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【セミナーレポート】「備え」×「緊急対応」~災害の激甚化・頻発化への対応に必要なこと~ Day1

9月1日は「防災の日」。特に今年は、明治以降に国内で発生した地震としては最大規模の被害をもたらした、関東大震災からちょうど100年の節目にあたります。

100年の間に行政及び国民の防災・減災能力は大きく向上したものの、近年の自然災害の激甚化・頻発化と、自治体の人手不足や財政難とが、災害への備えや緊急対応を難しくしています。そうした中、デジタル技術を活用した企業の防災ソリューションは急速に進化しており、多くの自治体が、災害リスクや被災状況等に合わせたソリューション活用の必要性を感じているようです。

そこで本セミナーでは、自治体職員からの意見・要望をもとに、現場で進められる「備え」や訓練の実例、災害時対応の経験談などの講演を、2日間にわたって開催しました。

Day2のレポートはこちら

概要

■テーマ:「備え」×「緊急対応」~災害の激甚化・頻発化への対応に必要なこと~ Day1
■実施日:2023年9月25日(月)
■参加対象:自治体職員
■申込者数:150人
■プログラム
Program1
大田区の取り組み~関係機関との連携強化と情報の一元化~
Program2
令和元年房総半島台風等、相次いだ災害対応について
Program3
防災×にぎわいの拠点を創出~自治体職員との対談で取り組みを振り返る~
Program4
<防災DX>開発メーカーが語る、災害対策×オンラインコミュニケーションツールの活用術
Program5
災害発生による通信障害に備える重要性とその方法


大田区の取り組み~関係機関との連携強化と情報の一元化~

<講師>

大田区 総務部 防災危機管理課
防災計画担当課長 長谷川 敬さん

プロフィール

1965年東京都生まれ、防衛大学校卒業後陸上自衛隊に入隊。第8特科連隊長、北部方面総監部情報部長などを歴任し、中央情報隊副隊長で退官。現在、大田区総務部防災計画担当課長。


自治体が災害時応急対策を行う際には、自衛隊・警察・消防など関係機関との連携が極めて重要になる。特に大規模災害時は投入できる資源に制約があることから、自治体は救援の優先順位を定め、関係機関と認識を共有し、組織の特性・能力に応じた適切な資源配分で、活動に方向性を与えることが必要だ。

関係機関との有機的な連携を目指し、一歩踏み込んだ共同訓練の実施と情報一元化に取り組んでいる大田区の状況を、長谷川氏が紹介する。

関係機関との連携強化の必要性について

発災時、関係機関(自衛隊、警察、消防)は、それぞれの役割に応じて任務を遂行します。しかし、首都直下型地震などの大規模災害時、大田区内で発生が予想される700名を超える行方不明者の捜索・救出、7,800名の負傷者の救命・救助及び大規模火災への対応を、同時に行うことができる資源(部隊等)に制約があることは明らか。基礎自治体は、当該区域内のすべての救援ニーズを把握し、優先順位を定めて関係機関と認識を共有し、組織の特性・能力に応じた適切な資源配分で活動に方向性を与えることが重要になります。

その鍵を握るのは、救命・救助の専門部隊である消防救助機動部隊です。重要な現場に急行してもらい、活動時間を局限し、迅速に他の重要地区に移動できるよう、区内全域にわたる万全な災害応急対策の態勢を確立するなどの環境構築が、基礎自治体の重要な役割になってきます。それを可能にするには、従来のイベント的な訓練では限界があり、基礎自治体が自衛隊・警察・消防の活動の中心に立ち、一歩踏み込んだ訓練を行う必要があります。それが、大田区が関係機関との連携強化と情報の一元化について取り組んだ背景です。

本年度の、当区と関係機関との連携強化の取り組みについて、主要な訓練3つの全体像を以下の3枚の図にまとめました。

首都直下型地震やミサイル着弾等を想定し、実践的な訓練を実施

主要訓練の1つ目が、令和5年6月に実施した「第二消防方面本部消防救助機動部隊消防技術訓練効果確認」です。訓練の目的は、発生が懸念される首都直下型地震などの大規模災害に的確に対応するため、対応能力の更なる強化を図ることです。

