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地域通貨とは?自治体の成功事例から、仕組みやメリット・デメリットまで解説

近年、地域経済の活性化やコミュニティ再生の手段として、「地域通貨」が再び注目されている。デジタル技術の進展により、スマートフォンアプリなどを活用した新しい形の地域通貨も、全国各地で導入されつつある。
一方で、地域通貨の仕組みや導入効果に疑問をもつ自治体担当者も少なくない。本記事では、地域通貨の基本的な仕組みをはじめ、導入にあたってのメリット・デメリット、国内外の成功事例を分かりやすく解説する。
※掲載情報は公開日時点のものです。
地域通貨とは?法定通貨との違いと仕組み

地域通貨とは、私たちが日常的に使用している「円」などの法定通貨とは異なり、特定の地域やコミュニティ内で流通するお金である。地域通貨の仕組みや法定通貨との違いを理解することは、導入・活用を検討するうえでの第一歩となる。
項目 | 地域通貨 | 法定通貨(日本円) |
発行主体 | 自治体、NPO、商店街など | 日本銀行(国) |
通用力 | 限定された地域・コミュニティ内 | 全国 |
目的 | 地域経済活性化、コミュニティ形成など | 決済、価値保存など |
特徴 | 期間や用途を限定できる | 普遍的な利用が可能 |
地域内で経済を循環させる仕組み
地域通貨の大きな目的の一つは、地域内でのお金の流れを活発にし、域内経済の循環を促すことにある。大手チェーン店などで消費されたお金は、その多くが地域外の本社へ流出してしまう。
一方、利用できる地域や店舗が限定されている地域通貨は、地域内の加盟店で使われ、その売り上げが別の加盟店での支払いに充てられるなど、お金が地域内を巡りやすくなる。このような仕組みが、地域経済の活性化につながると期待されている。
法定通貨にはない「目的」と「限定性」
日本円などの法定通貨は、国によって価値が保証され、誰もがどこでも使える「強制通用力」をもつ。一方、地域通貨は、自治体やNPO、商店街などが特定の目的をもって発行し、利用できる「地域」「期間」「用途」があらかじめ限定されている点が特徴である。
例えば、「子育て支援」を目的とした地域通貨や、「健康増進活動への参加に応じて付与されるポイント制度」などを設計することで、政策課題の解決を後押しすることができる。このような限定性は「不便益」とも言われるが、法定通貨にはない地域通貨ならではの強みであり、地域課題へのアプローチ手段となる。
近年注目される「デジタル地域通貨」とは

地域通貨は、平成29年頃までは、紙や現物を前提とした仕組みの導入が中心だった。しかし、令和2年のコロナ禍を契機に、スマートフォンを活用したデジタル方式の導入が急速に広がった。非接触対応に加え、運用負担の軽減や利用状況を把握しやすい点が評価されたためである。
デジタル地域通貨は、「デジタル地域通貨」「デジタル地域決済(デジタル商品券)」「デジタル地域ポイント」の3つに大別される。いずれも導入数は増加しているが、新規導入の伸びは近年鈍化している。一方、令和6年に新規導入された地域通貨はすべてデジタル方式であり、施策の主流がデジタルへ移行したことが分かる。
出典:泉留維研究室「2024 年版地域通貨稼働調査の結果について(速報版)」
自治体が地域通貨を導入する3つのメリット
地域通貨の導入は、地域に様々なプラスの効果をもたらす可能性がある。ここでは、自治体が導入を検討する際に押さえておきたい、主な3つのメリットについて解説する。
地域経済の活性化と域内循環
最大のメリットは、地域経済の活性化である。地域通貨の利用先を地域内の加盟店に限定することで、消費を地域内にとどめ、お金の域外流出を防ぐことができる。これにより、地元中小企業の売り上げ向上につながり、結果として雇用創出や税収増加への波及効果も期待される。
また、有効期限を設けることで消費を促し、経済の循環スピードを高める効果も見込める。
地域コミュニティの醸成と関係人口の創出
地域通貨は、人と人とのつながりを生み出し、地域コミュニティを活性化させる手段にもなり得る。例えば、ボランティア活動や健康増進イベントへの参加に対して地域通貨を付与することで、住民の地域活動への参加を後押しし、新たな交流のきっかけを生み出す。
こうした取り組みを通じて、住民同士の顔の見える関係が構築され、地域への愛着や誇り(シビックプライド)の醸成、さらには関係人口の創出にもつながる。
データ活用によるEBPMの推進
