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【セミナーレポート】行動イメージが湧く-庁内業務の改善ノウハウ-

「多様なサービスがある中で、どれが自分たちの課題解決に適しているのか分からない」「サービスを導入したが、現場に定着せず活用が進まない」——DXを活用した庁内業務改善において、こんな悩みを抱いたことはありませんか。
そこで、本セミナーでは、具体的な自治体事例やデモを通じて、業務改善の具体的な進め方をお伝えします。
概要
■テーマ:行動イメージが湧く-庁内業務の改善ノウハウ-
■実施日:令和8年3月5日(木)
■参加費:無料
■申込者数:222人
With Gemini(生成AI)な働き方変容〜あなたの仕事に、最強のパートナーを〜
最初に話を伺ったのは、宮崎市の松浦裕氏。庁内業務の効率化を実現したGeminiの活用実例を中心に、定着するために工夫した点などを伺いました。

【講師】
宮崎県宮崎市
総務部デジタル支援課
松浦 裕 氏
民間SIerのインフラエンジニアを経て宮崎市へ入庁。情報処理安全確保支援士。既存の枠組みにとらわれず「染まらない」を信条に、専門知見を武器に自ら仕掛け、楽しく魅力ある環境作りを目指して、日々の変化を楽しんでいる。
「止めない行政」と「市民目線のスピード」が出発点
宮崎市がGoogleを中心に業務プラットフォームをつくっている理由は、大きく2つあります。1つは、「止めない行政」を実現するためです。大きな災害が起きたとき、職員が庁舎に来られないことも、手元に庁内PCがないこともあり得ます。そうした状況でも必要な情報にアクセスし、業務を継続できる環境が必要だと考えました。
もう1つは、「市民目線のスピードに合わせる」ためです。市民は日々インターネットやスマートフォンを使い、新しいサービスにもすぐに触れています。行政だけが従来のやり方にとどまっていては、そのスピードに追いつけません。そこで、宮崎市では仕事の中心をインターネット側、つまりクラウドへ移し、100%クラウドベースで業務を進めやすいGoogleを採用しました。

導入前は、庁舎内のパソコンの前でなければ仕事ができず、データも担当者ごとに順番に受け渡しながら処理していました。しかし今は、場所にとらわれず同じ情報へ一斉にアクセスし、それぞれが同時に業務を進められる形へ変わってきています。
象徴的なのが会議です。宮崎市では会議を「完全Meet化」しており、隣の部屋に参加者がいても、それぞれの席からGoogle Meetで参加しています。会議室の予約や机のレイアウト変更、移動といった手間が不要になり、部長級の職員でも移動時間ゼロで参加できるようになりました。

生成AIは「日常業務の道具」に
宮崎市では、議事録自動作成の「ミヤティー」、庁内規則やマニュアル検索の「ミヤキュー」、文書作成やアイデア出しに使うGemini、知識整理に使うNotebookLMなど、複数の生成AIを用途に応じて使い分けています。2026年3月2日時点で、正職員のGeminiアクティブユーザー率は76.95%となっており、かなり広い範囲で活用が進んでいます。


生成AIを庁内に広げるうえで、最初から高度な使い方を求めたわけではありません。まずは、誰が使っても効果が出やすい業務から始めています。その代表が議事録作成です。これまでは、会議中に1人がずっとメモを取ったり、録音した音声をあとから聞き返して文字起こししたりする必要がありました。そこを生成AIに任せることで、議事録作成の作業時間は約6割圧縮できています。Google Meetで録音し、そのまま議事録を生成・配布する運用にすることで、会議に集中しやすくなり、会議後の事務負担も大きく減りました。

マニュアル検索をAI化し、問い合わせ対応の待ち時間を減らす
もう1つ、確実に効果が出ているのが、庁内規則やマニュアルの検索です。人事異動の時期になると、「この仕事の根拠は何か」「必要な資料はどこにあるのか」を探すだけで時間がかかります。担当者が不在だと、その場で回答できず、市民を待たせてしまうこともあります。
そこで、引継ぎ資料や業務マニュアル、法令などをAIに覚え込ませ、チャット上で質問すれば必要な情報が返ってくる仕組みを整えました。これにより、1件あたり20分程度の削減効果が出ています。

AIで入力作業は80%削減
また、自治体業務では、相手方の事情などもあり、どうしても完全なデジタル化が難しい場面があります。宮崎市では、そうした手書き書類の処理にも生成AIを活用しています。
たとえば、乗合タクシー補助申請のように毎月300件ほど発生する手書き申請書類では、処理方法や文字の癖を学習させた専用AIを用意し、PDFを読み取って構造化データへ変換しています。その後の集計や分析までつなげることで、これまで人が入力し直していた作業は80%削減できました。申請から資料作成までにかかる日数も、7日から2日に短縮できています。