参加機関は、第二消防方面本部消防救助機動部隊と陸上自衛隊第1普通科連隊、そして当区。訓練の成果と「自治体の救援ニーズ」について、以下の2枚の図にまとめています。

2つ目は、東京都主催の「国民保護(弾道ミサイル初動対応)図上訓練」です。訓練の目的は、近隣“X国”からの弾道ミサイルが落達した場合の情報収集、対処方法並びに国、各局、区などの対策本部との連携方法を学び、有事かつ非常時に適切・的確かつ早急に都民の安全を確保できるようにすることです。詳細を以下の2枚の図にまとめています。

図内にある「事態認定前後の適用法令の違い」を具体的に言うと、災害対策基本法から国民保護法に変わるということです。適用法令の違いから生じる都道府県知事、市区町村長の権限の相違や国民保護措置の知識を深め、各機関全庁体制で周知の必要性を共有しました。

3つ目は、令和6年1月に予定している当区主催の「大田区国民保護図上訓練」です。先ほどの東京都の訓練と同様、当区と関係機関との連携要領を具体化すること、テロ対処マニュアル作成に資することを目的に実施します。

同時に、情報活動(インテリジェンスサイクル)による「総合状況図(COP)」を作成できるかを検証するため、同区をはじめ陸上自衛隊第1普通科連隊、警視庁第二方面本部、そして区内の各警察署、東京消防庁第二消防方面本部と区内の各消防署が参加。詳細は次の図のとおりです。

インテリジェンスサイクルに基づく情報の一元化

ここまで情報の一元化について触れてきましたが、関係機関との連携を図る上での基礎となることですので、やや詳しく紹介します。まず、次の図をご覧ください。

発災時は、本庁舎防災危機管理課に隣接する情報処理室で、①収集計画を作成して徹底します。そして、②自衛隊、警察、消防や指定公共機関が持つ地域の情報を全て情報処理室に集約します。それらを簡易的な情報処理表に入力するとともに、地図上にプロットします。

この情報を総合防災情報システムに入力すると画面の地図に表示され、大田区に1枚しかない絶対的なCOPをデータにして、関係機関や各部局に共有します。補助的手段としてこのCOPをオーバーレイに転記し、各部署に共通の地図とともに配布します。

最後になりましたが、訓練の計画立案に際してのポイントについて、下記の図にまとめました。一番下に書いているように、総花的ではなく「これをやりたい」という信念を持ち、そこに絞って勇気を出して断行することです。


自分の自治体には何が足りないのかを、認識・分析することが最も重要です。そして、訓練項目の決定です。来年実施する当区の訓練目的は、迅速かつ円滑な被災者への物資支援の実現。訓練項目は、検証したい4点(在庫管理、需要把握、調達調整、輸送調整)に区分し、何をしたいのか、どんなアウトプットを得たいのかなど、ねらいを定めます。

これらを検証できるシナリオをつくれば、訓練計画は出来上がります。訓練目的、訓練項目、ねらいを絞って行うことが必要です。これも総花的ではなく、勇気を持って大きくシフトしてください。

[参加者とのQ&A(※一部抜粋)]

Q:講演内容と重複するかもしれませんが、災害状況の情報収集手段確保のために取り組んでいることをご教示願います。

A:本日紹介した「情報の一元化」が、まさに取り組みの主体です。諸外国の軍隊が採用しているインテリジェンスサイクルを、自治体向けに簡素化したものです。

ポイントは、ひと目見れば自治体全域の災害や被害状況が分かる「絵」を作り、それをすべての部署・機関に共有することです。先ほども申しましたが、大田区が作る唯一共通の絵を、総合防災情報システムの地図にプロットしたものをデータ共有します。補助的手段として、総合防災情報システム上の情報をオーバーレイに転記し、それを配布します。
 

Q:災害時はリーダーシップの発揮が重要と考えますが、長谷川さんが常に留意している点があれば教えて下さい。

A:自治体の危機管理で欠落しているのは、災害発生時に被害を予測する習慣がないことです。つまり、「被害見積もり」がないのです。被害見積もりにもとづき、消防、警察、自衛隊を集中投入、もしくは優先順位を定めて対応することになるので、それがないと全域が広く薄い構えになります。よって、私は発災時、災害対策本部長が存分にリーダーシップを発揮できるよう、適切な被害見積もりと大胆な重点形成、そして不測事態の予備計画に留意しながら、本部長のリーダーシップを支えるよう心がけています。