デジタル地域通貨の導入は、EBPMを推進するうえでも有効である。決済データを分析することで、「いつ」「どこで」「誰が」「何に」お金を使っているのかを把握できる。
これらのデータを活用すれば、産業振興や観光施策などの効果検証が可能となり、より実効性の高い施策立案や改善につなげることができる。
地域通貨のデメリットと導入・運用上の課題
多くのメリットが期待される地域通貨だが、導入・運用にあたっては、あらかじめ把握しておきたいデメリットや課題も存在する。これらを理解したうえで対応策を検討することが、事業を成功に導くポイントとなる。
課題 | 具体的な内容 | 対策の方向性 |
コスト | システム開発費、運用保守費、広報費など | 補助金の活用、費用対効果の高いシステムの選定 |
財源確保 | 補助金終了後の運営資金 | 自治体の一般財源、加盟店からの手数料、広告収入など |
普及 | 利用者・加盟店が少ないと流通しない | 分かりやすい利用方法、お得なキャンペーン、加盟店へのメリット訴求 |
導入と運用のコスト
地域通貨を導入するには、システムの開発やカード・商品券の発行、加盟店の開拓、プロモーションなど、初期費用に加えて継続的な運用コストが発生する。特にデジタル地域通貨の場合、プラットフォームの利用料や保守管理費が継続的にかかる点に留意が必要である。
これらのコストをどのように賄うのかは、事業計画の段階で十分に検討しておく必要がある。
継続的な財源の確保
地域通貨事業では、国の交付金や補助金、ふるさと納税などを財源とするケースが多い。しかし、こうした財源は恒久的ではない場合も多く、補助終了後に事業継続が難しくなるリスクがある。
そのため、プレミアム分の負担方法や、加盟店からの手数料収入など、自立的に運営できる財源確保の仕組みをあらかじめ検討しておくことが不可欠である。
利用者と加盟店の拡大
地域通貨の効果を十分に発揮するためには、多くの住民が利用し、多くの店舗で使える環境を整える必要がある。しかし、利用者や加盟店が少ない場合、通貨が十分に流通せず、経済効果も限定的となる。
「使える店舗が少ない」「利用方法が分かりにくい」といった理由から利用が進まなければ、事業が形骸化してしまう恐れもあるため、継続的な利用促進策が重要となる。
地域通貨の導入手順

地域通貨の導入を成功させるためには、事前の計画と段階的な準備が欠かせない。ここでは、導入までの基本的な流れを5つのステップに分けて解説する。
ステップ1:目的とコンセプトの明確化
まず、「何のために地域通貨を導入するのか」という目的を明確にすることが重要である。「地域経済の活性化」「コミュニティの再生」「特定の社会課題の解決」など、地域が抱える課題に応じて目的を設定する。この目的が、事業全体の方向性や判断基準となる。
ステップ2:事業スキームの設計と財源の確保
目的が定まったら、具体的な事業の仕組み(スキーム)を設計する。通貨の形態(紙かデジタルか)、発行主体(自治体、商工会議所、NPOなど)、財源(補助金、一般財源、手数料収入など)を整理し、持続可能な事業モデルを構築することが求められる。
ステップ3:プラットフォーム事業者の選定
デジタル地域通貨を導入する場合は、システムを提供するプラットフォーム事業者の選定が重要となる。複数の事業者を比較し、導入実績や機能、セキュリティ、コストなどを総合的に評価したうえで、地域のニーズに最も適した事業者を選ぶ。
ステップ4:利用者・加盟店への周知と普及促進
事業開始にあたっては、住民や事業者への丁寧な説明と広報が不可欠である。説明会の開催や広報紙、SNSなどを活用し、事業の目的やメリットを分かりやすく伝えることで、理解と協力を得やすくなる。あわせて、キャンペーンの実施などにより、初期利用を促す工夫も有効である。
ステップ5:効果測定と改善
事業開始後は、定期的に効果測定を行い、継続的な改善につなげていくことが重要である。利用率や加盟店数、経済効果などのデータを分析し、課題を整理する。利用者や加盟店からの意見も踏まえながら、より効果的な運用へと改善を重ねていく。
自治体における地域通貨の導入・成功事例
地域通貨は、導入すれば必ず成果が出る施策ではなく、設計や運用次第で結果が大きく分かれる。ここでは、地域特性や目的に応じた工夫により、実際に定着や利用拡大につながった自治体の事例を紹介する。制度設計や運用面のヒントとして、各地域の取り組みを見ていきたい。
福島県会津若松市|地域貢献を日常消費に組み込んだデジタル地域通貨
会津コインは、スマートフォンアプリ「会津財布」を通じて利用できる会津地域限定のデジタル地域通貨である。令和5年に金融機関と地域が連携して運営を開始し、令和7年12月時点で利用者は1万3,000人以上、加盟店は590店舗以上と、地域への定着が進んでいる。
