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地域ブランディング成功事例10選!自治体が成果につなげた進め方とポイント

人口減少や産業構造の変化が進む中、自治体にとって地域ブランディングは重要な政策テーマとなっている。一方で、「何から始めればよいのか」「施策につながらない」と悩む現場も少なくない。地域ブランディングは、ロゴやPR施策ではなく、地域の強みを整理し、施策と発信を一体で設計することが成果につながる。本記事では、実際に成果を上げた自治体の成功例と、現場で再現可能な実務ポイントを解説する。
※掲載情報は公開日時点のものです。
地域ブランディングとは

地域ブランディングとは、地域がもつ歴史や文化、自然、産業、人材といった資源を整理し、その地域ならではの価値を明確にして伝えていく取り組みである。観光振興に限らず、地域産品の販売促進、企業誘致、移住・定住の促進、住民の誇りや愛着(シビックプライド)の醸成など、目的は多方面に広がっている。
近年はインターネットやSNSの普及により、誰もが情報を発信できるようになった一方、地域からの情報はあふれ、違いが伝わりにくくなっている。こうした環境の中で「なぜこの地域なのか」を言葉にし、一貫して発信していく視点として、地域ブランディングの重要性はますます高まっている。
【分野別】地域ブランディングの国内成功事例10選
全国には、地域資源の活かし方や発信方法を工夫することで、定住促進や観光振興、産業活性化などの成果につなげてきた自治体がある。ここでは、観光、産業、暮らし、関係人口など分野別に整理しながら、地域ブランディングに成功した国内10事例を紹介する。
1. 熊本県|くまモンを軸に地域の価値を統合したブランディング
くまモンは、九州新幹線全線開業を控えた平成23年、通過点化への危機感を背景に誕生した。熊本県は、くまモンを単なるマスコットではなく、県全体の魅力を束ねて伝える地域ブランディングの中核に位置づけ、利用料を原則無料とするライセンス戦略で露出を拡大。一方で「くまモンは1人」と世界観を厳格に管理し、ブランドの一貫性を維持した。
施策・商品・情報発信を一体で展開した結果、令和5年の関連商品売上高は1,664億円に達している。象徴的な存在を起点に地域価値を統合した点は、地域ブランディングの成功事例として全国的にも評価されている。
出典:知事公室くまモングループ「2023年くまモン利用商品年間売上高 1,664億円(過去最高額) 2011年の調査開始からの累計売上高 1兆4,569億円」
2. 香川県・直島|文化を日常に根づかせ、移住・経済効果につなげた取り組み
直島は、文化・アートを核とした地域ブランディングにより、「産業の島」から「世界的なアートの島」へとイメージ転換を果たした。瀬戸内国際芸術祭の主要会場として注目を集め、観光客は平成2年の約1万人から平成30年には50万人超へと拡大している。
来訪者の増加は一過性の集客にとどまらず、移住促進にも波及し、令和元年には2年連続で地価が上昇した。文化を起点に「人の流れ」を生み出すとともに、移住や居住需要といった暮らしにつながる動きを生んだ点が、直島の地域ブランディング成功の本質である。
出典:日本経済新聞「アートで誘客、移住者も増加 直島で2年連続地価上昇」
3. 愛媛県今治市|品質基準を軸に価値を再定義したタオル産業のブランディング
今治市は、安価な海外製品の流入により産地が衰退する危機を受け、価格競争から脱却し「品質本位」へと舵を切った。平成18年に始動した今治タオルプロジェクトでは、吸水性を5秒以内で判定する独自の品質基準を導入し、抽象的だった「高品質」を数値で可視化。
基準を満たした製品のみにロゴを付与することで、約100社が共通の信頼のもとに個性を発揮する地域ブランドを確立した。品質基準という共通言語で地域の価値を再定義した点が、国内外で評価される地域ブランディング成功の要因である。
4. 福岡県福岡市|「食」を都市戦略に組み込んだブランディング施策
福岡市は、「おいしいまち」という評価にとどまらず、「食」を次代の産業基盤として都市戦略に位置づけることで、地域ブランディングを進化させてきた。九州各地から新鮮な食材が集まる地理的優位性に加え、料理人や起業家が集積し、新陳代謝の高い飲食文化を形成。
さらに、研究機関やIT、通販産業と連動させることで、食を起点とした新たなビジネス創出につなげている。市民の高い満足度に支えられた日常の食文化が、都市の競争力そのものとなっている点が、福岡市の地域ブランディング成功の本質である。
