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あの瞬間が、『県庁おもてなし課』の始まり

キャリア・働き方
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あの瞬間が、『県庁おもてなし課』の始まり

公務員応援企画 INTERVIEW

転機を経験したゲストの言葉を通じて、“自分の暮らし”や“これからの人生”に目を向けるきっかけを届けます。日々の仕事に向き合う中で、自分自身の“これから”を考える時間をもつ。そこで得た気づきが、新たな学びやチャレンジへの一歩となれば幸いです。

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有川 ひろ 氏
作家

1972年高知県出身。2004年に『塩の街 wish on my precious』で第10回電撃小説大賞を受賞しデビュー。代表作に「図書館戦争」シリーズ、『県庁おもてなし課』(角川文庫 刊)、『空飛ぶ広報室』(幻冬舎文庫 刊)など多数。2025年 6月11日には最新長編『クロエとオオエ』(講談社 刊)を発表。趣味は宝塚観劇で、全組観劇派の雪組ファン。


あの瞬間が、『県庁おもてなし課』の始まり

──『県庁おもてなし課』を書くきっかけは、どんなことだったのでしょうか。

私は高知の出身なんです。あるとき地元で講演をした際、県庁の方から「観光特使になってください!」と依頼を受け、「え!?はい」と引き受けました。ですが、そのあと一向に連絡がなくて(笑)。

ひと月以上経っても何の音沙汰もないので、てっきり話が流れたのかと思って問い合わせたら、「進行中です」と。本当に驚きました(笑)。民間の感覚なら“もう流れた話”なんですけど、県庁ではそれが普通に動いている。文化がまったく違うんだなと感じました。

ただ、民間と行政のギャップが小説のネタとしてあまりに面白くて、「私が観光特使としてできるのは、皆さんをモデルに小説を書くことです」と言ったんです。

「遠慮せずに書きますけど大丈夫ですか?」と伝えたら、「いかようにもお願いします!」と即答してくださって。普通なら、そこで一回持ち戻りそうなのに。その潔さに信頼を感じたのを覚えています。あの瞬間が、『県庁おもてなし課』の始まりでした。

ルールの中で挑戦する人たちが登場人物のモデル

──実際に県庁を取材して、どんな印象を持たれましたか。

最初は「悠長だなあ」と感じました。外部の人とのやり取りに慣れていないのか、反応がとてもゆっくりで、どう距離を詰めていけばいいのか戸惑いました。さらに、「責任を取りたくない」「ボロを出さない」という意識を特に年配の方から感じたこともあります。

けれど、取材を重ねるうちに、「どうすれば実現できるか」と一生懸命に考える人たちがいることに気づきました。ルールの中で模索しながらも、できる形を探して挑戦する。その姿がとても印象的で、まさに登場人物のインスピレーションにもなっています。

また、外側から見れば「なんでここに気づかないの?」と言えてしまうことも、最初からその中にいる当事者には、見えにくいこともあると思います。私も自分が公務員だったら今の「民間」の自分が感じた違和感に気づける自信はありません。環境が違うだけのことで、闇雲に外から批判しても意味がないと感じました。だからこそ、行政の中と外、視点の違いも小説で描きました。

必要ないと思ったものが実は一番重要だったりする

──挑戦や学びを続ける上で、どんなことを心がけていますか。

私は、何かを学ぶときに「ムダをなくす」ことはできないと思っています。何が役に立つかなんて、やってみないとわからないですよね。

たとえば『図書館戦争』を書いたときも、必要最低限の資料だけを効率よく集めるなんて無理で、「図書館」と名のつく本を、片っ端から手当たり次第に読みました。そうして得る断片が、思いもよらない形でつながって、新しい発想を生むことがあるんです。

調べたもの同士が化学反応を起こして、別の何かが生まれる――でも、その素材がなければ反応は起きません。だから、「これはムダだろう」と切り捨てずに、いろんなものに触れてほしいと思います。「これ必要ないだろうけど、一応......」と思ったものが、実は一番必要なこともよくあります。挑戦や学びの場って、そういう“ムダの中の発見”があってこそ面白いものです。

今の社会はどうしても効率を優先しがちだけれど、ムダや余白からしか見えてこない景色もあると思うんです。

──どんな余白の時間が、学びのヒントになるのでしょうか。

私自身、執筆中によく夫と物語の展開をシミュレーションしたり、その分野に詳しい人や興味のある人と雑談のようなやり取りをしたりします。そうした“余白の時間”にこそ、創作のヒントが生まれることが多い。

「人と話す」「考えを交わす」「遠回りする」その全てが次の学びにつながっていく。ムダを恐れず、むしろ面白がるくらいがちょうどよいと思っています。

30年後にどこかの誰かの役に立つかもしれない

──最後に、公務員として日々の仕事に向き合う皆さんへ、メッセージをお願いします。

学びに“ムダな時間”が必要なように、行政の仕事もまた、すぐに成果が見えるものばかりではないと思います。けれど、見えないところで確実に未来の芽を育てているはずです。

自分の現役期間が終わっても、その土地や仕組みは続いていく。だからこそ、「自分がいなくなった後に何を残せるか」を考えられる人が、いちばん尊いと思うんです。

今は意味がないように見えることでも、30年後にどこかの誰かの役に立つかもしれない。組織の形が変わっても、そこで培われた姿勢やものの見方は、場所を変えて必ず生きつづけるものだと思います。畑を耕しておけば、何かが育ってくる。――行政の仕事には、そういう長いスパンが必要だと思っています。

成果を帳尻合わせのように整えることが目的ではなく、土壌を豊かにするために耕しつづけること。それが、私の考える“公の仕事”の理想の形です。短期的な成果ではなく、長く続く仕組みを育てる。時間をかけて地域を育てていけるのは、公務員という仕事の素晴らしさです。

だからこそ、本でも、なんでも、「自分には関係なさそう」と思わずに、まずは手に取ってみて、余計なこととか、ムダなことをどんどんしてほしいと思っています。

プロフィール写真 撮影:福森クニヒロ