令和元年房総半島台風等、相次いだ災害対応について

<講師>

千葉市総務局
危機管理監 相楽 俊洋さん

プロフィール

平成28年4月、防災対策課長就任直後に発災した熊本地震で、熊本市へ避難所支援派遣。平成30年7月豪雨では、広島県坂町へ災害マネジメント総括支援員として派遣。平成31年危機管理監就任、令和元年房総半島台風等災害対応を行い、市長公室長を経て令和5年4月危機管理監就任。


令和元年9月の台風15号から、約2カ月にわたり相次いだ自然災害により、それまで経験したことのない被害を受けた千葉市。その時の対応、特に、それまであまり意識されていなかった大規模長期停電への対応から学んだ教訓や課題を踏まえた取り組みについて、相楽氏が紹介する。

災害の経験を活かし、新庁舎に危機管理センターを設置

千葉県は令和元年、台風15号(房総半島台風)、台風19号、そして10月には大雨の被害に見舞われています。その経験を活かし、令和5年3月に竣工した新庁舎には、「危機管理センター」を設置しました。庁舎の立地は、高潮の最大浸水想定で5m未満の浸水が予想されているので、非常用発電機や電気設備類を、浸水の影響を受けない2階以上に設置しています。

危機管理センターは主に、「災害対策本部室」、「関係機関調整室」、「オペレーションルーム」で構成。それまで災害対策本部は幹部会議室を使っていたので、発災のたびに室内レイアウトを変え、マイクや画面を設置し…といった手間がかかっていました。新庁舎は発災時、すぐに会議が始められます。センターの設備やレイアウトについて、下記の図にまとめています。


新庁舎竣工に伴い、千葉市総合防災情報システムの運用を開始したほか、防災ポータルサイトも立ち上げ、総合防災情報システムと連携して市民への災害情報発信を行う機能を強化しました。

相次いだ災害と当時の対応について

令和元年の災害では、内陸側である若葉区、緑区で被害が多発しました。その際、停電が概ね3日以上続くと、生命に関わる被害が出る可能性があること、通信回線基地局もダウンして固定電話も携帯電話も使えなくなることなど、数々の教訓を得ました。主なものを、下記の図にまとめています。



実は台風15号は、暴風域の予測が非常に小さなエリアだったので、私自身も少し油断をしていた点が否めません。ただ、台風が千葉市へ上陸する前後の風が尋常ではなく、これまで経験したことのなかった被害への対応を迫られました。被害の概要は、下記図のとおりです。


その後、令和元年台風19号(東日本台風)が発生し、本市では初めて、高齢者避難(当時は避難準備・高齢者避難開始)を発令し、台風が接近する前に避難所を開設して対応しました。大きな被害こそ出なかったものの、約2,000人以上の避難者対応やペットを同行する避難者への対応するため、6カ所(各区に1か所)にペットを同行で避難可能な避難所を開設しました。

そして10月25日、記録的豪雨が発生。被害状態をまとめた下記の図の右側写真のように、土砂崩れで家が押しつぶされ、残念ながら人的被害が発生しました。

我々は毎年、土砂災害警戒区域等にお住まいの世帯に土砂災害への注意を促すポスティングを行い、避難指示が出たら速やかに避難所などに移動するか、移動できない場合も、崖の反対側の2階に垂直避難するようお伝えしています。しかし、この写真の場所は土砂災害警戒区域に指定されていませんでした。崖から離れた2階に逃げてくれていたらどうだったのかと、今でも非常に悔しい気持ちです。

これら当時の対応を、下記の図にまとめました。情報収集などは当たり前のことですが、電気自動車の活用や「Amazonほしいものリスト」の活用、クーラーバスの設置などが特徴的だったと言えます。

電気の供給については、東京電力をはじめ全国から応援に来てくれた電力事業者の方たちは、寝る間も惜しんで頑張ってくれましたが、復旧には時間がかかりました。

また、当時は停電情報がなかなか迅速・正確・詳細に把握できないこともあり、令和2年の電気事業法一部改正に伴い、下記図のような対応改善が図られています。

教訓に基づく「千葉市 災害に強いまちづくり政策パッケージ」

これらの教訓を踏まえて本市は、「災害に強いまちづくり政策パッケージ」を策定し、取り組みを進めています。詳細は下記図にまとめていますが、重点項目は
①電力の強靱化
②通信の強靱化
③土砂災害・冠水等対策の強化
④災害時の安全・安心の確保
⑤民間企業との連携拡大
の、5点です。


