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こども基本法とは?制定の背景と基本理念について解説

令和5年4月1日に「こども基本法」が施行された。子どもの権利を守ることを目的とした法律だが、なぜ今、制定されることになったのだろうか。また、この法律が施行されることで何が変化するのだろうか。

今回は、こども基本法制定の背景、および基本理念について紹介する。詳しい内容だけでなく、この法律が制定されたことで変化すること、そして、国、自治体が成すべき役割についても解説するので、ぜひ参考にしてほしい。

この記事を要約すると(約30秒で読めます)

こども基本法は、子どもを権利の主体とし、その幸福や成長を第一に考える総合的な法律だ。従来の「児童福祉法」などを補完し、子どもの意見尊重や健全な成長を支える社会環境の整備を目指している。また、少子化対策としても注目され、家庭や地域が安心して子育てできる環境づくりを推進。自治体は「こども大綱」に基づき住民ニーズを反映した施策を策定する役割を担う。この法律は、子どもや子育て世帯がより暮らしやすい社会実現の鍵となると期待されている。

こども基本法とは

こども基本法は「子どもの権利を守る法律」である。政府はこれまでも児童虐待防止対策や待機児童対策など、子ども関連の施策に取り組んでおり、一定の効果が出たが、子どもを取り巻く環境が完全に良くなったとはいいにくい。さらに、コロナ禍もあり、状況は深刻になっている。

また、子どもに関する法律は、「児童福祉法」「少年法」「教育基本法」などがすでに存在している。しかし、子どもを権利の主体とし、権利を保障する総合的な法律までは存在しなかった。

そこで政府は、子どもの利益を一番に考え、子ども関連の取り組みを国の中心に据えることが重要だという認識に至り、こども基本法の制定を行ったのである。

さらに、子どもの生活や権利が十分に守られていない状況で、若い世代の中でも「子どもを満足できる環境で育てられるか不安」と感じる風潮が強くなっており、「子どもを生みたい、育てたい」という意欲が生まれにくくなっていた。つまり、子どもの権利の軽視が、大きな社会問題となっている少子化の原因にもつながっているということだ。

こども基本法の制定と施行で子どもの権利が守られることは、少子化問題解決の糸口となるのではと期待されている。
 

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こども基本法の基本理念

こども基本法の基本理念は、第3条にて規定されている。国連総会にて批准されている「児童の権利に関する条約」の以下の4原則以下を踏まえて策定された。

● 差別の禁止
● 生命、生存および発達に対する権利
● 児童の意見の尊重
● 児童の最善の利益

あわせて、子どもの養育を行う大人や社会環境についても規定されている。

全部で5号まであるこども基本法の理念に盛り込まれている内容を具体的に見ていこう。
 

第1号
「全てのこどもについて、個人として尊重され、その基本的人権が保障されるとともに、差別的取り扱いを受けることがないようにすること。」

日本国憲法では「基本的人権の保障」「個人の尊重」「法のもとの平等」、そして、児童の権利に関する条約では「差別の禁止」が定められている。これらを踏まえた理念となっている。
 

第2号
「全てのこどもについて、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されること、その健やかな成長および発達ならびにその自立が図られることその他の福祉に係る権利が等しく保障されるとともに、教育基本法(平成十八年法律第百二十号)の精神にのっとり教育を受ける機会が等しく与えられること。」

児童の権利に関する条約の「生命、生存および発達に対する権利」を踏まえた理念となっており、子どもの成長を支えることが定められている。
 

第3号
「全てのこどもについて、その年齢および発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会および多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。」

児童の権利に関する条約の「児童の意見の尊重」を踏まえて作成されている。子どもに直接関係する全ての事項で、年齢・発達の程度に応じて、子ども自身の意見を表明できる機会および社会的活動に参画する機会の確保が規定されている。
 

第4号
「全てのこどもについて、その年齢および発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること。」

子ども自身に直接関係する事項でなくとも、年齢・発達の程度に合わせて子どもの意見が尊重される。また、最善の利益が優先して考慮されることを規定している。
 

第5号
「こどもの養育については、家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有するとの認識のもと、これらの者に対してこどもの養育に関し十分な支援を行うとともに、家庭での養育が困難なこどもにはできる限り家庭と同様の養育環境を確保することにより、こどもが心身ともに健やかに育成されるようにすること。」

児童の権利に関する条約を踏まえ、父母やその他の保護者が、第一義的責任を有するという認識で、子育てに対し、社会全体として十分な支援を行うことが定められている。家庭での養育が困難な子どもについては、同様の養育環境を確保することが定められている。
 

第6号
「家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境を整備すること。」

子育てをする人やしようとする人が、家庭や子育てに夢を持ち、子育てに喜びを感じられるように社会環境を整備することが示されている。

 

都道府県こども計画、市町村こども計画

こども基本法の制定に伴い、国は子どもに関する施策を推進するため、「こども施策に関する大綱」(以下、「こども大綱」)を定めた。こども大綱では「少子化社会対策大綱」「子ども・若者育成支援推進大綱」「子どもの貧困対策に関する大綱」が束ねられ、一元化されている。

また、子どもに関する施策は国だけでなく、都道府県や市町村でも推進していく必要があるため、都道府県では「こども大綱」を勘案し、「都道府県こども計画」を、市町村では「こども大綱」および「都道府県こども計画」を勘案し、「市町村こども計画」を策定するよう努力義務が課せられた。

住民と直接接する都道府県や市町村には、国よりもさらに具体的な施策が求められている。そのため、自治体によっては、住民のニーズに合う子育て支援策の策定のために、子育て世帯の住民に対し、「保育施設のニーズ」「子どもの生活実態」などについてのアンケート調査を行っている。また、自治体が自ら「待機児童の状況」「保育施設の現状」「女性の就労状況」等の調査を行い、住民の子育ての現状を把握した上で、「市町村こども計画」を策定するよう動いたところもある。

自治体によって、子どもの数や保育施設の数が異なるため、子育ての現状やニーズも異なるだろう。住民の声を聞きながら、子育て世帯、そして子ども本人が幸せに生きていける計画を策定できるよう、知恵を絞っていきたい。

 

自治体でも「こども基本法」の理解は必須。住民のニーズに合わせた計画の策定を!

こども基本法は子どもの権利を守るために制定された法律である。これまでも、児童福祉法や教育基本法など、子どものための法律はあったが、子どもの権利や幸せを守ることを第一に考えた法律がなかったため、制定されたという経緯がある。また、理念では、「子どもの意見の尊重」や「子どもが社会的活動に参画する機会の確保」などにまで踏み込んでおり、より具体的に子どもの権利や幸福を守るのが目的となっていることが分かる。

さらに、こども基本法で子どもの権利が守られることで、子どもだけでなく、子育て世帯全体が暮らしやすい社会ができることも期待される。現在大きな社会問題になっている少子化についても、子育て環境が充実することで改善に向かうのではないだろうか。

今後、各自治体に求められるのは、こども基本法、そしてこども大綱にもとづき、住民が真に求める子育て施策を策定し、遂行することである。住民アンケートや調査等を活かして、より良い施策をつくっていきたい。
 

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