熱意ある地方創生ベンチャー連合およびスタートアップ都市推進協議会が毎年共催する「地方創生ベンチャーサミット」。地方創生の流れをさらに加速化させるために、国・⾃治体・⺠間事業者それぞれの⽴場から地⽅創⽣に対する現状や課題の共有、今後に期待される新たな事例の発信や交流を行っている。
今年は「官民連携」をテーマに、2022年3月6日に『地⽅創⽣ベンチャーサミット2022 supported by KDDI 〜官⺠連携で「地⽅創⽣」をリードせよ!〜』が開催された。本サミット当日の模様を、全7回に分けてレポートする。
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基調講演「これからの地方創生」
セッション1「ここだから学べる! ⾃治体のドアノックの⽅法論」
セッション2「テクノロジーで福祉をアップデート!」
セッション3「リノベーション×官⺠連携で実現する地⽅創⽣」
セッション4「さよなら『申請主義』 ⾃治体⼿続きはベンチャーがDXする時代」
セッション5「⾃治体DX⼈材の必要性と育成ノウハウ」
セッション6「逆境を越えろ! V字回復した地⽅創⽣・ベンチャー企業」←今回はここ
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[提供]一般社団法人 熱意ある地方創生ベンチャー連合
セッション6「逆境を越えろ! V字回復した地⽅創⽣・ベンチャー企業」
観光やサービス業を狙い撃ちするように襲ったコロナ禍という逆境。多くの観光施設や飲⾷店が休業もしくは閉店廃業に追い込まれました。
政府や⾃治体の給付⾦などの⽀援は⼿厚かったですが、それが批判の的になることもあり、肩⾝の狭い環境下での事業の継続が各地でトラブルになったことなども報じられました。
しかしそのような中、ベンチャースピリットを⾒事に発揮し、この逆境を乗り越えた事業者もいました。その奇跡的なV字回復の取り組みと秘訣をお聞きします。
[登壇者]
髙島 宗⼀郎 氏(スタートアップ都市推進協議会会⻑/福岡市⻑)
加藤 史⼦ 氏(WAmazing株式会社 代表取締役CEO)
⼭野 智久 氏(アソビュー株式会社 代表取締役 CEO)
秋好 陽介 氏(ランサーズ株式会社 代表取締役社⻑CEO)
※本記事は前・中・後編の中編です。
▶前編はこちら
▶後編はこちら
秋好氏:加藤さんに質問です。WAmazingの場合、インバウンドの方がターゲットユーザーなので、そもそも日本に入ってこられないという厳しい状況だったと思うんですけど、当時何が起こって、どういう危機的状況になったのでしょうか?
加藤氏:2020年1月25日に武漢からの入国はダメとなった後、2月14日に台湾政府から日本への渡航注意喚起レベル1が出され、台湾も香港も3月末までに最悪レベルにまで至ったので、日本が緊急事態宣言に入る前の2月の段階で「これはあかん」となりました。
加藤氏:ここでWAmazingを簡単に説明すると、オンライントラベルエージェントという業態で、訪日外国人向けのスマートフォン上の旅行会社ですね。消費税免税価格でお土産を買えたり、宿泊施設を予約できたり、一部アクティビティもあったり、交通チケットを買えたり、そのようなサービスをやっています。お客さんが使った金額の10%などを手数料として頂くビジネスモデルで、お客さんが来なくなると売上がゼロになってしまうため、2020年1月と2020年4月の売上比較で98%ダウンしました。
「残り2%は何なの?」と聞いたら、日本に外国人の方が270万人くらい住んでいて、その方々向けにも購入いただける商品があり、その売上が一部残っていた感じですね。
髙島氏:山野さんのお話も、加藤さんのお話も、ここまでくると「それは無理でしょう」となりますよね。そこからのV字回復のお話をお聞かせください。
加藤氏:2月くらいにやばいなと思いました。売上ゼロになると、キャッシュフロー上、5月に倒産してしまう。山野さんと一緒ですよね。いかにキャッシュアウトを少なくしてキャッシュインを増やすか、基本的にこの2つしかやることがないので、これがもう大変でしたけど、2月からエクイティ・ファイナンスをスタートしました。日々市況が悪くなっていくので、テレビでニュースを聞くたびに、投資家も「しばらくインバウンドベンチャーに投資するのはダメ」となる中、投資をかき集めようと動き始めました。
加藤氏:あと、新規事業を立ち上げなきゃ、コストダウンしなきゃと動きました。ITベンチャーのコストって、変動費は広告とかなので、止めればすぐゼロになります。
でも、固定費として人件費とオフィス家賃。それ以外のコストは例えば、IPO(新規上場)のために監査法人と契約していましたが、もう絶対に事業計画通りに上場なんてできないので、「契約解除できますか」と泣きついて半額返してもらいました。監査契約は年間1500万円かかっていたのですが、750万円返してもらえました。あとは、役員報酬もゼロにすると決めました。
加藤氏:でも、さらなるコストダウンをしないとすぐ倒産してしまう。新規事業なんて、すぐに立てられるものではない。100人以上いる従業員全員を食わせるくらいのキャッシュなんてすぐには立てられないので、雇用を維持しながら人件費を圧縮しなければならない状況でした。
加藤氏:しかし、雇用調整助成金の特例措置が2020年4月に発表されたんですよ。それは在籍出向でも休業と同じように補償してもらえるもので、出向を受け入れる側の企業は、WAmazingの社員を安く雇えることになったんですね。ほぼ全社員と希望企業をマッチングしていくのを4月にやっていましたね。そして、4月末でオフィスをやめようと判断しました。オフィス家賃が当時200万円くらいかかっていましたので、これがなければ若手社員15人くらいの雇用は維持できるから、オフィスをなくしました。
