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地方で優秀なIT人材を育て、地域課題の解決につなげる。

IT・起業家人材育成支援プロジェクト
若い才能を地域で育てれば、課題解決や産業創出につながり、まちに光が差すだろう。会津若松市は、IT人材を育成する経済産業省の補助事業に採択された「アオタケプロジェクト」に協力。アイデアの社会実装を目指す若者を支援している。
※下記はジチタイワークスVol.41(2025年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

会津若松市
観光商工部
部長 白岩 志夫(しらいわ ゆきお)さん

スパークル
コミュニティ事業部
シニアアソシエイト
藤田 陽(ふじた ひかる)さん
地域企業と大学の連携に市が協力しIT人材の発掘・育成事業が始動。
同市は、地域から新たな産業や起業家を生み出す環境づくりを進めている。市内の公立大学「会津大学」では、平成5年の開学以来、大学発のベンチャー企業を約40社生み出してきた。しかし近年は、起業志向をもつ学生が減少しているという。また、住民からは“学生の姿をまちで見かけない”との声があり、学生と地域との関わりの希薄化も課題となっていた。こうした状況を受け、市は評議員として「地域ベンチャー創成支援財団」に関与。同財団を基盤とするベンチャーキャピタル「スパークル」と連携して、学生の起業支援を進めてきた。
このような取り組みが評価され、令和5年、同社は経済産業省の「未踏的な地方の若手人材発掘育成支援事業AKATSUKIプロジェクト」に採択された。同プロジェクトは、地域に眠る才能の発掘・育成を目的に、同省が令和5年に立ち上げた事業だ。これまでも突出したIT人材を発掘・育成する「未踏事業」を長年実施してきたが、その育成スキームを継承し、地方へと展開。事業期間を通して経験豊富な指導者をプロジェクトマネージャー(以下、PM)やメンターに配し、研究・開発が円滑に進むようIT人材の挑戦を支える。
PMによる伴走支援体制を軸に、地域独自の実践プログラムとして「アオタケプロジェクト」が始まった。これは、東北エリアの若者を、複数の支援機関と連携して育成するプログラムだ。財団を通じて同社と連携関係にあったこともあり、同市はプログラムに協力した。その意図を観光商工部の白岩さんは「プロジェクトを機に、若者がまちの課題に関心をもってくれれば、地域とのつながりも深まるのではと考えました」と話す。



単位の付与で学生参加を促し起業への第一歩をサポート。
同社がプロジェクトの事務局を担い、学生の活動資金を援助した。アイデアの実装に向け、同社は毎週一対一の面談と、法律・金融・知財などの専門家による講義を提供。ワークショップを通し学生たちは起業に必要な知識を習得する。「会津大学との連携により、この講義を受けることで単位を取得できます。そのため、受講した学生がプロジェクトに関わるケースも多いですね」と同社の藤田さん。さらに、地域との接点をつくる交流会も開催。「学生にとって、会津が“第二の故郷”になることを目指しています。これをきっかけに、地域の祭りなどに参加する学生が増え、交流が広がってきました」と語る。
学生たちのアイデアが市街地活性化など行政に関わるものであれば、市の担当職員と情報交換を行ったという。職員が学生一人ひとりのアイデアに対し、真摯にフィードバックをする場面もあったそうだ。さらに、同市は、学生が実証実験を進める上で不可欠となる地域企業との“つなぎ役”を積極的に担った。「学生の発想は面白い。昨年は、AEDの設置場所を広く認知してもらうため、その場所をクーポン発行の情報拠点にするといったアイデアがあり、印象的でした」と白岩さんは話す。

支援体制を整えることで学生が地域に定着していく。
産学官が手を取り合うことで学生が安心して挑戦できる環境が整い、アオタケプロジェクトの前身の活動を含めた約5年間で参加者は100人を超える。先輩の取り組む姿を見て参加する学生が多く、チャレンジの輪が広がっているという。「学生からは“地域に恩返しをしたい”という声を聞くようになりました。実際、会津を拠点に起業する人や、東京での就職と並行して起業する人もいます。東京では場所の確保が難しい実証実験も、会津ならできる。拠点を置くメリットを学生たちも実感しているようです」と藤田さんは成果を喜ぶ。
市としても収穫があると、白岩さん。「学生の考えを知る機会が生まれ、職員の刺激になっています。実現性が高いアイデアがあれば、市でも積極的に支えたいです。今後、どのような支援ができるか、プロジェクトの動向を見ながら検討したいと思います」。
関係機関が互いにリソースを出し合えば、新たな産業と雇用が生まれ、大きな予算がなくても広がりをもった事業につなげられる可能性が高まる。若者が地域に定着し、活躍するという青写真が現実になりはじめた同市。多くの自治体にとって参考になる事例といえるだろう。

採択された事業者と自治体の協働事例
自治体の後押しで若者の挑戦が地域課題の解決へと結び付く。
AKATSUKIプロジェクトに採択された人材育成を担う事業者と、自治体の協働事例を紹介。それぞれの視点から連携方法や協働のメリットなどを聞いた。


AKATSUKIプロジェクトとは
事業の目的と仕組みを理解し起業に挑戦する人を支える。
地方の若者に起業支援などを行う事業者に向けた、経済産業省の補助事業。全国に事業者が点在しており、自治体にも参加の可能性が広がっている。

▲各事業者の詳しい取り組みはこちら
担当者の声
優秀なIT人材を地域で育て活かしてほしい。

経済産業省
商務情報政策局 情報技術利用促進課
課長補佐 菊池 龍佑(きくち りょうすけ)さん
本プロジェクトは、起業家育成を国の成長戦略に据えた「スタートアップ育成5か年計画」のもとで始動しました。若い才能にフルスイングで挑戦できる環境を与え、地域の中で優秀なIT人材を育成していきます。各事業者のプログラムによっては、地域課題の解決や地域DXの推進といった側面も有しており、人材の発掘・育成を続けていくことで、新たな産業やイノベーションの創出も期待されています。だからこそ、自治体の皆さんにもぜひ、この取り組みに参画してほしいと考えています。大学などの教育機関や金融機関といった地域のステークホルダーが協力し、人材育成を地域で支える仕組みをともに構築しませんか。これから令和6年度採択事業者が各地で最終報告会を開催していきますので、まずは足を運んでみてください。
1年間の集大成を披露する最終報告会
AKATSUKIプロジェクトに参加する事業者と若手クリエイターが集い、最終報告会を実施。令和6年度事業では24の事業者が採択された。
令和5年度事業の報告会動画はこちら

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