このうち「電力の強靱化」については、令和4年度内に165カ所の指定避難所への太陽光発電と蓄電池の配備が完了しました。未設置の指定避難所には、令和5年度中に蓄電池を導入し、停電しても電気が使える体制を整える予定です。

また、電気メーカー及び自動車メーカーと災害連携を締結し、「EVマッチングネットワーク」という仕組みも構築しました。電気を届ける流れは下記図のとおりです。


加えて、社会福祉施設や高齢者施設への発電機・蓄電池の購入支援(補助金)、停電が長引くと命に関わる、人工心肺や痰吸引器などを使用中の個人に対する発電機・蓄電池購入を助成する制度も開始しました。東京電力とは、電気の復旧と道路啓開を迅速化するため、同社立会いの下、市による倒木処理を可能にしたほか、東電から市に「連絡調整員」を派遣し、相互の情報連携を強化したり、市の要請により東電の電源車を派遣したりといった協定を締結しました。

通信の強靱化に関してもNTT東日本との協定を締結。東京電力と同様、立会いの下で市による倒木処理を可能にし、電話線の復旧と道路啓開の迅速化を図ります。また、停電が長期化しても携帯電話基地局の電力維持を図り、携帯電話やスマートフォンがつながる仕組みを構築する計画です。併せて、災害時の稼動性能及び通信安定性が高いMCA/IP無線の導入により、安定的な通話を可能にしました。

[参加者とのQ&A(※一部抜粋)]

Q:ライフライン復旧活動に関して。空き地や公園など、復旧時に活動拠点とする場所を用意されましたか。用意された場合、事前の取り決めなどがあったのかを教えてください。

A:自衛隊や消防、警察などの関係機関が来る場合は、復旧計画上、活動拠点とする場所を決めていますが、ライフライン関連の民間事業者に関する取り決めはありませんでした。ただ、空いている公共施設や公共施設の駐車場など、そういった場所は我々が調整し、積極的に使ってもらうやり方を採択しています。
 

Q:電線が切れた場所がなかなか判らず、停電の原因特定に時間がかかるという話が出ましたが、電線周辺の木をあらかじめ伐採するなど、課題感はすでに克服しておられますか。

A:停電時は、まず東京電力が調べに行くのが第一義的に行われています。ただ、大規模災害の場合は東電だけでは把握困難なので、市役所の部隊も道路の啓開及びパトロールに向かい、情報を共有しながら迅速な対応を図りたいと考えています。

防災×にぎわいの拠点を創出~自治体職員との対談で取り組みを振り返る~

<講師>

左:株式会社ルネサンス 地域健康推進部 地域創生Aチーム
課長代理 有川 鏡子さん
中央:地域健康推進部部長 熊坂 克哉さん
右:小清水町産業課
課長(元企画財政課 課長) 石丸 寛之さん


北海道胆振東部地震でおきたブラックアウトで、30時間超の停電を経験した北海道小清水町。2023年5月に開庁した防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」には、防災の機能だけでなく、にぎわいを創出するためのフィットネスやカフェ、ランドリーも備わっている。開庁に至るまでの背景とポイントを、ルネサンスの有川さん・熊坂さん、小清水町の石丸さんが紹介する。

防災を基点に庁舎建て替えを考えたきっかけ

熊坂:本日は小清水町の石丸さんと、ルネサンス熊坂の対談形式で、地震による停電がきっかけとなって庁舎建て替えに踏み切り、弊社が監修した施設を導入いただいた事例を紹介します。まず、防災を基点に庁舎の建て替えを考えたきっかけについて教えてください。

石丸:新庁舎の正式名は「防災拠点型複合庁舎ワタシノ」です。庁舎機能以外に、にぎわいを創出したいという思いがあり、複合施設としました。複合庁舎とした理由の1つに、平成30年9月の胆振東部地震があります。

本町は地震発生からおおよそ43時間、停電状態が続きました。季節が秋だったのが不幸中の幸いで、冬期だと気温が-20度くらいになることもありますので、お亡くなりになる方がいらっしゃったのではないかと考えます。我々職員は町として、住民の生命と財産を守るという最大の責務がありますので、地震で停電のようなブラックアウトの事象が発生した場合や、暴風雪で避難せざるを得ない場合については役場に逃げ込んでもらうため、庁舎の立て替えを検討したのがきっかけでした。

