【セミナーレポート】住民参加型の健康づくり施策のヒント~健康長寿社会に向けた挑戦の最前線~【Day2】
今回は健康づくり施策セミナーの2日目。規模の異なる2つの自治体におけるユニークな健康施策をはじめ、スマホを活かした健康づくり、電気の使用量を活用した見守り、学習療法での認知症予防という多彩な内容です。
5つのパートでは、フレイルや認知症予防の最前線で取り組みを進める職員や企業担当者が、それぞれの持ち場で感じた課題や解決策など、豊富な知見を共有してくれました。当日の様子をダイジェストでお伝えします。
Day1のレポートはこちら
概要
□タイトル:住民参加型の健康づくり施策のヒント~健康長寿社会に向けた挑戦の最前線~【Day2】
□実施日:2024年2月20日(火)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:174人
□プログラム:
第1部:「健康都市弘前」の実現に向けて
第2部:健康寿命の延伸に向けた「通いの場」活性化支援
第3部:自分らしく健康に!~データを活用した健康アドバイス~
第4部:電力データによりハイリスク者を絞り込みフレイル予防における高齢者への介入・働きかけを効率化
第5部:KUMONが提供する認知症予防プログラム
「健康都市弘前」の実現に向けて
県民の平均寿命が短いという課題を抱えていた青森県。弘前市では、新型コロナウイルス感染症をきっかけに、改めて「市民の健康」の重要性を認識することとなり、複合的な健康施策を打ち出し、「健康都市弘前」の実現を目指しているという。着実に施策を進める同市の足跡を追う。
<講師>
葛西 弘典 氏
青森県 弘前市 企画部 企画課 地域振興担当 総括主査
プロフィール
2008年入庁。介護保険業務に従事した後、文化スポーツ振興課で文化芸術行政に携わる。2019年企画課に異動し、2023年から現職。「健康都市弘前」の実現に向けて取り組んでいる。
弘前市では、令和5年3月に策定した弘前市総合計画後期基本計画において、「健康都市弘前」の実現を掲げ、「ひとの健康」、「まちの健康」、「みらいの健康」それぞれに力を注ぐまちづくりに向けて重点的・横断的に取り組むこととしています。
こうした施策のきっかけとなったのは新型コロナウイルス感染症の影響でしたが、他にも地域独自の課題がありました。
「ひとの健康」について、青森県は、都道府県別の平均寿命ランキングにおいて男女共に最下位で、全国一の短命県となっています。男性の年齢階級別死亡率の都道府県ランキングを見ても、青森県の働き盛り世代は全国の数字をかなり上回っており、おおむねワーストです。
「まちの健康」についても課題があり、中心市街地では、空き店舗率が新型コロナウイルス感染症以前の令和元年から悪化に転じており、令和2年からは新型コロナウイルス感染症の影響もあって歩行者や自転車の通行量が大幅に落ち込んでいます。
健康でまちのにぎわいを
こうした問題を解決し、「健康都市弘前」の実現のために取り組むこととしたのが以下に掲げている主な8つの取組です。
その取組は、「子ども医療費の完全無償化」や、「子どもからの食育、健康教育」、「健康医療関連産業の誘致」など、「ひとの健康」、「まちの健康」を目的としたものとなっています。これら8つの主な取組の複数を1つのパッケージにしたのが「健康とまちのにぎわい創出事業」です。
この事業は令和4年度からの3カ年計画で実施しています。現在整備を進めている健康づくりのまちなか拠点がオープンするまでの助走として、市民の健康意識の向上を図り、中心市街地のにぎわいを創出し、取り組みを継続して運営していくための体制・ひとづくりにも注力していくものとなっています。具体的な事業をいくつか紹介します。
「QOL健診」を軸に、健康アプリも導入
事業の軸となっているのが「QOL健診」です。これは弘前大学が開発した生活の質を向上させる新しい健診、健康教育プログラムで、楽しみながら受診でき、メタボリックシンドローム、ロコモティブシンドローム、口腔保健、うつ病・認知症の重要4テーマを総合的に健診し、その場ですぐに結果を返しながら健康意識の啓発・教育を行うものです。
