公開日:
トイレの確保だけでなく給水から処理まで設計し、避難所の衛生を守る

被災者の健康や尊厳を守る災害時のトイレ管理計画
災害時にトイレ環境が悪化すると、被災者が使用を避けるために飲食を控え、体調を崩す悪循環が生まれるという。刈谷市では、トイレ運用に特化した計画を策定。災害時でも使いつづけられるよう体制を整えている。
※下記はジチタイワークスVol.45(2026年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

刈谷市
生活安全部 危機管理課
主事 大見 進之助(おおみ しんのすけ)さん
いつ起きるか分からない災害に備え、優先的にトイレ施策を設計した。
災害が発生した際、優先事項の一つとして挙げられるのが、トイレ環境の整備だ。同市では、平成30年からトイレトレーラーの導入を進め、令和元年からはマンホールトイレの整備を開始。災害が多い地域ではないものの、有事に備えてトイレ環境を整えてきたという。「トイレトレーラーは、クラウドファンディングを活用し、市民や企業からの支援金で購入しました。また、マンホールトイレについては令和8年度末に市内25カ所の避難所への設置が完了する予定です」と大見さん。
令和6年1月には能登半島地震が発生。このとき、断水や下水道の損傷による深刻なトイレ問題が浮き彫りとなり、多くの自治体で備えの必要性が強く再認識されたという。「その後、避難所のトイレに関するガイドラインが内閣府により発表されています。国からの働きかけもあり、さらに意識が高まったのではないでしょうか」。
こうした国の動きや被災状況を鑑み、令和7年2月に「刈谷市災害時トイレ確保・管理計画」を策定した。国のガイドラインや、既存の避難所運営マニュアルをベースに、トイレの確保や運用に特化した計画をまとめた。「全庁的な計画にしてしまうと、策定までに多大な時間と調整が必要になります。災害はいつ起きるか分からないため、スピードが重要です。そのため、この計画はあくまでも危機管理課の指針として位置付けています」。

給水・防犯・し尿処理まで網羅し、混乱する現場の判断を支える計画へ。
同市におけるトイレの管理計画は、被災者が尊厳ある生活を営むための最低基準である「スフィア基準」に沿ってつくられている。計画には、災害時に利用される携帯トイレや組み立てトイレなど、種別ごとの想定利用回数や管理・運用方法を記載。さらに、防犯対策や給水方法、し尿処理方法まで詳しくまとめられている。し尿処理方法は、環境部局が策定した災害廃棄物の処理に関する計画を参考にしたという。「この計画には、地震が発生した際に水道管の破損などを考慮し、既存トイレをいったん使用禁止にするという重要な運用ルールがあります。見た目には使えそうでも、管が破損しているおそれがあるからです。実際に過去の震災では、汚水が流せず職員が清掃に追われる場面もあったと聞いています」。その後は、携帯トイレやゴミ袋をセットし、利用を再開するそうだ。
また、同市では様々な課の職員からなる「避難所班」を設置。避難所に配置される職員の中には、保育園などの職員も含まれており、発災時は一丸となって運営にあたる体制を整えている。この体制を確実に機能させるため、避難所運営に関する職員研修にも力を入れているという。実際の避難所で資機材の使い方を学ぶだけでなく、令和7年度からは、避難所運営の基本を確認するチェックテストも導入。テストでは、“初動期の業務内容”や“災害発生時のトイレ管理”といった実務に即した質問が出題される。加えて“備蓄品の使用方法”など、研修で学んだ内容とリンクした構成になっていることもポイントだ。テストは避難所班のメンバーが入れ替わるタイミングに合わせて年に1回実施。解説も記載されており、職員が自律的に理解を深められる仕組みとなっているという。


市民の自助を防災の目標とし、在宅避難も見据えた啓発を。
こうした行政の姿勢は、地域によい影響を与えている。「マンホールトイレの整備をきっかけに、自主防災組織が設営訓練を行うなど、地域の訓練も活発になっていると思います」。こうした活動により、地域で支え合う共助の意識も高まりつつあるという。
また、同市は自主防災組織を通じた備蓄推進の呼びかけも積極的に行っている。その後押しになっているのが、自主防災組織の活動費への8割の補助だ。「市民全員に携帯トイレを配布するには多額の費用が必要となり、行政だけで対応することは現実的ではありません。まずは自主防災組織に補助金を活用して啓発活動を行ってもらい、それをきっかけに市民の備えが広がっていけばと思います。食料や水の備蓄も大切ですが、それ以上に災害時に困るのがトイレです。生きるために必要不可欠なものとして、備蓄の優先順位を上げていきたいですね」と語る。
特に市民の備えとして重要なのは“自宅の耐震化”“家具の固定”“水・トイレの確保”だという。これらが整っていれば避難所へ行かずに済む可能性も高まるのではないかと大見さんは語る。「公助には限界があります。各自が備える自助を高めていくことこそが防災のゴールだと考えています。今後、こうした意識を市民に広げていく方針です」。