出典:公益財団法人 福岡アジア都市研究所「食の強みをいかす福岡らしい価値の創造」
5. 熊本県・熊本城|復旧プロセスと都市戦略を重ねたブランディングの考え方
熊本城は、熊本市の観光・都市ブランドを形成する圧倒的な中核資源として位置づけられている。震災後は完成を待つのではなく、復旧過程を段階的に公開し、「復興のシンボル」としての物語を発信。特別見学通路の整備やデジタル技術を活用した情報発信により、今しか体験できない価値を観光資源へと転換した。
さらに、市民の誇りを基盤に、夜間活用や水・食・歴史文化と組み合わせた都市全体の魅力創出を図っている。復旧のプロセスを都市戦略に組み込み、共感と集客を同時に生み出している点が、熊本城を核とした地域ブランディング成功の要因である。
6. 愛媛県|都市視点で地域価値を翻訳したブランディング戦略
愛媛県では、SUPER MARKITと地域商社の楽農研究所が連携し、「Super Markit! EHIME」を展開。地域産品をそのまま売り込むのではなく、都市部の消費者視点で魅力を再編集する地域ブランディングを進めた点が特徴である。
銀座ロフトでの催事やエンタメ要素を取り入れた発信により関心を喚起しつつ、不作時には商品を柔軟に切り替えるなど生産者本位の対応を徹底。都市の文脈に合わせた発信と、地域側の当事者意識を高める体制づくりを両立させたことが、持続的な評価と関係人口の創出につながっている。
7. 鹿児島県霧島温泉|温泉を起点に地域資源を束ねたブランディング
霧島温泉は、単なる入浴施設ではなく、霧島連山の自然、歴史文化、食、交通を結び付ける地域ブランドのゲートウェイとして位置づけられている。雄大な火山景観と一体化した温泉体験に、霧島神宮などの歴史資源や神話性を重ね、滞在そのものを物語として設計。
さらに、黒酢や蒸気を活かした食、周遊バスや特急列車など移動手段の観光資源化により、面的な回遊を促している。温泉単体で集客するのではなく、地域全体の体験価値を束ねて提示した点が、霧島温泉を核とする地域ブランディング成功の要因である。
8. 長野県白馬村|オールシーズン化と関係人口創出を軸にした再定義
白馬村は、冬季五輪開催地・スキーリゾートという単一イメージから脱却し、通年型マウンテンリゾートかつサステナブルな関係人口拠点へと地域ブランドを再定義している。象徴的なのが、令和2年に開業したSnow Peak LAND STATION HAKUBAで、広域に分散していた観光情報や体験の“ハブ”として機能。
アウトドア、ワーケーション、環境イベントを組み合わせ、観光客にとどまらない継続的な関与を生み出している。さらにDMOの自走化や宿泊税による再投資を見据え、需要変動に強い観光地経営を志向。既存資産に現代的価値をかけ合わせ、ターゲットを再設計した点が白馬村の地域ブランディング成功要因である。
出典:トラベルボイス『白馬村観光局が描く「関係人口」の創出戦略、リモートワーク+イベント開催など、訪日客・スキー客の減少に立ち向かう打ち手を聞いてきた』
9. 山梨県|産品と地域イメージを相互に高め合うブランディング
山梨県の地域ブランディングは、フルーツやワイン、ジュエリーなどの個別産品と「山梨ブランド」全体を結び付け、相互に価値を高める構造を志向している点に特徴がある。単一特産品に依存せず、複数の地場産品を束ねて発信することで、「山梨=高品質で美しい産地」という一貫したイメージを形成。
加えて、首都圏から近い立地を活かし、「癒し」「美しさ」といった情緒的価値を訴求するとともに、下請け中心だった産業を独自ブランドへ転換する取り組みも進めている。県民自身が誇りをもつインナーブランディングと併走させた点が、持続的な評価につながる成功要因である。
出典:山梨県「『やまなし』はブランドになれるか? ―やまなしブランド戦略の考え方と取組み―」
10. 島根県出雲市|縁結び」の物語を経済と交流につなげたブランディング
出雲市は、全国的な知名度をもつ「出雲」という名前そのものを地域経済と交流人口を生み出すブランドエンジンとして位置づけている。市は「出雲ブランド商品」や「おいしい出雲」といった認定制度を通じ、産品の品質と信頼性を可視化すると同時に、「縁結び」「神話のふるさと」といった物語性を観光・移住・結婚支援まで横断的に展開。