加藤氏:それで2月ぐらいから自治体コンペの企画書をつくり始めました。「不況時はやはり官需だろう」と思いました。4月から受注コンペで勝ち始めたんですね。経営者としての腕はどうかまだ分かりませんが、プランナーとしての腕は1級だという自負がありますので、10社コンペとか12社コンペでも勝つんですよ。最初にDMOの北海道観光推進機構の仕事が決まり、そうしたら会社で「これはやれるんじゃないか」という機運がちょっと出たので、地域連携部を4月につくって一気にやっていきました。
加藤氏:自治体やDMOの皆さんのインバウンド需要回復期の準備に振り切って、50以上の自治体さまと、額にすると5億円以上、お仕事させていただいております。いまだにインバウンド事業の方は売上ゼロなんですけど、地域側のコンテンツ造成とか調査開発の事業で、売上は2期連続最高を更新しています。
秋好氏:事業をピボットしたということですよね。海外のインバウンド向けから国内の自治体向けにして5億円の売上になったということですね。
加藤氏:実は自分的にはピボットという気持ちはないです。私はリクルート出身なんですけど、リクルートでは「リボン図」と呼ばれる考え方があります。ビジネス側とコンシューマー側をリボンのようにマッチングして、真ん中で両者が結びつくと感謝代をもらえるビジネスモデルになっているんですね。リクルートでは、それが宿泊施設と旅行者を結びつける「じゃらん」だったり、結婚式場とカップルを結びつける「ゼクシィ」だったり、そういう構造になっています。
加藤氏:このビジネスは、事業者さん側が魅力的な商品を揃えるのが第一歩なんですよ。本当はそこからやらなきゃいけないのを、私はあえて逆で起業したんですね。成田空港や羽田空港で無料のSIMカードを配りまくって、外国人旅行者を集めることを先にやって、WAmazingを5年前に起業したんですよ。
加藤氏:なぜこれをやったかというと、外国人旅行者は今後増えるし、儲かると思われていたけれども、マーケティングが一番の課題だと多くの事業者さんが言っていたので、コンシューマー側からやれることを証明してから事業者さんを集めようと思いました。コロナが来て地域や事業者さんに向き合えて、そちらがデジタル化していくのは、需要が回復するなら商品を揃えられるということなので、実は私の中ではピボットではないんです。
秋好氏:ベンチャー2社に伺いましたけど、髙島市長には自治体としてコロナ禍以前からスタートアップ企業をかなり支援されていたと思いますが、コロナ禍で何かアップデートしたことはありますか?
髙島氏:福岡市がスタートアップ都市宣言をしてから今年で10年になるんですよね。色々な支援策をやってきました。でも、全ての機能をFukuoka Growth Nextに集めて、ここに来れば全部分かる仕組みをつくり、これが盛り上がってきた矢先、1カ所に集まっちゃダメみたいな話になったので、どうしようと思いました。
髙島氏:ニューノーマルで色んな新しいサービスの必要性ができたとき、そこに対応していくサービスをつくりだしていくのはスタートアップで、こういう発想をする人たちがやはりいるわけですよね。そこで、単純にFukuoka Growth Nextという支援施設を閉めるのではなく、最初の緊急事態宣言からすぐにオンラインに切り替えました。すると相談件数が前年の1.6倍になったんですよ。
もともとは、みんなが話しやすいように夜にアルコールも出していました。ちょっとシャイな人でもスタッフがお互いを紹介したら話しやすくなり、色んなビジネスチームができるような場がありました。
でも、オンラインにしたら、これまでの人はもとより、相談に行きたいなと思っていたけれど子育て中で1歩踏み出せなかった人など、新しい需要の開拓になったりしました。もしくは、この状況下で自分が今やっていることはこのままで大丈夫かとなったときに、前から考えていたことをこのタイミングでやってみようという方が続々相談にきました。そういう意味では、やり方をオンラインに変えることで掘り起こしになりした。
髙島氏:それと、思い立った人の後押しがどうやったらできるかなと、行政の支援内容も少し工夫しました。日本は、起業した人に支援金を渡すのではなく、罰金のように税金を取るんですよ。株式会社をつくるときに30万くらいかかります。
しかし、国の特定創業支援等事業を受けると株式会社をつくるときの税金が半額になるので、福岡市は「これを受けたらさらに福岡市で半額安くするので、0円で起業できますよ」というメニューにしました。それによって300社くらい新しく立ち上がりました。コロナ禍に合わせて支援メニューを変えていったことで、逆に掘り起こしになりました。
髙島氏:あと、福岡市では実証実験フルサポート事業をやっています。規制緩和なのか、お金を出してほしいのか、地域調整してほしいのか、行政に使ってほしいのか。これらを1本の窓口で受けて全部さばく。募集メニューをコロナ禍に合わせた新しいビジネスの提案にして、募集いただいたものを後押しする形に変えていきました。
秋好氏:実際にコロナ禍以前は、ホープさんとか、福岡出身の上場企業が良い機運で増えていったと思うんですよ。今の話を聞くと、集まれない時期もありましたが、福岡市の起業家とか福岡で働きたい人にとってみると、コロナ禍の支援メニューの変化によって行動がよりスムーズになったのでしょうか?
