ジチタイワークス

【セミナーレポート】保育士の負担を軽減! “先進事例から学ぶ”ICTを活用した業務効率化と保育の質向上への道

保育施設の先生たちは、子どもたちへ向けた保育業務だけでなく、様々な事務作業や保護者への対応にも追われています。こうした現状に対し、こども家庭庁でも業務負担軽減や自治体の業務効率化を目指し、保育DXを推進中です。

今回のセミナーでは、国の施策に関わる専門家や、自治体の担当者を招き、さらに保育現場の業務改善につながるサービスを提供している事業者も登壇。保育DXについて知見を共有しました。当日の様子をダイジェストでお届けします。

概要

■タイトル:保育士の負担を軽減!“先進事例から学ぶ”ICTを活用した業務効率化と保育の質向上への道
■実施日:2025年4月22日(火)
■参加対象:自治体職員
■開催形式:オンライン(Zoom)
■申込数:208人
■プログラム:
 第1部:ドキュメンテーションのICT化と保育の質向上
 第2部:“電話が鳴らない”保育園をDXで実現。保育士に時間の余裕を。
 第3部:三方徳の保育~ ICT導入でラクになる保育士・家庭・自治体~
 第4部:保育×集金DXで保育士の負担を軽減!
 第5部:保育施設と自治体をつなぐDX ~複数自治体での標準化の取り組み~

ドキュメンテーションのICT化と保育の質向上

セミナーの第1部では、保育領域の専門家が登壇。保育の質を向上させる上で重要なカギとなるドキュメンテーションについて、その基礎知識から活用事例までを詳しく解説してくれた。

【講師】大豆生田 啓友 氏
玉川大学 教育学部

プロフィール

日本保育学会副会長、こども環境学会副会長。こども家庭庁「こども家庭審議会」委員および「幼児期までのこどもの育ち部会」委員(部会長代理)、文部科学省「今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会」委員、栃木県幼児教育センター顧問、よこはま☆保育・教育宣言運用協議会委員。

 

保育は“待機児童の解消”から“質の向上”のフェーズへ。

私は、幼児期の保育の質に関する研究をしています。こども家庭庁の「こども家庭審議会」などの委員もしており、国の保育の質を高める動きに関わっているので、そうした立場からの話としてご理解ください。

今回、私が伝えたいポイントは、“保育の質の向上”です。待機児童の時代はほぼ終わり、これからは保育の質の時代。各自治体も、この“質”をどう高めていくかが大きな課題になると思われます。

こども家庭庁ができる前、厚労省に「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」というものがありました。ここで保育の質とは何かを定義した上で、保育の質を高めるためにはどうしたら良いか、ということをまとめています。

そこに書かれているのは、一人ひとりの子どもにとって何が大事かという点を、保育者は毎日振り返り、記録をとり、対話をしていく。職場風土の中にそれがある、ということです。

これは、園だけで進めていくのは難しい場合があるので、地域の中で学び合う機会を作っていく必要があります。

ここで大切なのが「自己評価」です。自己評価というと、チェックリストの導入だと誤解されがちですが、それは一つの手段に過ぎません。自己評価は毎日やることです。子どもの姿を振り返り、記録し、職場内や保護者と対話をしていくことが重要。

ただ、チェックリストによる自己評価があるかないかだけで監査されている実態もある。このあたりの理解を進める必要があります。この“毎日振り返って対話するツール”として有効なのがドキュメンテーションです。

ドキュメンテーションの活用で、保育の現場も先生たちも変わる。

では、ドキュメンテーションとは何か。これは、保育の質を高めるための、写真を使った記録のことです。「毎日送られてくる写真の保護者向けサービス」だと誤解されることもありますが、そうではなく、毎日の保育を振り返り、同僚・保護者・子どもと対話することを目的とした記録がドキュメンテーションです。

ただ、保育の現場からは、「写真を撮って発信しているが、保護者から反応なんてない」という声もあります。そこでどんな写真を撮っているのか見せてもらうと、「今日は○○公園に行って滑り台で遊んで楽しかった」と。これではいくら写真を出しても、「だから何?」という話になります。こういうものを私たちは「してました記録」と呼んでいます。

ある園では、園長のリーダーシップのもと、「してました記録」をやめて子どもたちの育ちや変化を、もっと写真で伝えていこうという取り組みをしました。子どもが何かに興味・関心を持っている写真、子どもたちが遊びをどんどん発展させている写真、中学生との交流を始める写真などです。