データ集約から可視化までを自動化し、分析を速くする
CSVやExcelデータの集約・分析でも生成AIを活用しています。事業者などから届くデータをGoogleドライブに格納し、生成AIで作成したスクリプトを実行するだけで、自動的にデータを集約し、レポートやダッシュボードまで作成できるようにしています。
シェアサイクルの利用実績の分析では、これまで2日かかっていた分析から可視化までの作業が、1時間で済むようになりました。

住民対応や情報発信にも生成AIを活用
住民からの問い合わせ対応でも効果が出ています。これまでは、過去の対応履歴や関連資料を探し、メールの返信文を作って確認し、送信する流れでした。今は過去の問い合わせデータをソースとして登録し、NotebookLMを使って回答案を作成しています。これにより、1件あたりの対応時間は20分から10分に短縮できています。

さらに、市長記者会見の概要版も、原稿をAIで要約し、AI音声で読み上げる動画にすることで、撮影時間は40分から15分、編集時間は3時間から1時間、視聴時間も15分から3分へ短縮できました。YouTubeの視聴回数が前月比1.6倍になったことからも、市民向けの情報発信において一定の効果が出ていると感じています。

庁内定着を支えるのは「4つの柱」
こうした取り組みを進めるうえで重視しているのが、「ツールを配って終わりにしない」ことです。宮崎市では、ハンズオン、お助け隊、課題解決型研修、結果共有の4本柱で活用を広げています。

できる人はさらに伸ばし、苦手な人も取り残さない進め方です。ハンズオンには今年度だけで600人以上が参加し、お助け隊も約300人が利用しています。課題解決型研修では、参加者が現場の課題を持ち寄り、それをどう分析し、どう改善し、どう測るのかまで考えながら、数か月かけて仕組み化していきます。単なる操作説明ではなく、実務上の課題解決と結びつけている点が特徴です。
こうした取り組みの目的は、単に「AIを使えるようになること」ではありません。生成AIは、こちらが指示をしなければ動きません。だからこそ、「この仕事は何のためにあるのか」「どこまでをAIに任せ、どこを人が判断するのか」を考えながら使うことになります。
宮崎市では、その過程を通じて、職員が“作業者”ではなく“ディレクター”の視点を持つようになることを重視しています。どういう風に指示をするとAIは動いてくれるのか、AIにさせたい仕事はどういったことなのかというのを、もう一度自分の中で噛み砕いて指示をするので、1つ上の立場に立ったものの考え方ができてくるといった職員が、育ってきているのを実感しています。
【参加者とのQ&A(※一部抜粋)】
Q:「完全Meet化」をする上で、自席で座って会議などをしている場合に電話や来客があったらどうされていますか。
A:「会議中です」というスケジュールもすべて公開されているので、電話には出ません。来客は担当者が対応しますので、会議中は会議に集中できるようになっています。
Q:削減時間の計測はどのようにしていますか。
A:アンケートをベースにしているほかに、Workspaceはログがすべて取れるので、ログを数えることで効果を測っています。ただ、使い出す前のデータはないので、もし今後取り組まれる場合には現状をしっかり数字として残しておくことをおすすめします。
庁内業務改善を前進させる「会計事務DX」~横須賀市に学ぶ事例と手法~
第2部に登壇したのは株式会社インフォマートの入江秀樹氏。多くの職員が時間を割く「物品購入(調達)」等の業務において、発生する課題やその分野におけるDXの必要性について最新の調査結果を踏まえ解説していただきました。

【講師】
株式会社インフォマート
デジタルガバメント推進課
副部長 入江 秀樹 氏
見落とされがちな「会計事務」の業務
DX推進部門のみなさん、備品購入に伴う事務処理に追われた経験はありませんか。会計事務というと会計課の仕事だと思われがちですが、実際には全職員が関わる備品調達の帳票処理も、立派な会計事務の一部です。請求書が届いたあと、複数の作業が発生しているかと思います。紙でもPDFでも、こうした事務作業の処理時間に日々追われている自治体は多いのではないでしょうか。

