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広島県

公開日:2024-06-26

農政の最前線を担う公務員を、元公務員のNPOがサポート。

農林水産
読了まで:5分
農政の最前線を担う公務員を、元公務員のNPOがサポート。

人事異動であまり知識のない職場に配属されるのは、公務員にとって宿命のようなもの。広島県の行政職員OBらが設立した特定非営利活動法人(NPO法人)「がんばる農家のパートナー」は、そんな初任者をはじめとする農政現場の担い手を、法律知識の研修などでサポートしている。教える側と学ぶ側、双方に話を聞いた。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

Interviewee

NPO法人がんばる農家のパートナーの橋本さんと大竹市農業委員会の藤本さん

左:特定非営利活動法人がんばる農家のパートナー 副理事長 橋本 義彦(はしもと よしひこ)さん
右:広島県大竹市農業委員会 局長補佐(兼)農地係長 藤本 英樹(ふじもと ひでき)さん
広島県北広島町農業委員会 課長補佐 折本 恵美子(おりもと えみこ)さん ※写真なし

未経験の農政分野に携わる初任者の“学び”を助ける。

「がんばる農家のパートナー」は、広島県内の行政職員(現役、OB)、法律、農業経営などの専門家が集まり、令和2年に設立された。中山間地域が多く、必ずしも営農の条件に恵まれない県内の農業改革や課題解決のため「それぞれの分野で培ってきた知識や経験を役立てようと考えて設立しました」と橋本さんは説明する。

その活動は、広島県内の農業団体や普及指導員への指導に始まり、市町村の農業委員会などの行政職員に対する研修に範囲を広げてきた。

副理事長を務める橋本さんは、農業関連の法律の研修を企画・運営している。主に農業委員会事務局で働く行政職員を対象として、農地の権利移動や転用制限について定めた農地法や農業振興地域の整備に関する法律(農振法)の初任者研修、農業委員会の窓口対応の検討会などを開いてきたという。

同委員会は、農業者の代表などからなる農業委員の話し合いで運営され、その活動を支える事務局は市町村の職員が担う。農業関連の法律などを農家に分かりやすく説明する技術と知識が求められるが、農政とは縁のない職場から異動するケースも多く、着任する職員が必ずしも農業の実務や法律、農業政策に明るいとは限らない。こうした事情もあって「がんばる農家のパートナー」の研修受講者数は年を追って増加してきた。

がんばる農家のパートナーの研修の受講者数推移

少人数の対面研修で、現場の課題を解決する考え方を手ほどき。

橋本さんは県職員時代、農業関係の法律を指導する立場で退職までの13年間を過ごした。一つの職場で長く仕事を続ける中で「気になることは調べる性格なので、知識を深めることができました」と橋本さん。在職中から多くの研修に携わるうちにいくつかの課題意識を抱いたという。

1    法律の知識や考え方の理解

通常の初任者研修では、農地法とはどのような法律かといった解説は行われるが、その考え方や、なぜ農地法が必要なのかまでは教えない。また、関連する民法などと組み合わせて学ぶ時間もない。この結果、担当者は“農地転用はなぜ許可がいるのか”といった基本的な質問に対して、合理的な根拠をもって説明することが難しくなってしまう。

2    窓口応対の技術、個別のケースへの対応力

農業委員会には様々な立場の人が訪れるため、それぞれの訪問者のニーズに合わせ、分かりやすく適切なアドバイスを行わなければならない。また、農地をめぐる問題には様々なケースがあるため、現場での対応力や幅広い知識が必要となる。

このため橋本さんの研修は少人数のワークショップ形式をとり、農業指導の現場で役立つ実際的な考え方を伝えているという。実際に受講した藤本さん、折本さんも、少人数による指導が疑問の解消に効果的だったと話す。

少人数で行われる研修の様子

▲橋本さんの研修では少人数での指導で実際的な知識を伝えているという

藤本さんは、令和5年4月に委員会に配属された。それまで農政に関わった経験はなく、少しでも知識を得るために研修に参加したと話す。委員会の仕事では「現場を見ただけでは分からない法的な知識が必要です。その知識がベースにないと、相談を受けても何も説明できないだろうなと思います」。

農地がさほど多くない大竹市では、農業委員会の事務は藤本さんが一人で担っている。取り扱う事案も少ないため、相談を持ち込まれても前例がないケースが多く、対応に苦慮していたという。

そんな中で受講した研修は「分からないことがその場で質問できて、すっきりした気持ちで帰ることができます」。現場で難しいケースに遭遇したときも「橋本さんにすぐ電話で聞けるのは大きい。橋本さんとの関係性ができたこともよかった」と、少人数による研修のメリットを説明する。

折本さんも農業委員会に異動してまだ1年。それまでは支所勤務や福祉分野の仕事をしており、配属当時は「農地法ってどっちの方を向いてるのっていう感じ」だったと話す。

「現場を見ても農地法との関連が分からないと何も助言できない。町民に対しての説明ができないんです」。必要な研修を探す中で出合った橋本さんのプログラムは「数カ月先まで予定が公開されていて参加しやすい。その中で興味を引く講座を選んで受講しています」。

研修の資料は職場に持ち帰り、部下と共有しているという。「職員が一つひとつ触れてくれて、みんなでいろんな話ができるようになってきている実感があります。この研修、自分も受けたいといってくれるようになってきた。いい経験をさせていただいているし、いい影響が部下にも出ています」と話す。

職員に求められるのは“情報を伝える力”。

農業委員会の職員に求められるスキルは何か。折本さんと藤本さんに尋ねると、“相談者に対して根拠となる法律などを分かりやすく伝える力”だと声を揃えた。

折本さんは「職員そのものが、接遇や分かりやすく伝えるスキルを向上させなければならない」。藤本さんも「法律の中でできるできないをはっきり答えること、そしてそれはなぜなのかを誰が聞いても分かりやすい言葉で伝えることが必要です」と、法律知識に加えて、市民や町民に情報を伝える技術が重要だと指摘する。

教える立場の橋本さんも、研修の先に見据えているのは“ほかの部署でも活用できるスキル”だという。初任者研修のカリキュラムの整備はひととおり完了し、次のステップとなる、より実務的な研修を検討しているそうだ。

「業務が忙しくて研修に行けないという方も多くいますが、いま時間を要している業務を効率化する“考えるヒント”を提供することで、最終的には業務改善につながるはず」。これまでに市町へ出向いての研修も3回実施。予算や人的資源の制約から県や市町村自身ができないことを、自由度の高いNPOという立場で補完してきており、後輩職員の育成につなげたいと構想している。

 


特定非営利活動法人がんばる農家のパートナー   https://ganbaru-partner.com/

 

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