先生たちも、子どもたちの学びや、興味・関心を持つ様子にワクワクしながら写真を撮り、コメントを書きます。こうした発信を通して、先生も心を動かされていることが保護者に伝わるのです。園長先生はこのように語ってくれました。

「ドキュメンテーション写真記録を使うことで、先生たちの子どもに対する関わり方が変わりました。さらに保育者同士の会話が増え、保護者とのコミュニケーションが活発になり、様々なリアクションがもらえるようになりました」。

この園は、ICT化を先駆的に進めたので、記録時間を短縮することができました。さらに、今までは日誌を書き、連絡帳を書き、週案やお便りも書き……と、あれもこれも書いていたのを、1つの記録が連絡帳になり、自治体が認めたら日誌にもなり、計画にも転送されるようになる。どんなソフトを使うかにもよりますが、まさに時間短縮と保育の質向上を同時に成し遂げたという事例です。

国の調査では、ICT活用が業務負担の軽減につながることが分かっています。また、ICTを使いこなせている園では、ICT推進担当者の設置や導入時・入職時の説明会が開催されており、ICT活用のために業務の見直しを行っています。職員間でも認識合わせをしており、困った時には事業者に相談ができる。こうした工夫の結果、職員同士で高め合っていくことができるようになるのです。

今後、「こども誰でも通園制度」が始まります。また、園は園児と保護者だけでなく、地域とのつながりの場としても重要になっていくでしょう。そういったことを考えると、ICT、DX化はさらに求められるといえます。

先生たちが書き物に時間を費やすのではなく、保育の質の向上につながるためのDX化が重要。そのためにも、自治体の中で風土を作っていくことが大切です。

先生たちの働き方改革や業務負担軽減と、保育の質の向上は密接に関係しています。そうした視点からICT化されたドキュメンテーションが広がり、それを上手に使いこなすことで子どもと向き合う時間の手厚さにつなげる。そんな工夫が、今後は求められてくることでしょう。

“電話が鳴らない”保育園をDXで実現。保育士に時間の余裕を。

保育施設と保護者のやりとりは、直接対話や電話で行われているケースが大半。しかし事務連絡などデジタルツールで代替できる部分も多い。そうしたサービスを提供している事業者が、自治体事例をまじえつつ改善のヒントを共有する。

【講師】仁志出 彰子 氏
株式会社Bot Express 執行役員 営業担当

プロフィール

23年勤めた前職の大津市役所では勤労福祉、情報システム、学校教育、保健予防、経営経理、経営戦略の業務に携わっていた。その経験を活かし、住民により便利な市役所サービスを提供するだけでなく、忙しい公務員を助けることができるBot Expressのサービスをたくさんの自治体に知ってほしいと思い営業として入社。

 

保育に関する行政サービスは、ノーコードで開発できる。

私は元自治体職員で、子育て関連では乳幼児の予防接種の担当になったこともあります。子育て世代は忙しく、余裕がない状態です。そうした住民と保育園の先生方に時間の余裕が出るツールについて、自治体の事例をまじえて紹介します。

まず当社の製品について。「スマホ市役所」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。その製品名が「GovTech Express」です。当サービスを使えば、住民がすぐ・簡単に利用できるツール「LINE」を活用し、保育をはじめ様々な行政サービスを提供することができます。

自治体目線では、トイブロックのようにパーツを組み合わせて、自分たちが行いたい行政サービスにつくり上げていくことができるノーコードのツールです。そうしたプラットフォームを提供しています。以下、5つの特徴を簡単に紹介します。

「スマホ市役所」が多くの支持を受ける理由 ~5つの特徴~

1つ目が「住民への説明書がいらない」という点です。従来の電子申請サービスや、初めて見るアプリとは異なり、日頃使っているLINEで、聞かれたことに答えるだけで行政サービスを利用できる、というもの。電話や窓口のような操作感で使えます。

2つ目は「時間・コストが不要な双方向コミュニケーション」。例えば○○保育園だけ、という形で一斉に配信するとか、さくら組だけ、PTAだけに送るといったセグメントが可能です。

また、お子様の生年月日を登録しておけば、2カ月になったらヒブワクチンのお知らせを届ける、といった形で、イベントステージに応じたメッセージを自動配信できます。さらに1対1のコミュニケーションもできるので、個別の連絡・返信といったやりとりも可能です。

3つ目は「公平性」。LINEを使っていないとか、スマホを持っていないという方がいることも想定し、WEBブラウザ版も用意しているので、公平なサービスを提供することができます。