ここで改めて考えたいのは、皆さんの大切な時間が、本来やるべき業務ではなく、書類作成や確認、移動や受け渡しといった処理に奪われていないかということです。しかも、長年続いてきた慣習の中で、その作業時間そのものが「当たり前の業務」になってしまっていないでしょうか。
本来やるべき業務そのものを削ることはできません。だからこそ、周辺に付随する書類処理や確認、転記、移動の時間をどう減らすかが重要になります。 実際、弊社が行った自治体の会計業務に関する実態調査では、請求書の受け取り方法として紙は減少傾向にあり、PDFでの受け取りは急増しています。一方で、帳票処理に関する業務負担を見ると、紛失対応や支払い遅延は減少しているものの、システムへの転記、入力ミス、漏れといった負担は依然として大きいままです。つまり、紙をPDFに置き換えただけでは、根本的な業務負担は解消されていないのです。DXと呼ぶには、まだ一歩手前だと考えています。

会計事務DXがもたらす2つの価値「時間の創出」と「データの利活用」
「会計事務DX」とは、自治体と取引事業者の間でやり取りする帳票がPDFではなく「データ」になることで、会計事務の工程そのものへ変革を起こすことだと考えています。単に紙をなくすことではなく、データとして受け取り、そのまま次の工程へつなげられる状態をつくることが、本当の意味でのDXです。
本来の「会計事務DX」がもたらす価値は大きく2つあります。1つ目は「時間とリソースの創出」です。会計事務は多くの職員が毎日関わる業務だからこそ、ここを変えることで全庁的な作業時間の削減が見込めます。限られた人員の中で効率化を図るには、こうした裾野の広い業務から着手することが有効です。
2つ目は「データの可視化・資産化・利活用」です。取引情報や業務プロセスがデータとして残ることで、庁内の動きが見えるようになり、これまで見えていなかったボトルネックや改善余地を把握できるようになります。職員が数字を合わせる作業に追われるのではなく、その支出が妥当か、政策的にどう見るべきかという判断に時間を使える点に大きな価値があると考えています。

データ活用の観点でも、現状はまだ十分とは言えません。実態調査では、約4割の自治体が請求書データの分析や利活用をまったくできていないという結果が出ています。一方で、すでに取り組んでいる自治体では、差し戻しの要因や不備項目の分析、同一物品の調達単価のばらつきの可視化、物品や役務ごとの調達金額の偏りの調査、地元事業者への支出比率の分析などに活用しています。

今後はAIを使った分析も含めて、こうしたデータ活用はさらに求められていくはずです。そのとき必要になるのは、構造化されたデータです。だからこそ、今のうちから「データが自然に蓄積される仕組み」をつくることが重要だと考えています。
横須賀市の事例に学ぶ
ここで、先進事例として横須賀市の取り組みをご紹介します。横須賀市が抱えていた課題を一言でいえば「紙とデジタルが混在していることによる大きな事務負担」でした。年間約4万件もの請求書を処理するなかで、紙で届いたものは、システムへの手入力やPDF化のスキャン、原本のファイリング作業が発生していました。また、受け取り手段は郵送、持参、FAX、メールなどが混在し、部署や担当者によって運用ルールも異なっていたため、業務が属人化し、どの案件がどこで止まっているのか全体の進捗も見えない状態でした。

過去に他社サービスを使ったり自社開発システムを導入しましたが、効果は十分に見られなかったそうです。そこから弊社サービスを導入したことで横須賀市が得られた効果は、大きく2つあります。
まず1つ目は「業務の効率化とコスト削減」です。電子請求書へ移行したことで紙がなくなり、開封やファイリング、印刷や郵送の手間が削減されました。2つ目は「業務の標準化による見えない課題の可視化」です。これまでブラックボックス化していた業務の流れが、データによって把握できるようになりました。受け取り経路を一本化したことで、どこで差し戻しが起きているのか、どの工程がボトルネックになっているのかが見えるようになり、単なるペーパーレスでは終わらない業務改善へとつながっています。

DXの価値は、作業時間を減らすことだけではありません。業務プロセスをデータで捉え、改善を回せる状態にすることにあります。
横須賀市の業務改善を成功に導いた「電子請求ソリューション」とは
こうした会計事務DXを支える仕組みとして、弊社では「BtoBプラットフォーム」を提供しています。

見積から請求まで一連の帳票をワンストップで電子化できること、LGWAN環境に対応していること、そして財務会計システムとデータ連携できることが大きな特徴です。データをそのまま次の工程へ引き継げるため、転記ミスや伝票作成漏れ、支払い遅延のリスクを下げることができます。

