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【仕事のヒントは海外から vol.1】自治体のあらゆる部署で“国際化”が重要なワケ

日常的な業務ではなかなか触れる機会のない、海外の政策。
とはいえ、地域の課題が深刻になる中、解決策のヒントを海外にも探し求めることがますます重要になっています。

そこで、行政の国際化に関する勉強会を主催している東京都職員の小松俊也さんに、海外の先進事例からヒントを得ることの重要性や調査の方法についてお話しいただく企画をスタートします。

第1弾として、公務員が海外に目を向けることの意義をご紹介します!

 

【連載】
vol.1 自治体のあらゆる部署で“国際化”が重要なワケ ←今回はココ
vol.2 海外の取り組みからヒントを得る
vol.3 海外事例を調べてみる
vol.4 海外事例を自治体の政策立案・業務改善に活かす

“海外=関係ない”で良いのか

私はこれまでのキャリアで海外との調整や海外事例の調査などの国際業務を担当してきました。勉強会などで他の自治体の国際課(国際系の部署名は多様ですが、ここでは便宜的に「国際課」といいます)の方々とお話しすると、「この件は海外関係だから国際課が担当だ」と、分野を問わず海外関係の仕事がまわってくるという声を聞きます。
言語などの障壁があるため、語学力や留学経験のある職員が海外の対応をすることが一般的です。しかし、国際課以外の部署で“海外=関係ない”と一概に考えてしまうと、海外からの学びや、海外展開のチャンスを逃してしまうことにもなりかねません。

あらゆる部署で視野を海外まで広げることで、日々の業務の改善につながるという考えのもと、私はこの2年間、様々な組織の公務員が国際的な視点を持って語り合い、学び合える場として勉強会を開催してきました。

“自治体レベル”から“部署レベル”の国際化へ

自治体の国際化は新しい議論ではなく、当時の自治省が、1980年代後半から自治体の「国際交流」と「国際協力」を促進してきました。また、海外との姉妹都市交流は、1955年に始まっており、 実に70年近い歴史があります。それでは、なぜ改めて国際化が重要といえるのでしょうか。

その理由の一つが、自治体における国際事業の役割の変化です。国際交流の象徴的な事業である姉妹都市交流の役割の中には、まだ住民が海外と交流することが困難だった時代に、自治体がその後押しをするというものがありました。しかし、訪日外国人や海外に出国する日本人が増加し、自治体の交流に頼らなくても海外と交流できるようになりました。

こうした中で、自治体の国際事業では、特定の自治体との関係を深める親善的な交流よりも、各行政分野でのサービス向上を目指した学び合いを重視するケースが増えています。姉妹都市交流でも相手の自治体から学ぶ交流が盛んに行われてきましたが、1つの自治体があらゆる事業において視察の対象に適しているわけではありません。福祉、環境、上下水道、教育など、自治体が所管する各行政分野で、その分野における先進的な取り組みを行う自治体から学ぶほうが、より効果的と考えられます。また、特定の行政分野で知見を共有する多都市間ネットワーク(複数の自治体が参加し、意見交換などを行うプラットフォーム)や、国際会議への参加により、世界の最新情報を得ることもできます。

姉妹都市交流などの従来の事業を取りやめるべきだということではありません。従来のような国際課が自治体を代表して行う”自治体レベル“の国際事業に加え、各部署がその専門分野で海外まで視野を広げた“部署レベル”の国際化が重要になっています。

グローバル化と人口減少が求める地域の国際化

グローバル化と人口減少の進展も、国際化の重要性を高める要因です。コロナ禍で海外との往来は一時的に停滞しましたが、外国人観光客や外国人住民の増加は今後も続くと見込まれます。外国人の往来や居住が増えることで、地域での案内や行政サービスの国際化が一層求められるようになります。

また、全国的に進む人口減少によって、地域の市場が縮小しています。地域経済の活性化には、アジア諸国をはじめとする外国市場への地場産品の販路拡大、海外からの投資誘致などの取り組みがますます重要になります。

このように、外国人や外国と関わりが増える中、これまで以上に多様な部署で国際化が必要とされています。

デジタル技術で障壁は低くなった

デジタル技術の発展によって、自治体職員が海外の情報に容易にアクセスできるようになったのも、改めて国際化を考える機会といえます。これまで、国際課以外の部署で積極的に国際に目が向けられてこなかった要因には“コスト”と“言語”の壁があります。しかし近年では、これらの障壁は低くなってきています。

