ジチタイワークス

愛媛県松山市

法をまたいだ“攻めの行革”で 危険物と高圧ガスの窓口をひとつに

地方自治体が取り組む「行政改革」を発表し、表彰する大会があるのをご存知でしょうか。愛媛県主催の「行革甲子園」です。

平成24(2012)年から過去3回開催され、平成30(2018)年8月30日に第4回目となる「行革甲子園2018」が開かれました。全47都道府県117市区町村から行政改革事例が集まり、審査を突破した8団体が登壇。さらなる審査の結果、愛媛県松山市の「窓口一本化の保安指導で防災体制を強化(新規財源の確保)」が優勝を果たした。

141もの事例のなかからトップに上り詰めた改革とは一体どのようなものだったのでしょう。詳しくご紹介します。

※下記はジチタイワークスジチタイワークスVol.4(2019年1月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 愛媛県松山市

危険物を取り扱う過程で増える事故件数

市は「危険物」と「高圧ガス」を分けて扱うことに疑問を抱いていました。一般的にガソリンや灯油など、火災の危険性がある「危険物」は消防法で規制され、市町村長の管轄にあります。一方、水素ガスやLPガスなどの爆発する恐れがある「高圧ガス」は高圧ガス保安法で規制され、都道府県知事の管轄。それなのに、「危険物」と「高圧ガス」はどちらも使用するまでの申請や検査の流れが同じだったのです。

また、危険物を取り扱う施設での事故件数が大幅に増加している問題がありました。平成6(1994)年に56万施設だったガソリンスタンドや石油化学プラントなどの危険物施設は、平成29(2017)年には41万にまで減少していますが、事故件数は287件から564件と2倍近くに増加。施設の老朽化や取り扱いの技術の伝承など、コストをかけられていないのが原因でした。そこで、松山市は愛媛県から「高圧ガス保安法」の権限を移譲してもらい、規制の窓口を消防局に一本化することで、事業所の負担を軽減して保安体制を強化できないかと考えたのです。

管理や申請の流れは同じ県と市の連携で効率化を図る

消防局の予防課に受付を設け「危険物」と「高圧ガス」の許可申請を同じ職員が対応。両方の申請書を持参すれば、同時申請が可能となりました。使用前の検査も、消防職員が同時に進行します。市にとって「高圧ガス」の新たな知識が必要になりますが、保安規制の大まかな基準は「危険物」と同じなので、勉強がしやすいという点は救いでした。

また、今までの県の担当者に研修を開いてもらい、事前に「高圧ガス」に関する知識と経験を積んでおきました。市の業務量が増えるのではないかとも懸念されていましたが、2つの手続きを同時に進めることで、人員配置に変更もなく、業務の増加量を最小限に抑えることもできています。

一本化するだけで得られた3つの成果

この改革は、3つの効果を生み出しました。まず、経費の削減です。同時進行で、審査・検査時間を今までの3分の2にまで短縮。事業所でも申請や検査の準備の期間を約半分に短縮でき、人件費や工事費のコストカットにも成功しました。

2つめは、産業事故の減少。窓口を一本化し、消防法、高圧ガス保安法、石油コンビナート等災害防止法など、消防局が全てまとめて事業所へ指導することで、防災体制が強化されました。

最後は新規財源の確保です。高圧ガス使用の申請手続きで発生する手数料や、県からの「権限移譲事務等市町交付金」が市の新たな収入源となっています。

行政の窓口一本化は、実はさまざまな分野で見られます。しかし、法をまたいでとなると、難しく聞こえてしまいます。新しいことを始めようと思うと、どうしても業務量や負担を考え、なかなか踏み出せないものです。しかし、市民の笑顔を思った松山市流の“攻めの行革”で、今回の改革は成功したのです。

How To

01共通点が多いことに着目する

規制を定めた法は違っていても、申請手続きや検査内容は似通ったものだった。保安規制の大まかな基準は同じだったので、担当の消防局員は勉強がしやすかったという。共通点に着目できれば、負担なく一本化が進められる。

02県と市の連携でさらにパワーアップを図る

市の消防局へ高圧ガスの権限を移譲したことで、消防局員に新たな知識が必要になった。そこで、今まで高圧ガスの窓口として対応していた県の担当者に研修を事前に開いてもらった。県と市で連携をとり、不十分な箇所を補い合いながら進めたのが、今回の成功の要因である。

03同時進行で業務量を倍にはさせない

高圧ガスの担当を市に変更したとなると、単純に市の業務量が倍になるのではと思ってしまうが、決してそんなことはない。似通った申請手続きの作業を同時に進めれば、業務量はそんなには増えないのだ。この同時進行で、人員配置に変更なく、増加量を最小限に抑えることができた。

04「どうせ無理だろう」の気持ちを捨てる

普通なら「法律で定められていることを変更するのは無理だ」と思ってしまいがちだ。しかし、行政や事業所、さらに市民全員を思って「やればできる」の精神を持ち、職員たちが諦めなかったことで、法をまたいだ一本化の仕組みが完成した。

5「中核市だから」と決めつけない

実は窓口一本化は政令都市では進められていることではある。しかし、中核市で実施している自治体は少なく、事業所での同時検査をしているのは中核市では松山市のみ。実際は中核市レベルでは難しいというわけではないので、チャレンジ精神を持つことが重要なのである。

Results

①経費削減
②産業事故の減少
③新規財源の確保
・平成29(2017)年度の申請手数料の総額約570万円
・県からの「権限移譲事務等市町交付金」が推定約640万円

高圧ガス施設の詳細情報を新たに得ることで、万が一災害が起きたときに、迅速な消防活動ができます。日頃から県や関係事業所との連携を強化して、さらに防災体制を強化します。


松山市消防局予防課副主幹・久藤裕之さん、主任・吉村真子さん

最後に、「行革甲子園2018」で優勝した松山市の事例をご紹介します。

当日発表の様子はコチラ
https://www.youtube.com/watch?v=x4rVdK3WBrw&feature=youtu.be

詳細資料はコチラ
https://www.pref.ehime.jp/h10800/shichoshinko/renkei/documents/matuyamashi-toujitsushiryou.pdf

 

【行革甲子園】全国の自治体の創意工夫あふれる取り組みを紹介! 記事一覧

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