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【セミナーレポート】後編‐テクノロジーで福祉をアップデート!~地方創生ベンチャーサミット2022~

熱意ある地方創生ベンチャー連合およびスタートアップ都市推進協議会が毎年共催する「地方創生ベンチャーサミット」。地方創生の流れをさらに加速化させるために、国・⾃治体・⺠間事業者それぞれの⽴場から地⽅創⽣に対する現状や課題の共有、今後に期待される新たな事例の発信や交流を行っている。

今年は「官民連携」をテーマに、2022年3月6日に『地⽅創⽣ベンチャーサミット2022 supported by KDDI 〜官⺠連携で「地⽅創⽣」をリードせよ!〜』が開催された。本サミット当日の模様を、全7回に分けてレポートする。

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基調講演「これからの地方創生」
セッション1「ここだから学べる! ⾃治体のドアノックの⽅法論」
セッション2「テクノロジーで福祉をアップデート!」 ←今回はここ
セッション3「リノベーション×官⺠連携で実現する地⽅創⽣」 
セッション4「さよなら『申請主義』 ⾃治体⼿続きはベンチャーがDXする時代」
セッション5「⾃治体DX⼈材の必要性と育成ノウハウ」
セッション6「逆境を越えろ! V字回復した地⽅創⽣・ベンチャー企業」
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[提供]一般社団法人 熱意ある地方創生ベンチャー連合

セッション2「テクノロジーで福祉をアップデート!」

1年間に⽣まれてくる⼦供の数(出⽣数)が、2022年には80万⼈以下になるだろうと⾔われています。⼈⼝減少は加速的に進むと予測されていますが、本当に問題なのは「少⼦化」でしょうか?その背景には、「社会的孤独」「⼥性の社会進出」「⽣活保護」といった幅広い福祉の分野の課題がいっぱい詰まっています。このセッションでは、妊娠や周産期にまつわる課題をテクノロジーで解決するフェムテックや福祉に関わるサービスの可能性を探っていきます。

[登壇者]
宮路 拓⾺ 氏(内閣府⼤⾂政務官)
佐藤 弥⽃ 氏(座間市⻑)
⽯井 健⼀ 氏(株式会社ネクイノ 代表取締役)
⼟井 隆 氏(⼀般社団法⼈熱意ある地⽅創⽣ベンチャー連合 事務局⻑)


※本記事は前後編の後編です。
前編はこちら

 

土井氏:続いて、フェムテック分野のサービスの話を石井さんにしていただきたいと思います。

石井氏:テクノロジーといってもAIやブロックチェーンといった最先端ではなく、ありふれた技術をちゃんと社会実装させていくのが基本的なスタンスです。私たちがやっているのは、婦人科医療に特化したオンライン診察を提供しています。低用量ピルを中心に扱っているんですけれど、年間約80万人の出生数に対して人工中絶数が約16万件ある状態。健全な社会じゃないことはご理解いただけると思うんですけど、避妊だけじゃなくて月経関係のトラブルで年間7000億円近い損失が出ている。こういう課題を解決していくことが未来の不妊や更年期の問題につながっていくことにリーチしたい。スマートフォンのアプリを通じたコミュニケーションをしているんですが、アプリのダウンロード数が70万人を超え、お医者さんや薬剤師さんとのコミュニケーション数も170万件を超える。私が知る限り、日本で一番大きなオンライン診察のプラットフォームになっていると思っています。

石井氏:福祉は大きく医療、介護、子育て、生活支援という領域があると思うんですけど、私たちはこの中で医療にフォーカスして地域に色々な貢献ができればと考えています。地方自治体が抱える課題って基本的に地域住民の高齢化、それに伴って医療ニーズが増えていくのが左側にあります。一方、医療インフラを維持していくのでいっぱいいっぱいなのが現時点だと思うんです。ここにコロナが出てきて首長さんは大変なんじゃないかと、地域の方々とお話していて感じます。予算を去年に対して何%増やしていくというやり方だともう解決できないフェーズに来ていて、このギャップを乗り越えるためのイノベーションが必要なんだろうなと、私たちはこのマーケットに参入しています。

石井氏:今までの医療制度は、病気を治療することにリソースの99%近くは割かれていて、病気にならないようにすることが重要視されていない。フェムテックの話をすると「不妊治療をやれ」と言われるんですけど、不妊治療はまさに病気を治療することなんですよ。「今日困っている人の悩みを解決するためには、5〜10年前から病気にならないようにしておかないといけない」というのが私たちの主張なんです。病気の治療は一定数を維持したまま、病気にならないようにする領域をどう増やしていくか。お金がないし人もいないので、テクノロジーで解決しようと思っています。例えば、交通事故で死なないためにいいシートベルトやエアバックをつくってきたのを、自動運転にすることで、そもそも事故に遭わないようにしようとシフトしていくのと考え方は一緒だと考えています。

