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【セミナーレポート】住民参加型の健康づくり施策のヒント~健康長寿社会に向けた挑戦の最前線~【Day1】

健康寿命の延伸は、全国の自治体共通の課題。各地域で様々な施策が進められていますが、そうした中で「なかなか取り組みが広まらない」「無関心層に届いていない」と悩む場面も多いのではないでしょうか。

今回のセミナーでは、健康関連施策で独自の挑戦を続ける自治体の事例を中心に、心理学の視点からのアプローチ、サービスを提供する企業からのアドバイスなどをお届けします。ぜひ参考にしてください。

概要

□タイトル:住民参加型の健康づくり施策のヒント~健康長寿社会に向けた挑戦の最前線~【Day1】
□実施日:2024年2月19日(月)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:211人
□プログラム:
 第1部:心理学から学ぶ行動変容を実現させるコツ
 第2部:「歩く」の見える化による健康増進(SAGATOCO)
 第3部:東急不動産が展開する健康づくり事業とサービス
 第4部:行動変容を継続させる習慣化アプリを活用した官民連携の好事例紹介
 第5部:「市町村歯科保健事業」の現状と対策


心理学から学ぶ行動変容を実現させるコツ

セミナー第1部は、心理学の専門家が、行動変容へのアプローチについて解説。なぜ人は行動するのか・しないのかという“行動の法則”を軸に、無関心層を動かすためのヒントを共有してくれた。

<講師>

大月 友 氏
早稲田大学 人間科学学術院 人間科学部 准教授

プロフィール

早稲田大学人間科学学術院助教、専任講師を経て、2014年より准教授。専門は心理学。公認心理師・臨床心理士として、医療分野、教育分野、産業分野にて、人の行動変容に関する実践と研究を展開している。

 

私の専門は心理学やカウンセリングで、公認心理師や臨床心理士の資格を持ち、カウンセラーとして人の行動変容のお手伝いをする仕事をしています。今回は心理学の視点から、人の行動を変えるヒントを伝えたいと思います。

行動分析学という心理学の一分野では、人の行動について「どんなときに・どんな行動をして・その結果どうなったか」という枠組みで考えます。その上で行動を分析していくと、「すぐにいいことがあれば行動は続く」、「すぐに嫌なことがあればその行動はしなくなる」というシンプルな答えにたどり着きます。これを踏まえ、努力や我慢について考えてみましょう

行動変容の“五つのステージ”とは

努力が必要なことは、例えば“勉強”。人によりますが、勉強をすると「面倒だ」「疲れた」といった気持ちになります。でも繰り返していくとスキルは伸びる。ほかにも“運動”であれば、疲れるけれど、習慣化すると体に良い変化が起きます。それなのになぜできないのかというと、すぐ後に嫌なことが起きるからです。

また、我慢が必要なものは、例えば“甘いものや塩分の高いもの”。食べているときには美味しいが、続けるとやがて体を壊す。やめておけばいいのに、すぐ後にいいことが起きるので、やってしまうのです。努力も我慢も難しい。これは行動変容を考えるときの鍵になります。ではどうするか。“行動変容ステージ”を知っておき、アプローチを考えるのが効果的です。この行動変容ステージは、「無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期」の五つに分かれており、各段階でアプローチが違ってきます。

無関心期には、自己理解をしていくことが必要。ポイントは、行動を変えるメリットを知り、自分事にしてもらうことです。ここではポジティブな情報提供を地道にしていくことが大切です。

続いて関心期では、カウンセリング的な対話が必要。気持ちに共感しながら、芽生えてきている心をエンパワーメントしていく。同時に「そんなにしんどくはない」といった情報を提供できると、次のステップに進みやすくなります。

そして準備期。ここではコーチング的なものが求められます。「このようにしてみましょう」というアドバイスや、目標設定、行動計画を立てるなどして、特に無理をしない形で提案できるかどうかが変換点になります。

そして実行期から維持期。すでに行動は起きているので、どう維持させていくかの工夫が必要で、どんなプランを組むかにかかってきます。また、1人ではなく、誰かとの関わりの中で「あの人も頑張っているから私も」と他者へ関心を持ったり、認められたりすることで頑張りが続く。なので、ソーシャルサポートをどうつくっていくかもポイントになります。