現在、アカウントを持つ企業は125万社以上にのぼり、国内企業の約3分の1が利用しています。1つのIDで複数の自治体、公営企業、民間企業とつながることができます。事業者は指定の自治体との取引に関わらず、他自治体や事業者同士の取引もデジタル化できるため、地域全体のデジタル化を後押しすることができるのも特徴です。また、見積書、契約書、発注書、納品書、請求書までを1つのIDで電子化できるため、発注側にも受注側にも運用負担が少ないところも、単発の電子請求ツールとは違う点だと考えています。
最後にお伝えしたいのは、自治体と事業者の間に、電子化に対する認識のミスマッチが起きている可能性があるということです。実態調査では、「なぜ電子化が進まないのか」という問いに対し、自治体は「事業者が対応できないと思うから」と答え、事業者は「自治体から求められないから」と答えていました。

つまり、お互いが相手の出方を待っている状態です。もし自治体側が一歩踏み出し、電子化の仕組みを整えて事業者に手を差し伸べることができれば、会計事務だけでなく、地域全体のDXも前に進んでいくはずです。
議会答弁事務を支える「生成AI×業務改善」~複数自治体で見えた課題と改善アプローチ~
第3部に登壇したのは、日本電子計算株式会社の太田優希氏。議会答弁業務の負担軽減に取り組む中で見えた課題をもとに、議会答弁業務を生成AIで改善するための手法を解説していただきました。

【講師】
日本電子計算株式会社
公共事業部東海ソリューション統括部デジタルサービス担当
担当部長 太田 優希 氏
生成AIで見直す自治体の答弁業務
自治体業務のなかでも、議会答弁は特に負荷の高い仕事のひとつです。短い期間のなかで大量の資料を読み込み、過去答弁や議員の傾向、地域特性、表現ルールまで踏まえながら答弁案をまとめていかなければなりません。しかも、扱う情報はセンシティブで、最終的な精度も強く求められます。日本電子計算では、こうした課題に対してAIエージェント基盤サービス「つなぎAI」を活用し、議会答弁業務の改善に取り組んでいます。
実際に議会答弁業務の課題を整理していくと、まず大きいのは「膨大な資料の参照」です。加えて、自治体独自の特性をどう加味するかも大きな課題です。過去答弁や議員の特性を踏まえた傾向分析が求められる一方で、そこは経験のある職員の知見に頼りやすく、属人化しやすい領域でもあります。センシティブな情報を扱うため慎重さも求められ、背景理解まで含めて、担当者の経験値に左右されやすい構造がありました。
さらに、表現の統一も見逃せません。議会答弁には、言い回しや定型表現、細かな作法など、独自のルールがあります。こうしたルール確認には手間がかかり、新任者ほど負担が大きくなります。一方で、ベテラン職員の知識や経験に頼る運用では、新しい視点や発想を取り入れにくいという課題もあります。
しかも、議会日程はタイトで、人手不足も慢性的です。残業が増えやすく、「やり方そのものを変える必要がある」という状況が見えてきました。


そこで大事になるのが、議会答弁業務において「誰が」「いつ」「何をしているのか」を見える化することです。こうして分解してみると、どこに時間がかかっているのか、どの工程ならAIが効果を発揮しやすいのかが見えてきます。

こうした一つひとつの工程を棚卸しして、「ここはAIが向いている」「ここは人が判断すべき」と切り分けることが、改善の出発点になります。
人とAIの得意分野を分けて考える
次に重要なのは、人とAIの得意分野を整理することです。何でもAIに任せるのではなく、どこで使えば効果が出るのかを見極める必要があります。

まず情報整理では、AIは大量文書を一括で処理し、高速に要約できます。人が検索結果を一つひとつ読んで整理するよりも、明らかに向いている領域です。傾向分析も同様で、過去の大量資料をAIに分析させ、答弁に反映させることが可能です。表現統一についても、ルールや作法を参照させれば、AIは最初から一定の形式に合わせた出力ができます。さらに新しい発想という点でも、AIは多面的な知識から視点を拡張しやすく、人が思いつかなかった切り口を出してくれることがあります。
また、背景理解のように一見AIには難しそうにみえる分野であっても、必要な前提情報や文脈を与えることで、意図や慣習を反映させることが可能です。
一方で、最終確認は人の役割が欠かせません。最終確認は、ハルシネーション対策のためにも必ず人が行うべきです。つまり、AIを活用するポイントは「人をなくす」ことではなく、高速化・自動化できる部分はAIに任せ、人が本当に見るべきところに集中することにあります。
生成AI活用で業務削減につながった4つのケース
実際に、議会答弁業務の現場で時間削減につながった活用ケースは4つあります。いずれも、資料を読ませて終わりではなく、業務の流れに沿ってAIを組み込んだ事例です。
ケース1 議員質問を担当課ごとに振り分ける
従来は、人が議会質問の文書を読み込み、過去事例や担当課の業務内容を参照しながら、どの部署が答弁するのかを分類していました。しかし、AI活用後は質問原稿をAIに投入し、過去事例や担当業務の情報をもとに自動分類し、最後に人が確認する流れに変えました。約8000字の質問を扱う場合、人が読むだけで16〜20分程度かかるのに対し、AIは分類まで含めて約3分で完了し、精度も9割程度という結果が出ています。