さらにデジタル発信や海外向けの「IZUMO」プロモーション、出雲縁結び空港を起点とした動線整備により体験価値を強化している。モノの認定とコトのストーリー化を両立させた点が、出雲市の地域ブランディング成功要因である。
地域ブランディングを成功に導く5つの視点
数々の成功事例をひも解くと、地域や分野が異なっても共通する考え方が見えてくる。ここでは、自治体の現場で実践されてきた事例をもとに、地域ブランディングに取り組むうえで特に重要となる5つのポイントを整理する。
地域の独自性を言語化し、他地域と差別化する
地域ブランディングを成功させるためには、「地域に魅力があるか」ではなく、「ほかの地域と何が違うのか」を言語化できているかが重要である。「自然が豊か」「食がおいしい」といった表現は多くの自治体で使われており、それだけでは検索ユーザーや来訪者の記憶に残りにくい。
成功している自治体では、歴史・文化・産業などの地域資源を整理したうえで、「この地域ならではの価値」を一言で説明できる状態をつくっている。その独自性を軸に施策や情報発信を一貫させることで、地域ブランドの輪郭が明確になり、「なぜこの地域を選ぶのか」という理由が伝わりやすくなる。
地元住民の共感を育て、内側からブランドを強くする
地域ブランディングは、観光客や移住希望者に向けた外向きの発信だけでは成立しない。その基盤となるのが、地元住民が地域の価値を理解し、誇りを持てているかどうかである。住民自身が魅力を実感できていなければ、どれだけ発信しても説得力は生まれにくい。
成功している自治体では、施策の初期段階から住民や職員を巻き込み、地域の強みや価値を再発見・共有するプロセスを重視している。こうしたインナーブランディングの積み重ねが、住民による自然な情報発信や来訪者への推奨行動を生み、結果として地域ブランドを内側から強くしている。
誰に届けるかを明確にする
地域ブランディングを進めるうえで重要なのは、「誰に届けたいのか」を最初に明確にすることである。観光客、移住希望者、関係人口、事業者など、ターゲットによって関心や行動は異なり、伝えるべき内容や適した発信手法も変わってくる。
成功している自治体では、全ての層に一律で情報を発信するのではなく、優先順位を定めたうえで、メッセージや媒体を戦略的に使い分けている。ターゲットを絞ることで発信の解像度が高まり、共感や具体的な行動につながりやすくなる。
デジタルツール・SNSを活用し、ファンをつくる
SNSや動画配信などのデジタルツールは、地域ブランディングにおける重要な発信手段である。写真や動画によって地域の魅力を直感的に伝えられるほか、コメントや共有を通じて双方向の関係を築ける点が強みだ。
重要なのは、発信を一過性で終わらせないことである。フォロワーや視聴者との接点を積み重ね、反応を見ながら改善を重ねていくことで、関心は共感へ、共感はファンへと育っていく。デジタルツールを「知らせる手段」ではなく、「関係を育てる手段」として捉える視点が欠かせない。
長期視点でブランドを育てる
地域ブランドは、短期間で完成するものではない。一過性のイベントや話題づくりだけでは、効果は持続しにくい。将来像を描いたうえで、施策や情報発信を継続的に積み重ねていく姿勢が重要である。
成功している地域では、短期的な成果に一喜一憂せず、検証と改善を繰り返しながらブランド価値を育てている。こうした地道な取り組みの継続が、地域への信頼や共感を高め、長期的な成果につながっている。
地域ブランディングを進めるための基本ステップ

成功事例を見ていくと、地域ごとの手法や規模は異なっていても、取り組みの進め方や考え方には共通点がある。ここでは、自治体が地域ブランディングに取り組む際に押さえておきたい基本的な流れを、5つのステップに整理する。
1. 地域資源の洗い出しと現状分析
地域ブランディングを考える際、まず向き合いたいのが「自分たちの地域には、どんな価値があるのか」という点だ。観光資源や特産品だけでなく、暮らしの風景や文化、歴史、人の営みまで含めて整理していくことで、地域の輪郭が少しずつ見えてくる。
この作業を行政や事業者の視点だけで完結させず、住民の声や来訪者の評価といった外部の視点も交えて進めている地域は多い。内外の視点を組み合わせることで思い込みを避けやすくなり、現実に即した価値の整理につながりやすい。強みや課題を整理する手法として、SWOT分析を参考にするケースも見られる。
2. ターゲット(ペルソナ)の設定
地域の魅力は、「誰に向けて伝えるか」によって伝わり方が大きく変わる。観光客、移住希望者、関係人口、事業者など、対象とする層によって関心や行動は異なるため、最初に届けたい相手を整理しておくことが欠かせない。
