ジチタイワークス

公務員の副業は何から始める?どんなリスクがある?副業経験10年の元公務員が指南

「副業解禁」ブームからはや数年が経ち、副業という言葉も珍しくなくなった。副業にはキャリアに幅をもたせる一面があるほか、先が見えない物価高の昨今、家計防衛という観点からも収入を増やしたいと思う人は多いはず。一方で、公務員は気軽に副業を始めるわけにはいかないのが現実。自治体ごとにルールも異なり、ネットで調べても様々な情報が交錯しており、何を信じれば良いのかも分からない……。そこで今回は、法務省在職中に10年間副業してきた安彦 和美さんに、公務員の副業の「はじめの一歩」について寄稿いただいた。公務員でも安心して副業を始める方法を知りたい方、必見!

はじめまして。安彦和美と申します。10年間、公務員として法務省で働いていましたが、今は公務員の副業についての情報発信や、公務員専門のオンラインスクールを運営しております。

私は、法務省在職中の10年間、副業をしておりました。副業を始めた平成21年 当時は、副業という単語はなく、平成18年にベストセラーとなった「週末起業」(藤井孝一著)の「平日はサラリーマンとして働きながら、週末だけ起業家マインドで活動する」という生き方に感銘を受け、職場外での活動を始めたのです。

しかし、現役公務員ですから、どのような収入なら得て良いのかや、許される活動内容を調べるために、法令などを読み込み、人事院の倫理研修等も受けたうえで、メンタルヘルス相談員、有料イベント開催、講師業、執筆、メルカリ、ホテル予約代行など、様々な活動に挑戦しました。

その後、安倍政権下の未来投資会議にて、日本の労働生産性向上のため、公務員も含めた「副業・兼業」が推進されるようになりました。

副業で得た経験や人脈を土台にして、好きなことを仕事にしながら、家族との時間を優先したいと考え、令和元年3月末に退職し、今に至ります。

副業への「はじめの一歩」行動4選 

さて、この記事では、副業に関心をもつ公務員が、今日からできる副業につながる行動について、お伝えいたします。

「副業できる自治体が増えているけど、実際どうなのかな」
「副業するには、何から始めたらいいの?」
「会社員の友達が、副業している話を聞いて、イキイキしていてうらやましく感じた」


このように副業に関心をもつ方に、自分、そしてオンラインスクールの生徒さんの経験を踏まえ、小手先の知識ではなく、副業するために大事な「マインド」についてお伝えしていきます。

副業することは、自分の人生の社長になること。

副業「はじめの一歩」となる行動は、次の4つです。

1.職場の兼業ルールを調べる
2.終業時間を自分で決める
3.情報を見極める目を養う
4.本業と副業の相乗効果を目指す

 

本業と副業の違いはただ一つ。本業が「与えられた労働」である一方で、副業は「自ら選ぶ労働」なのです。副業を成功させるポイントは「主体性をもつこと」で、副業タイムでは、「自分が人生の社長」です。そして、今日から社長マインドを育成できる行動が上記の4つ なのですが、以下で詳しく説明していきます。

行動1.職場の兼業ルールを調べる

公務員が副業を始めようとしたときに、一番の心理的ハードルは、懲戒処分でしょう。また副業をすることで、昇進や勤務評定に不利になるなど信用を落とすことになっては本末転倒です。過去に報道された公務員の副業に関する懲戒処分は「職場で得た秘密を外部に販売するなどの守秘義務違反」「本業をおろそかにするような職務専念義務違反」「営利企業の役員に就任や、従業員として働くなどの公平中立性を欠く行為」などで、いずれも基本的なルールさえ確認していれば、避けられたはずです。

まずは職場の兼業規定の確認から始めましょう。人事委員会のサイト等で「金銭」「兼業」などと検索してください。

ただし、地方公共団体1788団体のうち6割は、兼業許可基準を設定しておらず、設定している4割の団体のうち基準を対外的に公表しているのは、半数程度(353団体)に過ぎません。

※引用元 総務省「地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について」p2
営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する実態調査(H31.4.1時点)

所属する自治体で兼業ルールを制定していない場合、国や人事院規則などを参考として確認してみましょう。時折、ご自分で調べないで、「○○という副業はセーフ・アウトどちらでしょう」などという質問を受けることがあります。けれども、自治体によりルールは違いますし、何よりもご自分で調べず、何でも聞いて済まそうという態度は「主体性がある」とはいえません。まずは自分で動いて調べるところから、人生の社長になる行動は始まっています。

「副業をする際は『兼業許可申請』が必要」という話を聞いたことがある人も多いと思います。「兼業許可申請」については記事の最後にコラムでまとめてますので、気になる方はそちらもご覧ください。

