何かと気忙しい年度末は、多くの公務員にとって気がかりな異動の時期でもある。新天地への異動に心躍らせる人がいる一方、想定外の異動にやりきれない気持ちを抱える人もいることだろう。
そもそも、公務員にはなぜ異動がつきものなのか。異動はどのようにして決まるのか…異動についてはブラックボックスになっていることも多い。そこで本特集では、異動を知り、異動を力にするための記事を公開していく。
2回目となる本記事では、某市の人事部に匿名取材。なかなか語られることのなかった「異動の実態」について聞いてきた。
【公務員の「異動大全」】
(1)異動でモヤモヤ…ありますか?全国の公務員にアンケート!
(2)人事担当者に聞く、「異動の実態」【前編】←今回はココ
(3)人事担当者に聞く、「異動の実態」【後編】
(4)どんな部署でも自分は活かせる!異動に左右されない“強み”の見つけ方・活かし方【前編】
(5)どんな部署でも自分は活かせる!異動に左右されない“強み”の見つけ方・活かし方【後編】
お答えくださった方
■Aさん
・所属:某市役所(人口規模 数万人) 総務部人事課
・役職:課長
異動に関する協議は毎年10月頃にスタートする!?
―― 最初に、自治体職員の異動は誰がいつどのように決めているか、教えてください。
Aさん 毎年新規採用者が内定する10月頃から人事異動についての協議をスタートします。参加メンバーは人事課の担当職員数名とその管理職、そして市長・副市長です。
まず、各職員から提出された「異動に関する調査票」や各課の管理職へのヒアリング、そしてこれまでの人事評価記録をもとに協議を繰り返し、異動案を作成していくという流れです。
異動案については上から決めていきます。つまり、管理職から決めて順に下の役職を固めていくという方法です。この手法は一般的であると思いますが、携わるメンバーや時期など自治体規模によって多少違いはあるかと思います。
このようにして段階的に案を固めていくので、最終的な決定は2月頃になりますね。
―― 上の役職から順に決めていくというところをもう少し具体的に教えていただいても良いですか。
Aさん 最初に決めるのが局や部の責任者になります。次に課長、そして係長という形です。課長・係長などはその責任者のもとで「誰を活かすのか」というように、その部門に見合った総合的なマネジメント力の確保という視点で検討します。
その下は組織全体のバランスを見ながら順次、となります。
―― 協議段階から市長や副市長も全体を把握しているのでしょうか?
Aさん 係長級までは市長や副市長も入ってしっかりと協議しています。職員全体の人事案については、人事課で案を作成して協議のうえ市長までの了解を得ることになります。
異動には上司の意見も大きく影響。上司に自分を知ってもらうことも大事
―― 異動の協議段階で、各課の管理職へヒアリングするとのことですが、そこで「この職員は異動させられない」などの要望が出たりするのでしょうか?
Aさん 今異動してしまうと業務のつながりが途切れてしまうといった声が上がることは多々あります。逆に、「自分の部下はこの部署に異動したらもっと活躍できる」という意見を聞くこともありますね。
こういったさまざまな意見を集約して、組織運営の最適化を図りながら異動案を固めていくのが協議メンバーの大切な役割になります。
―― ということは、管理職の意見がかなり大きなウエイトを占めるという認識であっていますか?
Aさん そうですね。通常の人事評価なども参考にしますし、ヒアリングの場でも結構突っ込んだ話をします。職員一人ひとりの適正を把握しているのも直属の上司になりますので、そういう意味で管理職の意見のウエイトは大きいと思います。ただ、それがそのまま人事に反映されるかは別問題です。
内示がギリギリなのは、現在の業務に集中してもらいたいから
―― 異動の最終決定は2月頃とのことでしたが、内示もその時期に行われるのでしょうか
Aさん 内示は3月中旬です。4月1日付の異動なので少しバタバタすることもありますが、実際はこのくらいの時期が適正だと思います。あまり早すぎると現在の業務に対するモチベーションが低下することもありますので。
また、4月以降も1週間程度は互いに引き継ぎを行いながら業務を行うので、異動前ギリギリまでモチベーションを高く集中して仕事をしてもらいたいと考えています。
―― 異動の際、引っ越しを伴うケースでも3月中旬の内示になるのでしょうか
Aさん ほかの自治体への派遣など、引っ越しを伴うケースだと事前に「派遣に関する意思確認」という形で内々示を出し、そこで本人の承諾を得て最終的に内示を出すということになります。
ただ、本人の体調や家庭の事情などで派遣を断られることもあるので、その場合は再度異動案の調整を行い最終決定することになりますね。
―― 異動辞令を拒否することができるのでしょうか
Aさん 原則として拒否はできません。ただ、派遣の場合は生活環境が変わることになるため、さまざまな事情を考慮する必要があります。そのため、派遣のケースだけは例外的に運用されています。
―― 人事異動は毎年1回この時期に行うと決まっているのですか?
Aさん 定期異動については年1回です。ほかに不定期に年に数回、異動を行うことがあります。
―― 不定期の異動はどのようなケースで行われるのですか?
Aさん 年度途中の職員の休職や退職に伴う人員補充などが不定期異動に当てはまります。この場合、職員の異動だけでなく、非正規職員の採用や社会人の中途採用を行うこともあります。
異動が頻繁に行われるのは、自分の適性を見出し、活躍のきっかけとしてほしいから
―― 自治体の異動は民間と比較してかなり頻繁に行われるイメージがありますが、実際どのような考えで異動を行うのでしょうか。
Aさん 一般行政職においては、部署によって性質の異なるさまざまな業務が存在します。若手職員の場合、職務適性を見極めるという意味において頻繁に異動することになります。職員本人にとっても、自分の適性を見出しさらに活躍するための機会を与えられたと感じてほしいですね。
従って、30代くらいまでは結構短いスパンで異動します。一つの部署に3年くらい在籍するのが基本になります。
また、税務担当職員など公金を扱う部署や特定の企業等との関係が密になりやすい部署などの場合、リスクヘッジの面から一定期間で異動することになります。長く在籍することによるデメリットも大きい部署なので、定期的に人員の入れ替えを行う必要があるということです。
―― では、職員の適性を見極めた後は、ある程度長く在籍するのでしょうか。
Aさん その場合でも短いスパンで異動することはあります。その理由は「組織の都合」になります。「組織にとって、その人材をどこに配置するのが一番効果的か」といった全体最適を目的とした戦略的な検討を行う中で、同じ部署に長く在籍する職員もいれば短いスパンで異動する職員も出てくることになります。。
40代以降になるとマネジメント側になる職員も増えてきます。その場合でも組織力をフラット化するために、1年で動く職員もいれば、7~8年と長期にわたり一つの部署で責任者として働くということもあるでしょう。
一方でマネジメント側ではない40代以上の中堅職員は、若手職員の頻繁な異動に合わせて、若手と同じサイクルで異動を繰り返すこともあり得ます。
とはいえ、先ほど説明した通り、一般的には若手職員は適性を見極めるため、中堅以上の職員は組織の戦略にのっとった形で異動するのが基本になります。
※本記事の内容はAさんへの取材に基づき構成しています。人事制度の詳細は自治体ごとに異なります。
公務員にはなぜ異動がつきものなのか。異動はどのようにして決まるのか…
後編に続く