4つ目は、「自治体職員が開発できる」という点。ノーコードツールなのでITに関する専門的知識がなくても簡単に内製ができます。さらに、卒園したら終わりではなく、学校での欠席連絡に使っていただくなど、継続的な活用も可能。ちなみに当サービスはサブスクでの提供なので、どれだけ使っても料金は一律です。

そして5つ目が「全国でシェアできる」という点です。当サービスは300以上の自治体が導入しており、そこで作られているものを横展開し、シェアして使うことができます。他自治体の先進事例を取り入れたい時にはコピーして使える、というのが特徴です。

保育DXを進めている自治体の事例紹介。

ここからは、自治体の導入事例を紹介します。

伊勢市では、一時保育の予約で当サービスを活用。ほぼ100%の利用率となっており、保護者の利便性向上に加え、保育園の先生方の業務改善、事務時間の削減によって時間を有効活用できるものになっています。これによって電話が鳴らない、行列がなくなる、といったことが実現できているのです。

与那原町では、保育園や学校の欠席連絡に活用中です。小学校では保護者の8割以上が利用しており、職員の負担が軽くなった分を、対面での支援が必要な方などへ時間を割く、といったことができるようになっています。

美濃加茂市の事例は、子育て支援センターでの入退館手続きです。お子様連れの来館者は両手を空けることが難しいので、片手でチェックインできるものを開発しています。これは他のシーンでも活用でき、例えば登園バスで、降りたかどうか確認する際にチェックインの機能を使う、といったことも考えられると思います。

他にも、広島市では学校の食物アレルギー・献立情報配信に活用。練馬区では保活支援サービスに、総社市では生成AIを用いた対話応答型サービスに……と、全国で続々と事例が誕生し続けています。

最後に、セキュリティについて。当社のサービスでは、LINEを通じて保護者が保育園とやりとりをしますが、LINEのサーバー上にはデータを残さない仕様となっています。政府が認定したクラウドサービスの中にデータが格納される仕組みです。現在活用中の300以上の自治体も、かなり多くの個人情報を取り扱っている形になります。

また、当サービスは自治体の公式LINEの中で使えるものなので、もし違う事業者が入っていたとしても、保育園の部分だけ使うといった形で共存利用ができる仕様になっています。

こうした特徴や様々な事例は、当社の公式アカウントでも発信しています。「スマホ市役所」で検索し、ぜひご覧ください。

三方徳の保育~ ICT導入でラクになる保育士・家庭・自治体~

保育について独自の課題を抱えていた白岡市。その解決に向けて自治体はどう関わり、どのように協力を得ていったのか。取り組みを担当した職員が、当時の現場での動きを振り返る。

【講師】広辺 和隆 氏
埼玉県 白岡市 健康福祉部 こども保育課 主幹

プロフィール

1995年、白岡市入庁。生活環境課、生涯学習課(図書館)、商工観光課等を経て、2021年から保育課(現在のこども保育課)で、民間保育所誘致や、公立保育所のICT化に携わる。特技は、絵本の読み聞かせ。

 

待機児童対策から始まった保育現場改革の取り組み。

このパートでは、ICT導入で保育士・家庭・自治体が楽になる「三方徳の保育」というテーマでお話しします。

まず、当市が現在抱えている保育の課題ですが、待機児童が多く発生しており、2024年度は36人で全国9位でした。流入人口における保育ニーズの増加と、家庭の就労環境の変化などが影響しています。

しかし、需要の変化に合わせて保育所をつくることが正解なのか、ということも議論されており、「まずは効率的な施設運営と地域ニーズへの柔軟な対応を」と結論。保育所の中で何が大変なのか保育士も含めて話し合い、その結果、事務負担が大きいと考え、解決を目指すために保育所へのICT導入に踏み切りました。

ICT導入における課題ですが、保育所におけるICT化率が上記の通りとなっており、私立保育所に比べて公立保育所が乗り遅れていた面がありました。

原因の1つが導入費用の問題です。これはデジ田交付金を活用することで解決できます。また、保育士のデジタルに対する親和性という問題もありました。やはり年齢などによってICT化に後ろ向きな人もいるので、工夫が必要でした。

解決策として、ICTシステム自体がどのようなものなのか具体的にイメージしてもらうために、導入目的を明確化。デジタル化でどういうメリットがあるのか共通認識を作ることに注力しました。当市のICT導入では、職員の事務負担軽減が一番の目的である、ということです。