“素朴な心理学”の罠にご用心

このように行動変容について考えるとき、「心をどうやってその状態にもっていくか」と考えてしまいがちですが、内側に心があってそれが外側の行動にあらわれるという見方をすれば、「やる気があればできる、なければできない」と、内面が原因、結果は行動と置き換えるようになります。これでは循環論に陥るし、個人攻撃の罠にも陥るし、行動の制御が難しいという限界点があります。

では、なぜ循環論になるのか。例えばタバコがやめられない。原因は意志が弱いから。ではなぜ意志が弱いというのか、それはタバコをやめられないから……と無限ループに陥ります。ここでの“心”は、意志が弱いというラベルで行動の傾向を説明しているに過ぎない。言い方が違うだけなので循環論に陥るのです。こうした素朴な心理学には注意しましょう。

また、「意志が弱い」と決めるのでは、個人攻撃をするだけで思考停止してしまい、行動変容につながりません。対象を嫌いになってしまうだけです。

行動分析学では予測や説明はさほど重視しておらず、制御を目的にしています。「どんなときに・どんな行動をして・その結果どうなったか」という枠組みでは、きっかけと結果を変えれば行動は変わりやすく維持しやすい、ということが分かってきました。

まず我慢。本人にとって「いいこと」というきっかけをなくせば行動しにくくなる。例えば禁煙なら、買い置きをやめて無くなったら買う、というルールでタバコの本数を減らすプログラムをつくることができます。同時に、飲み物を飲む、ガムをかむといったことで代替するなど、行動の置き換えで変化が起きることもあります。

続いて、努力が必要な行動については、行動しやすくなるきっかけをつくりましょう。例えばスケジュールに落とし込むなどして、いつ・どこでやるかを決め、環境をつくっていく。そしてさらに、ごほうびが出るとか、成果を可視化するといったことで人はずいぶん変わります。さらに他者の存在、サポートといった要因も有効です。こうした続けやすい環境をつくっていくことがポイントになります。持続性のある行動変容を起こしていきましょう。

「歩く」の見える化による健康増進(SAGATOCO)

住民の高齢化と共に、疾病リスクも高まっている佐賀県。ほかの都道府県と比べて“なかなか歩かない”といわれる状況をどのように変えていったのか。独自の工夫とその効果について県の担当者が語る。

<講師>

陣内 清 氏
佐賀県 健康福祉部 健康福祉政策課 課長

プロフィール

1995年入庁、2019年嬉野市市民福祉部長、2021年障害福祉課長、2023年4月より現職。「歩こう。佐賀県。」をキャッチフレーズに健康福祉施策のみならず交通施策、環境施策と連携して歩くライフスタイルを推進。

 

社会の高齢化が進む中、当県は全国平均より10年ほど早い高齢化率となっています。人口も減少し、労働力を確保しなくては地域経済が立ち行かなくなるため、「健康で活躍できるときをいかに長くできるか」を考えなくてはいけません。

 

当県は市町村国保で1人あたりの年齢調整後医療費が令和3年で全国1位です。また、令和元年の特定健診結果の糖尿病割合もワースト1位。さらに骨折患者は厚労省の平成29年のデータでワースト1位。特に高齢者の転倒などによる骨折が多く見られます。要因は様々ですが、やはり“歩く”という習慣は極めて重要です。

課題解決に向けた実験から得た答え

こうした現状に対し、当県では「健康アクション佐賀21」という取り組みを進めてきました。国民健康栄養調査などで成果を評価するのですが、4年に1度しか大規模調査がないので、比較していくのが難しい。県でも独自調査をしましたが、実際に県民がどれくらい歩いているのか、といったことを短いサイクルで掴むことが困難で、PDCAもまわしづらいという課題がありました。

実際、佐賀県の人はすぐ車に頼ってしまう傾向があり、なかなか歩きません。東京都民と比べた歩数は男性で約1300歩、女性で約600歩少ないという状況でした。

この状況を改善するために、様々な検討と実験を行いました。例えば、平成30年度に「肥前さが幕末維新博」というイベントを開催したのですが、この博覧会でウォーキングアプリの活用体験を実施。維新博会場周辺にウォーキングマップを作成し、ウォーキングイベントを行ないました。多くの方に活用していただき、アンケート結果も好評でした。

これをもとに、ウォーキングアプリをつくろうというフェーズに入るのですが、県民に歩いてもらうため、車に過度に依存しない環境、公共交通の利用を促進できる状態をつくっていくという観点で、佐賀大学に研究を委託しました。テーマは県民のQOLの向上です。さらに、歩くまちづくりの実現で公共交通の利用者が増え、公共交通の質が上がる。疾病のコントロールや骨折の予防になる。介護予防にもつながり、商店街のにぎわい創出にもつながる、という期待もありました。

