ジチタイワークス

兵庫県明石市

“子どもファースト”の政策で地域活性化を図った明石市の手法とは。

泉市長の就任以来、一貫して“子どもを核としたまちづくり”に取り組んできた明石市。子どもの暮らしやすさや子育てのしやすさに重点を置いた政策が、いかに地域経済の好循環を生むのか。様々な取り組みのかじを取る首長に、その手法を学ぶ。

※下記はジチタイワークスVol.18(2022年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

スペシャルインタビュー
兵庫県明石市 市長
泉 房穂(いずみ  ふさほ)さん

プロフィール

東京大学教育学部卒業後、NHKに入局。司法試験合格後、弁護士事務所を開設。2003年に衆議院議員選挙に当選。2011年、明石市長選挙に当選。2019年に辞職するも、出直し選挙で圧勝。現在3期目。

 


Q.子どもにフォーカスしたまちづくりに力を入れ続ける理由とは?

OECD(経済協力開発機構)諸国と比較しても、日本ほど子どもを対象にした政策にお金を使わない国は少ないと認識しています。自治体も同様です。サポートが不足しているということは、“課題は家族で自己完結的に解決してください”と言っているようなもの。その結果、虐待などにつながるケースもあるのではないでしょうか。

かつては村社会や大家族制で、それでもなんとか成り立っていました。しかし、現代はサラリーマン世帯中心の核家族化が進み、日本社会の構造が変化しています。近所のおじさん、おばさん、大家族のおじいちゃん、おばあちゃんに代わって、国や自治体が子どもを支えなければならないのです。

 

Q.数々の画期的な政策を実施していますがどのように進めていったのでしょう?

まずは、組織再編から始めました。子どもに向けた政策に従事する職員数を3倍以上に増員。特に、弁護士や福祉職などの専門職員を積極的に採用しました。契約書作成などの対応が早まる上に、政策の質が高まると考えたのです。実際に、立法的な部分を担う人材がいるので、仕組みをゼロからつくることができています。その後、一般行政職員と力を合わせて多様なニーズに対応する「こども未来部」を創設。幼稚園や図書館などに関する権限も、教育委員会から市長部局に変更して一元化しました。

そして5つの無料化政策(下図参照)を段階的にスタートしました。子どもを産みたいのにためらう理由として、私は2つの不安があるのではと考えています。まずは、お金の不安。無料化政策は、2人目・3人目を産んでも、子育てにかかる費用負担を軽減するものです。

もう1つは“もしも”の不安。もしも両親が病気になっても、子どもを安心して預けられる施設をつくりました。ほかにも、全小学校区に子ども食堂を開設したり、児童相談所を新設したり。“助かっている”という、住民のリアルな声が拾えるような政策を目指しています。

 

明石市独自の5つの無料化政策

 

活性化する明石市の経済


明石市DATA
人口/304,239人 世帯数/134,644世帯 (令和3年12月1日時点)

 

Q.所得制限をせず、全ての子育て世帯を対象として無料化する理由は?

まず、低所得層のみを支援対象にしても地域経済がまわりません。ポイントは中間層。中間層が稼いだ税金で政策を整え、その効果をもって中間層に還元することが肝心なのです。共働き世帯の個人市民税が増え、家を建てれば地価が上がって固定資産税が増え、そういう家庭では教育熱心だから子どもにお金をかけて……と、税収入が増え、地域経済の好循環が生まれると考えています。

ちなみに、“無料化ではなく、給付金を配布する方法もあるのでは?”と質問されることがあります。給付金の場合、目的外の使用や貯蓄にまわされるケースも多く、実際に子どものために使われているのか不透明な点が課題です。それであれば、医療費や給食費など、子育てに必要な費用の負担を軽減するほうが公平だと考えています。

 

Q.新しい政策を実施する場合どのように予算の捻出を?

手始めに、あらゆる政策をmust(やる)・better(しないよりはした方がいいが、時期を検討)・may(してもしなくてもいい)・don't(やらない)に分類して、予算を最適化しています。

例えば、市内の公営住宅は足りているので、新たな市営住宅の建設は原則として中止。当市は面積が小さく下水道も行き渡っているので、整備計画は600億円から150億円に縮小。

ほかにも、水準より高過ぎた分の職員手当を一律4%カットするなど、不経済だと思われるものの見直しを図り、財源を捻出してきました。こうして、子どもを対象とした政策にかける予算を増やすことができています。

 

Q.地域活性化において実際にどのような成果が?

9年連続で人口が増加しており、全国の中核市62市における人口増加率が1位に※。中でも子育て世帯の移住者が多く、出生率も伸び続けています。

また、コロナ禍でも、駅前のショッピングモールは過去最高売り上げを記録。商店、特にファミリーレストランが開店ラッシュです。遊戯施設の利用料など、ほかの地域だと出費するところを無料化しているので、「浮いたお金でおいしいものを食べよう」といった、楽しみにまわせるのです。これまで大阪や神戸まで足を運んで買い物などをしていた住民も、地元で消費する傾向が高まっています。

※令和3年12月時点

 

Q.人口が増加したことで生じた、新たな課題は?

“人口が増えると、同時に支出も増えるのでは?”と質問されることがありますが、人口が増えると納税者も増えますよね。その結果、当市では税収入も貯金も増加しています。一方、子育て世帯の移住者が増えたことで、小学校の教室不足などが新たな課題になっています。

また、人口増加策に関して尋ねられることも多いのですが、人口を増やしたいのではなく、あくまで“子育てがしやすい”“暮らしやすい”まちをつくるのが目的。例えば、大学進学や就職などで転出したとしても、出産時に再び戻ってきてくれると、まちはにぎわい続けます。“明石市で子育てをしたい”と思ってもらえる魅力をつくり、広げていきたいのです。

 

Q.今後、力を入れようと考えていることは?

生理の貧困の問題では、小中学校の全ての女子トイレに無料で生理用品を設置するよう進めています。また、離婚・別居家庭の養育費立て替えや面会交流をサポートする「こども養育費支援」など、すでに導入している政策においても、常に見直しを図ることを心掛けています。

最後に、キャッチフレーズとして“やさしい社会を明石から”を掲げています。この“から”という言葉に特別な願いを込めているのですが、当市で実施できたことは、ほかの自治体でも積極的にまねてほしいのです。ただ、形だけでなく、そこにある“思い”も理解してもらいたいと望んでいます。

 

 

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