そして、ICT導入に躊躇する方への対応としては、保育士、事務担当者含めて話し合いを行い、必要なスキルだから一時的な負担は受け入れていこうという合意を形成。こうした土台を作った上でゴーサインを出しています。

導入にあたっては、各保育所にICT担当を保育士から2名任命し、各園でのICT導入に係る課題や、何ができるのかといった話し合いを園内で実施。その上でICT担当が集まって定期的なミーティングを行い、課題を具体化。ICTベンダーによるデモの場には、保育所長とICT担当、副所長、事務主任などに来ていただき、一緒に見ていく。こうした動きの中で、保育所の体質改善、事務負担の軽減をすれば、そこで作られた時間を子どもたちに向けられる、という共通認識も生まれていったのです。

保育者・保護者に寄り添ったICTの運用で“三方徳”を目指す。

現在、本格導入から1年が経過しました。これまでを振り返ります。

まず、保護者からは「個人情報の流失に関する不安」が寄せられたことがあります。これについては、市の事務担当者が対策などを説明し、理解を得ていきました。「システムの使い方が分からない」という話があれば、保育者が送迎の際に対応して、保護者の不安を軽減するということを続けていきました。

次に保育者の不安ですが、こちらはシステムの運用に関する不安が多くありました。最終目的としては保育ドキュメンテーションの導入があったので、それを可能にするため、ICT担当者が個々の保育士に寄り添うことで対応し、必要に応じて市の担当も足を運んで運用を手伝う、という対応をとりました。

こうした地道な対策のおかげで、本格運用を始めて以来、ICTに関する保護者からの苦情や要望は寄せられていません。

ICT導入による変化については、保育者のモチベーションの変化があげられます。子どもたちと向き合う時間が増えたので、積極的に保護者に向けて、もしくは子どもに向けての情報発信をしようというスタイルが生まれてきました。

また、保育の質の向上という面では、データがデジタルで残ることで、子どもの成長を追っていけるようになったので、今後結果があらわれてくると考えています。

他にも、働きやすい環境が整備されたという面もあります。本年度、保育所の合言葉になっているのが「持ち帰りの仕事はなし、残業はしない」、というもの。保育士も、全体の研修会を実施するなど、今までやりたかったことを実現できているようです。

今回のICTの活用はあくまでも第一歩であり、業務の効率化と保護者の安心感の向上をより高めていきたいと考えています。そこで掲げた目標が上記の3つです。

この目標に向けて、保育施設と連携しながら取り組みを進めており、各施設がそれぞれ自分たちの意志で積極的に保育所運営をしていく環境を作っていこうと考えています。この動きの基本となるのが「三方徳」の考え方です。

保育所のICT導入は、保育士、保護者、行政のどこかが楽になるということではなく、それぞれがICTを介して子どもたちの成長を実感し、利便性も向上したと思える環境が大切です。

そのためには情報共有が重要で、そうした意味でもICTツールは便利だと感じています。公立保育所が充実していけば、おのずと行政に対する信頼性も向上するでしょう。そのような環境も作っていきたい。目標が実現できるよう努めつつ、白岡市では三方徳の保育を目指しています。

保育×集金DXで保育士の負担を軽減!

保育施設では、現在も現金による“手集金”を行っているところが多い。この業務に変革を起こすことで保育士の負担軽減を目指す事業者が、“集金DX”という新しい考え方を提案する。

【講師】金山 健介 氏
GMOエンペイ株式会社 執行役員

プロフィール

GMOエンペイ株式会社にて自治体領域の責任者として従事し、政令指定市や中核都市はじめ複数の自治体への導入を推進。 23年度には一般社団法人こどもDX推進協会でキャッシュレス分科会長として、官民連携も推進。

 

キャッシュレスを超える“集金DX”とは?

本セクションのタイトルにある「集金DX」という言葉は、当社の造語です。キャッシュレス決済のことかと考える方がいるかもしれませんが、我々は異なるものだと位置付けています。これについて、保育現場の実情や事例も合わせてお伝えします。

まず、キャッシュレス決済との違いについて。

子ども家庭庁による、ICT導入に際する補助金の検討の中でも、保育現場のICT化のひとつとして、実費徴収に関する保育士、利用者双方の負担を軽減するためのキャッシュレス決済導入補助が、令和6年度より追加項目になりました。この課題は国も懸念していた部分かと考えられます。

