタート。その後、製薬や医療機器業界のグローバル企業において、マーケティングをはじめ、政府・官公庁や公共団体と関わる各種部門を経験。欧州ビジネス協会 医療機器委員会事務局長や在日米国商工会議所理事など、業界の要職を務め、2024年より現職。

グローバル企業を動かした、長寿=幸福とは限らない現実。

ーー超高齢社会について、製薬会社の視点ではどう捉えていますか。

日本が世界有数の長寿国であることは、すでに知られている事実です。それ自体は喜ばしいことですが、問題は平均寿命と健康寿命の差にあります。高齢者が病気を抱えたり、足腰が弱って歩けなくなったり、いわゆる“健康ではない”状態になってから亡くなるまでに約10年もの期間があるのです(図1参照)。この状況は果たして幸福といえるのだろうか、生活の質(QOL※1)に大きな影を落としているのではないか、といった疑念が拭い切れません。

また、幸福度だけでなく、社会保障費や医療費の増大という問題もあります。令和3年度の国民医療費を見ると、前年から4.8%増加して45兆359億円となっており、GDPの8%を超えています※2。こうした現実に対して、国や自治体は“健康寿命の延伸”を合言葉に様々な施策を展開していますし、私たちも同じ問題意識をもって活動しています。

当社は「変革を推進し、深刻な慢性疾患を克服する」ことを、社会における自らの存在意義として挑戦を続けています。その中で取り組んでいるのが、医療アクセスの向上です。病気を抱えた人々が、適切な医療を効果的かつ効率的に受けられるような環境づくり。そして、各々が病気や医療に対する知識をもち、自分自身をマネジメントできるようにする、医療リテラシーの向上にも力を入れています。

海外と異なり、日本は保険制度が充実しているので、色々な病院に自由に行ける。そうしたメリットを活かしつつも、一方で“自分の健康は自分で守る”という意識の向上も重要だと考えています。

※1 QOL=Quality Of Life
※2 厚生労働省「令和3年度 国民医療費の概況」より https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/21/dl/data.pdf 

実は十分に認知されていない、QOLを損なう疾患リスクとは。

ーー慢性疾患の患者はどのようなリスクにさらされているのでしょうか。

主な慢性疾患としては、糖尿病、心血管疾患、がん、慢性呼吸器疾患が挙げられます。その中でも当社は、糖尿病の克服に長年関わってきました。糖尿病で特に気を付けないといけないのは、合併症です。合併症により、失明や神経障害などが起きることもあります。

糖尿病には、自己免疫に起因するといわれる1型糖尿病と、遺伝的素因や生活習慣との関係が深い2型糖尿病があります。特に2型糖尿病と密接に関係しているのが、肥満やメタボリックシンドローム。しかし、厚生労働省が推進する「健康日本21※3(第二次)」最終評価報告によると、メタボリックシンドロームに関する人数は増加しています(図2参照)。目標値とは大きくかけ離れた、かなり厳しい状況ですよね。

また、肥満症にはさらなる警戒が必要です。日本ではまだ十分認知されておらず、“肥満”と“肥満症”は混同されがち。しかし肥満症は、肥満を原因とした健康障害や内臓脂肪の蓄積がある“病気”なのです(Q&Aを参照)。糖尿病など様々な合併症のリスクにつながるといわれています。

さらに私たちが注目しているのが、肝臓の疾患である「MASLD※4/MASH※5」です。MASLD/MASHは、主に肥満や生活習慣病に起因する、脂肪性肝疾患と考えられています。この脂肪肝から徐々に線維化が進行する肝臓病がMASHで、そのまま放置すると肝硬変や肝臓がん、心血管疾患などの発症や死亡にもつながるリスクが高いのです。肝臓の線維化の進展は、患者さんの予後に影響を及ぼす可能性が高いため、早期発見・診断が重要だと考えています。

ーー製薬会社が慢性疾患の課題に取り組むようになった背景とは?

当社は、デンマークに本社を置くヘルスケア企業「ノボノルディスク」の日本法人で、国内に50以上の営業拠点を構えています。デンマークでの創業は1923年、製薬業界で長い歴史をもつグループとして、現在約80カ国でサービスを展開中です。ノボノルディスクの主要株主として「ノボノルディスク財団」があり、この財団が“健康、サステナビリティ、ライフサイエンスエコシステム”などの分野において助成や投資を行っています。科学的プロジェクトのみならず、人道的・社会的プロジェクトを支援し、社会課題の解決に貢献することを理念としているのです。当社もその一環で、長期的な視点で慢性疾患の克服に注力しています。

製薬会社なので、薬を使う“治療”がメインではないのかと思われますよね。でも私たちは“予防”が大事だと考えています。短期的な利益の追求ではなく、よりよい社会をつくるためには何をすべきかという点にフォーカスしているのです。実は私自身、そうした理念に共感して入社した背景があります。

※3 平成12年に始まった、21世紀における新しい考え方の健康づくり運動
※4 MASLD=metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)
※5 MASH=metabolic dysfunction-associated steatohepatitis(代謝機能障害関連脂肪肝炎)

グローバルな知見と自治体の住民対応力で、突破口をつくる!

