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自治体の子育て支援で人口増の地域も!アプリや子育てパスポートなどユニークな制度をチェック

少子高齢化が全国的に進む中、自治体が行う子育て支援が注目されている。

平成27年にスタートした「子ども・子育て支援新制度」では、市町村が子育て支援に取り組む主体に位置付けられ、自治体の裁量範囲が広がった。

子育て支援の充実は子育て世代を呼び込む移住促進策にもつながるため、積極的に取り組んでいきたい。

現在、全国各地で工夫を凝らした独自の支援策が実施されており、中には子育て支援で人口増に転じた自治体もある。本記事では、国による子育て支援の現状や、自治体に求められる子育て支援、各地の実例を詳しく解説する。

【目次】
 • 国による子育て支援の現状とは

 • 自治体に求められる子育て支援とは?
 • ランキングで見る子育て支援に力を入れている自治体の取り組み
 • 子育て支援で人口増に転じた成功例は?
 • 共働き世帯やひとり親家庭のニーズを満たす支援策を

※掲載情報は公開日時点のものです。

国による子育て支援の現状とは

「子ども・子育て支援新制度」のスタート

「子ども・子育て支援新制度なるほどBOOK」

平成27年4月に「子ども・子育て支援新制度」がスタートした(※1)。この新制度は子育て支援の質と量を拡充する目的で創設され、子育て世帯にとって身近な存在である自治体が子育て支援に取り組む主体となり、国が自治体の取り組みの財政支援を行う仕組みとなっている。子育て支援の実施主体である自治体の裁量範囲が広がり、画一的な施策ではなく地域の実情に合った子育て支援が実施しやすくなった。

「子ども・子育て支援新制度なるほどBOOK」を発行し、かわいらしいイラストとともに「子ども・子育て支援新制度」の要点を解説している。

岸田内閣の主要政策としても、子育て支援は重要視されている(※2)。2030年代に入るまでの6~7年が少子化傾向を反転させるためのラストチャンスと位置付け、子育ての経済的支援、全ての子ども・子育て世帯を対象とした支援拡充のほか、共働き・共育ての推進安定財源の確保と予算倍増、これらに力を入れる方針を示した。 以下で詳しく見ていこう。

※1・画像出典 内閣府ホームページ「子ども・子育て支援新制度なるほどBOOK平成28年4月改訂版」
※2出典 首相官邸「こども・子育て政策

 

共働き世帯の増加に対応する預かり保育の充実化

「子ども・子育て支援新制度」では、消費税率引き上げによる増収分を活用して、幼児期の学校教育や保育、地域の子育て支援の充実を図る。共働き世帯が増加したことで預かり保育の需要も増えているため、それに対応できる受け皿を増やす方針だ。幼稚園と保育所の機能を併せ持つ「認定こども園」の普及を推進するほか、学童保育の充実化により「小1の壁」解消を目指す。

そのほか、令和8年度より「こども誰でも通園制度」の開始を予定している。この制度は就労などの保護者の要件を問わず、月10時間まで1時間単位で保育園を利用できる制度で、子どもが家族以外と関わる機会を得られることや、保護者の育児負担軽減につながると期待されている。 

児童手当の所得制限撤廃

児童手当の所得制限撤廃

令和6年10月から児童手当の制度が改正され、所得制限が撤廃される。また、支給期間を従来の中学3年生までから高校3年生になる年齢まで延長するほか、第3子以降の支給額が3万円に増額となった。それに加えて、支給月を年3回から年6回に増やすことも決まっている。 

母親・父親双方の育児休業の取得推進

出産後一定期間内の育児休暇取得推進のため、令和7年度から育休手当の給付率を現行の67%(手取りで8割相当)から、80%(手取りで10割相当)へと引き上げる。育児休業中の経済的負担を軽減し、母親だけではなく父親も育児休暇を取ることが当たり前の社会を目指す。 

このように、国は手当の拡充などの経済面、保育施設を増やすなどのハード面で子育て世帯を支援する方針だ。自治体には、こうした支援策をベースに、地域の実情に合った細やかな子育て支援を講じることが求められている。

母親・父親双方の育児休業の取得推進

自治体に求められる子育て支援とは?