ケース2 過去答弁を検索し、答弁案まで作成する
従来は、担当者が議会質問に関係する過去答弁を探し、それを網羅的に整理したうえで、答弁案を作成していました。この作業をAIに置き換えると、関連する過去答弁の検索、内容の整理、答弁案の素案作成までを一気通貫で処理できます。人が作成する場合に約60分かかっていた作業が、AI活用により10分に短縮され、精度も10段階評価で8という高い評価が得られています。特に、資料を読み込んで整理する工程の負担軽減が大きいと感じています。

ケース3 議員の傾向を分析して答弁に反映する
議会答弁では、議員ごとの問題意識や質問傾向も踏まえる必要があります。そこで、過去事例や他自治体事例、議員の傾向をAIに読み込ませ、答弁案に反映させる取り組みを行いました。従来は、人が質問内容を読み込み、過去事例や他区市町村事例を調べたうえで答弁案を作り、さらに議員の傾向を踏まえて修正していましたが、AI活用後は、こうした材料をもとにAIが答弁案を作成し、人が確認する流れに変えています。この結果、最大60分程度の時間削減につながり、精度も20点満点中16点と高評価でした。

ケース4 想定質問と回答例を作成する
答弁案から想定される追加質問を考え、それに対する回答まで用意する作業は、経験が求められるうえに非常に時間がかかります。そこで、答弁内容をもとにAIに想定質問を考察させ、回答例まで作成させる取り組みを行いました。AIは、人が思いつかなかった角度から質問を出してくることもあり、「この観点は使える」といった評価もいただいています。さらに、表現の統一も同時に進められるため、単なる効率化にとどまらない効果があります。

こうした事例を踏まえると、自治体が明日から始められるアクションは大きく3つあります。1つ目は、業務フローの棚卸しです。どのような作業を誰が行っているのかを見える化し、どこに課題があり、どこをAIで置き換えられそうかを確認していきます。闇雲に導入するよりも、まず業務を分解してから着手したほうが、再現性の高い改善につながります。
2つ目は、人とAIの役割分担を決めることです。何でもAIに任せようとすると、期待外れに感じて「使えない」という結論になりがちです。そうではなく、AIが得意なところ、人が判断すべきところをあらかじめ整理しておけば、運用はかなり安定します。議会答弁のように精度が求められる業務では、この切り分けが特に重要です。
3つ目は、生成AIの利用ガイドラインを策定することです。まだAI未導入の自治体であっても、ガイドラインを整えておくことで、今後の活用に向けた土台をつくれます。どこまで使うのか、何を確認するのか、どんな情報は扱わないのか。こうしたルールを整理しておくことが、安心して使い始めるための前提になります。

私たちは、これら3つのアクションに対して、業務ヒアリングによる現状分析、職員向けワークショップの開催、ガイドライン作成支援といった形のサービスで伴走しています。大切なのは、特定のツールを入れることではなく、業務フローを見直し、人とAIの役割分担を定め、最終的に職員の負担をどう軽くするかを設計することです。
弊社の「つなぎAI」に少しでも興味をもっていただいた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

レベル1から始める!RPG式・現場主導のDX
第4部に登壇したのは、山梨県富士吉田市の小俣貴司氏。ITスキルゼロの職員が、まさに“レベル1”から取り組んだ、ボトムアップ型のDXについて話を伺いました。

【講師】
山梨県 富士吉田市
総務部財政情報課
主査 小俣 貴司 氏
平成24年度に富士吉田市へ入庁。税務、建築住宅、まちづくり、地域振興、市立病院管理など幅広い部署を経験。令和7年度より総務部財政情報課に所属。
2020年の給付金業務で突きつけられた「デジタル敗戦」
富士吉田市のDXは、大きな構想や華々しいビジョンから始まったわけではありません。出発点にあったのは、もっと切実で、もっと現場的な思いでした。それは「どうしても定時で帰りたい」というもの。
2020年、1人1万円の給付金業務に直面したとき、私たちはまさに“デジタル敗戦”を経験しました。データ更新を1回かけるだけで30分待たされ、残業時間は月71時間に達し、現場は完全に疲弊していました。この敗北体験が、現場主導のDXという長い冒険の出発点になったのです。