従来の国際業務は海外との往来などに大きな金銭的、時間的なコストがかかるため、国際課や観光課など特定の部署以外では手を出しにくく、国際課の事業ですらも財政悪化が原因で取りやめになることがありました。しかし、インターネットの普及と技術革新により、海外に行かなくても膨大な量の情報がWEB上で即座に、無料で手に入るようになりました。
また、ZoomやTeamsなどWEB会議のサービスが普及したことで、渡航せずに海外の自治体職員と話せるようになりました。もちろん、顔を合わせて関係を築いたり、現場をじかに見たりすることで初めて学べることもありますが、コストをかけない国際業務の選択肢が増えました。

また、機械翻訳の精度が向上したことで言語の壁も低くなってきています。誤訳が含まれることや、会話をリアルタイムで翻訳するサービスが不十分なことから、全ての仕事を機械翻訳に任せることはできませんが、部分的には役立てられるものになっています。機械翻訳で大方の意味を理解して重要な情報だけ正確な解釈を確認すれば、各部署でコストを抑えながら海外の情報を収集できます。さらに、ChatGPTに代表される文章生成AIも、海外の情報を日本語で収集するのに活用できます(ただし、誤った情報が含まれていないか確認が必要になります)。

業務のヒントは海外にあり

これまで自治体の国際業務の前に立ちはだかっていた障壁が低くなった今、各自治体の部署や職員が海外に目を向ける意義は大きいといえます。近年、経済・社会・環境の持続可能性の危機が深刻化するなど、自治体は多くの課題を抱えています。日本が抱える課題には少子高齢化や地方の過疎化など、一部の国だけで特に深刻な状況に陥っているものもありますが、環境問題や貧困など世界共通のものも多く、海外で優れた取り組みが進められています。

海外の自治体の事例には、企画立案や業務改善のヒントがあふれています。これまでも新しい事業を検討する際には、同じ課題の解決に取り組む海外の自治体調査が一般的に行われてきましたが、より容易に情報が手に入るようになったことで、あらゆる部署の職員が気軽に海外から学べるようになりました。背景や環境が異なるので、海外の政策をそのまま日本に取り入れられるわけではありませんが、参考にできることは間違いありません。

“外”を知ることで“中”が見えてくる

ここまで、海外から学ぶことについて書いてきましたが、「出羽守(でわのかみ)※」 とやゆされるように、“欧米では〜なのに、日本ではまだ〜”と、日本の自治体の取り組みが不十分だといいたいわけではありません。重要なのは日本を卑下するのではなく、海外と日本の自治体それぞれの長所と短所を理解することです。“外”を見て日本の自治体と比較をすることで、何が進んでいて何が遅れているかを客観的に知ることができます。当然、日本の自治体の方が進んだ取り組みを行っている分野も多々あります。短所を補うだけでなく、日本の自治体の長所を知ることで、新たな海外向け事業などのチャンスを生み出せるかもしれません。

また、海外の制度や政策を知ると、日本の自治体での“当たり前”は、グローバルには当たり前ではないものが多いことが分かります(具体的な事例などは次回以降の記事で扱います)。法制度上、日本の仕組みの多くは一自治体では変えられないかもしれませんが、日本の常識から一歩出て柔軟に考えてみることで、新たな企画の立案や行政サービスの質の向上につながることが期待できます
 
そのためには、まずは“海外=関係ない”という意識にとらわれすぎず、海外の自治体の制度や政策も含めて俯瞰する“鳥の目”をもつことが求められます。 私自身まだまだ勉強が必要ですが、多くの自治体職員が海外の制度や政策から学ぶことで、より良い行政サービスの提供につながると信じています。

※海外や異業種の事例を引き合いに出して物事を語る人のこと 

 

次回は、参考となる海外の自治体の取り組み事例を紹介いたします。

※なお、本記事の記述は筆者の私見であり、所属する組織を代表するものではありません。

小松 俊也(こまつ としや)さん

東京都職員として都市外交や長期戦略の所管部署等に加え、自治体国際化協会シドニー事務所および日本政策投資銀行への派遣を経験し、海外との調整や海外事例調査の実務に携わる。現在、ジョージタウン大学公共政策大学院に在学。行政x国際デザインラボ代表。元・オンライン市役所国際課長。著書に『これ一冊でよくわかる 自治体の国際業務マニュアル』(イマジン出版/共著)がある。

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