自治体に求められる子育て支援を考えるために、子育て世帯の持つニーズを見ていこう。令和5年1月に、内閣官房こども家庭庁設立準備室が発表した資料(※3)によると、「雇用者の共働き世帯」は増加傾向にある一方、「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」は減少傾向にある。これまでの社会で多く見られた「会社員の父と専業主婦の母」といった家庭は減り、夫婦ともに働いている家庭が増えていることから、共働き世帯を意識した子育て支援がより重要になるだろう。

※3出典 内閣官房こども家庭庁設立準備室「こども・子育ての現状と若者・子育て当事者の声・意識」

また、内閣府に寄せられたアンケート結果では、子育ての負担として「子育てに出費がかさむ」「自分の自由な時間を持てない」「子育てによる精神的・身体的疲れが大きい」といった意見が多い。 このような結果から、経済的な支援や教育体制の充実へのニーズも高いことがうかがえる。

「子育てに出費がかさむ」「自分の自由な時間を持てない」「子育てによる精神的・身体的疲れが大きい」

経済面での支援「保育料の補助」「子育てパスポート」

自治体ができる経済面での支援として、保育料の減免・補助や、子育て世帯が割引や料金の免除を受けられる「子育て支援パスポート」を発行する自治体も多い。

健康面での支援「医療費助成制度」「予防接種への補助」

助成の内容や、対象となる子どもの年齢は自治体によって異なるが、子ども医療費助成制度も育児支援策として有効だ。また、予防接種への補助や、子どもの健康診断も自治体が行う育児支援に含まれ、地域の親子を対象にした育児相談会を開く自治体も多い。

教育面での支援「英語教育」「発達障害支援」「不登校支援」

教育面で様々な不安を抱える保護者も多いことから、幅広い子どもに対応した教育支援が必要とされている。学習指導要領が改訂され、令和2年度から小学校でも英語教育が必修化された。 現状でも子どもたちの英語力には自治体間で格差があることから、充実した教育体制の整備が求められている。

近年では発達障害の児童への支援もニーズが高まっており、発達障害の子どもに対する療育や放課後等デイサービスも徐々に充実してきた。また、現在も過去最多の更新を続ける不登校の子どもへの支援も自治体の重要な役割だ。

ランキングで見る子育て支援に力を入れている自治体の取り組み

日本経済新聞社と働く女性向けWEBメディア『日経xwoman(クロスウーマン)』は「自治体の子育て支援制度に関する調査」を実施し、2023年版「共働き子育てしやすい街ランキング」(※4)をまとめている。このランキングで総合編1位に輝いたのは千葉県松戸市、2位は栃木県宇都宮市、3位は愛知県豊橋市だった。 このランキングから各自治体の取り組みを詳しく見ていこう。

※4出典 日経BP「2023年版『共働き子育てしやすい街ランキング』」

【千葉県松戸市】9年連続待機児童ゼロ!ひとり親家庭への支援や独自の支援金も

ランキング1位の千葉県松戸市は6路線の鉄道が市内を走り、23の駅がある。JR松戸駅から東京駅まで電車で乗り換えなしで24分と、都心への交通アクセスがいい自治体だ。こうした地の利を活かしながら、子育てしやすいまちづくりを市の重点施策に掲げ、待機児童の解消独自の子育て支援金制度など、共働きで子どもを育てる世帯を意識した取り組みを行っている。 

子育て支援金

松戸市では独自の支援金制度「松戸市私立幼稚園預かり保育助成金」を実施している。国の無償化制度で賄いきれない預かり保育にかかる保育料を、月額上限3万円まで助成するものだ。また、保育を必要とする要件が「就労」の場合、通常はひと月当たり「64時間以上」の就労時間が必要だが、これを緩和して「48時間以上」という条件にしている。より多くの人に補助を受けてもらおうという試みだ。

ひとり親家庭への支援

ひとり親家庭への支援

ひとり親家庭を対象にした支援にも力を入れている。生活全般の相談に無料で応じる「ひとり親相談」では、対面以外にもオンラインでのリモート面談にも対応。 離婚前後の養育費相談や親子の交流支援にも松戸市は応じている。保証会社と養育費保証契約を結ぶ際の保証料の一部、上限5万円までを助成するなど、ひとり親の経済的負担を軽減しようという取り組みだ。

ひとり親家庭の親と子どもを対象に、医療費の助成も実施している。市民税所得割非課税世帯では、親子ともに医療費が無料になる。それ以外の世帯でも親子ともに調剤費は無料、親には通院1回、入院1日につき300円、子どもは200円が助成される。

9年連続待機児童ゼロ

松戸市は令和6年4月の時点で9年連続待機児童ゼロを達成している。待機児童の大半を0歳から2歳児が占めており、受け入れを進めるため小規模保育施設を整備した。市内に121園の小規模保育施設があり、施設数は県下トップとなっている。また、忙しい保護者でも送迎しやすいよう利便性にも配慮し、平成29年6月には市内全23駅の駅前・駅ナカへの小規模保育施設の整備を完了させた。