当時の業務には、紙の山、転記の連続、属人化という典型的な課題がありました。手作業による入力と集計はミスの不安と隣り合わせで、担当者しか全体を把握できない状態にもなっていました。特に、補助金管理では8種類もの制度を扱っており、Excelファイルは複雑に入り組み、もはや“迷宮”と呼びたくなるような状態でした。現場では、デジタル化以前に、まず業務そのものが整理されていなかったのです。
そこで、最初に「誰かのため、市民のためという前に、まずは自分たちが楽になるためにツールを使う」という基本方針を定めました。もちろん、市民サービスの向上は自治体にとって重要な使命です。ただ、自分たちに余裕がなければ、安定したサービスを提供できません。現場が疲弊したままでは、良い仕事は続かない。だからこそ、まずは職員が楽になることを正面から目標に据えました。
最初のターゲットにしたのは、「迷宮Excelからの脱却」です。単にツールを置き換えるのではなく、そもそもこの手順は本当に必要なのかを見直す、BPRの視点から始めました。VBAも候補にありましたが、専門知識が必要で、異動後に誰も直せなくなる恐れがある。属人化しやすく、保守も難しい。
そこで選んだのが、ノーコードツールのkintoneです。専門知識がなくても扱え、誰でも使え、引き継ぎもしやすい点が決定打となりました。
レベル1 まずは自分の仕事を楽にする
導入前は、紙の申請を受け付け、その内容をExcelに手入力し、最後に手作業で集計するという流れでした。人がやらなくてもよい作業に多くの時間が奪われていたのです。これをkintoneで組み直した結果、オンライン申請フォームから届いたデータがそのままデータベースに保存され、集計も自動化できるようになりました。つまり、「転記」という概念そのものが業務から消えたのです。

ここで重要だったのは、プログラミング知識ゼロの私でも、この仕組みを構築できたことです。現場の一般職員であっても、デジタルの力を借りながら、自分たちの実務を自分たちで設計できる。その事実はとても大きかったと思います。レベル1の成功は、特別な人だけがDXを進められるのではなく、現場の職員でも十分に担い手になれることを示してくれました。
レベル2 身近な雑務を改善し、仲間を増やす
次の段階では、自分たちだけが楽になるところから一歩進み、周囲の職員にも「デジタルって便利かもしれない」と感じてもらうことを狙いました。そのために選んだのは、誰もが関わる身近な雑務です。郵便発送の報告、消耗品の請求、公用車の給油確認など、一つひとつは地味でも、日々の業務のなかで確実に手間になっている仕事をkintone化していきました。

進め方も特徴的でした。いきなり完成品を押しつけるのではなく、「これ、面倒ですよね。ウェブフォームにして自動集計しませんか」と声をかけ、まず試作品を作って使ってもらい、そこから改善していくアジャイル型のやり方をとりました。kintoneは、失敗してもすぐに修正できるので、この進め方と相性が良かったのです。
給付金業務の再来で見えた変化
kintoneの輪を広げ始めて約2年後の2022年、再び給付金業務という大きな課題がやってきました。ただ、2020年と異なっていたのは、今回はkintoneという装備と、改善を支える仲間がいたことです。
ここでは、オンライン申請に加えて、高齢者への配慮として紙申請も受け付けるハイブリッド方式を採用しました。そのうえで、すべてのデータをkintoneに集約し、一元管理する仕組みにしたのです。入口は複数でも、庁内ではデータを断絶させない。転記をなくすという戦術を徹底しました。

結果は明確でした。2020年には月71時間に達していた残業時間が、2022年には19時間まで減少しました。30分かかっていたデータ更新待機はリアルタイムになり、全庁からの応援に頼らなくても、課内の人員だけで余裕を持って完結できるようになりました。まさに、過去の自分たちを乗り越えた瞬間でした。

勝利を一過性で終わらせないため、育成と自走化へ進む
こうした成果を一時的なものにしないため、次に取り組んだのが育成です。定期的なハンズオン研修を開き、マウス操作だけでもアプリが作れることを職員に実感してもらいました。また、個別相談の場では、単に代わりに作ってあげるのではなく、ヒアリングから要件整理、試作、実装までを一緒に進める伴走型の支援を行いました。考え方のプロセスそのものを共有することで、現場の職員が自分で考え、自分で改善する力を身につけられるよう意識しました。

最終目標は、現場の職員が自ら業務を改善し続ける「自走化」です。そのため、富士吉田市ではアプリ作成権限を広く解放しています。その代わりに、アプリ管理アプリを使って、年1回、使われていないアプリを抽出し、継続か廃棄かを整理する仕組みを整えています。

