ジチタイワークス

熊本県天草市

企業誘致から定着まで、自治体と民間がタッグを組みサポートする。

昨年から積極的に企業誘致に乗り出し、結果を出しているという天草市。その背景には強力なパートナー企業「みらい」の存在があるそうだ。官民連携の取り組みについて、産業政策課の嶋﨑さんと同社COOの大矢さんに話を聞いた。

※下記はジチタイワークスINFO.(2023年5月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]みらい株式会社

左:おおや もときさん みらい株式会社 取締役COO
右:しまさき けんすけさん 天草市 経済部 産業政策課

魅力的な雇用を創出することで若者の人口流出を食い止める。

―民間企業とともに企業誘致に取り組むことになった経緯を教えてください。

嶋﨑:天草市が抱える大きな課題として人口減少があり、中でも若者の流出が深刻です。その背景には、市内に高校卒業後の進学先が少なく、働くにも職種が限られていることなどがありました。仕事を選べる環境を整えるのが行政の役割。市では、今後の成長も見込めるIT関連企業の誘致や、デジタル人材の育成、多様な雇用の創出に力を入れ始めていました。関連して、女性が働きやすい環境を整えたテレワーク事業にも取り組んでいます。その事業の中で、令和3年の初め頃に、大矢さんと出会いました。

大矢:実は、当時の私は別の会社にいて、コロナ禍での企業誘致やデジタル人材育成支援に取り組んでいました。その経験から、誘致した企業がその土地に定着することがどれだけ難しいかを知っていました。補助金がなくなると撤退してしまうような誘致ではなく、その地域に根付くまでしっかりサポートする、そんな企業誘致がしたいと、常々考えていました。

そんなときにテレワーク事業に取り組んでいた嶋﨑さんと出会ったんです。全国の地方が希望をもてるような成功事例を、あえて“ハンディキャップのある日本の端でつくりたい”と伝えると、“それなら天草で一緒にやりませんか”と力強い言葉をもらいました。そして、先に天草に進出していた当社社長との出会いが追い風となり、令和3年7月に取り組みを本格スタートしました。

みらいが自治体と取り組んでいること

各分野の専門知識をもったメンバーが、地方創生のコンサルティングおよびサポートを行っている同社。中でも天草市で実施したのが❸の中の企業誘致の取り組み。地方進出検討ニーズの発掘から、自治体とのマッチング、地域ブランディングなど、ワンストップで伴走してくれる。

協力者の存在により誘致活動が“受け身”から“攻め”の姿勢に。

―同社が関わるようになって誘致活動に変化はありましたか?

嶋﨑:大きく変わりました。それまでも企業誘致には取り組んでいたのですが、“待ちの姿勢”で能動的な誘致活動ができていませんでした。その当時、企業を誘致するには、好条件を打ち出さなければいけないとばかり考えていたのです。天草は高速道路のインターチェンジから遠く、水資源が豊富というわけでもない。そのため、製造業などには不利で、どのように訴求すべきか悩んでいました。その後、サテライトオフィスやIT関連企業を誘致する流れになっても、積極的な営業はできないまま。営業活動をするといっても、サテライトオフィスのマッチングイベントに出る程度で、マッチングに至ることもほぼない状態でした。

大矢さんから“フォームマーケティング”の話を初めて聞いたときは、画期的だなと感心しました。企業の問い合わせフォームからメールを送り、返信があった企業とWEB面談をして、視察ツアーを実施。それまではプレゼンテーション資料すらなかったので、PowerPointの資料やPR動画をつくってもらうなど、これまでとは真逆の“攻めの姿勢”の誘致活動に変化しました。この方法はイベント出展と違い、お互いが進出に関心をもっている状態で面談ができるので話しやすかったですね。イベントだと、どうしても私たちからの一方通行な営業になりますが、自然な流れで視察につなげることができました。

行政と民間の力によってもたらされた新たな成果。

―新しい手法の誘致活動ですが、どのような成果がありましたか。

嶋﨑:初年度はIT関連企業約7,000社に対してフォームマーケティングを行い、返信があったのが106件。その中で“天草に興味がある”と答えた企業が44社あり、そのうち6社が視察に来てくれました。また、令和4年度は製造業も追加して約8,000社にアプローチし、そのうち返信があったのが157件。25社とWEB面談を行い14社が視察に来ています。

大矢:初年度のフォームマーケティングの返信率は1.5%、令和4年度は1.9%に伸びました。通常、返信率は知名度の高い都市でも2%程度です。天草の場合、地名を教科書で知っていても、何県なのかは知らないという人は多いはず。天草の知名度を考えると十分な結果ですね。

嶋﨑:ほかにも東京で市の主催イベントを開催しています。私たちが東京に出向いて市の魅力を伝える2日間には、多くの人が集まってくれました。また、天草に進出した企業を紹介する“天草市進出企業フェア”には、大人だけでなく小学生、市外からも多くの人が訪れ、にぎわいました。当市に興味をもってくれる人がいることが分かっただけでも、モチベーションが上がり、可能性を感じています。

大矢:これらの取り組みで誘致した企業は、10社以上にのぼります。また、私は今、東京と天草の2拠点生活をしているのですが、天草はとてもポテンシャルが高い土地だと感じています。“こんな田舎にいても……”という人もいますが、地元の人ほど自分たちの魅力に気づいていないものです。面積は熊本県で1番広いですし、人口も県内3位。車で走っていても野生のイルカに遭遇できるほど自然があふれ、食も文化も豊かで、人も温かい。それなのに住民が自信をもっていないなんてもったいないですよね。このギャップこそが、天草の伸びしろだと私は思っています。