熊坂:町民の生命・財産を守るという視点と、コミュニティを作る両建てで進んだ経緯を教えてください。

石丸:本町は現在、人口4,500人ほどの極めて小さな町です。どの自治体もそうかもしれませんが、少子高齢化・人口減少が進みコミュニティが希薄化している状況でした。そして役場の仕事は、1つの目的を達成するために複合的な政策も必要だと思っています。

この庁舎は防災だけではなく「にぎわいの創出」と、多くの町民に来ていただけるような環境づくりを考え、複合的な要素で建て替えを検討しました。

ルネサンスとの出会いとフェーズフリー概念

熊坂:民間と連携することになったきっかけについてお願いします。

石丸:今回、庁舎を建て替えるにあたり、生命・財産を守る防災を考えました。また、町長が「地域の絆の再生」を公約に挙げており、当時私は企画財政にいましたので、これを指示されたのですが、どうしたら良いか悩んでいました。

その時に三菱UFJ銀行から、ルネサンスを紹介をしてもらいました。熊坂さんともその際に初めてお会いしたのですが、貴社が携わった鳥取県伯耆町の事例を紹介してくれました。町長と一緒に視察したところ、特に高齢の方々がたくさん集まり、運動を通じた健康づくりを実際に取り入れているのを目の当たりにしました。これこそが地域の絆であると感じました。

新庁舎は「フェーズフリー」概念を取り入れています。身の周りにあるモノやサービスを、日常時はもちろん非常時にも役立つようにデザインする考え方のことです。にぎわいづくりの点で取り入れたのがルネサンスの監修で、スポーツジムを施設に入れました。通常時は、町民にジムの利用を通じて、健康増進のほか多世代の方々とコミュニケーションを取ってもららいます。

また、カフェとコインランドリーも併設しました。この3つは通常時はにぎわいを生み、非常時はジムが一次避難所となり、温泉熱を使用したシャワーが利用できます。カフェは炊き出し機能。庁舎には非常電源がありますので、停電や断水が長期化した場合には、コインランドリーを無償で提供する予定です。

にぎわいエリアの運営と公民連携の経緯

熊坂:にぎわいエリアの運営について、どのような運営を継続的にやっていくお考えか教えてください。

石丸:通称「ワタシノ」という防災拠点型複合庁舎ですが、これは井戸端会議というイメージで、町民の皆さんにとって自分の居場所という意味を込めて付けています。通常、役場はちょっと入りづらいイメージですが、そうではなく自分の居場所なのだということで、遠慮無く足を運んでいただける場をコンセプトに施設を作りました。

執務空間とにぎわい空間で、ゾーン分けをしていますが、にぎわい空間の運営は町ではなく、NPO法人と連携して委託しています。

熊坂:今回このような形で、官民連携で事業が進められた経緯について教えてください。

石丸:町民が「何をやったら喜んでくれるか」に対して、行政側にはノウハウがありません。例えばランドリーを運営するOKULABさんは、ランドリーを通じてお母さん方の家事を軽減することで、ウェルビーイングに繋げています。このように、長けている分野の企業を行政が利用するには色々なハードルがありますが、我々はそれを打ち壊してでも住民のために取り組まないと、将来は成り立たない事態になると認識しています。

熊坂:竣工から3カ月が経って感じたことは。

石丸:この施設は役場の機能だけではなく、町民の方々はもちろん、観光で訪れる方が大幅に増えた印象があります。役場の雰囲気が行政っぽくないためか、特に役場には用事がない町民も遊びにきてくれる空間になっています。

[参加者とのQ&A(※一部抜粋)]

Q:施設完成までの予算と整備手法を教えてください。

A:建物本体のハードな部分については、総務省の町村役場機能緊急保全債+基金+一般財源を活用しています。構想、設計、企画、運用のソフトの軸については、内閣府の地方創生推進交付金を活用しています。
 

Q:庁舎の建て替えで大切なエネルギー源ですが、有事の際のエネルギー確保について教えてください。

A:停電の際の対応は発電機しかありません。高性能な非常用発電機の導入を検討し、見積もったところ、およそ2億円が必要と判明しました。そこで、温泉熱を熱源とする発電機を導入することで、約20分の1の500万円ほどで導入することができました。この発電で、必要最低限の電灯、避難所の暖房、炊き出し設備、ランドリーの開放をまかなえる設計となっています。

