公開日:

移住・定住施策を進めるには?自治体の事例と取り組みポイントを紹介

企画・政策
読了まで:7
移住・定住施策を進めるには?自治体の事例と取り組みポイントを紹介

人口減少が課題となる中、移住・定住施策は地域に新たな活力を生み出す重要な一手だ。一方で、移住希望者のニーズや働き方の変化を踏まえ、施策のあり方も変容の時を迎えている。本記事では、移住・定住施策の動向をはじめ、参考にしたい自治体の成功事例や国の支援制度を整理した。

※記事の掲載情報は公開日時点のものです。 

移住・定住施策の動向

地方自治体における移住・定住施策は、大きな転換期を迎えている。これまで重視されてきた“移住者数を増やす取り組み”にとどまらず、地域との継続的な関わりを生み出す方向へと、その役割が広がりつつある。

移住希望者の価値観や働き方の変化、国の地方創生政策の節目も踏まえ、主に以下の3つの変化が挙げられる。

関係人口・二地域居住への注目

住民票を移して定住する“完全移住”に加え、都市部と地方を行き来する“二地域居住”や、多様な形で地域と関わる“関係人口”への注目が高まっている。

令和6年に成立・施行された「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律」により、二地域居住を促進する制度の整備が本格化。多くの自治体で「特定居住促進計画」の策定が進んでいる。

転職なき移住の広がり

リモートワークや副業・兼業の普及により、都市部の仕事を続けながら地方へ拠点を移す“転職なき移住”も選択肢として広がりを見せている。

こうした変化を受け、自治体では移住後の暮らしを支えるため、仕事・生活・地域とのつながりを総合的に支援する取り組みが進められている。

例えば、以下のような支援を組み合わせる自治体が増加。

  • 働く環境:コワーキングスペース、通信環境の整備など
  • 暮らしの環境:医療、子育て支援、住宅支援など
  • 地域とのつながり:移住コーディネーター、地域住民との交流機会など

地域課題の解決を重視する施策へ

近年の動向として、移住・定住を人口確保だけでなく、地域課題を解決するための手段として位置付ける自治体が増えている。担い手不足が深刻な地場産業への就業支援や、空き家の利活用、地域コミュニティの維持などがその例だ。

こうした方向性は国の地方創生政策にも反映されており、交付金を活用した施策は“どれだけ地域課題の解決に寄与したか”を重視する方向へと変化している。

移住・定住施策の事例

全国の自治体で展開される、様々な移住・定住施策。ここでは、参考にしたい成功事例を紹介する。

高知県梼原町:空き家改修で移住の受け皿を整備

梼原町では、高齢化が進む中、老朽化した空き家の増加と、不動産事業者がいないことによる“移住者の住まい不足”が課題となっていた。そこで、所有者から空き家を10~12年間借り上げ、水まわりを中心に改修した上で移住者へ貸し出す「空き家活用促進事業」を実施。

改修費には国・県の補助金を活用し、同町の負担分は家賃収入で回収する仕組みにしている。さらに、移住前に地区代表者や学校との面談を挟むことで、地域コミュニティとのミスマッチも防止。

その結果、平成25年の事業開始から約10年間で411人が移住。移住者による飲食店の開業なども見られ、地域経済の活性化にも貢献している。

福井県若狭町:自治体・集落・企業が連携し、若者の就農・定住を後押し

若狭町では、農業の後継者不足や遊休農地の増加を受け、自治体・集落・企業が共同出資して農業法人「かみなか農楽舎」を設立。都市部の若者を対象に、2年間の長期滞在型農業研修を実施し、スムーズな就農・定住へのルートを整えた。

特徴的なのは、農業技術の習得にとどまらず、地域行事への参加や地域の歴史を学ぶ機会を設けるなど、地域の一員として根付くための生活支援を行っている点だ。

令和6年度で就農支援事業の開始から23年目を迎え、これまで52人の卒業生を輩出した。そのうち29人が町内で就農し、家族を含め83人が定住。また、卒業生と農業法人が町内農地の約15%を耕しており、 地域農業の担い手確保にもつながっている。

高知県東洋町:マルチワークで移住者の安定した雇用を実現

東洋町では、「特定地域づくり事業」に取り組む「東洋町特定地域づくり事業バツグン協同組合」と連携し、人手不足に悩む地域事業者と、地方で働きながら暮らしたい移住希望者をつなぐ環境づくりを進めている。

同組合が担うのは、複数の仕事を組み合わせて年間を通じた雇用を生み出す“マルチワーク”だ。組合の職員として雇用された人は、宿泊業や農業、観光業など、季節に応じて異なる事業所で稼働。これにより季節による雇用格差を解消し、安定した収入を得ながら地域で暮らせるように工夫した。