健診には標準型と簡易型の2種類があり、標準型は10項目程度の検査に加えて約60分の講義を行います。全体で約2時間となっており、その後10カ月間のフォローアップ研修を行います。簡易型は、4~5項目の検査と結果説明を合わせて20~30分程度です。
また、健康アプリも導入しました。令和5年11月から運用を開始した「kencom(ケンコム)」です。DeSCヘルスケア株式会社が開発したアプリで、歩数や体重、血圧などを毎日記録することによる健康習慣化や、健康情報の配信、健診結果の閲覧、将来の健康状態予測など様々な機能が備わっています。ペットキャラクターを育てながら自然に健康的な生活習慣が身につくエンタメ要素や、年に2回のオンラインウォーキングイベントを行うなど、楽しく健康になれるしかけもあり、それらに加えて、アプリを利用することでポイントも付与される設計にしています。
今後はkencomと中心市街地のウォーキングマップを連動させ、まちのにぎわいを創出し、地域経済の活性化で「まちの健康」へつなげるなど、内容の充実を図っていきたいと考えています。
多様なコンテンツで行動変容を起こす
中心市街地では健康参加モデル事業も実施しています。市民の健康づくりにつながるイベントとQOL健診を組み合わせて実施する取組となっており、令和4年度から実施しています。
主なターゲットは健康意識にあまり関心がない人、特に働き盛り世代の人で、楽しみながら自分の健康に興味を持ってもらうことを目的に実施しました。アプローチ方法として、子どもの興味を引くような遊びを用意し、子どもが体験するためには親にQOL健診を受診してもらうという立てつけにしたことで、子どもが親の手を引いて会場に来るという動線を作ることができました。
他にも、中心市街地の商業施設等にカゴメ株式会社の推定野菜摂取量を測定できる機器「ベジチェック®」を設置。さらに、このベジチェック®と連動させたウォーキングマップを作成するなど、いくつもの施策を打ち出しています。QOL健診も、JR弘前駅前の商業施設に健診拠点を整備し、誰もが気軽に受けられる機会を提供しています。
このように多面的な取り組みを展開していますが、まずは日常生活の中で気軽にできることから取組を始めてもらいたいと考え、運動・食事・健診の3つの側面から市民へ呼びかけを行っています。「あと10分、今より多く体を動かそう」、「あと70グラム、ベジファーストで野菜を食べよう」、「年1回、健診(検診)を受けよう」、というスローガンを掲げ、これを「みんなで取り組む3つの項目」として啓発活動を推進し、市全体で健康意識の向上を図るツールとして活用しています。
今後も市民に対し、この3つの項目を普段の生活に取り入れて、みんなで「健康都市弘前」の実現を目指すため、様々な場面で呼びかけていきたいと思います。
健康寿命の延伸に向けた「通いの場」活性化支援
第2部は熊本県高森町の事例。地域の高齢化に伴う介護保険料の上昇に対し、同町がとった対策は“コミュニティの強化”だった。手出しゼロで進められた取り組みの具体的内容を担当職員が語る。
<講師>
代宮司 猛 氏
熊本県 高森町 健康推進課 介護保険係長
プロフィール
平成18年入職。これまでに国保、学校教育を担当し、財政係長、まちづくり係長を経て令和3年より現職。これまでに教育ICTの導入や老朽空き家対策、ふるさと納税等を担当。
高森町は熊本県の最東端に位置し、静かで自然溢れる地域です。人口は約6000人で、高齢化率は43.4%。全国の値を遥かに超えています。介護保険料は県内で2位という高い金額になっています。
“通いの場”を通して、住民の要介護状態を防ぐ
こうした現状を変えるため、令和元年度から、まち全域で通いの場の立ち上げに取り組みました。