令和元年度、「歩くライフスタイル推進プロジェクト」という名称で本格的に取り組みをスタート。これは全庁横断的なプロジェクトになっています。

ウォーキングアプリで行動変容を起こす

このプロジェクトから生まれたウォーキングアプリ「SAGATOCO」がリリースされたのは令和元年10月。訴求ポイントは「健康」という言葉を多用しないということ。「ポイントが貯まる」といった“きっかけ”を重視し、無関心層に届くよう工夫しました。また、アプリでは健康記録やグラフをつくることができ、ランキングも出るので仲間との競争も楽しめます。こうした特徴を活かして広めようとしています。

展開にあたっては市町の皆さんにも協力を得ながら、バーチャルウォーキングコースをつくりたい市町に手を挙げていただいて、一緒につくっていきました。

また、「日本健康会議」の地方版として、「さが健康維新県民会議」を令和元年に立ち上げました。生活習慣病を予防して佐賀県民の健康寿命を延ばすことが目的で、山口祥義知事も「1日10分長く歩こう」といった呼びかけをして、医師会や経済関連の団体も巻き込みながら進めていきました。

こうした工夫の甲斐あって、運用開始から4年間で11万ダウンロードを達成。全庁的に取り組んだことや、地元事業者にも普及に協力いただいたことが功を奏したと思います。口コミでも広がっているようで、SAGATOCOを用いたイベントなどを実施すると、その前後でダウンロードが増加していることが分かります。

SAGATOCOの手応えをもとに、次のフェーズへ

SAGATOCOの導入後、かつての課題だった「歩数の変化」も可視化できました。運用開始時点ではユーザーの平均歩数が5200歩程度だったのですが、令和5年10月には約14%増加。歩数にして約700歩増です。特に70代の平均歩数が22%増加しています。また、ダウンロード状況を年代別に分析すると、働き盛り世代に訴求したいという当初のねらい通りとなりました。

住民だけでなく、事業者の参加もあります。例えば、「車通勤を電車通勤やバス通勤、自転車通勤に変更した従業員が半分以上になった」という話もありました。早めに出社して会社近くの公園を歩く方もいるようで、企業ぐるみで取り組む動きも出てきています。

このSAGATOCOをさらに普及させるため、色々な統計を駆使して分析しました。その結果、「ポイント獲得機能」、「景品交換機能」は非常に有効だと判明。今後はより工夫を凝らし、アンバサダーの仕組みを取り入れる計画もあります。積極的な利用者を中心に、色々な人たちから「SAGATOCOを使うと楽しいことがある」と広めてもらいたいというねらいです。エビデンスも重視しつつ取り組みを進め、これからも健康無関心層に届けていくことにこだわっていきます。

東急不動産が展開する健康づくり事業とサービス

健康づくり施策では、民間との連携が不可欠。世の中には様々な健康関連サービスが提供されているが、この道20年の東急不動産では、インセンティブ性の高いアプリと、複合的なサポートで無関心層への訴求力を高めているという。

<講師>

高橋 玄 氏
東急不動産株式会社 ヘルスケア事業部 次世代グループ グループリーダー

プロフィール

2007年東急不動産に入社。不動産売買に従事したのち、広報・秘書を歴任。役員随行等で官民連携によるまちづくりの重要さに気づき、2021年にヘルスケア事業部にFA制度を利用し異動。「ウェルビーイングな社会とまちづくり」の実装に携わる。

 

当社はヘルスケア事業を20年ほど続けています。2021年からは自治体向けの提案を本格化し、地域、職域、個人の健康づくりに邁進中です。サービスには三つの柱があり、「健康セミナー」、「健康測定会・カウンセリング」、そして「健康行動の実践」です。様々な自治体を訪問する中、健康事業に取り組んでいるものの、まだ紙ベースであるとか、健康イベントの参加者がいつも同じ、などといった課題を耳にします。これらに対し、当社のサービスを組み合わせて提案しています。

 

インセンティブ性を高めた健康アプリ「KENPOS」

上図は「KENPOS」という健康アプリで、「楽しみながら、かしこく健康になろう」をテーマに様々な機能を備えています。トップ画面は歩数が分かりやすい表示にしており、ほかにも体重や食事、睡眠、血圧などの記録を入力することで経過観察が可能。ランキング表示で行動の動機づけをする機能もあり、アプリを使い続けていただくためにポイントプログラムを有しています。さらに自治体側からのアンケートやお知らせの配信も可能です。

