医療費の増加が問題になっている現代、どのようにして住民の健康を維持するかが各自治体の課題となっている。
そこで、注目されているのが、健康診断受診やスポーツイベントへの参加など、健康づくりのための取り組みをインセンティブ化した「健康ポイント」だ。多くの自治体で導入が進む健康ポイントとはどのようなものか、仕組みや各自治体の取り組みについて解説していく。
健康ポイントとは?導入背景と期待される効果
自治体が運営する「健康ポイント事業」とは、「ウォーキングの歩数」「健康診断の受診」「スポーツイベントへの参加」などの住民の健康づくりに関する活動をインセンティブ化し、ポイントにして付与するというものである。
昨今、健康ポイント事業を導入する自治体が増えた理由だが、住民の健康寿命を延ばすためである。健康に関することに無意識な層、または、健康づくりのために何かしたいとは考えていたが、始めるきっかけがなかった層にアピールする効果が期待できる。
住民が健康ポイント事業に参加するメリットは、ためた点数に応じてプレゼントへの交換や協力店でのサービス利用が可能になる等の特典が受けられるようになるというものだ。その他、自治体が支援する事業への寄附に使えるという場合もある。
ちなみに、健康ポイント事業に参加する際は、どの程度のポイントが付与されているかを確認するために、紙やスマホアプリでの「ポイント手帳」交付などの事前登録が必要になる場合が多い。民間企業と連携して運用する場合も多いため、自治体としては「どのような活動をポイント化するのか」「歩数計やアプリなどの準備はどうするか」などを考えておきたい。
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次章からは健康ポイント事業を運用している自治体の例をいくつか紹介していく。
▶ 「健康ポイント」に関する、民間サービスを確認する。
「ジチタイワークスHA×SH」では、サービス資料の確認とダウンロードが可能です。
自治体での導入事例
Case1:宇都宮市 うつのみや健康ポイント事業
栃木県宇都宮市では、「うつのみや健康ポイント事業」 を行っている。健康づくり活動にポイントを付与し、ポイントに応じて特典を付与するというものだ。
ポイントが付与される活動について、一部だが以下で紹介する。
この事業に参加したい住民は専用スマートフォンアプリのインストール、もしくは市に参加申込書を提出し、活動記録票を受け取る必要がある。活動記録票で参加した場合、参加した人は定期的に提出しなければならない。
宇都宮市の健康ポイント事業が注目に値するのは、100社を超える協賛企業の存在である。協賛企業は飲食店、量販店はもちろん、プロスポーツチーム、エステサロンなど多岐にわたっており、ポイントの特典にはこれらの企業から提供された品物・サービス等が提供されている。参考までに、一部の例を見てみよう。
<ポイントに応じて全員がもらえる特典>
● 図書カード
● 市営駐車場の回数券
● スポーツ用品店の商品券
● プロスポーツへの寄附 など
<3,000ポイント到達で抽選参加権を得られる>
● スポーツクラブの無料招待券
● 温泉入館券
● 旬の果物贈呈
● プロスポーツチーム所属選手のサイン入りアイテム など
<3,000ポイント到達で割引券を得られる>
● 飲食店でのドリンクサービス
● 飲食店でのトッピング無料
● エステサロンでのサービス など
特典が多岐にわたっているため、参加する楽しみが非常に大きい健康ポイント事業だといえるだろう。
Case2:山形市 SUKSK(スクスク)
山形県山形市の健康ポイント事業「SUKSK(スクスク)」は、住民の疾患予防のために始められた事業である。山形市で住民の健康寿命を短くする原因を調べたところ、認知症、骨折や転倒などの運動器疾患、脳血管疾患が全体の80%を占めていた。
そこで、これらの疾患予防のために、市は「食事(S)」「運動(U)」「休養(K)」「社会(S)」「禁煙・受動喫煙防止(K)」の頭文字を取った「SUKSK(スクスク)生活」を提唱し、住民の健康意識向上に力を入れるようになった、というのが事業スタートの経緯だ。
SUKSKへの参加は、スマートフォンアプリ、専用歩数計とポイント手帳、介護予防手帳(主に65歳以上の人)のいずれかから行える。
ポイントは以下の活動 でためることができる。
● 毎日の歩数
● 健康診査・検診受診
● ラジオ体操の実施、減塩、自転車に乗る、などのセルフチェック(スマホアプリのみ)
● イベント・ボランティア参加
1,000ポイント以上たまると、山形県内に582店舗(令和5年3月現在)ある協力店 で特典やサービスが受けられる「やまがた健康づくり応援カード」を受け取ることが可能だ。
また、SUKSKの大きな特徴に、個人単位での参加だけでなく、事業所単位 でも参加できるという点がある。アプリを使用して活動状況を集計するため、事業所側は運動する場所や時間を準備する必要もない。
事業所単位で参加した場合、「団体ランキング」で各事業所のランキング も発表される。ランキングはSUKSKサイト内で公開されるため、従業員の健康づくりのモチベーションアップにもつながるだろう。
Case3:北広島市 きたひろ健康ポイント事業
北海道北広島市の「きたひろ健康ポイント事業」は、市役所や出張所、市内の温泉センターでポイント手帳を受け取ると参加できる。
ポイントの対象となる活動や対象者は以下のとおりだ。
①ボランティアポイント・・・19歳以上の市民(年度内に満19歳になる人を含む)
「事前に市に登録した介護施設等」「ミニデイサービス登録団体」「ボランティアセンター登録団体」でのボランティア活動で1時間1ポイントを付与
(1日2ポイントまで、年間50ポイントまで)
②検診ポイント・・・65歳以上の市民(受診日において満65歳以上の市民)
「がん検診」「国保の特定検診(65歳以上74歳まで)」「後期高齢者検診」「国保の特定保健指導の初回面接」で1項目3ポイント付与
(年間最大で男性18ポイント、女性21ポイント)
③健康づくりポイント・・・65歳以上の市民(参加および利用日において満65歳以上の市民)
● 健康づくりセミナー参加
● 健康づくりセミナー参加者で生活習慣が改善したもの
● ミニデイサービスへの参加
● いきいきサロンへの参加
● 温泉施設の利用
などで1回1ポイント付与(温泉施設利用のみ1回3ポイント)(年間60ポイントまで)
たまった健康ポイントは奨励金や地場産品と交換できる。
北広島市の健康ポイント事業が、先に紹介した宇都宮市、山形市と大きく異なる点は、多くの事業で参加できる年齢が「65歳以上」と高齢者に限られていることだ。これは高齢者の健康寿命を延ばすことを重視する施策だということの表れだろう。
また、ボランティアポイントについては、参加年齢が19歳以上となっているため、幅広い世代にボランティアに参加してもらえることが期待できるだろう。
健康ポイント制度で住民の健康維持を促進
高齢化社会が進む現在、各自治体の課題は住民の健康維持や健康寿命の延伸ではないだろうか。特に、健康に気を遣わない生活をしている人や何から始めたらいいのか分からない人を、どうやって健康的な生活に導くかが課題といってもよいだろう。
そこで、検討したいのが健康ポイントの導入だ。ウォーキングでの歩数や健康診断受診など、ポイントが付く活動を示すことで、健康的な生活をするためには何をすべきかを具体的に理解してもらうことができる。また住民側にも、ポイントを集めることで、協力店での割引やサービスなどを受けられるという利点がある。
また、健康ポイントをすでに導入した自治体でも、今後は参加する住民を増やすことや継続してもらうことが課題になってくるのではないだろうか。住民に魅力を感じてもらえるように、ただ導入するだけではなく、改善についても積極的に考えていきたい。