まず施策の一つ目として、地区説明会を行いました。町民は、介護保険料がほかの地域と比べて高いということは知っていたのですが、なぜ高いのか、ということについては知らない方がほとんどだったので、高齢化の現状や、介護給付費の支出状況を具体的に話しました。税収が5億円くらいなのに対し介護給付費が約9億円だということを話すと、みなさん驚かれている様子でした。
ではどうやって介護保険料を下げるのかということについて、介護保険を利用されている方にサービスを使わないでくださいとは言えないので、いま元気な人がいつまでも元気でいることが重要です、ということを伝えていきました。そのために、住民主体の通いの場の必要性と、集まるだけでも介護予防になるということをご理解いただきました。
しかし、大きな課題がありました。公民館の老朽化です。当町には公設の公民館はなく、地域で立てられた集会所のような公民館が各集落に存在している状況。その多くが老朽化しており、段差や和式トイレなど、高齢者には利用しづらい状況でした。当然、それを全て改修するような金銭的余裕はありません。
そこで、補助金を活用した介護予防拠点整備に取り組みました。地域やまちの負担はゼロで公民館の改修を進め、段差の解消や手すりの設置、トイレの洋式化、エアコン設置などを行ないました。また、ふるさと納税なども活用し、60インチのテレビモニターやノートPC、Wi-Fi環境、非常用発電機なども整備できました。
さらに、特別交付税の集落支援員制度を使い、健康推進支援員を配置。通いの場の活動を支援し、イベントなども企画・運営しつつ、会議などにも参加しています。地域と行政の繋ぎ役も担っている状況です。
通いの場を通して広げる様々な活動
通いの場は数も増えていったのですが、コロナ禍で活動が停滞した時期もありました。このままではいけないと、地域コミュニティの力も借りて実施したのが、防災DX訓練の「高森避難フェス」です。震度5弱を想定し、避難先の公民館と災害対策本部をテレビ会議システムでつないで、高齢者にも防災DXを体験していただいたのです。
また、住民主体の活動として活性化を図るため、通いの場対抗の「ボッチャ大会」も開催しました。高齢者や障害者でも楽しく参加できるボッチャを全ての通いの場に導入。養生テープで貼ったコートを公民館に用意し、雨天でも室内でプレーできる環境にしています。令和4年度からは、まち全体の通いの場対抗ボッチャ大会を開き、32チーム150名が参加。翌年度は53チーム290名に参加いただきました。
ほかにも、高齢者が気軽に参加できるユニバーサルデザインの「UDe-スポーツ」を導入しました。また、理学療法士による体操指導と体力測定も行い、測定結果をグラフで可視化して、本人に提示し、テレビ会議システムで説明しています。令和5年度は420名が参加しており、高齢者の16.2%ほどの参加率です。
まちの全域をカバーしつつ、町民と共に未来をつくる
こうした取り組みではデジタルデバイド対策も見落としてはならないポイントです。当町のような過疎地域では特に重要だと考えており、総務省のデジタル活用支援推進事業を使った高齢者向けのスマホ教室や、PC教室を開催しています。子どもや孫とのテレビ電話、年賀状の作成など身近で具体的な目標を設定し、情報格差の解消に取り組んでいます。
これら一連の取り組みについては、ほぼ全ての事業を国・県の補助金やふるさと納税を活用して、まちの一般財源や保険料の負担なしで実施しました。私が以前財政係長をしていたこともあり、職員には「一般財源を使うな」と言ってきたので、誰よりも財源のスキームにはこだわって実施してきました。
通いの場の数は令和5年現在で44カ所になっています。令和6年度にも5カ所増やす予定となっており、ほぼ町内全域で立ち上がる見込みです。高齢化率は年々上昇していますが、高森町の要介護認定率は年々減少中で、全国平均よりも下回っています。こうした取り組み内容と実績が評価され、いくつかのアワードで賞もいただいています。
ただし、最大の目標は介護保険料の低減なので、これはまだ通過点。町民が頑張ったからこそ保険料が下げられたという結果になるよう、今後もまちと町民が一体となって通いの場の取り組みを継続・進化させていきたいと考えています。