オリジナルウォーキングマップ機能は、地域のマップをつくり、その中をご当地キャラがユーザーの歩数とリンクしながら歩いて行きます。バーチャルウォーキングイベントなどでも活用できる機能です。また、利用者が多いのが健康クイズ。1日1問のクイズが出題され、回答するとKENPOSのチケットがプレゼント。利用促進につながります。ほかにも、1日最大13枚入手できるチケットや、自治体が設計する独自ポイント、地域通貨との交換機能などもあります。

このように、かなりインセンティブ性が高いことが特徴です。ポイント交換には3000種を超える景品が用意され、全てオンラインで交換可能。自治体職員の作業が発生しない点も強みとなっています。

健康のための行動変容を促すその他のサービス

行動変容の一環としては、「ラクティブ」というサービスも用意しています。こちらは順天堂大学との共同開発による、マシンを一切使わない筋力トレーニングプログラム。年齢や場所を問わず、全身の筋力の維持・向上が期待できます。

平均年齢70歳を超えた方々でも、3カ月間体験していただくと、筋力が増加、脂肪量が減少するといった効果が得られました。オンライン配信も行っており、実店舗に通っているような雰囲気でレッスンが受けられます。

こうした取り組みでは、きっかけづくりが重要です。当社は多くの測定機器を持っており、健康状態を可視化して、健康行動を習慣化したいと考えています。例えば筋肉量・脂肪量や、AGEs(終末糖化産物)を測定できる機材があり、ほかにも血液の循環状況を観察する血流測定や、握力・棒反応測定なども実施できます。

これらのサービスに合わせて、セミナーや講演も提供中です。健康運動指導士、理学療法士、管理栄養士といった専門家たちが要望に応じたセミナーを開催するというもので、Zoom配信なども含めて自宅でも集合場所でも直接受講いただくことが可能。58のテーマを設定しており、食生活編、生活習慣編、運動編などを用意しています。

全国の自治体における導入事例

ここからは、当社と共同で取り組みを進めている自治体の事例を紹介します。まずは長野県富士見町です。2021年6月から「みんなで健康223プロジェクト」に当社も参画し、KENPOS、ラクティブ、カラダ測定会、セミナーなどを提供してきました。

アプリを利用して歩数を記録したり、運動やセミナー、イベントに参加したりすることでポイントが貯まる設計にしています。このポイントは、富士見町で使える商品券に交換可能。直近では年間20回の開催と、年4回の測定会でのべ600名が参加しました。アンケート結果では運動時間が延びていること、複数回の測定会に参加された方は骨格筋量が増加もしくは維持できていることが実績として出ています。

2022年度には、千葉県勝浦市で生活習慣病重症化予防教室事業を受託し、「健康フェスタ」という形で、100名規模のイベントとして運用してきました。静岡県三島市では2022年12月からKENPOSをデジ田交付金の活用で導入しています。

ほかにも、地域の携帯ショップを健康づくりの拠点にする取り組みや、オフィスビルのテナント向け測定会、地域のマラソン大会に健康チェックブースを出すなど様々なことに取り組んでいます、何か困り事があればぜひお声かけください。

行動変容を継続させる習慣化アプリを活用した官民連携の好事例紹介

健康事業では、住民参加の先に「継続」という視点が欠かせない。どうすれば対象者が行動し、かつ離脱者を抑えられるのか。エーテンラボは“チームでの参加”と“寄附”に着目し、独自のアプリで自治体の取り組みを後押ししている。

<講師>

渋谷 恵 氏
エーテンラボ株式会社 自治体部リーダー

プロフィール

早稲田大学大学院修了後、ソニーに入社し、イメージセンサの新規用途の技術営業に従事。その後、2018年に事業開発として、エーテンラボに入社。現在は、自治体向け事業やアプリを活用した臨床研究の推進を主に担当。

 

当社はソニー初のヘルスケアのスタートアップです。「テクノロジーでみんなを幸せにする」をミッションに、習慣化アプリを活用した健康支援事業を提供しています。自治体事業も積極的に手がけており、活動の軸になっているのが「みんチャレ」です。

 