<防災DX>開発メーカーが語る、災害対策×オンラインコミュニケーションツールの活用術

<講師>

ジャパンメディアシステム株式会社 東京営業部
副部長 山崎 拓郎さん

プロフィール

宮城県出身。2004年ジャパンメディアシステム入社。以降、「LiveOn」シリーズの営業に従事。Web会議システムにおいては日本市場の黎明期より販売に携わり、ビジュアルコミュニケーションツール全般の知識・導入経験が豊富。


災害時、迅速な情報共有・指示・現場支援を実現できるコミュニケーションツール「LiveOn」シリーズの最新活用例を、山崎さんが紹介する。LGWAN網内にも構築できるため、セキュリティ面で安心感が高く、低帯域な環境や多拠点接続時でも安定した通信が特徴。また、平時はWeb会議や相談窓口ツールとしても活用可能だという。自治体導入事例も併せて紹介する。

はじめに~災害対策における課題と「LiveOn 」シリーズのご紹介

まず、以下のデータは、自治体の防災・災害対応に関連する業務従事者の方々を対象とした、自治体における災害対応の課題に対する調査結果です。このうち赤枠で囲んだ部分は、コミュニケーションツールによって解決できると、弊社は考えています。


弊社はもともと、WEB会議システムの開発メーカーで、「LiveOn」というサービスを提供開始したメーカーです。LiveOnの特徴は、自社開発(純国産)でオンプレミス型にも対応。LGWAN環境への構築実績も多数あります。サービス提供から20年以上、導入実績は7,500社以上で、自治体や官公庁での導入実績も多数あります。

また、国内メーカーであることを活かした万全のサポートも特徴です。オンプレミス型のWEB会議システムでは、3年連続でシェアナンバーワンを獲得しました。メインのオンラインコミュニケーションのLiveOnをベースに、会議や研修、テレワークで活用できるソリューション、災害対策でも活用できるチャット、もしくは遠隔現場支援専用のウェアラブルにも対応しています。また、最近自治体様での導入実績で大幅に伸びている、オンライン相談窓口の「LiveOn Call」もラインナップしています。

自治体内・外のあらゆるコミュニケーションに対し、ワンストップで提供が可能です。動作環境は、LGWAN環境でも設置可能なオンプレミス型、臨機応変に手軽に運用ができるクラウド型の2種類を用意しています。

「LiveOn」シリーズの活用及び導入事例

実際の発災以降、手段別のLiveOn活用例を紹介します。

①災害発生初動コミュニケーション
災害発生時に災害対策本部からチャットで一斉連絡を行い、安否確認ができます。課題の1つだった「迅速な初動対応」は、チャットで速やかに実施することが可能です。各フロアや支所間などを常時接続しておくことで、常に変化する状況を把握できます。さらに各現場とのコミュニケーションでは、スマートグラスやスマートフォンを活用することで、より正確な情報を把握することが可能です。

②復旧支援継続コミュニケーション
常時接続や各現場からの緊密なコミュニケーションの継続のほか、関係各所との連携、地域の自治体や警察、医療、学校などの連絡ツールとしても活用できます。その他、「LiveOn Call」の呼び出し機能を活かしたオンライン窓口としても活用できます。例えば、避難所や公民館、各支所などに臨時の相談窓口を設置し、移動が困難な緊急時の相談業務として、住民へ案内することが可能です。

③平時の活用
災害対策ツールは、平時の活用こそ最重要ポイントだと考えています。従来、災害対策ツールは緊急時や定期的な訓練の時にしか活用せず、本当に肝心な時に職員が使いこなせない…といった悩みもよく耳にします。LiveOnは、会議や研修、テレワーク、オンライン窓口など多岐に渡る業務で活用できますので、普段から使い慣れ、緊急時もスムーズに使える土台づくりが可能です。

私は今、LiveOnとスマートグラスなどのウェアラブル端末組み合わせた「LiveOn Wearable」を装着したヘルメットを被っています。災害時に現場に出向く方が被り、両手フリーの状態で現場の様子を中継し、本部とやり取りします。ヘルメットを被った人の目線を、そのまま中継できます。