立ちはだかる全庁展開の壁
しかし、新たな壁も見えてきました。導入から4年経っても、活用が一部の課にとどまっていたのです。その原因は明確でした。全職員にアカウントがないことです。庁内の承認フローの途中にアカウントのない職員がいると、そこでシステム内の流れが止まり、結局は紙に戻らざるを得ない。入口だけがデジタル化されても、庁内処理がアナログのままなら、真のDXにはなりません。この閉塞感を打ち破るため、全職員へのkintone導入を提案しましたが、予算を理由に却下されました。まさにゲームオーバーのような瞬間でした。
それでも諦めませんでした。予算がないなら、実績で必要性を示すしかない。そう考え、まず有志による自主研究グループを立ち上げ、無料期間を活用してコストをかけずに検証を始めました。

次に、連携サービスの検証プランを使い、2か月間、高度な自動化がどこまで可能かを集中的に試しました。

そして最後に、全職員が必ず関わる総務分野のキラーアプリを短期間で開発しました。言葉で説得するのではなく、「動くもの」を見せて証明する。この地道な検証が、最終的に関係者の理解を動かしていきました。

こうした積み重ねの結果、サイボウズの「まるごとDX BOX」による1年間の無料実証実験への参加が決まり、全庁展開への道が開かれました。ここからは、私個人の挑戦ではなく、組織としてのDX推進にフェーズが移っていきます。
私はDX推進担当として技術面の支援に特化し、総務課が運用ルールの周知や職員マスタの管理など、基盤部分を担う体制をつくりました。DXは、一人で戦う“ソロプレイ”では限界があります。実際に前へ進めるには、役割を分担しながら組織として進める必要がありました。
さらに、庁外のつながりも大きな力になりました。自治体職員コミュニティ「ガブキン」で同じ悩みを持つ仲間と情報交換したり、異業種が集まる「kintone Café」に参加し、役所の外にある発想や技術に触れたりしました。外の知見を取り込み、それを庁内に持ち帰る。この循環が、改善のスピードをさらに押し上げていきました。
現場主導DXは「困っている人」から始まる
富士吉田市のDXは段階的に進んできました。レベル1では、まず自分の業務を楽にすることから始めました。レベル2では、身近な雑務を改善しながら仲間を増やしました。レベル3では、動く実績を積み上げて全庁展開への道を開きました。そしてレベル4では、全職員アカウントを前提に組織全体で運用できる基盤づくりへと進みました。
出発点は、「定時で帰りたい」という、誰にでもある感情です。けれど、その素直な思いが、業務を見直し、仲間を増やし、実績をつくり、組織を動かす力になりました。現場主導のDXは、特別なスキルを持つ一部の人だけのものではありません。むしろ、自分の業務の中にある「ここが面倒だ」「ここを何とかしたい」という違和感こそが、最初の一歩になります。
新年度に向けてAIを味方につけた集合知形成で人事異動をスムーズに
第5部に登壇したのは、中央コンピューター株式会社の根来隆氏と白木智隆氏。人事異動の際に発生する「引き継ぎ資料作り」において、生成AIでいかに業務を効率化するか、ポイントを伺いました。

【講師】
中央コンピューター株式会社
ビジネスイノベーション本部 DX推進部
部長 根来 隆 氏
白木 智隆 氏
異動のたびに失われる「判断の経緯」をどう残すか
自治体では異動が制度として前提になっています。ところが、引き継ぎ資料やマニュアルがあっても、いざ新しい席に座って仕事を始めると「この案件、なぜこの判断になったのだろう」と、手が止まってしまう場面があります。手順は残っていても、その背景や経緯、判断の理由まで書き切れていない。こうした“見えない経験”が、引き継ぎの難しさの本質ではないでしょうか。中央コンピューターでは、この課題を個人の努力ではなく構造の問題として捉え、AIを活用しながら組織の知見を残していくアプローチを提案しています。

引き継がれるのは多くの場合、作業手順や目に見える成果物だけで、その判断に至るまでの背景や前例、細かな配慮が文章として残されていません。担当者が「知っている前提」で業務が回ってしまい、判断基準が言語化されないまま引き継がれていく。この構造が、異動後の立ち上がりを難しくしています。
すると、新任者は不安を抱え、周囲の確認業務も増え、組織全体として非効率が生まれてしまいます。異動が前提の組織である以上、誰かがいなくなった途端に判断の根拠が見えなくなる状態は、できるだけ避ける必要があります。
言語化しにくい暗黙知
自治体の仕事には、ベテラン職員の勘やコツに支えられている部分が少なくありません。「なんとなくこちらのほうが安全」「この場合はこうしておいたほうが無難」といった判断の裏には、過去の経緯や前例、地域特性、関係者とのやり取りなど、長年積み重なった経験があります。けれども、こうした暗黙知は性質上、文章として残りにくいものです。
しかも、通常業務と並行してその背景まで丁寧に書き起こすのは、現場にとってかなり重い負担です。丁寧に引き継ぎたい気持ちはあっても、通常業務と並行した言語化は難しい。この現実を前提にしなければ、引き継ぎ改善は進まないと考えています。

