年間を通じて、あらゆる人々が利用する公共施設のトイレ。洋式化、温水洗浄便座化という“快適性の向上”を果たした施設は、次のステージを目指して様々な取り組みを始めている。
東京都豊島区(としまく)・埼玉県さいたま市・大阪府大阪市(おおさかし)の事例をご紹介。トイレのこれからを考えるヒントにしたい。
※下記はジチタイワークスVol.22(2022年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体初!“生理の貧困”解決に向けて生理用品の無料受け取りシステムを導入。
東京23区で唯一“消滅可能性都市”に指定されたことを契機に、“子どもと女性にやさしいまちづくり”を進めてきた豊島区。「様々な理由で生理用品を購入できない“生理の貧困”が問題になっており、区として支援したいと考えました」と担当者。中野区や横浜市とともに、「オイテル」を令和3年8月から自治体で初導入した。
専用アプリがインストールされたスマートフォンをかざすと、生理用品を無料で受け取れる同サービス。用品の費用は本体に表示される広告収益で賄われる。「どこに何台置けば役立つかを検討し、3施設に14台設置しました」。設置後、利用数は着実に伸び、設置施設も増えているという。
令和3年3月、防災備蓄用の生理用品を窓口で無料配布したことでも注目を集めた同区。進んだ試みにスピーディに取り組めるのは、庁内で目指す姿が共有できているためだという。「今後も庁内理解をますます促進し、誰一人取り残さないまちづくりを進めていきたいです」と展望を語る。
お問い合わせ 豊島区 子ども家庭部 子ども若者課
尿とりパッドをつける男性が増える中、男性用トイレにサニタリーボックスを設置。
昨今、膀胱がんや前立腺がん、加齢などにより、尿とりパッドなどをつける男性が増えているという。そこでさいたま市では令和4年3月、全10区役所の男性用トイレ個室に、サニタリーボックス(ごみ箱)の設置を決定した。
「全区役所で足並みを揃えて設置という方向性は打ち出しました。ただ、区ごとにトイレの状況や予算が異なるので、形状や大きさ、個数などは各区に一任しました」と担当者。期限も設けなかったが、決定から1カ月足らずで全区役所への設置が完了したという。「速やかに設置できたのは、区役所側も重要性を理解してくれたからこそ。他自治体からの問い合わせも多く、考えるべき課題だと改めて実感しました」。
現状、利用頻度はまだ少ないそう。しかし、「必要個数の集計や一括発注など、調達に手数をかけるより、まずは始めることが大切ではないでしょうか。“必要としている人がいる”ことが分かり、置いて良かったと感じています」と手応えを話す。
お問い合わせ さいたま市 市民局 区政推進部
性別関係なく誰もが使いやすいトイレとは。
性的マイノリティについて、LGBT※とひと括りにしてしまいがちだが、LGBは“性的指向(どのような性別を好きになるか)”をあらわし、Tが“性自認(性の自己認識・心の性)”を指すことは、あまり知られていない。そして、トイレは性的マイノリティの悩みの種の1つだ。
大阪市を含む自治体や民間の施設でも、一時は多目的トイレにレインボーマークの掲示が増えた。だが実は、LGBTの括りに限ると、そのうちトイレに困るのは、主にTに属する“心の性”に関わる人たちだといえるだろう。
担当者によると、「多目的トイレへのレインボーマーク表示については、当事者の好意的なご意見がありました。しかし一方で、“自分が性的マイノリティと知られるのではないかと恐れを感じる”などのご意見も寄せられました。これを踏まえて改めて検討した結果、当事者にも様々なご意見があり、違和感をもつ方が存在する中であえて表示を続ける必要性はないと判断。マークを外し“どなたでも利用できます”という趣旨の表示をすることとしました」。
公共施設のトイレには様々な利用者がいるだけに、色々な“当事者の視点”に立つことが大切だと教えてくれる事例ではないだろうか。
※LGBT=Lesbian(女性同性愛者)、Gay(男性同性愛者)、Bisexual(両性愛者)、Transgender(性自認が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)
取材先 大阪市 市民局 ダイバーシティ推進室 人権企画課
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