なお、「不動産賃貸業・農業・太陽光発電」は、公務員の定形3兼業とよばれ、公務員が相続で先祖代々の土地建物や田畑を譲り受ける可能性に配慮して、現職であってもできる兼業として明文化されたルールがあります。該当する方にとっては、副収入を得る最も手堅い手法です。専門的知識の伝授の観点から、著作・執筆・講演・スポーツ指導・研究などにより収入を得ている公務員も多いです。

行動2.終業時間を自分で決める

副業への大きなハードルは、時間がないことです。仕事が多すぎて毎日のように長時間労働、プライベートもあり毎日クタクタではないでしょうか。しかし嘆いているだけでは何も解決しません。まずは、「就業時間を自分で決める」ところから始めてみてください。

私のオンラインスクールの生徒さんで、教員のFさんは、ある時「自分で終業時間を決めます!」と宣言されました。毎日夜遅くまで残業しているのは「仕事終わりの時間を決めてなかったからでは?」と気づいたのだそうです。

宣言後、金曜だけ残業すると決めただけで、仕事の効率が良くなり生産性も上がったそうです。

また、家賃収入を得ている公務員ワーキングマザーのMさんは、通勤時間や昼休みに、不動産サイトを検索したり、関係業者と連絡をとったりなど、スキマ時間を活用して副業しています。

誰しもヘトヘトで無気力になることはあります。ですが労働時間も、休息時間も生き方も、無気力に全て職場任せにしていないでしょうか。「自分で決められる」余地のあることが必ずあります。まずはそれを見つけ、短時間でもできることから始めましょう。副業に取り組み始めると、限られた時間で成果を出そうとさらに創意工夫するようになり、本業でのパフォーマンスアップにもつながりますよ。

行動3.情報を見極める目を養う

せっかく副業を始めるのであれば、少しでも多く稼ぎたいと考えるかもしれません。けれども、高額案件の副業には注意が必要です。実際にご相談があった事例をご紹介します。

a.せどり(転売)のセミナーコンサル80万円+仕入れ価格が数十万円~数百万円
講師から教わった通りに家電の仕入れをしたら、高額の出費になった上に仕入れた商品が売れず、結果として家に多くの不良在庫を抱えてしまったケース。

b.講師業プロデュース70万円
「あなたのような素晴らしいご経歴の方を、講師としてプロデュースさせてほしい」と甘い言葉で勧誘され、プロデュース料名目で金銭を要求された。講師にはなれたものの、生徒が集まらず、結果として講師業デビューが果たせないケース。

c.インスタマーケティング講座120万円
InstagramなどSNSでフォロワーを増やす投稿方法を学ぶことができるが、フォロワー数がどれだけ増えても、収入にならないケース。

 

このような高額案件に惹かれる方々には、「いきなり案件に飛びつく」「1つの情報だけでYES・NOを決めてしまい、選択肢をもたず、比較検討が少ない」「レビューなど客観指標を得ていない」「投資額を回収できるのかを考えていない」という共通の特徴があります。もちろん、全ての講座やセミナーが悪質ではありませんが、「うまい話はない」ものとして、冷静な視点をもつことが大切です。

副業について学ぶ時は「勧誘」がない学習環境からスタートしましょう。無料のラジオやYouTube、低価格で良質な書籍など、今は選択肢が豊富にあります。また、多方面での情報収集を心がけ、玉石混交の情報を見極める目を養ったうえで、必要だと感じたら、セミナーやコンサルを複数比較し、検討することが重要です。 

行動4.本業で主体性を磨く

公務員が副業に踏み出せないのは、「懲戒処分などペナルティへの恐れ」であると冒頭で書きましが、それだけが要因ではありません。むしろより大きいのは、「公務員は、役所の外では認められないのでは」という劣等感ではないかと私は考えています。こうした劣等感の払拭のために、「外でも通用するスキルを身につけたり、資格取得をしよう」と考える人もいるかもしれません。しかし、副業を始めるために必要なのは、スキルや資格ではありません。「人生の社長マインド」をもち、本業の仕事で「主体性」をさらに磨くことなのです。

資格など特別な勉強をしなくても、日常の業務の中でも「社長マインド」を磨くことができます。

例えば、

・もっと分かりやすく電話応対できないだろうか?
・上司のYESを引き出すためには、どのように働きかけたら良いだろうか?
・後輩指導をすることでリーダーシップを学ぼう

…などとする姿勢や行動が、副業へとつながるのです。

私が10年間、様々な副業をして痛感したのは「全ての副業は、公務員として培った実務能力で対応できる!」ということです。

特に副業で必要なのは、公務員として積み上げた対話力と信頼関係構築力です。なぜならば、職場外の仕事を引き受ける時に、職場外の人に信頼してもらい、コミュニケーションがとれなければ、仕事を頼まれることすらできないからです。