自分らしく健康に!~データを活用した健康アドバイス~
民間1番手はNTTの担当者が登壇。同社のヘルスケアサービスは、スマホの強みを活かした豊富な機能が支持され、全国で累計137自治体(2024年2月末現在)が導入しているという。このサービスの内容を軸に、ICT活用のメリットを共有してくれた。
<講師>
木村 佳太 氏
株式会社NTTドコモ 主査
プロフィール
株式会社NTTドコモ入社後、通信キャリアの基盤となるネットワークの運用や設備投資計画に従事。その後、2018年7月より現職。ヘルスケアサービス企画や営業戦略を従事するとともに、横浜市(よこはまウォーキングポイント)をはじめとする多くの自治体と連携したヘルスケア事業を推進。
NTTドコモと聞くと、まず思い浮かぶのは通信事業かと思いますが、当社ではスマートライフ事業も手がけています。この中にヘルスケア事業があり、健康マイレージというサービスを多くの自治体に提供しています。人口減少や高齢化といった課題に対し、当社の技術で貢献する事業です。
累計137自治体(2024年2月末現在)で活用されている「健康マイレージ」とは
健康マイレージは、自分の健康状態を可視化し、健康リスクを予測して、一人ひとりにあったアドバイスを提供するサービス。住民はアプリを活用して楽しく健康づくりをすることで、適切なサイクルを進めることができます。
導入自治体は累計137自治体(2024年2月末現在)。延べ60万人ほどが利用しており、60歳以上のユーザーは13万人以上です。主な機能は、「健康管理機能」、「けんこう機能」、「みまもり機能」の三つ。これらを活かして1人の健康をみんなで見守っていこうというのがコンセプトです。
健康管理機能は、歩いた歩数に応じてポイントが貯まり、インセンティブの提供を受けられるといった事業に活用されている機能です。SNSのように写真投稿ができ、ランキング機能なども搭載しています。また、貯まったポイントを地域通貨と交換したり、マイナポータル連携と連携したりすることも可能です。以下、自治体での導入事例を紹介します。
「健康管理機能」の自治体導入事例
横浜市では、ポイントを1日の歩数に応じて付与しています。3カ月ごとに抽選を行い、商品券をプレゼントするというインセンティブで、歩くモチベーションを保っていただこうとする事業です。2014年から実施されており、蓄積されたデータを活用して医療費に与える効果も分析しています。
この取り組みに参加している群と、非参加群を比較したところ、糖尿病の新規発症率が約62%低減したという効果が出ています。糖尿病の重症化率も、参加群の方が67%低いという結果です。医療費も1人あたり年間1万5279円の削減効果があると出ており、ウォーキングに参加するだけでもこうした効果が見られるという事例です。
ほかにも、横浜市ではアプリの写真投稿機能を活用して、定期的にフォトコンテストを実施。イベント的要素を混ぜることで、継続率を高めつつ参加者も増やしています。
また、地域の協力店と連携してスタンプラリーを開催しています。アプリで二次元コードを読み込むと来店が分かるので、こうした機能も活用しつつ、社会参画が広がるイベントを開催しているのです。
この健康マイレージアプリはマイナポータルとも連携でき、さらに様々なことが可能になります。例えば、被用者保険の加入者を含めた効果検証や、健診データから未来の疾患リスクを予測する、といったことです。すでに新潟県上越市では、マイナポータルと連携した健康マイレージアプリの活用が進行中です。
「けんこう機能」、「みまもり機能」の内容と活用事例
3つの機能の2つ目、「けんこう機能」について解説します。
この機能は、スマホとAIという当社ならではの強みを活かしたものです。スマホを利用していると、歩数や体重、血圧などのデータが取得できたり、GPSで移動履歴が分かったりします。また、端末操作ログから睡眠時間の予測も可能。そうしたデータにもとづき、ユーザーがフレイルに近い状態にあるのかを推定する“AIによる健康状態推定”という機能を有しています。