参考までに、2024年時点での、国内におけるキャッシュレス比率は42.8%。内訳ではクレジットカードやコード決済が多く、今後もこの比率はさらに高まっていくと思われます。

一方、保育施設におけるキャッシュレス化はどうかというと、2023年のデータなのですが、物販行事関連で4.2%、一時預かり料では0.7%と非常に低い状態です。国全体と比較すると10分の1以下であり、課題があることが見て取れます。

では、その課題とは何か。当社で、保育現場にヒアリングをしたところ「集金=現金を集める」というイメージが強いことが分かりました。しかし同時に、様々な関連業務があって負担が大きいということも耳にします。具体的には、請求書や明細の作成、消し込み、未払い分の再請求・催促、銀行での入金など。月次では締めの作業もあり、先生たちは大変です。

作業の所要時間をまとめたものが上図。こうした業務について、6割以上の方が「集金や金額の確認が手間だ」と感じていました。他にも現金管理のリスクなどが指摘されており、やはり課題が多いことが分かります。

口座振替では追いつかない保育施設の集金課題。

では保育園での集金が全て現金かというとそうではなく、口座振替を行っている園も一定数あります。しかし、この場合も人による業務が発生しており、口座の登録や明細の作成、未収分の催促などは依然として負荷となっている状況。必ずしも課題が解決できているとはいえません。

こうしたことに加え、保育施設での集金業務は複雑だという問題もあります。例えば、毎月定期的に発生する月極め請求には、給食費、おやつ費、保育料などがありますが、行事費、用品購入費、一時保育料などは非定期的に発生。公立園の場合は公費、私費の費目も分かれているので、そうした管理も求められます。そのため、店舗で導入しているキャッシュレス決済などとは性質が異なってくるのです。

保育施設では、まず人の特定が必要。必ず「誰の何のお金」ということが分からなくてはなりません。加えて、基本的に後払いが多いといった違いもあります。飲食店にあるようなキャッシュレスの端末を導入しても、そうしたデータの分別管理をしなくてはならず、負担はゼロになりません。

こうした点も踏まえ、保育施設におけるキャッシュレスは効果が限定的になってしまうので、ここに集金業務を支援するという側面を加えた「集金DX」を提案しているのです。

集金DXの推進で、保護者・保育施設の双方にメリットを。

当社の集金DXは、集金にかかる全てをキャッシュレス・ペーパーレス化し、集金業務を圧倒的にシンプルにできる集金業務支援サービスです。請求・集金・支払という3ステップで全て完了。全てのコミュニケーションはLINEで行い、保護者は下図にある通り様々な手段で支払ができるようになります。

園側が使う管理画面は直感的に使えるUIが特徴で、ほぼサポートなしで請求行為ができ、再請求・催促機能も提供しています。

また、保護者側は普段使っているLINEに請求メッセージが来るので、お手紙などのように忘れてしまうこともなく、通勤中や、お子様が寝静まった後にスマホで支払いを済ませることができ、明細も手元から確認可能です。

導入事例として、集金関連の作業に30時間かかっていた保育園が、導入後は30分になったというケースも。回収率も99.7%という結果です。先生の精神的負担が高い催促もボタン1つで済み、受信した保護者もスマホで再請求から支払いが可能。双方の負担軽減にも寄与しています。

最後に、自治体の事例を紹介します。

愛知県豊田市では、保育士の負担軽減において、保護者への価値還元もできるという面が評価され、当社のenpay byGMOを導入。現在は現金ゼロ化を実現し、保護者の負担も軽減されたということです。

従来は1日かかっていた集金業務が1時間になったということで、現場の園長先生からは、「豊田市には感謝しかない」というコメントがありました。こうした事例も積み重ねているので、質問などがあればぜひお問い合わせください。

保育施設と自治体をつなぐDX ~複数自治体での標準化の取り組み~

セミナーの最後は、BPOを手がける事業者が登場。沖縄の3自治体と協働で実施した保育DXに関する実証事業について、取り組みの内容とプロジェクトの流れ、成果などについて語ってくれた。

【講師】
小木曽 日菜 氏
株式会社エスプールグローカル 執行役員 営業企画部長

プロフィール

株式会社エスプールグローカルの特徴であるシェアードBPOセンターの拠点開発から、営業部時代には中小自治体をメインとしたBPO導入を推進。現在は営業企画部として新規サービスやモデル事業の構築に従事。

 