地域事業者の人手不足を補いながら、移住者の安定した雇用を実現するモデルとして関心を集めた事例だ。

※出典:東洋町特定地域づくり事業バツグン協同組合

愛媛県内子町:移住コーディネーターが地域とのつながりを支援

内子町では、人口減少や若者の流出に加え、リモートワークや二拠点生活への関心の高まりを背景に、移住者と地域をつなぐ「移住コーディネーター制度」を導入した。

移住コーディネーターは、移住相談への対応をはじめ、住まいや仕事の紹介、移住体験ツアーの案内、学校との橋渡しなどを担当。さらに、コワーキングスペースを拠点としたリモートワーク移住交流事業や、地域で活動するキーパーソンとも連携し、移住検討者がコミュニティへ溶け込める環境を整えている。

秋田県羽後町:地域おこし協力隊の定住・活躍を支える仕組みづくり

羽後町では、地域おこし協力隊の任期終了後も地域に残って活躍できる環境を目指し、NPO法人「みらいの学校」を設立。元隊員が理事として活動し、地域事業者の情報発信支援やイベント運営などを通じて、地域との絆を深めている。

また、職員が協力隊の相談や提案に対する調整役を担うなど、地域とのつながりづくりを支援。こうした取り組みにより、任期終了後も地域に定住したり、地域との関わりを続ける元隊員が増えている。

事例から見る移住・定住施策を成功させるポイント

空き家活用や就農支援、移住体験、関係人口の創出など、施策の切り口は様々。一方で、成果を上げてきた自治体には、いくつかの共通点があるといえそうだ。

ターゲットを明確にして施策を設計する

まずは、移住希望者全体を対象にするのではなく、呼び込みたい層を明確に設定していること。子育て世帯、就農希望者、テレワーカーなど、属性によって求める住まいや仕事、地域との関わり方は異なる。

これを考慮し、地域の強みとターゲットのニーズをうまく結び付けることで、他自治体との差別化がしやすくなる。

行政だけでなく地域や民間と連携して進める

次に、行政だけで進めるのではなく、民間企業や地域住民、NPOなどと役割を分担していること。行政は制度設計や財政支援を担い、民間は運営や情報発信、地域は移住者の受け入れや日常的な暮らしのサポートを担う。

こうした役割分担は、特定の誰かに負担を集中させず、プロジェクトを地域全体で無理なく継続するための基盤として機能する。

地域資源を活かした施策を展開する

新しい施設や制度を初めから整備するのではなく、既存資源や取り組みをベースに施策を展開している点もポイントだ。

空き家や公共施設、地域産業、子育て環境など、すでにある資産に新たな役割や切り口を持たせることで、その地域らしさを活かせるだけでなく、限られた予算での効果的なアプローチが可能となる。

移住前から移住後まで切れ目なく支援する

移住希望者を呼び込むだけでなく、地域に愛着を持って定着してもらうための仕組みも重要だ。

事前の相談や体験ツアーを通じて地域との接点をつくるだけでなく、住まいや仕事のあっせん、住民とのコミュニティ形成、移住後のアフターフォローまで、一連の流れを意識した動線を設計する。

移住前から移住後まで切れ目なく支援することで、地域とのミスマッチを防ぎやすくし、長期的な定住へとつなげる。

移住・定住施策を後押しする国の支援制度

自治体独自の取り組みに、国の支援制度を組み合わせることで、事業成果の向上が期待できる。その代表的な制度を見てみよう。

移住支援金(地方創生移住支援事業)

東京23区に在住または通勤していた人が、東京圏以外の地域や東京圏内の条件不利地域へ移住し、一定の要件を満たした場合に支給される支援金。就業やリモートワーク、起業などを対象としており、移住促進施策の一つとして活用されている。

希望者の経済的な負担を軽減できるため、移住相談や就業支援、住宅支援などと組み合わせて活用されるケースも多い。ただし、支給要件や対象となる求人などは自治体ごとに異なる。

内閣官房地域未来戦略本部事務局 内閣府地方創生推進事務局「移住支援金」より

起業支援金(地方創生起業支援事業)

地域課題の解決につながる事業を新たに立ち上げる人を対象に、起業に必要な経費の一部を補助する制度。

地域経済の活性化や雇用創出が期待できるため、移住支援金と組み合わせて活用されるケースもある。移住者の働く場をつくる施策として活用できる点も特徴だ。

内閣官房地域未来戦略本部事務局 内閣府地方創生推進事務局「起業支援金」より

まとめ

移住・定住施策は、単に移住者数を増やすだけでなく、地域課題の解決や関係人口の創出など、地域の持続的な発展につなげる視点が不可欠になっている。

本記事で紹介した事例のように、各地において、空き家活用や就農支援、移住体験、マルチワークなど、地域の実情に合わせた様々な取り組みが行われている。国の支援制度も視野に入れつつ、その地域らしい仕組みや事業を模索していくことが大切だ。