石井氏:縦軸に病気の重症度、横軸に年齢を置くのが私たちの基本的な考え方で、従来の医療の領域はグリーンのゾーンをどう解決していくかが触れられていたと思うんです。私たちが介入するのは、もう少し若年層の医療との向き合い方とか予防。そうするとグリーンのゾーンが小さくなってくる。そうすることで専門家のリソースが空くので、予防的に介入していくサイクルを回す仕掛けをたくさんつくっています。実際に自治体と連携協定をいくつか結んで、地域の方々に対する産婦人科領域の課題をオンライン相談の形で受け入れるサービスを行ったり、高校に直接オンライン相談室を持ち込んで悩みをダイレクトに聞ける関係性をつくりながらPDCAを回したりしています。オンライン診察だけでなくその周りにできる色々な医療インフラを、地方自治体とコラボしながらより効率的に回していく仕組みを考えているスタートアップです。

土井氏:佐藤さん、自治体がこういうものを受け入れていくポイントはどこでしょうか?

佐藤氏:今のお話はとても可能性があると思います。病気になる手前でいかに健康をつくっていくかは日本にとって大きな課題だと思いますし、医療費などの扶助費が増大する中、そこを軽減していかなければ日本は持続できないと思います。

土井氏:石井さん、自治体にドアノックしていくとき、どういうことがあるとやりやすいですか?

石井氏:首長がそういう分野にフォーカスすると言っている自治体は話がしやすいです。私たちの場合はあまり予算を取らずに運用できるので入りやすいんですけど、「先に不妊治療の問題を解決しろ」とか「コロナ対策をやれ」みたいに優先順位が下がりがちな領域なので、首長のリーダーシップがあると比較的早く実装できてPDCAが回せる体感があります。

土井氏:宮路さん、こういうテーマに関心を持つ首長や自治体を増やすためには、国としてどんな動きがあればいいでしょうか。

宮路氏:首長の皆さんに意識を高めてもらうためには、国も取り組んでいることを示すことが1つかなと思います。男性の方々は、生理や更年期の症状を知らない方ばかりだと思います。そうした方々にリテラシーを高めてもらうことが大事で、その上で初めてどういう対策が必要なのかという意識になります。リテラシーを高めるために、内閣府では職員研修の中で女性の健康課題について学ぶカリキュラムを来年度から始めることにしています。こうした動きを見てもらって、女性活躍日本一や女性健康日本一を掲げる首長が出てきたらいいなと期待しています。

土井氏:石井さん、サービスを導入するときに順風満帆だったわけではないと思うんですけど、その苦労をお聞かせいただきたいです。

石井氏:やっぱり民間企業の方が動きは早いですよね。従業員の方々の身体の悩みを聞いて必要な情報を渡すサービスをやっているんですけど、民間企業への導入はあっという間です。それは、従業員の生産性を数字で表すと経営者の方はGOを出しやすいからです。ピルは月4,000〜5,000円かかるんですけど、とある企業でトライアルすると1人あたり5万円くらい生産性が上がっているんです。5,000円払って5万円返ってくるなら、民間企業は比較的GOを出しやすいんですね。でも、自治体で同じ話をしても話が噛み合わないことがあります。

土井氏:どういうサービスなんですか?

石井氏:オンライン診察を用いて、毎日飲むタイプの低用量ピルをサブスクリプションに近い形で提供するサービスです。ピルには避妊の効果だけでなく、生理痛の改善、経血の量の軽減、生理周期が分かりやすくなるといった副効能がいっぱいあります。こういうお薬を提供することで、生産性にどれくらい結びつくのか測定しています。

土井氏:オンライン診療には超えなければならない色々なハードルがあるのではありませんか?

石井氏:薬機法の壁があったりして、ヨーロッパやアメリカではできるけど日本ではできないことがたくさんあるんです。国と対話しながら解決していけたらと思っています。

土井氏:宮路さん、民間企業に期待すること、こういうことを発信してくれたらいいなと思うことはありますか?

宮路氏:イノベーションを起こすためには多様性だけでなくチャレンジも必要です。規制はかつての社会情勢の中でつくられたものです。どこに障壁があるかは政府からは分からない。だからチャレンジする事業者が規制ギリギリまでどんどんチャレンジしていって「この壁にぶち当たっています」とメッセージをくれたら動けるんです。そういう感じでフェムテック振興議員連盟は動けているので、そういう流れが出てきてくれたら嬉しいなと思います。

土井氏:佐藤さん、チャレンジしたくてもストップしてしまう状態をどうしたら乗り越えられるんでしょうか?