「書く」前にまず「話す」
そこで提案したいのが、最初から完璧な文書を作ろうとしないことです。いきなりきれいな引き継ぎ資料を書こうとすると、どうしても構えてしまいますが、「やっていることをそのまま話す」なら、心理的なハードルはかなり下がります。書くより話すほうが負担は軽く、断片的でも構わない。まずは頭の中にあるものを外へ出すことが大切です。
具体的には、音声入力や文字起こしを使いながら、作業の流れや判断のポイント、迷いやすい点をそのまま言葉にしていきます。順番が前後しても、整理されていなくても問題ありません。アイデアやメモ、思考の断片を含めて、とにかく外に出していく。この段階では、完成度よりも“素材を出すこと”が重要です。

次のステップでは、その話した内容をAIで構造化します。散らばった背景や経緯、判断の理由を整理し、引き継ぎ資料の骨子やFAQの形へ変換していくのです。ここで初めて、「次の担当者のためのたたき台」ができあがります。人が一から文章にするのではなく、素材をAIに整理させることで、知見を残すハードルを下げられます。

たとえば、AIに対して「この説明から背景と判断理由を抽出して」「問い合わせを想定したFAQ形式にして」と投げかけることで、ただの会話の断片が、次に使える形へと整っていきます。これにより、引き継ぎ資料の作成が“重たい文書作成”から、“話した内容の整理”へと変わります。
さらにAIと「壁打ち」することで、暗黙知を引き出す
そして、3つ目のステップとして、AIと「壁打ち」をします。つまり、AIに初心者が疑問に思いそうな点や、抜け漏れ、前提条件、例外対応を挙げさせるのです。これによって、話し手自身も気づいていなかった暗黙知が引き出されます。

たとえば、マニュアルに「異常値があれば確認すること」とだけ書いてあったとします。これをAIに見せると、「異常値とは具体的にどの数字ですか」「どこに連絡しますか」といった問いが返ってくる。すると、「確かに、そこまでは書いていなかった」と気づけます。人にとっては当たり前すぎて省略していたことが、AIとの対話を通じて表に出てくるのです。
個人の経験を「集合知」へ変える
この3ステップを組織的に回していくことで、担当者の中に閉じていた知見を、組織として引き継がれる知見へと変えることができます。個人が持つ暗黙知を、AIによる構造化と壁打ちを通じて形式知に変え、それをさらに組織全体で共有・活用できる状態にする。そうすることで、知識は個人のものではなく、組織の資産になります。

これにより、後任者の初期不安が減り、「理由を探すための時間」も減ります。前任者・後任者の双方で、関係部署への照会回数も減っていくはずです。担当者が変わっても対応品質を維持しやすくなり、行政としての説明責任も果たしやすくなる。最終的には、住民サービスの安定につながっていきます。
ただし、理想が分かっていても、日常業務の中で継続的に回すのは簡単ではありません。だからこそ必要なのが、「仕組み」です。持続可能な引き継ぎにするには、「AIを使うこと」ではなく、「AIを使った知見の残し方が日常の流れに入っていること」が必要です。
私たちは、この定着までを見据えて、クロール、ウォーク、ランの3段階で支援しています。まずクロールでは、小さく始めて試します。次のウォークでは、庁内の既存資産や既存フローとつなぎます。そしてランでは、日常業務の中に完全に組み込み、運用として回せる状態を目指します。いきなり全庁展開を狙うのではなく、小さく始めて徐々に広げていく。この段階的な進め方が、失敗を防ぎ、現場への定着を促します。

今回紹介した「判断の経緯を出す→整理する→壁打ちする→組織の知見になる」という型は、異動対策だけにとどまりません。FAQの整理、業務テンプレートの標準化、事業報告書の作成支援など、さまざまな業務へ応用できます。つまり、AIを単なる文書作成ツールとして使うのではなく、“業務の相棒”として位置づける考え方です。異動という誰もが経験する出来事をきっかけに、AIの活用範囲を広げていくことができます。

中央コンピューターでは、こうした活用設計や定着に向けた支援まで対応しています。重要なのは、AIを入れること自体ではなく、現場で使われ続ける形にすることです。それぞれの現場にあったアプローチをご提案しますので、ぜひ気になる方はお問い合わせください。

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