こども家庭庁の事業をきっかけに始まった取り組み。

私からは、対保護者ではなく、保育施設と自治体の間でのデジタル化、ICT化の取り組みについて紹介します。

これは1つの自治体だけでの取り組みではなく、複数自治体での共同利用、標準化がポイントなので、そうした部分についてもご注目ください。

当社が自治体と保育施設をつなぐ事業に着手した背景には、こども家庭庁の3つの方針があります。当社としても、自治体にとってどこに課題があるのか見えてこなかったということもあり、70以上の自治体にヒアリングを実施。その中で、「保育施設と自治体間の事務がアナログで負担が大きい」という声があり、もっと実情を知らなければ、と考えたのが始まりです。

ではどんなことが具体的にあるのか見ていくと、例えば補助金申請や修繕申請、実地指導や研修会に関することなど、内部事務がアナログなやり方であるとか、優先度が下がって手が付けられていない、といったことが多い。自治体も保育施設も、この領域に手を付けないと、負担の削減や、保育の質向上が難しいのではないかと考えました。

そんな中、令和6年度にこども家庭庁から「こども政策DX」という実証事業が発令されたので、これは好機だということで3自治体と共に手を挙げ、採択を受けて、令和6年度に実証事業が完了しました。この事業で取り組んだ内容について紹介します。

沖縄の3自治体と進めた保育事務の業務改善について。

実証実験の舞台となったのは、沖縄県の那覇市、南城市、西原町。人口は3万~30万人と規模は様々です。

具体的に取り組んだのは、BPRです。今何をやっていてどこに課題があって、今後どうしていきたいのか、という点について整理する作業を3自治体・10園で進め、最終的にはシステムの構築や、それを持続的に使えるよう伴走支援をしました。

ステップは上記の通りで、約半年で完了しています。ただし、対象業務の選定がスムーズに進めば3~4カ月くらいで完了しますし、重点的に取り組みたい部分などに応じてスケジュールは変わってきます。

最初は、対象業務の選定です。業務の棚卸しをしたところ、施設型給付、処遇改善加算の申請についての負担が大きいという声がありました。これについては、こども家庭庁が施設管理プラットフォームという一元管理システムの構想を作っているということだったので、対象外に。参加自治体と園からは「施設型給付に類似の部分を」という声が出たので、地域こども・子育て支援事業を選定しました。

そこで、園や自治体の担当者に向けた説明会を実施。スケジュールを組んで、園向け・自治体担当者向けのヒアリングをそれぞれ実施し、課題などについて話を聞いた上で、我々が行うべきことの取捨選択を進めました。

その後、アナログで進めている部分に課題を感じたので、申請のオンライン化と、申請を管理するデータベースの構築を提案。当社でいったんひな形を作り、園・自治体それぞれにデモをする機会を設けました。そうしたセッションを繰り返し、システムの改善を繰り返して、最終的に完成した環境で効果検証を行っています。

現場の声を取り入れ、70%以上の工数を削減!

この取り組みのポイントとして、現場密着型という点があります。対象業務の選定や説明会、効果測定まで、大部分を現地で対応し、しっかり生の声を集めることを重視して進めました。机上の空論ではなく、誰が使うのか、何を便利にしていくのか、ということを考え、細かい要望もできる限り反映して、満足度の向上と持続的な活用を念頭に進めています。

また、申請様式の標準化という点で、3つの自治体にはそれぞれの方法や業務フローがあるので、必要だと思われるものは残して標準化しています。これはコストの最適化という意味でも重要なポイントであり、国の方でも標準化は求められてくるので、かなりしっかりとルール設計が見直しできたのではないかと感じています。

具体的には、Excelやワードで記入していたため、園・自治体側双方で負担が大きかった部分を一元管理し、オンライン上で完結できるシステムとデータベースを構築。各園にはマイページ機能を持たせ、申請がオンライン上で完結できるものにしました。自動入力、自動計算、必須項目の作成で、抜け漏れの防止をしつつ、申請者側の負担を減らすことにつなげています。業務フローも下図のように変わりました。

このように、現場への丁寧なヒアリングに注力した結果、平均70%以上の工数削減を実現することができ、バラバラだった申請様式の標準化を実現しました。コストの最適化にも貢献できると考えており、今後対象業務を増やす、あるいは参画自治体を増やしていくことでスケールメリットを出し、ノウハウも集めていきたいと考えています。

当社では他の業務についてもBPOやDX支援を行っているので、興味や不明点などがあれば気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 【セミナーレポート】保育士の負担を軽減! “先進事例から学ぶ”ICTを活用した業務効率化と保育の質向上への道