佐藤氏:首長の意識が変わることにしっかり着目すること、それに対して職員の皆さんも理解を深めていっていただくことが必要だと思います。「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」というアフリカのことわざがあって、私は後者を選んでいるんですけれど、職員の皆さんにも意識を共有していただいて進んでいくことがとても大切だと思っています。また、国に旗振りしていただくと、こちらもすごくやりやすいです。

土井氏:提案はいきなり首長に来ていいんですか?

石井氏:私は首長さんから行った方がいいと思うんです。例えば、DXは、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという3つの軸がある。簡単に言うと、紙で書いていたものをデジタル化するのがデジタイゼーション。エクセルをマクロで組んで作業が楽になるのがデジタライゼーション。コンピューターに全部やらせて人は違う作業をするのがデジタルトランスフォーメーション。私たちスタートアップがやりたいのはデジタルトランスフォーメーション。これはビジョンのある首長さんには分かっていただけるんですよ。予算を振り分けることで地方自治体が良くなると握りやすいんです。でも現場の担当者の方はデジタイゼーション、自分が手で書いているものをエクセルにしたいんです。ここは全然嚙み合わない。

土井氏:見ている課題感が違うと。そういうときに石井さんは自ら首長さんにアプローチされるんですか?

石井氏:うちは首長さんとお話させていただくチームがお話させていただいています。

土井氏:今回、会場には自治体関係者の方々、民間企業の方々がいらっしゃるんですけど、なかなかテーマになりづらい福祉に対してどのように関わってもらいたいのか、メッセージをおひとりずつ頂きたいと思います。

宮路氏:2つの視座を持ってほしいなと。1つは、多様性をいかに後押ししていくかということ。2つ目は、もうすでに多様なんだから、それぞれにどうやったらアプローチしていけるかを行政も民間の皆さんも考えていただくこと。行政が得意なのは、信頼性を持って個別にアプローチするルートをつくること。

佐藤氏:実は、座間市は「健康文化都市宣言」をしています。病気にならない身体をつくることは、ずっと以前からフォーカスして取り組んでいるんですけど、こういった新しい時代、政策の切り口を変えていくことで多様な方々に届くサービスにしていくことが大変重要だと思っています。日本は、平和で健康的で衛生的な国のモデルケースであるべきだと思っているので、そういう社会を皆さんとともにつくりあげていきたいと思っております。

石井氏:テクノロジーや働き方や制度は何かを解決するためにやるものだということを大事にしています。私たちは民間企業で、特定のセグメントの中で特定のお客様に向けたサービスをする特徴があるので、会社の働き方にもこだわりを持って制度設計しています。コロナでリモートワークが増えた自治体や企業が多いと思うんですけど、コロナ前からうちはリモートワークをやっています。うちは従業員が100人くらいいて、2/3が生物学的女性なんですけど、この1年で8人出産されます。みんなが戻ってきて働ける環境をつくれるのは、民間企業だからとかインターネット企業だからとか特別な条件はあると思うんですけど、崖を超えた先をイメージすれば描けるんじゃないかなと思っています。自治体の方々とたくさん対話しながら、日本社会を良くしていけるお手伝いができたらなと思っています。

 


⼀般社団法⼈熱意ある地⽅創⽣ベンチャー連合とは

ベンチャー企業のもつイノベーティブなサービスにより地域課題解決や地域事業の⽣産性を上げ、持続的な地域の経済発展に貢献することを⽬的として2015年より活動開始。現在約60社のベンチャー企業らが参画しています。地⽅創⽣分野で活躍するキーパーソンを招いた勉強会や、本サミット等を通じ、地⽅⾃治体や⺠間事業者等に対し広く情報発信を⾏い、地⽅創⽣実現のための機運醸成を図る取り組みを⾏っております。

熱意ある地方創生ベンチャー連合

スタートアップ都市推進協議会とは

起業や新たな事業などの「スタートアップ」は、経済成⻑を実現し、⼤きな雇⽤創出効果をもたらすとともに、暮らしの中に新たな価値を創造するものであり、⽇本の再興には不可⽋なものです。⽇本再興への期待が⾼まりつつある今、スタートアップ都市づくりに先進的に取り組む⾃治体が地域の個性を⽣かしたロールモデルとなり、経済関係団体とともに連携し、⽇本全体をチャレンジが評価される国に変えていくことを⽬指して協議会を設⽴しました。

スタートアップ都市推進協議会

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