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“解説員”として伝える経験が、地域に誇りをもつきっかけに。

子どもが主体となって地域の文化財を紹介する取り組み
河内長野市では、子どもたちが市内の文化財について自ら調べ、発表する「子ども文化財解説」の取り組みを平成23年から行っている。教わるだけでなく“伝える”経験を通し、理解を深めているという。
※下記はジチタイワークスVol.41(2025年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

河内長野市
教育委員会事務局 教育推進部
社会教育第2課 文化財保護グループ
小谷 徳洋(こたに とくひろ)さん
出前授業だけでは限界を感じ能動的な学びの場を模索した。
同市は、古くから京都と高野山を結ぶ街道の要衝として栄え、天野山金剛寺や観心寺を中心に多くのお堂や仏像、社殿を有している。市内には国宝8件、重要文化財77件が現存し、伝統行事も数多く受け継がれている。伝統的建造物などの文化財が身近にある一方で、地元住民であっても詳しく語れる人は限られるのが実情だ。普段から見慣れているために特別感が薄れたり、時代の流れとともにその価値が忘れ去られたりしている。その上、少子高齢化によりこれらを守り継ぐ担い手不足も深刻だ。
こうした課題に対応するため、市の担当者が小・中学校に対して年間60回ほどの出前授業を行い、歴史や伝統を語り継いできた。しかし「授業を聞いてその場では理解できたとしても、すぐに忘れてしまう場合がほとんどです。一方的に話を聞くだけではなく、子どもたちが主体的に“地域の伝統を守るためにどうすればよいか”を考える機会をつくれないだろうかと悩んでいました」と小谷さん。
転機となったのは、金剛寺で行われた“平成大修理”だった。数百年に一度の建物の大修理ということもあり、地域の小学校から“現地で学ぶ取り組みができないか”という要望があったという。これをきっかけに平成23年から“子ども文化財解説”がスタートした。


クイズや寸劇など自由な発想で文化財の魅力を解説する。
子ども文化財解説に取り組むのは、金剛寺や観心寺など文化財を校区内に有する小学校3校の6年生だ。まずは、市の担当者が学校で文化財に関する出前授業を行う。その後、対象の寺社などを子どもたちが見学。歴史や特徴を学んだ上で、班ごとに解説の準備を進めていく。準備期間は学校ごとに異なるが、総合的な学習の時間を活用して数カ月から半年程度かけて取り組んでいるという。発表の舞台は、実際に現地を見学し、自分たちで歴史や見どころなどを調べた寺や神社だ。保護者や地域住民、観光客に向け、5~10分程度の解説を行う。形式は自由で、クイズや寸劇など、子どもたちの工夫が光る。「スタンプラリー形式で寺の各所にキーワードをしかけておき、それらを集めた人に景品を渡した班もありました。私たちも驚くアイデアが次々に生まれています」。
子どもたちの“伝えたい”気持ちを後押しするため、教員たちも積極的にサポートを行う。例えば、授業や催しで培った経験を活かし、パンフレットの作成ノウハウやアイデアを子どもたちに提供している。また、子どもたちがスライド資料を作成し、タブレット端末を用いて解説するという学校もあった。「長年の取り組みを通して、子ども文化財解説は学校行事の一つとして定着しています。6年生の発表を5年生が見学するなど、資料の作成や発表のノウハウは子どもたちや先生の間で自然に引き継がれ、年々磨かれている印象です」。


文化財に触れる機会の拡充でまちへの愛着を育てていく。
子どもたちからは、“地域にこうした文化財があるとは知らなかった”との声が寄せられている。「解説にお笑いの要素を取り入れたり、外国人観光客に英語で説明したりと、自分たちが住む地域の魅力を一生懸命に伝えようとしている姿が印象的です。座学だけではなく、自ら調べて伝える立場になったことで理解が深まり、地域への誇りにつながっているのだと思います」。中には、この経験をきっかけに大学で保存科学を学び、現在はボランティアとして同市の文化財保存活動に携わる若者もいるという。
現在は3校で行っているこの取り組み。様々な歴史的資源に恵まれた同市だからこそ、そこに住む子どもたちに魅力を感じてほしいとの思いは強い。そのほかの学校では解説の形にこだわらず、見学会や史跡の清掃活動など、文化財に触れてもらう機会をつくっているという。
今後の展望について「若い世代が文化財の魅力を知ることで、地域に誇りをもつきっかけにつながればと考えています。人口減少が続く当市ですが、一時的に市外へ出て行ったとしても、“ゆくゆくは戻ってきたい”と思ってもらえるようになればうれしいですね」と語ってくれた。