特に注目すべきは、会津コインでの日常の買い物が、子ども食堂への寄附など地域福祉への支援につながる点だ。住民は特別な申請や意識的な寄附をしなくても、消費行動を通じて自然に地域貢献に参加できる。キャッシュレス化にとどまらず、住民の行動変容を促しながら地域政策と結びつけて活用している点は、自治体にとって参考になる成功事例といえる。
出典:会津コインサービスサイト
岐阜県高山市・飛騨市・白川村|観光と日常利用を両立させた広域型デジタル地域通貨
さるぼぼコインは、高山市・飛騨市・白川村の2市1村で利用できる電子地域通貨である。スマートフォンアプリを使い、観光時の飲食や買い物から日常利用まで対応し、令和7年12月時点で加盟店は飛騨地域全体で約1,500店舗にのぼる。
チャージ時にプレミアムポイントが付与されるなど、利用者にとって「使う理由」が明確に設計されているのが特徴だ。さらに、さるぼぼコインでしか購入できない地域限定の裏メニューなど、地域通貨ならではの体験価値も提供している。
専用チャージ機やATM、金融機関窓口など多様なチャージ手段を用意し、観光客と住民の双方にとって使いやすい環境を整備している。観光振興と地域内消費の両立を図る地域通貨の成功事例といえる。
岐阜県白川町|高い還元率と高齢者配慮で定着した町内限定地域通貨
白川町では、令和7年3月1日に町内限定の電子地域通貨「しらか(ShiRaCa) 」を導入した。運用開始直後の3月には、電子マネーの利用金額が年度末目標の236%に達するなど、順調な立ち上がりを見せている。その後も月2,000万円を超える利用が続き、安定した運用が進んでいる。
成功の背景には、導入時に住民1人当たり5,000ポイントを付与し、チャージに応じた追加ポイントを設けるなど、分かりやすいインセンティブ設計がある。あわせて、スマートフォンに不慣れな高齢者にも配慮し、ICカードを併用した点も普及を後押しした。
さらに、ガソリンスタンドを含む生活必需品に対応したことで、日常使いしやすい環境を整え、全町的な利用につなげている。
東京都中野区|経済効果と参加型設計で広がる都市型デジタル地域通貨
中野区では、区内加盟店で利用できるデジタル地域通貨「ナカペイ」を導入している。専用アプリによるキャッシュレス決済を軸に、令和7年2月末時点で登録者数は約6万7,346人に達し、利用額は約13.6億円と、短期間で大きな経済効果を生み出している。
プレミアム付与などのキャンペーンに加え、イベント参加や健康活動と連動したポイント付与など、区民の参加を促す設計が特徴である。20歳代よりも60歳代の利用が多く、高齢者会館や区役所で操作説明会を実施した効果が見られた。
令和7年2月末時点で加盟店舗は1,264店舗超にのぼり、小規模事業者のキャッシュレス化を後押しするなど、地域経済とコミュニティ活性化の両面で成果を上げている。
出典:中野区「中野区デジタル地域通貨事業の実施状況等と今後の取組について」
地域通貨を成功に導く3つのポイント
最後に、地域通貨の導入を成功させるうえで、特に重要となる3つのポイントを解説する。
住民や事業者を巻き込む仕組みづくり
地域通貨は、行政だけで完結させるのではなく、企画段階から住民や地域の事業者を巻き込み、ともに作り上げていく姿勢が重要である。説明会やワークショップを通じて多様な意見を取り入れることで、地域全体に「自分たちの通貨」という意識が生まれ、継続的な利用につながりやすくなる。
利用したくなるインセンティブ設計
利用者が「使いたい」、加盟店が「導入したい」と感じられるインセンティブ設計も欠かせない。利用者向けにはプレミアム付き商品券やポイント還元、加盟店向けには導入補助や送金手数料の軽減など、双方にとってメリットのある仕組みを検討することが重要である。
持続可能な運用体制の構築
地域通貨を一過性の取り組みで終わらせないためには、長期的な視点に立った持続可能な運用体制の構築が不可欠である。安定した財源の確保に加え、運営を担う事務局体制を整え、事業を継続的に検証・改善していくための計画をあらかじめ立てておく必要がある。
まとめ
本記事では、地域通貨の基本的な仕組みから、導入のメリット・デメリット、導入手順、そして成功に導くためのポイントまでを解説した。地域通貨は、地域経済の活性化やコミュニティの醸成に寄与する可能性をもつ施策の一つである。
本記事が、地域通貨の導入を検討する自治体にとって、次の一歩を考える際の参考となれば幸いである。
