本部のパソコンから遠隔操作でライトを付けたり、ズームするなど映像を拡大することも可能です。「LiveOn Wearable」は、災害時の危険を伴う現場で怪我をしないよう、現場職員に特別な操作をさせないというのがコンセプトです。

なお、以下のスライドは、実際に導入いただいている自治体による活用事例の一部です。

サービス概要、導入までの流れ

最後に、本サービスの概要と導入までの流れについて簡単にご紹介します。サービス体系は「SaaS版」と「オンプレミス版」の2種類です。その中でLiveOnのシリーズは、会議だけでなくチャットや現場支援ツールのウェアラブル、オンライン相談のコールなどがあります。検討から導入までの流れについては、課題やニーズなど要件などをお聞かせいただいた後、その解決に向けてのデモ、トライアルの実証実験も支援しています。その後、他のソリューションと同じく金額面の調整・納品という流れになります。

今回ご紹介させていただいた導入事例は、ほんの一部ですが、それ以外の事例も多数ありますので、その実績やノウハウを活かした支援やサポートに自信があります。情報収集レベルであっても支援できますので、お気軽にご相談ください。

[参加者とのQ&A(※一部抜粋)]

Q:スマートグラスの価格はどの程度でしょうか。

A:この端末は複数メーカーさんが出しているため、価格はピンからキリまであります。今日お見せしたものは、端末だけで約40万円です。それに必要な回線環境やキッティングなどにより、プラスαが必要になります。初期費用が高くハードルが高い部分もありますので、弊社では最近、特別にレンタルプランをリリースしました。月額費用だけで提供するサービスですので、ぜひ活用いただきたいと思います。
 

Q:通信回線に関して。貴社サービスの特徴として、低帯域な環境や多拠点接続によって安定的な情報通信が可能である点が“ウリ”とのことですが、そのあたりをもう少し詳しく教えてください。

A:弊社比較ですが、LiveOnは、ZやTなどの一般的なWeb会議システムなどと比較して、最大で10分の1ほどのデータ量でやり取りすることができます。実際のモバイル環境であまりスピードが出ないようなネットワークあっても、スムーズにやり取りできる点が1つの特徴です。音声を優先して流す仕組みを採用しているので、もしも回線速度が遅く、映像がスムーズに伝送できなくても、音声自体が遅延したり途切れることは極力なくす処理を独自に行っています。

災害発生による通信障害に備える重要性とその方法

<講師>

a2network株式会社
担当リーダー 佐藤 文さん

プロフィール

2018年8月a2network入社、モバイルWi-Fiサービス「スカイベリー®」の顧客サポートを担当。2021年4月より広報・マーケティング部にて、災害時に活用できる大容量データ通信サービス「スカイベリーpro®」のマーケティング活動を担当。


自治体における災害対策は、避難経路確保や避難所整備、物資の備蓄など多岐にわたるが、発災時、それら最新の情報を住民に届けるためには、まず発信側の安定した通信環境の確保が必須となる。本セミナーでは通信事業者の観点から、特定の固定回線や携帯電話回線に依存しない堅牢な通信確保の具体的な対策について、佐藤氏が事例を交えて案内する。

過去の災害時、通信環境に何が起こったか

まず、過去の災害時、通信環境にどのようなことが起こったかを、東日本大震災時の調査資料をもとに振り返ります。総務省が震災後の平成24年に行った調査で、被災者とボランティアの計328名にインタビューを行いました。回答者の95.1%が携帯電話を持って避難したものの、震災後は長期間使えなくなり安否確認が取れなかったとされています。一方、携帯電話で通話できなくても、メールやSNSなどはできるという声もありました。

平成30年7月、西日本を中心に広域土砂災害が発生した際の調査では、テレビのテロップ、緊急速報、メールなど、複数の情報手段を用いたことで、確実に災害情報を伝達できたことが分かりました。災害発生時、インターネット回線は、緊急通報の受信や災害情報の収集、安否確認など様々な使われ方をするため、通信環境の整備は非常に重要です。インターネットによる通信確保のポイントは、次の4点です。