一週間の活動を点数で評価し、点数が低いと次週に向けたアドバイスが得られます。これを繰り返すことで行動変容を促そうとするサービスです。フレイル推定の他にも、血圧上昇習慣推定AIとか免疫力推定AIといったものも研究開発しています。
また、3つ目の「みまもり機能」は、みまもり対象となる方を登録しておけば、遠方に住む家族にも今どこにいるのかが分かり、リスク推定によって点数が低かった場合は家族に通知。スマホが2日間動いていないときには家族にアラートが飛ぶといったものを網羅している機能です。名古屋市では、これらの機能を「フレポ&見守り」アプリとして導入しており、市内の通いの場へ行ったときに二次元コードを読み込むとポイントが貯まるしかけや、みまもり機能などを活用しています。
ちなみに、高齢者への普及に関しては、スマホの使い方やアプリのダウンロードのレクチャーなどをして、継続して利用できるような支援も行っています。
当社グループは47都道府県に支店・支社を構えており、これらと連携して多くの自治体に導入いただいているので、細やかなサポートが可能。ドコモショップも活用しながら、デジタルデバイド対策や事業支援も実施できます。ぜひご相談ください。
電力データによりハイリスク者を絞り込み
フレイル予防における高齢者への介入・働きかけを効率化
第4部は電力会社の事例を紹介。消費電力の観察をフレイル予防につなげるという発想で、高齢者の健康を守りつつ自治体の負担も減らそうとする新たな試みが現在進められているという。その仕組みについて解説してもらった。
<講師>
傳田 純也 氏
中部電力株式会社 フレイル対策プロジェクトリーダー
プロフィール
東京工業大学大学院修了後、大手鉄鋼メーカ入社。その後、外資系コンサルティングファームにて主に業務改革プロジェクトに従事した後、2021年中部電力入社。自治体向けのフレイル対策プロジェクトを推進し、2023年10月より現職。
当社は電力会社ですが、様々な地域社会の課題解決に向けた取り組みも進めています。今回紹介するのは、電気の使用量でフレイルリスクを察知する「eフレイルナビ」というサービスで、ちょうど先週、内閣府主催のアワードで選考委員会特別賞を受賞しました。メディアでも取り上げていただいており、注目を集めている取り組みだと考えています。
フレイルリスクの検知にテクノロジーをフル活用
このサービスは、簡単に言うと、電力の使用量からフレイルリスクを検知して、高齢者に対する働きかけを効率よく、かつ継続的に推進できるというものです。スマートメーターで30分毎の電気の使用量を計測し、それをAIが分析して、検知結果を自治体に毎月お知らせするという仕組みになっています。
スマートメーターは家庭にすでに設置されているので、新たな機器の設置などが不要で、高齢者には負担がかかりません。また、既存のフレイルチェックは、後期高齢者への質問票や会話の中で行う方法が一般的だと思いますが、年に1度といったタイミングになり、継続的な観察が困難です。このサービスは月ごとに判定結果が出るので、毎月の確認ができるようになります。導入実績としては、すでに3自治体が採用済みです。
フレイルは要介護と健康の間の状態なので、適切な対処で健康な状態まで回復できる可能性があります。ただ、身体的機能や認知機能、社会的な接点が減ってくるので、フレイルになったタイミングで見つけるのが非常に難しい。しかし今後の超高齢化社会でこうした人々は増加し、自治体は限られた人手でそれを見つけなくてはならなくなります。
こうした現実に対応するために、IoT機器によるアプローチがあります。ちなみに、家庭内にセンサ類を設置するという取り組みもありますが、この場合は見守られているというより“見張られている”という感覚で、心的な負担も大きくなるというのが課題です。こうしたネガティブ面もeフレイルナビが解消できます。
