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【後編】地方公務員の「人事と評価」 昇給・異動と「評価」の関連は?

「公務員の人事評価は恣意的に運用されている」「評価が高いはずなのに希望の部署に配属されないのは上司に嫌われているから」……公務員であれば一度くらいは、そんな”うわさ”を耳にしたことがあるのではないだろうか。民間と比べて公務員は人事評価がブラックボックス化していると言われ、昇進・昇格・異動などに対しネガティブなトーンで語られることが少なくない。

前回に引き続き今回も、地方自治体の人事・組織について詳しい獨協大学教授の大谷基道さんにご登場いただき、人事評価と昇給・異動との関連や、自分が望むキャリアを実現するためのヒントについて聞いていく。

【前編】地方公務員の「人事と評価」 仕組みを学び、キャリア戦略に活かす!

人事評価は昇給にどのように影響するのか

人事評価に首長の意向は反映される?

ーー 評価に首長の意向も反映されるということはあるのでしょうか?

大谷基道さん(以下、敬称略) 能力評価の評価項目や評価基準の設定にあたり、その自治体の組織風土が影響することはあると思います。厳密に分析したわけではないのですが、やはり首長の考え方の影響は大きいですよね。例えば自治体運営は堅実さが第一というスタンスの首長と、常に改革を求めるスタンスの首長では、評価の項目・基準は自ずと違ってくるでしょう。堅実を旨とする首長の自治体でリスクのある提案や行動はあまり好まれません。

組織風土といえば、課長の影響も大きいですね。特に、大きな自治体では、首長は遙か遠い存在です。若い職員から見れば、最も身近な組織の長、つまり課長が非常に大きな存在なのではないでしょうか。課長の意識や行動が、身近なレベルの組織文化に大きな影響を与えているのは間違いありません。

ーー 評価が自分の昇給にどのくらい影響するのかという点も気になるところです

大谷 地方公務員の給料(基本給月額)は、給料表における「級」と「号給」の組み合わせで決まります。給料表は、各自治体が条例で定めています。

一般的に、標準的な評価であれば、年1回4月に定期昇給として同一級の中で4号給上がります。評価が標準より良ければ上がり幅が4号給より多く、標準より悪ければ4号給より少なくなる、という仕組みです。

 
(出所)総務省 「地方公務員の給料表の仕組み」

あとは賞与、つまりボーナスですね。公務員のボーナスは期末手当と勤勉手当からなり、人事評価の結果は勤勉手当に反映されます。なお、期末手当、勤勉手当とも「給料の〇カ月分」という形で算出されますので、月額基本給の違いも支給額の違いに直結します。

ーー 人事評価にはSABCDのランクがありますが、これはどのような運用ですか?

大谷 これは能力評価と業績評価をそれぞれ5段階で評価する仕組みで、人事院が国家公務員向けに定めたものです。地方公務員の場合は各自治体がそれぞれ人事評価の仕組みを設けているので、必ずしも人事院の仕組みと同じわけではありませんが、多くの自治体が参考にしていると思います。

国家公務員の場合、Bが標準で、Sが特に優秀、Aが優秀とされます。昇給については標準のBの昇給幅が4号俸(国家公務員の場合は号給ではなく号俸)なのに対し、Sの昇給幅は8号俸以上で職員の上位5%まで、Aは6号俸で職員の20%までとされています。また、賞与についても同様で、Sは職員の上位5%、Aは職員の25%までとされています。人事評価は原則絶対評価ですが、このような相対評価の仕組みも入れておかないと、人件費が青天井になってしまいます。

逆に極めて評価が低かった職員はD評価になります。自治体によっては、D評価を2~3年連続して取った職員には再教育の研修を課し、それでも改善が見られないようであれば分限免職とすることもあります。「公務員はクビにならない」と思っている人も多いようですが、決してそのようなことはないんです。評価者にしてみれば、たとえ勤務実績が良くないとはいえ、免職につながる可能性のあるD評価をつけるのは結構勇気がいるでしょうね。