例えば私の場合、メンタルヘルス相談員をお引き受けしていたときは、業務の依頼主さんや、相談者さん、関係各位など、たくさんの方とコミュニケーションをとって意見や要望を聞くことで、難しいミッションであっても解決策を見出すことができました。問題解決のプロセスは本業とまったく同じだったんです。

また、本業やプライベートで知り合った相手と、積極的にコミュニケーションをとることで、信頼が獲得でき、副業のチャンスを運んでくれることが往々にしてあります。

本業で創意工夫しながら業務に取り組むひたむきさと、相手と主体的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢、この2つが相手からの信頼獲得につながります。結果として、本業でも副業でも引く手あまたの存在になるのです。

まとめ

副業するために必要なことは「主体性」であり、自分の人生の社長マインドになることだ、とお伝えしてきました。公務員が副業に対して抱く、心理的・物理的なハードルを取り除く意味も込めて、今日からできる4つ の行動をご紹介しました。

1.懲戒処分等の心配 → 職場の兼業ルールを調べる
2.忙しすぎて、副業する時間がない → 終業時間を自分で決めて、5分の時間をつくる
3.高額支出のワナから身を守るために → 情報収集のステップを知り、選択肢を広げる
4.公務員だから何もできない劣等感 → 本業と副業の相乗効果を目指す

 

副業を行うメリットは、金銭だけではありません。副業に取り組むことで、時間の使い方がうまくなり、職場外の人脈や経験値が高まり、自己決定できる主体性が育まれ、結果として、本業での生産性アップや自信につながるという、本業と副業の好循環と相乗効果を感じられます。ぜひ今日からできる行動につなげていただけたら幸いです。
 

コラム「兼業許可申請」って必要?

・兼業許可申請の要否を検討する場合のポイント

「兼業許可申請」の法的定義は、公務員以外の「業」を兼ねるときは、許可を得ることです。「業」とは、社会的に「職業」とみなされるか否かを示す言葉で、2つの要件のどちらかに当てはまるかで、判定されます。

①反復継続すること→収益性の有無ではなく、反復継続する意思があればたりる
②事業的規模→在庫、店舗や倉庫をもって行う

例えば、メルカリで読み終わった本を売って売却益を得ることは、①②どちらも当てはまらないので「業」には当てはまりません。ですが、転売業者のように、大量に古本を仕入れて在庫を持つ、メルカリに出品するだけで、売上がなくても、①②に該当しますから「業」にあたるため、事前に許可を得る「兼業許可申請」をしなければならない、ということです。

しかし「メルカリで転売して利益を上げたいから、許可してください」と申請したとしても、許可が下りるでしょうか。難しいですよね。要は、兼業許可申請のポイントは、非常に簡単で「自分が首長だったら許可するか」という視点を持つことです。

実際に、金銭授受行為について許可を得ている職員は、不動産賃貸業や太陽光発電、執筆、出版、講師業などのほか、イベント開催、NPO法人役員、有料サークル運営などの実例があります。

・許可を受けるポイント

(1)いきなり申請書を出さない→一発で蹴られたら敗者復活戦が難しい
(2)情報収集する→先行事例、他庁事案、議会録などを集めて、プラスの材料を集める。
(3)首長や上司や人事のYESを引き出すには、どうすればよいかを考える
(4)資料を提出して理解を求める→今までの自分の活動歴、収支報告、企画案、公務に支障がないことを証明するなど
(5)小さな交渉からスタートする→いきなりやりたいこと全てにOKをもらおうとせずに、1回だけ、少額から許可を受けて、信頼を勝ち取る

組織が、兼業許可ルール整備や、兼業許可申請手続きを嫌がる理由は、そもそも、住民サービスに直接関係がない事柄であること、住民のバッシングや行政に対する不信感の増長を招きかねないこと、職員の士気低下を懸念しているからです。このような組織の懸念材料を払しょくするような、情報提供や理由付け、根回しなどが、兼業許可申請の成功ポイントになります。

 


安彦 和美(あびこ・かずみ)



国家公務員の父と地方公務員の母の間に生まれる。学生時代に公務員試験に合格できず、5年間会社員をした後、2003年法務省に2種採用され16年間勤務。人事異動や、仕事と育児の両立に悩み、10年間副業した後、2019年退官。以後、公務員専門のオンラインスクールを運営する傍ら、セミナー開催やYouTube等で公務員の悩み解決のための情報発信をしている。累計支援実績4,500人以上。

<活動の最新情報はこちら>公式サイト https://mind-and-map.com/


■合わせて読みたい

【読者投稿】入庁1年目の公務員が副業に取り組むわけ。〜公務員の副業について〜

【秋田 大介さん】公務員、副業する。

【高橋 正和 さん】世の中をもっと良くするため 副業によって社団法人を設立。

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 公務員の副業は何から始める?どんなリスクがある?副業経験10年の元公務員が指南