チームでの挑戦でコインをもらい、社会貢献に活かす

みんチャレは、同じ目標の方と5人のチームで励まし合い、楽しく続ける習慣化アプリです。毎日歩くとか、野菜を食べようなど、どのような目標でもOK。それに沿った行動の後、1日1回証拠写真を送るというルールになっています。これが承認されるとコインが貯まる仕組みです。こうした機能により自己効力感が進み、「明日はもっと歩こう」といった行動変容の効果が働きます。さらに仲間とのやりとりの中で、行動が続きやすいつくりになっています。

特徴的なのは、アプリで貯めたコインを地域の社会貢献への寄附に使えるという点です。例えば、ユーザーが貯めたコインを、食糧に困窮する大学生への応援活動に寄附できるといったもの。寄附する品は協賛企業から原資や物品を提供いただきます。

実際の取り組みに参加された方を対象にした臨床研究の結果、みんチャレを使用した群は非使用群と比較して目標歩数の達成率が約2倍に増加しており、1人で取り組むより仲間と挑戦した方が行動変容の効果があるということが分かっています。また、国内外の主要ヘルスケアアプリと比較して、ほぼ毎日使うユーザーの割合が約5倍。ユーザーからは、「ほかの人の頑張りが励みになる」、「自分の努力を誰かに見てもらえるのが嬉しい」といった声をいただいています。

自治体導入事例とその効果について

このアプリを活用した官民連携の事例を紹介します。まずは愛知県豊橋市の事例です。

同市では糖尿病の予備軍や患者の割合が多いということと、野菜摂取量が少ないということが調査で分かっていました。それに対し、野菜摂取量の増加による糖尿病の予防を企業の健康経営で広める、という施策を進めたのです。この取り組みでは、カゴメ株式会社とコラボしました。

内容は、野菜を食べて、こども食堂を応援しようというもの。参加者には、同社の野菜飲料が1カ月分無料という特典も用意しました。参加者は3カ月間アプリを活用し、日々の食事で野菜をとることを意識して、野菜を食べた写真をアプリで報告します。それで貯まったコインを寄附するという流れです。また、カゴメの推定野菜摂取量測定器「ベジチェック」を企業に貸与し、いつでも測定できる環境を提供。参加者数は定員400名を超える574名で、取り組み結果は以下の通りとなっています。

また、神奈川県伊勢原市では生活習慣病予防の事業を実施しました。

同市では、糖尿病性腎症の増加、医療費の増加といった課題がありました。そこで、糖尿病予備軍を対象に自己血糖値測定器と習慣化アプリを組み合わせた生活習慣改善プログラムを実施。2カ月間の継続率は90%で、終了から半年後も60%が生活習慣の改善を継続。参加者の体脂肪率は減少し、筋肉量は増加という傾向にありました。参加者からは「血糖変動が見えて面白かった」といった声を頂いています。

自治体事業専用ソリューション「自治体版みんチャレ」

みんチャレには自治体向けに特化した「自治体版みんチャレ」があります。このモデルは自治体専用ページの開発機能を有しており、利用者向けサポートセンターの開設も可能。効果検証、分析結果の提出もでき、成果の可視化を支援しています。

寄附の財源は協定を締結している企業などに負担頂く仕組みになっており、自治体がインセンティブ予算を組まなくても継続可能。景品発送などの手間もありません。今まで34自治体と事業を実施しており、今年度も取り組み自治体が拡大。全世代を対象にするのか、糖尿病のためか、高齢者のためか、といったニーズに合わせてサービスを提供しています。

健康無関心層に届かない、という課題に対しては、寄附訴求で集客することができます。アプリ事業は高齢者に向かないという点については、アプリの使い方講座を実施し、仲間同士の教え合いを促進することで、高齢者こそ高い継続率を達成できます。このような手段を検討してみてはいかがでしょうか。気になる方は「みんチャレ重症化予防」でご検索ください。

「市町村歯科保健事業」の現状と対策

国が推進する「国民皆歯科健診」の取り組み。これに向けて何が変わるのか、そして残された課題とその解決方法とは。行政・民間を問わず幅広い領域で歯科健診サービスを提供するハミエルが、現状分析とともに知見を共有してくれた。

<講師>

笹井 啓史氏
株式会社ハミエル 相談役

プロフィール

1991年厚生省(現厚生労働省)に入省。保健医療、医療保険、介護福祉政策等に従事。2002年日本大学松戸歯学部助教授、2017年教授に就任。同校在席中に日本歯科医師会嘱託を経て、2023年より現職。歯科保健医療に関する政策考究や事業計画に携わる。