【栃木県宇都宮市】独自の子育て支援アプリで予防接種のスケジュール管理などを可能に

ランキング2位の栃木県宇都宮市は、結婚、妊娠、出産、子育ての各段階において切れ目のない自治体サービスを充実させ、子育てしやすいまちづくりに取り組んでいる。保育料の軽減や子どもの医療費の無償化、出産時の支援金など経済的な支援に加えて、予防接種のスケジュール管理などができる独自のスマホアプリの提供など、IT技術も活用しながら子育て支援を行っている。

子育て支援金

宇都宮市では出産時にかかる経済的負担軽減のために、複数の支援金を支給している。「うつのみや出産・子育て応援事業」では、妊娠中と出産後にそれぞれ5万円ずつ、計10万円の現金を支給。さらに、「もうすぐ38っ子応援金」として、妊娠8カ月面接を行った妊婦を対象に3万円を給付している。 

子育て支援アプリ

令和4年7月より配信を開始した「宮っこ子育てアプリ」は、妊婦健診や子どもの予防接種、身体発育曲線の管理に加えて、子どもの成長記録や健康データを家族間で共有できるスマホアプリだ。子どもの出生日を登録すると、最適な予防接種のスケジュールを自動で算出し、プッシュ通知で知らせる機能を持っている。また、妊婦や子育て世帯が割引などの特典を受けられる「とちぎ笑顔つぎつぎカード」の電子化にも対応しており、アプリで券面を表示するだけで特典を受けることができる。 

【愛知県豊橋市】家事負担の軽減やおむつのサブスクなど、かゆいところに手が届く独自の支援

ランキング3位に選ばれた愛知県豊橋市では、人づくりをまちづくりの土台と位置付け、令和2年に「人づくりNo.1をめざすまちプロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトでは市内の様々な部局が連携して、子育て支援や教育体制の充実に力を注いでいる。子育て支援策の1つとして、多忙になりがちな乳幼児期の育児負担を軽減する取り組みも行う。 

家事代行サービスを低額で利用できるクーポンを配布

家事代行サービスを低額で利用できるクーポンを配布

1歳未満の子どもがいる世帯に、家事代行サービスを1回当たり500円で利用できるクーポン6枚を配布している。所得制限はなく、1歳未満児のいる全世帯が対象だ。クーポンは子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで利用できる。乳児の子育てと家事を両立する時期の親の負担を軽減しようという取り組みだ。 

「おむつのサブスク」

市内の全公立保育施設で「おむつのサブスク」を導入している。月額・定額で使い放題のおむつとお尻拭きが保育施設に届くサービスで、保護者が紙おむつやお尻拭きを持参する必要がなくなり、負担軽減につながっている。 

【東京都板橋区】ユニークなショートステイ・トワイライトステイ事業

東京都板橋区は2023年のランキングで12位となったが、前年の同ランキングでは8位と、東京23区の中でも度々ランキング入りする自治体だ。 育児負担の大きい妊娠・出産期の親をサポートする産前産後支援事業のほか、子育て支援金の給付や子どもを一時的に預かるショートステイなど、様々な子育て支援事業を実施している。

子育て支援金

板橋区では3歳未満の子どもに月額1万5千円、3歳以上から高校生までは月額1万円の児童手当を支給。さらに、第3子以降の手当は月額3万円となる。 そのほか、出産時には専用ウェブサイトで育児用品などと引き換えができる「出産応援ギフト」を妊婦1人当たり5万円相当、新生児1人につき10万円相当の「子育て応援ギフト」をそれぞれ支給している。 妊娠時には区から「すくすくカード」が発行され、育児支援ヘルパーの派遣や、訪問型産後ケアなどの育児支援サービスが受けられる。 

ショートステイ・トワイライトステイ

ショートステイ・トワイライトステイ

板橋区では2歳から12歳の子どもを対象にしたショートステイ・トワイライトステイ事業も行っている。入院や介護など保護者の事情により、一時的に子どもの面倒をみることができなくなった場合に利用ができる。ショートステイは宿泊2500円、日帰り1500円で利用が可能なサービスで、最長7日間までの連続利用もできる。トワイライトステイは16時から22時の間、最長6時間利用できる夜間の託児サービスだ。こちらは1回900円で利用ができ、ショートステイとの組み合わせも可能となっている。

ここからは、子育て世代の人が住みたい田舎ランキングで上位の自治体も見ていこう。地方への移住を考える人向けの月刊誌『田舎暮らしの本』(宝島社)は、「住みたい田舎ベストランキング」を発表している。2024年のランキングの中で「子育て世代が住みたい田舎部門」として、鳥取県琴浦町が1位、茨城県境町が2位に選ばれた(※5)。 