ーー 評価に対し不満がある場合、上司や人事にぶつけてもよいものでしょうか

大谷 評価に不満があるときは、一旦冷静になって、自分を俯瞰的・客観的に見てみる必要があります。中には、本人の自己肯定感が強く、自己評価と他者評価に大きな乖離があるケースもあるのです。若い職員の場合、まだ視野が狭いことも多く、「自分がこれだけ頑張ってるのになぜ?」と思う職員も結構いるようです。本人は頑張っているつもりでも、本人が知らないところで深刻な影響が出ていたり、いつの間にか先輩がフォローして大事にならずに済んだというようなこともあります。評価を素直に受け止めず不満をぶつけるばかりでは、伸び悩んでしまうでしょう。現状を認識し、足りない部分を伸ばしていかなければ成長はおぼつきません

ーー 例えばこれから公務員になろうという人が、各自治体の評価の仕組みを知りたいと考えたとき、何か方法はあるのでしょうか

大谷 評価基準や評価シートは職員向けに定められているものなので、対外的には公表されていないことが多いと思います。もし学生が各自治体の評価の仕組みについて知りたければ、インターンシップに参加したときに聞くのが良いでしょう。インターンシップに参加すれば職員と話す機会ができるので、人事評価の具体的な仕組みについて聞くことも可能です。

公務員の人事評価と異動はリンクしている?

民間と同じく自治体も人材は重要な経営資源

ーー 公務員も人事評価と人事異動は関連しているのでしょうか?

大谷 地方公務員法の第23条第2項に「任命権者は、人事評価を任用、給与、分限その他の人事管理の基礎として活用するものとする。」と規定されているように、人事評価の結果は職員の配置、つまり人事異動にも影響します。

人材は、自治体を運営する上で必要な経営資源のひとつです。いい人材を採用し、どう育成し、どう配置するか。その根幹にはやはり人事評価があります。人事評価は職員の現状を測るものです。現状がわからなければ、どのように人材を育成すべきかもわかりませんし、どのような職場に配置すべきかも判断できません。

ーー とはいえ、花形の部署は希望者も多いですよね

大谷 そうですね。泥臭くて地味な部署に自ら手を挙げる人は少ないでしょうね。花形の部署に異動できる人の方が少数なので、異動できない人は不満を持つかもしれません。
ただ、その人が高い能力を持っていたとしても、その能力が花形の部署に適した能力とは限らないのです。

例えば、会計部門でものすごく評価された職員が、観光部門でも同じように評価されるとは限りません。観光部門では各方面とコミュニケーションを取ったり交渉したりする能力が必要ですが、会計能力でそのような能力はあまり必要とされないでしょう。つまり、希望の部署に異動できないのは自分の能力が低いということではなく、その部門に必要な能力がまだ備わっていないということであり、今後の経験や教育でその能力を培っていけばいずれ異動できるかもしれません。

希望する部署で求められている人材像から逆算

ーー それでも、どうしても行きたい部署がある場合、何かできることはあるのでしょうか

大谷 例えば観光分野に異動したいと思った場合、観光分野ではどのような能力を持った人材を求めているのかということを徹底的に分析すれば良いのではないでしょうか。

過去の異動でどのような能力を持っている人が異動しているのか、どのような行動パターンの人が異動しているのかをよく観察すれば、観光部門が欲している人物像が見えてきます。それがわかれば、あとはそのような人材になる努力をすれば良いのです。希望の部署に異動するためには、このようにゴールを見定め、そこから逆算して行動する、そんな努力が必要になるでしょうね。

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大谷 基道(おおたに もとみち)さん

1970年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程研究指導終了退学、同大学院で博士(政治学)を取得。茨城県職員、(公財)日本都市センター主任研究員、名古屋商科大学教授などを経て、現在、獨協大学法学部教授。専門は行政学、地方自治論。主な著書に『職員減少時代の自治体人事戦略』(ぎょうせい、共著、2021年)、『現代日本の公務員人事――政治・行政改革は人事システムをどう変えたか』(第一法規、共編著、2019年)、『東京事務所の政治学――都道府県からみた中央地方関係』(勁草書房、単著、2019年)など。

 

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