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埼玉県小鹿野町

公開日:2025-12-15

学校と保存会が二人三脚で、歌舞伎文化を未来へつなぐ。

教育・文化・スポーツ
読了まで:4分
学校と保存会が二人三脚で、歌舞伎文化を未来へつなぐ。

地域と連携して伝統芸能を子どもに伝える取り組み

江戸時代から続く伝統芸能「小鹿野歌舞伎」を次世代に継承するため、学校教育や課外活動に“演技体験”を取り入れている小鹿野町。子どもたちが楽しさを知ることで、地域文化継承の土壌が育まれている。

※下記はジチタイワークスVol.41(2025年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

目次

衰退の危機を地域で乗り越え子ども歌舞伎を復活させる。
学校や地域と協力体制を築き子どもに文化の価値を伝える。
世代や社会の変化を超えて地域全体で文化を受け継ぐ。
プロフィール画像

小鹿野町
教育委員会 生涯学習課
主査・学芸員
肥沼 隆弘(こえぬま たかひろ)さん

プロフィール画像

小鹿野町
教育委員会 生涯学習課
文化財専門員
山本 正実(やまもと まさみ)さん

衰退の危機を地域で乗り越え子ども歌舞伎を復活させる。

小鹿野歌舞伎は地芝居と呼ばれ、プロの役者ではなく地域の住民によって代々継承されてきた。役者だけでなく義太夫(※)や裏方まで、舞台の全てを地元の人々が担い、“町じゅうが役者”と称される文化を築いている。「出張公演を含めて年間で約20回の公演ができるのは、外部に依頼する必要がないからです。かつら・化粧・衣装に至るまで、調達準備のハードルが低いため、頻繁な公演が可能なのです」と生涯学習課の肥沼さん。その歴史的・文化的価値が認められ、昭和52年には県無形民俗文化財に指定された。山本さんも「親子3代で携わっている家庭も珍しくありません。歌舞伎が日常に根付いているのです」と話す。

しかしながら、その歩みが常に順調だったわけではない。昭和中期以降、テレビなどの普及により娯楽の中心が変化し、歌舞伎は一時衰退の危機に直面した。そうした中で住民が立ち上がり、昭和48年に「小鹿野歌舞伎保存会」を結成。昭和63年には、“町が誇る文化を次世代に継承したい”という地域の声を受け、子ども会の呼びかけで「子ども歌舞伎」が復活した。さらに、平成5年には同町による「歌舞伎のまちづくり事業」がスタート。その一環として、子ども歌舞伎の支援にも取り組んでいるという。

※三味線に合わせ、物語や登場人物の気持ちを観客に伝える舞台芸

▲出張公演を含めて、年間約20回の公演を行っている。令和7年の「第75回全国植樹祭」でも歌舞伎を披露した。
▲出張公演を含めて、年間約20回の公演を行っている。令和7年の「第75回全国植樹祭」でも歌舞伎を披露した。

▲出張公演を含めて、年間約20回の公演を行っている。令和7年の「第75回全国植樹祭」でも歌舞伎を披露した。
▲出張公演を含めて、年間約20回の公演を行っている。令和7年の「第75回全国植樹祭」でも歌舞伎を披露した。

学校や地域と協力体制を築き子どもに文化の価値を伝える。

この事業では、町と保存会が協力して小・中学校で出前授業を実施している。同課は学校と保存会の調整役を担い、授業の導入部分では歌舞伎の概要や歴史を紹介。その後に保存会が実技指導を行っている。さらに、総合的な学習の時間や社会の授業でも歌舞伎に関する学びを取り入れているという。小学3年生で地域の祭りについて学び、5年生で歌舞伎体験、中学生では保存会の指導を受けて上演するなど、段階的に理解を深められる仕組みだ。

このほか同町には、子ども歌舞伎団体として「鹿中歌舞伎座」と「小鹿野子ども歌舞伎」がある。前者は中学校の課外活動として行われ、後者は小学3年生から中学2年生の希望者で構成される。いずれも保存会の指導を受けながら稽古を積み、町内外の舞台で上演する。学校の出前授業で、興味をもてば役者として挑戦できる環境が整っているのだ。

稽古では台本に仮名を振り、ビデオを配布して家庭で自主練習ができるようにしているという。練習場所への送迎や出張公演への同行など保護者の支えも大きい。「兄弟でせりふを言い合って覚えたり、ビデオを見て練習したりと、子どもたちはみんな熱心に取り組んでいます。“きれいな衣装を着て歴史上の人物になれるのがうれしい”といった声もあり、子どもたちが歌舞伎を好きになっているのを実感します」と山本さん。

「このまちの子どもにとって、歌舞伎は身近すぎて“どこにでもあるもの”に見えてしまいがちです。しかし“自分は歌舞伎役者です”と胸を張って言える子は、全国的にも少ないでしょう。実は貴重な体験だと伝えるようにしています」と肥沼さん。そうした視点を示すことで、子どもたちに地域文化の価値を再認識してほしいと期待を込める。

世代や社会の変化を超えて地域全体で文化を受け継ぐ。

歌舞伎の練習では、上級生が下級生に教える場面も多く見られ、子ども同士の自然なつながりが育まれている。さらに、子ども歌舞伎の卒業生が社会人となり、指導者として再び活動に戻ってくるケースも増えているという。「現在は20代の若手が5人ほど指導してくれています。自分が学んだことを次の世代に伝えてくれるのはありがたいですね」と山本さん。また、子ども時代の経験から歌舞伎への関心を深め、大人になって三味線や義太夫を学び、舞台に関わりつづける人材も育っている。

一方で、同町は近年の年間出生数が20~30人と人口減少が進んでおり、地域文化の継承が難しくなる状況は避けられないという。「今後は歌舞伎を知ってもらう機会をさらに増やし、移住者も含めてみんなが気軽に参加できる雰囲気をつくっていきたいです」と肥沼さん。

コロナ禍の影響で子ども歌舞伎の参加者が1人にまで減少した時期もあったが、それでも関係者の努力によって活動が途絶えることはなかった。「残す価値があるものだとしっかり伝えていけば、社会が変わっても文化の継承は続いていきます。“小鹿野町ならでは”の地域文化を、そのままの形で次の世代へ伝えていきたいですね」と力を込めた。

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