※5出典 宝島社「2024年版 第12回『住みたい田舎ベストランキング』」

【鳥取県】「産前産後のパパママほっとずっと応援事業」

鳥取県では「産前産後のパパママほっとずっと応援事業」として、産後ケアの普及と無償化に取り組んでいる。市町村が実施する産後ケア事業に県からの助成を上乗せすることで、個人が負担する利用料の無償化を実現した。 また、宿泊型の産後ケアを行う助産施設を増やすための助成金事業も行っている。

【茨城県境町】「スーパーグローバルスクール(SGS)事業」

茨城県境町では平成30年度から、子どもを対象とした先進的英語教育「スーパーグローバルスクール(SGS)事業」を開始した。家庭の負担は0円で子どもたちが実践的な英語教育を受けられる取り組みで、町内の全小・中学校にフィリピン人英語教師を招聘して9年間実践的な英語を学べる。さらに、全小・中学校を英検会場に登録し、英検受験料もまちが全額負担する。 

子育て支援で人口増に転じた成功例は?

子育て支援を充実させることで、人口増に転じた自治体もある。各自治体での取り組みを見ていこう。

【長野県南箕輪村】日本の村で唯一保育園から大学院まである

長野県南箕輪村は県内で高齢化率が最も低く、子育て世代の移住者の多い自治体だ。昭和40年に約6,100人だった人口は、令和6年9月時点で1万6,084人となり、60年で約3倍増加した(※6)。南箕輪村では早い段階から子育て支援に取り組んでおり、約20年前に保育料を5%引き下げ、その後も段階的に下げ続けている。また、日本の村で唯一、保育園から大学院まであり、教育機関が充実していることも特長だ。ほかの自治体に先駆けて子育て支援を充実させたことで口コミが広がり、その後、若い世代の移住者を呼び込むきっかけとなった。 

※6出典 長野県南箕輪村「南箕輪村人口ビジョン」長野県南箕輪村ホームページ

【北海道上士幌町】保育料の無料化、外国人教師の採用

【北海道上士幌町】保育料の無料化、外国人教師の採用

北海道上士幌町はふるさと納税を基金として積み立て、その基金を財源に子育て支援を充実させている。認定こども園の保育料を10年間にわたって完全無料化したほか、英語教育のための外国人教師を積極的に採用し、公設民営塾を開設するなど、教育体制を充実させた。こうした取り組みが功を奏し、平成28年に13年ぶりに31人の人口増加が見られ、平成29年には71人が増加。人口構成上、自然減が止まっていない中でも人口増に転じている。

【岡山県奈義町】20年あまりの子育て支援策が評価され出生率が全国平均を上回る

岡山県奈義町は人口5,700人あまりの自治体ながら、平成31年に出生率が全国平均を大きく上まわる2.95を記録した。奈義町では高校生の就学支援として年13万5千円を補助するほか、高校生までの医療費無償、多子の保育料軽減など20項目以上の子育て支援策がある。町が子育て支援の充実に力を入れ始めたのは、平成14年に行われた市町村合併の是非を問う市民投票で、単独町制を決めたことがきっかけだ。人口減への危機感から、移住者を増やそうと子育て支援を段階的に拡充し、20年以上取り組みを続けている。 

【島根県邑南町】保育料や医療費の助成でUターン率が上昇

島根県邑南町は平成23年から子育て支援に力を入れ、「第2子から保育料0円」「中学校卒業まで医療費0円」などを実施した。子育てをアピールする自治体は当時としては珍しく、Uターン率が上昇し、平成25年に初めて転入者数が転出者数を上まわる社会増を達成している。 

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【千葉県流山市】マーケティングやPRをうまく使いこなし人口増加率全国トップに!

千葉県流山市は「マーケティング課」を全国で初めて設置した自治体だ。子育て支援政策に力を入れると同時に、その取り組みを若い世代に向けてPRした結果、多くの移住者を呼び込むことに成功した。人口増加率は平成28年から令和3年までの6年間で全国トップになり、人口も10年間で16万人から21万人へと大幅に増えている。 

共働き世帯やひとり親家庭のニーズを満たす支援策を

共働き世帯やひとり親家庭のニーズを満たす支援策を

自治体の中には子育て支援を充実させることで人口増に転じたケースもあり、少子高齢化が進む時代においても自治体の人口を増やす手段としても注目されている。

「子ども・子育て支援新制度」が開始され、子育て支援における自治体の役割がより大きなものになった。地域のニーズはもちろん、先進事例も参考にしながらよりいい形で子育て支援に取り組みたい。

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