髙島氏:福岡に移住してくる人は、この2年間でとても増えました。それは、住んでいる場所での色々なことに踏ん切りをつけて動くタイミングだったのではないでしょうか。そういう意味では色々な経営者が福岡に移住してくれるようになり、人が人を呼ぶ好循環がありました。コロナ支援策として何をしていたかも含めて、首長や自治体によってこんなに違うんだということが初めて分かったと思います。
髙島氏:これからは、何をして誰とどこで住むかを自分で選ぶ時代が来ているわけですね。ただ、分かっていてもなかなか踏ん切りがつかない人がコロナの影響で一気に動いたので、選ばれる自治体と逃げられる自治体が明確になった時期だったのかもしれないです。
秋好氏:アソビューも一時的には売上に影響がありましたが、観光施設のDXを促進するSaaSビジネスをして非常に伸びているというのは、観光施設をより滑らかにしたのかなと思います。地方創生をベンチャーがする意味において、観光×アフターコロナはどういう姿になっていくと思っていますか?
山野氏:観光施設・レジャー施設は皆さんご存じの通り、窓口に行ってチケットを買ってリアルの券をもらって、入場ゲートに行って半券を切ってもらうという接触・非効率のオペレーションで満足してきたのが実態です。
我々がずっとスマートフォンでのチケット購入から入場までのUX(ユーザーエクスペリエンス)の改善を提案してきたわけですが、情報感度の高い施設はそういうことをやってくれたのですが、地方ほど現状維持のバイアスがあったりデジタルに抵抗感があったりして進まない状況がありました。
山野氏:そこからコロナ禍になり、我々のツールをご紹介してまわったわけですが、結果的に70万人以上来場する日本の有名観光レジャー施設の40%以上にご活用いただいて、業務オペレーションの改善を実現しています。どれくらいの数字かというと、今まで窓口に行って入場するまで20秒かかっていたのが、オンラインで実現すると全ての行動が6秒で終わるので、4倍くらい生産性が向上します。
山野氏:日本経済の伸びしろは生産性の向上だと言われているんですよ。東京の中小企業の生産性はそんなに悪くないですが、OECD加盟国の中では特に日本全体の生産性は低い方です。これは地域の中小企業の経営の生産性が低いと言われているからなんですね。4倍の効率化が実は結構インパクトがあって、これが推進されることによって、地域の観光レジャー施設における経営の生産性が上がり、利益が上がり、勤めている方々の報酬が上がる。人口は減っていくけれど、地域が獲得できている総所得は少しずつ増えていく状態がつくれていくんじゃないかなと期待しています。
⼀般社団法⼈熱意ある地⽅創⽣ベンチャー連合とは
ベンチャー企業のもつイノベーティブなサービスにより地域課題解決や地域事業の⽣産性を上げ、持続的な地域の経済発展に貢献することを⽬的として2015年より活動開始。現在約60社のベンチャー企業らが参画しています。地⽅創⽣分野で活躍するキーパーソンを招いた勉強会や、本サミット等を通じ、地⽅⾃治体や⺠間事業者等に対し広く情報発信を⾏い、地⽅創⽣実現のための機運醸成を図る取り組みを⾏っております。
スタートアップ都市推進協議会とは
起業や新たな事業などの「スタートアップ」は、経済成⻑を実現し、⼤きな雇⽤創出効果をもたらすとともに、暮らしの中に新たな価値を創造するものであり、⽇本の再興には不可⽋なものです。⽇本再興への期待が⾼まりつつある今、スタートアップ都市づくりに先進的に取り組む⾃治体が地域の個性を⽣かしたロールモデルとなり、経済関係団体とともに連携し、⽇本全体をチャレンジが評価される国に変えていくことを⽬指して協議会を設⽴しました。