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“整った言葉”とは別に、自分の言葉を持つ

公務員応援企画 INTERVIEW
転機を経験したゲストの言葉を通じて、“自分の暮らし”や“これからの人生”に目を向けるきっかけを届けます。日々の仕事に向き合う中で、自分自身の“これから”を考える時間をもつ。そこで得た気づきが、新たな学びやチャレンジへの一歩となれば幸いです。

夏井 いつき 氏
俳人
1957年愛媛県愛南町生まれ。京都女子大学文学部卒業後、中学校国語教師として8年間勤務。その後、俳人となる。俳句集団「いつき組」組長。テレビ番組『プレバト!!』(TBS系)で俳句査定を担当するほか、ラジオ番組『夏井いつきの一句一遊』(南海放送)をはじめ、講演・執筆など幅広く活動中。
“整った言葉”とは別に、自分の言葉を持つ
── 公務員として多忙な毎日の中で、言葉とどう向き合えばよいでしょうか?
私も中学校の教員をしていたのでわかるのですが、公務員という仕事は本当に生半可なものではありません。「やりたいこと」と「やらねばならぬこと」の板挟みになって、自分を追い込んでしまうこともあるはずです。
そんなときこそ、少しだけ“自分の言葉”に立ち返ってみるのがとても有効です。自分自身の生の言葉の力を借りることで、気持ちが楽になります。
公務員の方々がつくる文書には、「組織としての正確さ」や「公平さ」が求められますよね。でも、その“整った言葉”とは別に、日々の中で自分自身が感じたことを言葉にする時間もあっていいと思うんです。
「自分の言葉を持つ」というのは、他人と違う意見を言うことではなくて、「自分は今、何を感じているのか」「何を大切にしたいのか」を見つめ直すこと。自分を見失わないための小さな習慣のようなものかもしれません。私はその手段として俳句を勧めています。
言葉には“回復の力”があるんです
── “自分の言葉”を持つことで、どんなよい変化が生まれるのでしょうか?
俳句って「素晴らしい光景」とか、「感動した出来事」を詠むものだって思われているところがあって。
でも俳句には、負の感情を昇華したり、ベクトルを外に向けてくれたりして、今まで見えなかった心の視野を広げてくれる面もあるんです。
たとえば、「あなたがたもセイタカアワダチサウでしたか」※という句があります。ある出来事に対して湧き上がったやりきれない気持ちを、皮肉とともに一句にそっと閉じ込めたんですね。俳句にすると、負の感情が少し減る。「よし、俳句にしてやった。ざまあみろ」という気分にもなる(笑)。※出展:『句集 悪態句集』
まったく別の誰かがその句を読んで、「あれ、今日の私の気分そのものでした」と言ってくださる。その人の心もまた少し軽くなる。
自分の中の感情を俳句という小さな言葉にして外へ出すことで、誰かと気持ちを分かち合えます。俳句にはそんな“回復の力”があるんです。
“外”にアンテナを向けていると、新しい学びや挑戦がやってくる
── 新しい挑戦や学びを続ける中で、「続けること」がどのように人生に影響を与えてきましたか?
私は「俳句の種まき活動」をずっとやっているんです。テレビ番組の『プレバト!!』(TBS系)や、ラジオの『夏井いつきの一句一遊』(南海放送)、句会ライブ、最近はYouTubeも。どれも“俳句の裾野を広げる”という目的が共通しています。
考えに合うと思えば、何でも挑戦しています。効率とかコスパとかを気にしていたらできないことばかりだし、奉仕活動のような仕事もあるんだけど(笑)。でも、そのすべてがいろんな人と私たちを強くつないでくれる仕事なんです。だからこそ、大事なところはしっかり続ける─それを心がけてきました。
俳句をつくるというのは、外を向くことでもあります。人と出会うこと、風景や季節を感じること。そうした“外の世界”にアンテナを向けていると、自然と新しい学びや挑戦がやってくるんです。たとえば、企業から俳句コンテストの開催でお声がけをいただくこともありますし、思いがけない方々とご一緒する機会も増えました。
自分の姿勢をぶらすことなく貫いていると、いろんな形で人と出会い、仕事と出会い、それが一つの大きな川の流れのようにつながっていく。そうやって、世界が広がっていくのを実感しています。
“言葉の力”を身につけるための筋トレ
── 最後に、公務員の皆さんへメッセージをお願いします。
大変な現場にいらっしゃる人に無責任にメッセージとか言えないところがあるでしょ。私がお伝えできるのは、「言葉の力を身につけると、少し楽になれることがある」ということくらいです。
言葉の力を持つことで、自分の気持ちを整理し、人とのコミュニケーションを円滑にすることができます。そうした“言葉の力”を身につけたい方は、俳句を“トレーニングマシン”にしてみてください。俳句をつくることが、楽しみながら「自分の言葉」を磨く筋トレになりますよ。
はじめは、通勤の途中や昼休みにふと外を見たとき、「空が高いな」とか「赤とんぼが飛んでるな」と感じたら、それを一言メモしてみる。それだけで十分。そうやって、少しずつ自分の中の“好奇心のアンテナ”を立て直していく。多くの人が「毎日が単調だ」「何も面白くない」と感じるのは、実は世界がつまらないからじゃなくて、アンテナが錆びついているだけなんですよ。何かに気づく力、面白がる力を取り戻していくと、日常の中の小さな出来事が急に輝き出します。
だから皆さんも、まずは騙されたと思って、筋トレに俳句をやってみませんか。
プロフィール写真 撮影:後藤さくら