電気の使用量で日常生活の様子を推測する
具体的に、どのようなかたちで電力データからフレイルを検知できるのかということを簡単に説明します。
下図のグラフでは、縦軸が電気の使用量、横軸が1日を24時間で表示しています。電気の使用量は30分ごとに計測しているので、48本の棒が立つイメージです。
このサンプルでは、6時以降から使用量が上がっていき、その後急に落ちるところがあります。これで外出されたことが推測されます。外出時にはエアコン、照明、テレビなどが消されるので、そこで推測できます。また、6時以降からグラフが立ち上がるので、ここが起床時間で、逆に夕方以降は次第に使用量が落ちていき、カーブが落ち着いたところ就寝されたのか、を推測しています。
元気な方は、料理されるときに電子レンジを使ったり、洗濯機を使ったりと色々な活動をしますし、これによって電気の使用量の変動も大きくなるので活動量の推定が行えるのです。あくまでも推測ですが、それらを総合的に判断してフレイルか健康か、という検知を行っています。
このシステムが「フレイルである」と検知した人に対して、改めてフレイルチェックを行って検証してみたところ、実際にフレイルに該当した人の割合が80%以上でした。世の中で行なわれている一般的なフレイルチェックでは検出率が10%程度と言われていますが、このシステムであれば80%という高い精度が得られるのです。
UIを重視した管理画面で職員の負担も低減する
自治体側の管理画面も使いやすく設計されています。下図は対象者一覧の画面で、各行が高齢者の情報となっており、左側2列目の「6月結果」という列に1~100点で分析結果が表示されます。赤色で表示されている方はフレイルリスクが高く、この方々に関して何かしらの働きかけをする、というものです。この対象者への対応はどのようにするのか、ということを管理する機能も有しています。
個別の詳細画面もあり、その中で対応記録を残したり、過去にどのようなフレイルリスクの分布があったのか確認したりすることが可能です。また、複数の部署にまたがるケースや、保健センターなどと連携するケースでは、そうした連携上の申し送りをスムーズ化できる機能も用意しています。
最後に事例を紹介します。長野県松本市では、令和4年度に93名の参加者を対象としてフレイル検知を行いました。この中で検知された人が延べ31名で、そのうち27名が検知後の状態確認と介入によってフレイルリスクが低下しています。かなり高い精度で検知し、さらにその後、回復するところまで確認できているのです。こうした結果も踏まえ、ハイリスクアプローチに関してかなり有用であると我々は考えています。
KUMONが提供する認知症予防プログラム
最終パートの第5部は、“学習療法”がテーマ。「脳を活性化させることで認知症リスクを低下させる」という目的に特化した、公文独自のメソッドとエビデンスなどについて、自治体での活用事例・導入効果も交えて担当者が紹介する。
<講師>
橋口 健 氏
公文教育研究会 学習療法センター 普及サポート部長
プロフィール
1989年公文教育研究会入社。公文式教室のサポート業務の後、広報部門・乳幼児部門・学校導入部門等の責任者を経て、2018年から学習療法センター。認知症の予防・進行抑止・改善のための活動に従事している。
高齢者をサポートするための3つの事業
公文の学習療法センターは、公文教育研究会の1部門であり、高齢者を対象とした3つの事業を行っています。
一つ目は「学習療法」。認知症になられた方がそれ以上進行しないように、あるいは少しでも改善するように、ということを目指した非薬物療法です。日本とアメリカ、約1200の高齢者介護施設で活用されています。脳を活性化することで高齢者の自立支援を図りつつ、介護スタッフの成長・やりがいや、施設全体のケア力を向上し、さらに家族の喜びや地域貢献などにもつながるものです。