ーー官民連携も進めているそうですが、自治体と協働する意義は何でしょうか。

当社は世界各国で医療機関と緊密な関係を築いていますが、その医療機関に来る患者さんとの直接的な接点は少ないといわざるを得ません。一方で、自治体の皆さんは、健診などで住民へ直接アプローチを行っています。そこへ当社から最新医療に関する知見を共有し、必要な際には医療機関・医師会と自治体との橋渡しをすることで、双方にとって有意義なものになると考えています。

実際に職員さんたちと話をすると、住民のために現場で様々な努力をされていて、本当に頭が下がります。私たちにとっても大きな学びなのです。それぞれの知見をもとに、住民の健康について一緒に考え、ディスカッションする。こうした連携を通して“健康寿命の延伸”に貢献することが、私たちの役目だと思っています。

ーー自治体との具体的な取り組みについて教えてください。

代表的な取り組みが、千葉県旭市(あさひし)との事業です。同市は、県内でも糖尿病診断者の割合が高いという課題を抱えていました。そこで、糖尿病の発症予防と重症化予防のための活動および共同研究である「旭市CCDプロジェクト」を進めています。これは、当社が世界50都市以上で推進している官民パートナーシッププログラムです(図3参照)。

このプロジェクトは令和3年にスタートしたのですが、ユニークなのは健康関連課以外の職員も多数集めて、部署横断でプロジェクトチームを編成したことです。イベントや体力測定会をはじめ、まち全体を巻き込んだ多様な取り組みを実施しています。首長のリーダーシップのもと、今後はCCDプロジェクトの取り組みを市の総合戦略に位置付けることにより、継続して活動できるよう検討しているそうです。

また、愛知県春日井市(かすがいし)とは、肥満症に関する事業を始めました(こちらの事例を参照)。肥満症はまだ認知されていないため、患者であるにもかかわらず気づいていないケースが多いのです。そこで、市の健診において受診者の健診結果をスクリーニングし、肥満症に該当する人を抽出して早期受診を促します。令和6年度中にパイロット事業を実施し、翌年度から本格運用する予定です。

肥満症の予防と治療に向けて、まずは認知を広めることから。

ーー今後の展望をお聞かせください。

まずは、自治体との連携事業の中で実績を重ね、全国で慢性疾患予防に関する取り組みを広げていくことを目指しています。そうした官民連携を加速する意味も含めて、令和4年に当社ではローカルマーケットアクセスグループ(以下、LMA)を立ち上げて組織体制を強化しました。

LMAは自治体に向けた窓口となり、特定健診などから潜在的な患者を拾い上げる仕組みづくりや、地域の保健事業を通じた啓発活動に取り組みます。また、全国の自治体との面談を通じて先進事例の情報収集を行い、行政としての取り組みに役立つ情報を提供していきたいと思っています。こうした活動に加え、プロジェクトの組み立てや進め方、グローバル企業としての知見の提供などでも貢献できると考えています。

これらの強みを活かし、保健サービスの上流に位置する自治体・議会・医師会とともに、患者が適切な治療を受けられる仕組みを構築したいのです。地域医療に貢献しながら、住民の健康寿命を伸ばしていくことが最終的な目標です。

ーー具体的にはどのような病気を対象に、どんな活動を考えていますか。

今後注力しなければならないと考えているのが、肥満症、MASLD/MASH、心血管疾患です。これらの予防を目指していますが、こうした取り組みは、2~3年ですぐに結果が出るものではないんですよね。まずは疾患認知率の向上を図るところから、中長期的な視点でしっかり取り組んでいきます。

市民講座の実施や疾患に関するパンフレット資材の提供など、自治体から住民に向けた活動のサポートはもちろん、自治体職員や保健師向けセミナーなども実施したいと考えています。これらの活動を通して、各疾患に関する正しい情報を届けて、認知を広げていきたいですね。

また、患者の医療アクセス機会を最大化するという点については、受診勧奨が重要です。新たな疾患についても、特定健診の受診結果をもとに、迅速な治療を要する方には自治体から通知を出して、専門施設への受診を促す仕組みをつくりたいと考えています。前述の春日井市のほか、独自に具体的な対策を始める動きも出てきています(こちらの事例を参照)。

自治体のパートナーとして、持続可能な取り組みを広げる。

ーー自治体で健康づくりを推進する皆さんへメッセージをお願いします。

私たちとしても、慢性疾患の克服に向けた挑戦は始まったばかりです。まずは現在の事業で結果を出し、それをもとに全国へパートナーシップを広めていきたい。そして、意欲的な自治体を横につなぎ、それぞれの情報を共有することで、さらに取り組みを加速させたいですね。

自治体職員の皆さんには、窓口であるLMAを通して、当社を“自治体のパートナー”として捉えていただくのが理想です。ただ、当社のリソースにも限りがあるため、むやみに地域を増やすのではなく、まずは一つひとつの事業に丁寧に取り組んでいこうと考えています。

旭市の事例は糖尿病から始めましたが、この取り組みを同市の総合戦略に取り入れながら、健康づくり全般の活動として継続していこうという動きになっています。このように、健康づくり事業は持続可能なモデルにすることが大切です。人の健康は、今だけの“点”ではなく、一生続く“線”です。目の前の今だけを見るのではなく、人の一生を見るんだという思いで取り組むことが、住民の幸福度にもつながるのではないかと思います。

自治体も、当社も、目指す方向は同じ。住民が少しでも健康な生活を長く続けられるよう、一緒に考え、貢献していきたいと思っています。

お問い合わせ

ノボ ノルディスク ファーマ株式会社

医療政策・渉外本部 ローカルマーケットアクセスグループ

TEL:03-6266-1000(代表)
E-mail:JPHC_LMA_REQUEST@novonordisk.com
東京都千代田区丸の内2-1-1 明治安田生命ビル 

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