「幅広く届けたい」という考え方は一見すると無難だが、結果としてメッセージがぼやけてしまうことも多い。年齢や居住地、ライフスタイル、価値観などを想定した具体的な人物像(ペルソナ)を描くことで、施策や発信内容の方向性が定まりやすくなる。
3. ブランドコンセプトの設計
洗い出した地域資源と設定したターゲットを踏まえ、「この地域は、どんな価値を提供する存在なのか」を明確にするのがブランドコンセプトの設計である。単なるキャッチコピーづくりではなく、「地域としてどう見られたいか」「何を大切にしているか」を、一貫した言葉で整理していくことがポイントになる。
このコンセプトは、情報発信や施策を選ぶ際の判断軸となる。軸が定まっていれば、個々の取り組みが点で終わらず、地域ブランドとしてのストーリーが積み重なっていく。
4. プロモーションの実行
設計したブランドコンセプトをもとに、具体的なプロモーションを進めていく。WEBサイトやSNS、動画などのデジタル施策に加え、イベントや体験プログラムといったリアルな取り組みを組み合わせている地域も多い。
その際に意識したいのが、発信内容やデザイン、トーン&マナーの一貫性だ。媒体が変わっても同じ価値や世界観が伝わるように設計することで、地域ブランドとしての印象が少しずつ定着していく。
5. 効果測定と改善の継続
プロモーション施策は、実施して終わりではなく、その後の振り返りが重要である。WEBサイトのアクセス数やSNSでの反応、観光客の入り込み状況や満足度などを定期的に確認することで、施策の手応えが見えやすくなる。
こうした結果を踏まえ、発信内容や手法を少しずつ調整していくことで、無理のない改善につなげている地域も多い。検証と見直しを重ねながら取り組みを続けていく姿勢が、結果として地域ブランドを育てていく土台になる。
地域ブランディングで陥りがちな失敗例と注意点【3つの落とし穴】
地域ブランディングでは、前提条件の見極め不足、成功事例の模倣、補助金前提の進め方などが重なり、継続や定着が難しくなるケースが見られる。こうした傾向を踏まえ、以下では地域ブランディングで陥りやすい失敗を、3つのポイントに分けて整理する。
地域や商材の前提条件を確認せず、ブランド化を進めてしまう
地域ブランドは、どこでも・何でも成立するものではないといわれている。一定の知名度をもつ地域性や、他地域と明確に差別化できる商材・資源がそろって、はじめてブランドとして機能しやすくなる。
一方で現場では、「地元では有名」「よいものだから伝えれば売れるはず」といった認識のまま、客観的な市場視点を十分に持てないまま取り組みが始まるケースも少なくない。そもそもブランド化が最適な手段なのかを立ち止まって考える余地があるかどうかが、成果を左右するポイントになる。
地域理解が浅いまま、他地域の成功事例を模倣してしまう
本来の出発点は、その地域ならではの魅力や課題をどこまで言語化できているかにある。住民へのヒアリングやデータ整理が十分でないまま進めると、結果として「誰に向けた取り組みなのか分かりにくい」「地元も誇りにしづらい」ブランドになってしまう可能性がある。
地域ブランディングでは、他地域の成功事例が参考にされる場面も多い。しかし、それをそのまま取り入れたり、地域の実情とかけ離れたコンセプトを掲げたりすると、施策が形式的になってしまうことがある。
イベントや話題づくりで終わり、ブランドが定着しない
単発のイベントやキャンペーンによって一時的に注目を集めることはできても、その後の継続的な取り組みがなければ、ブランドとして根づきにくいとされている。とくに補助金を活用した事業では、期間終了と同時に施策も一区切りとなってしまうケースが少なくない。
大切なのは、イベントそのものを「目的」にしないことだ。実施後に何が残り、どのように次につなげていくのか。あらかじめ継続を見据えた設計がなければ、話題が落ち着いたあとに成果が見えにくくなる可能性がある。
まとめ
本記事では、地域ブランディングの基本的な考え方や進め方、成功・失敗事例を通して、取り組みのポイントを整理してきた。地域ブランディングは、特別な施策を打ち出すことではなく、その地域ならではの価値を見つめ直し、関係者と共有しながら積み重ねていく取り組みである。
まずは、日々の暮らしや業務の中にある「当たり前」を振り返り、どんな価値があり、誰に届けたいのかを考えることから始めてみたい。