二つ目は「脳の健康教室」。シニア世代のための認知症予防、脳の健康づくりを行う教室です。受講者、教室を支えるボランティア・サポーターの方々が仲間となって、通いの場づくり、担い手づくり、社会参加へのきっかけづくりを目指しています。教室は公民館やコミュニティセンターなど公的な会場を中心とし、全国約230カ所で開講中。自治体を中心に各種団体や法人が主催者となって運営されています。
三つ目は「公文の脳トレ」です。認知症予防、脳の健康づくりのための個人向けサービスとして昨年12月からスタートしました。「自宅で!気軽に!楽しく!」を合言葉に、シニア世代の脳の健康づくりをサポートしています。
これらの事業は、東北大学の川島隆太教授による最先端の脳科学研究の知見をもとにして、東北大学を中心とした研究者グループ、そして我々学習療法センターの共同研究の結果誕生したプログラムを活用したものです。今回は、「脳の健康教室」についてお伝えします。
脳の健康教室の活動内容について
脳の健康教室で使用するのは、認知症予防のために当社が開発した高齢者向けの専用教材。まち中の公文教室で子どもたちが使っているものとは別のものです。脳の活性化を図るためにすらすら解くことができ、高齢者が楽しく挑戦できる問題を厳選しています。
読み書き教材と計算教材があり、1日にA4サイズの教材の表裏、3枚ずつを学習していきます。読み書き教材は様々なジャンルの題材で構成され、受講者からは「読んでいて面白い」、「素敵なものが多くて楽しい」といった声をいただいています。
計算教材は足し算・引き算の暗算、筆算、かけ算で構成。すらすら解けて達成感も味わえる内容です。加えて、磁石すうじ盤100というものもあります。これも人気のある教具です。
教室の運営は主催者が直接運営されるケースと、主催者が別団体に委託して運営されるケースがあります。例えば神奈川県秦野市ではシルバー人材センターに委託しているようで、ほかにも社共やNPO法人が運営するケースも見られます。
教室の流れについては、1時限が約30分で、受講者の人数やサポーターの数、会場の広さなどによって何時限で実施するかを決めていただきます。
認知症スクリーニングテストでも証明された効果
参加者には、教室の開講日以外にも宿題が出されるため、毎日脳が活性化します。また、脳の健康教室は体操教室などと組み合わせて実施することもできます。ある自治体では、「頭と体の健康教室」と名付けて実施しており、認知症予防と介護予防の一石二鳥だといえるでしょう。
もちろん、脳の健康教室にはしっかりとしたエビデンスがあります。認知症スクリーニングテストとして国際的に広く使われているミニメンタルステート検査(MMSE)を使って検証した二つの事例を紹介します。
一つ目は経済産業省が行った平成27年度の「健康寿命延伸産業創出推進事業」に参画したときのデータです。脳の健康教室を受講した337名の方に対し、開始時と5カ月後、教室終了時にMMSEを実施したところ、いずれも数値が向上していました。認知症疑いだった方はそこから脱却する、正常だった方は正常のまま維持することに貢献できています。
二つ目はある自治体の教室での検査です。教室開始前にMMSEを実施してみると、51名の参加者中、軽度認知障害(MCI)の疑いがある方が20名いました。そして6カ月後に測定してみると、該当した20名のうち18名が健常域に戻るという成果が得られました。MCIは放置しておくと5年間で半分の方が認知症に移行すると言われているので、いかにMCIの段階で食い止めて、それ以上進行させないか、健常に戻すかということが大きなポイントになります。本人や家族はもちろん、自治体の財政にとっても将来的な社会保障費の抑制につながるはずです。
学習療法と脳の健康教室は、国からもその効果を認められ、厚生労働省、農林水産省、経済産業省が作成した「保険外サービス活用ガイドブック」にも掲載いただいています。ぜひ脳の健康教室の開講を検討いただけたらと思います。
お問い合わせ
ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works