 

当社は歯科の保健事業を全国で実施しており、出張歯科健診をはじめ、Webでの歯科問診や歯科面談、口腔ケアセミナーなどを提供。年間実績で約10万人にサービスを届けています。このパートでは、歯科保健事業の政策に関する説明をした上で、当社が提供している住民参加型の健康づくりサービスを紹介します。

 

「国民皆歯科健診」に向けて何が変わるのか

まずは歯科保健事業の政策について。歯科口腔保健の推進は「歯科口腔保健の推進に関する法律」にもとづき、自治体と共に進められています。「定期的に歯科健診を受けること等の勧奨等」として自治体がなすべきことが書かれており、歯科口腔保健の推進に関する基本的事項の策定や、予算における財政上の措置などが列挙されています。

また、今後に関しては、令和6年度の当初予算案を見ると一定の内容が分かります。生涯を通じた切れ目のない歯科健診の実現に向けて、歯周疾患検診の対象年齢が従来40歳以上だったのに対し、20歳、30歳が新たに追加されています。ここでは実施主体が保健所設置市・特別区・市町村とされ、補助率は3分の1です。これにより全ての年齢層をカバーできる「国民皆歯科健診」体勢が整ったということです。

歯科健診の必要性は、国民の間にはかなり醸成されたと思います。ただ、こうしたものを実施するにはコストやマンパワーが必要。また、歯科健診充実の必要性について議論を進めていく上では、政策の趣旨に沿ったエビデンスを示し、実施主体の理解を得ていくことが求められます。現在、少しずつエビデンスを集積している段階にあり、様々な形での法制化や、一定程度強制力を持った健診の実施については、その展開のあり方も変わってくるのではないかと思われます。

ハミエルが推進する課題の整理と解決

ここからは、歯周疾患検診に重点を置いて紹介します。

現状の個別健診の課題は、まず受診率が低いという点。次にコストが高いという点。さらに、住民は自発的に動いて歯科医院まで行くので、関心が高い方しか受診しないという点が挙げられます。重要な訴求先は無関心層。これには興味関心を喚起する工夫、インセンティブ方式、ナッジ理論、といったものが有効だと考えられます。当社事例の1つとして、興味関心を喚起する実例を紹介します。

愛知県豊田市での、受診勧奨ハガキの例です。圧着ハガキを開くと歯科医院情報や、歯科の重要性に関する資料が出てくるのですが、まずこれを開かせるため、宛名の裏面に、我々のWeb歯科問診サービス「ハミエル」の、口の中の環境が分かる自己測定ツールの二次元コードを入れました。これを読み取ると開始画面になり、問診で20問のアンケートに答えてもらうというものです。

問診の結果は、スパイダーチャートやキャラクターの表情で出るので分かりやすく、さらに項目別にリスク値も出る。こうした測定ものは興味関心をひきやすく、それによってハガキを開くという行動に移るきっかけになっています。

当社ではこうした取り組みを進めているのですが、ざっくりあらわすと下図のような三角形になります。

個別健診は地域の歯科医師会の院で受け、無関心層は集団の歯科健診で受ける、という形です。当社が自治体から声かけいただいたのは、歯科医師会の会員は自院を持っているので外に歯科医師を出すのが難しいという事情からです。集団検診は、がん検診をはじめ様々なことを実施しているのに、歯科の健診はできていなかったのが実情で、「何とかしてもらえないか」といった声かけを多数いただいています。

例えば、人口規模1万5000人ほどの自治体で、集団方式による特定健診の中に歯科健診を入れるという事例がありました。対象は30歳以上の国保加入者と後期高齢者、会場は特定健診と同じ保健センターや公民館で、地区別に開催しています。対象者は約4000名で、うち特定健診の受診数は1600名。その中で歯科健診を受診した人は650名ほどで、特定健診の約4割です。

実は歯科健診の意義は大きく、健診をしてむし歯が見つかる人や、要治療もしくは要精査になる人は半分以上います。この事例では6年間で2000名以上になり、こうした方々を近隣の歯科医院に紹介することで、歯科医師からも今まで眠っていた無関心層が来院してくれたと喜ばれ、自治体からも高く評価されました。

ここで紹介したこと以外にも歯科保健事業を色々と手がけているので、ぜひハミエルで検索の上、チェックしてみてください。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

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