1.音声に頼らない様々な通信手段の確保
2.単一事業者に依存しない通信の確保
3.長期にわたるインフラの提供
4.避難所における通信手段の確保

これらを踏まえ、堅牢な通信手段を確保しておく必要があります。

災害時通信の種類と特長

災害時の通信手段として、IP無線、衛星回線、MCA無線機、携帯電話などが挙げられます。携帯電話は、基地局の多さとそれに伴う通信範囲の広さが1番の特徴です。現在、国内の基地局数は約59万局で、人口カバー率は4Gで99%以上、5Gでも全国平均で96.6%となっています。また、東日本大震災時の教訓から、通信を途切れさせないための様々な対策が、携帯電話各社によって導入されています。

携帯電話回線を利用して特定の場所にWi-Fiを飛ばすことができれば、その場にいる全員がインターネットに接続でき、IP通話やメールによる情報収集などを行うことができます。日常と非常時とを切り分けず、普段使っているものを備えに活かす「フェーズフリー」という考え方があります。災害のための備えも、その存在を把握していないと非常時に使用できないことが起こり得ます。普段から使っている設備が、災害時にもシームレスに使えることに意味があるのです。

そのようなネットワーク機器の一例が、当社の「スカイベリーpro」です。最大の特徴は、3大キャリアのSIMを1台の機器に差し込めること。通信状況を監視し、使用するキャリアを自動的に切り替える機能を持っています。そのため、利用者側は意識することなく、障害のない回線を継続して利用することができます。


この端末は、メイドインジャパンのIDY社製です。IDY社は、様々な公共施設で使用されているルーターやゲートウェイを開発・提供する通信機器メーカーで、同社の製品開発ノウハウを活かし、通信回線の切り替えをスムーズに行うことができるスカイベリーproの開発が実現しました。

今年8月には光回線ケーブルも接続できるようになり、既存のゲートウェイを変更するだけで、一気に4回線の冗長化が実現します。光回線から無線回線の切り替えも自動で行われるため、災害時の混乱の中でも回線使用を継続できます。

自治体での活用案とアウトドアでの活用事例

本製品の活用案をご紹介します。

●常設施設の活用例
災害時に避難場所となる公民館や、道の駅などのデジタルサイネージに活用し、通信障害や災害発生時には、市民が通信スポットとして利用することができます。災害支援型自動販売機に導入すれば、自販機を通信スポットにすることも可能です。また、庁舎内の光回線の冗長化を図ることもできます。

●災害時の活用例
スカイベリーproは小型・軽量で、特別な設営作業も不要なため、屋外避難場所でも電源さえ確保できれば使用できます。省電力のため家庭用バッテリーでも3日程度は稼働させられます。避難場所で通信環境が整えば、自治体職員間の連絡はもちろん、避難所に集まる市民にWi-Fiスポットとして開放することも可能。その他、災害時の医療テントなど特設テント内でも利用すれば、その場にいる職員や医療関係者に安定した通信が提供されることで、患者の受け入れや家族への連絡もスムーズに行うことができます。

実際に、当社サービスが活用されたアウトドアでの活用事例を紹介します。今年5月に愛知県内で開催されたイベントにおいて、会場の通信設備として活用いただき、通信速度の安定性も問題なく使用できました。

また、宮城県で行われた飲食系イベントでは、チケットや物販の決済のために採用いただき、10時間以上決済レジを使用しても問題なく利用していただけました。


スカイベリーWi-Fiの無償貸し出しも行っています。国内では令和4年9月の台風被害の際、静岡県に使っていただきました。

非常時、自身の安全確保ができた後には、家族、親族などとの連絡手段が必要不可欠です。常につながる状態を保つことで、通信事業者として、人々の生活に貢献できればと考えております。

[参加者とのQ&A(※一部抜粋)]

Q:大規模イベント等で使用する際、どの程度の通信範囲がカバーできますか。

A:スカイベリーproはゲートウェイであり、Wi-Fi機器はお客様の方でご準備いただくことになります。そのため、使用するWi-Fi機器によって通信エリアや1回に何台接続できるかが変わってきます。会場の広さなどに合わせてスカイベリーproに接続するWi-Fi機器を選んでいただければと思います。
 

Q:災害時活用において、他の通信手段と比較した強みを教えてください。

A:スカイベリーproはコンパクトで、持ち運びと設置が簡単な点を活かし、一時的に設置したテントなどでも使用可能です。MCAやIPの無線とは違い、一般的なインターネットに接続できる点も強みです。専用端末が必要ないため、住民が持つ端末でいつもどおりの通信できる点も大きな強みと考えています。

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