―取り組みを進める中で、大変だったことや苦労したことはありますか。

嶋﨑:庁内での調整が大変でした。進出企業が増えてくると、“これができないか” “こういうことを一緒にしたい”などの要望も増えてきます。当課だけでは実現できないことも多く、どうしても関係部署との連携が必要です。私は進出企業からの要望はできる限り実現したいと考えているので、庁内で丁寧に話し合いを進めるようにしています。それが結果的に今後の可能性を広げることにつながると思うからです。実際、始めた頃は庁内での調整が難しいときもありましたが、誘致企業が増えるなどの結果がついてくると、興味をもってもらえるようになり、よりスムーズに話し合えるようになりました。

企業誘致を夢物語のように感じていた頃に比べたら、大変なことがあってもやりがいを感じていますね。色々な職業や考えの人に出会うことができますし、天草で一緒に何ができるかを考える時間はとても充実しています。今後は、後任へもこのやりがいを伝えていきたいですね。

みらいと天草市が実施したイベント

■天草に企業誘致するためのイベント(東京開催)

天草進出に関心のある、都市部の企業に直接アプローチするための企業誘致東京イベント。個別面談のほか、天草の特産品でもてなす懇親会、地元企業も交えて市の魅力を伝えるトークショーも開催。約30人が来場し、そのうち進出決定1社、視察誘導3社の発掘につながった。

<参加者の声>

自治体や地元企業の皆さんが、地元や子どもの未来を考えて、真剣に取り組んでいるのが伝わりました。
 


 

■天草に進出した企業を市民に周知するイベント(天草開催)

多くの企業に天草が選ばれていることを市民に伝え、シビックプライドを醸成するため、進出企業によるピッチイベントを開催。各社の技術体験や試食ができるブースも出展し、求人情報なども公開した。オンライン含め、参加者は200人を超えた。

 

<参加者の声>

色々な仕事があることを知ってとても安心しています。天草への希望が感じられました。
 

各自ができることで貢献し三方良しの企業誘致へ。

―順調なスタートの企業誘致ですが、うまくいくコツを教えてください。

嶋﨑:企業誘致を行政主体でやっているところも多いと思いますが、天草の立役者は地元の民間企業だと思っています。皆さんの協力が本当に心強い。誘致イベントも積極的に手伝ってくれますし、懇親会にも参加してくれます。自治体職員とはいえ、天草を知り尽くしているわけではありません。天草で事業を営む皆さんの言葉は、進出を検討している企業の心に響くものがあると思います。

また、地元の経営者からは“進出企業の思いに触れると初心を思い出す”という声も聞かれます。双方にいい影響をもたらしているのを見ると、つくづく自治体だけが一生懸命ではダメだと感じます。

また、言うまでもなく、大矢さんの力は大きいですね。行政の立場をよく理解しながら、私たちだけではできないアプローチで行政と企業との橋渡しをしてくれる存在は本当にありがたくて。そのおかげで、進出企業も地域に馴染みやすく、定着につながっています。

大矢:“まずは自分が動くこと”。これは私も大切にしていますが、嶋﨑さんも同じです。民間の気持ちを理解してフットワーク軽く動いてくれる自治体担当者の存在ほど、心強いものはありません。企業誘致は手段でしかなく、一番の目的は地域の活性化です。同じビジョンと熱量で取り組む存在が、行政側と民間側にそれぞれいたことが、成功のカギだと思っています。

―それぞれが考えている今後の展望について教えてください。

大矢:企業誘致の取り組みを通じて、地元企業や市民から“まちが活性化した気がする” “未来に希望を感じた”と、うれしい声が聞こえてきました。“どうせ天草だから”と悲観するのではなく、自分たちのまちでワクワクして暮らしてほしいと思います。

嶋﨑:そうですね。私も天草で生きていくと決めていますから、住んでいてワクワクするまちにしたいと思っています。実は、個人的な活動なのですが、ボランティアで月に一度、商店街を遊園地に見立てて開放する活動をしています。そんな風に大人がここでの生活を楽しんでいたら、子どもも天草が好きになるだろうし、若者が魅力を感じる仕事があれば、ここで暮らしていきたいと思うようになるはずです。行政も企業も市民も“まちのために何ができるのか”を一緒に考えて、同じ方向を向いて取り組んでいく。“誰かがしてくれる”ではなく、自分たちが動いて変えていかなければいけないと思います。

大矢:そのためにも企業を誘致して終わりじゃダメなんです。補助金が終わると企業が撤退してしまう、そんな誘致ではなく、企業が定着して、この土地の魅力の一部になっていく。そのためのサポートをこれからも続けていきたいですね。天草と同じような課題を抱えるまちは全国にたくさんあります。私と同じ思いをもって地域のサポートができる、そんな人材の育成にも取り組み、一緒に学んだ仲間たちと各地を盛り上げていきたいです。

注目される企業誘致を行うには

1.互いの立場から物事を考える人材を育成する

行政と民間の双方の橋渡しをする人材が、行政側にも民間側にもいるのがベスト。お互いの立場を理解して、サポート体制を築くことが重要だ。

2.誰かの行動を待たずに自ら率先して動く

“こうしたい”と思うことがあるなら、まずは自分が動くこと。一生懸命取り組む姿が共感を生み、協力者があらわれると、活動が広がるきっかけにもなる。

3.企業誘致はまち全体で歓迎の姿勢を見せる

担当者だけではなく、官民一体となり、まち全体で歓迎を伝える。首長自らが視察訪問者の話を聞いたり、懇親会にまで顔を出したりすることもあるという。

地元企業と進出企業の声

天草市の企業誘致成功のカギは、自治体だけでなく地元企業の力も大きかったという。ここでは市内の地元企業と市外から進出してきた企業、それぞれの声を紹介する。

地元企業

光栄産業株式会社(赤い月珈琲部門)
代表取締役副社長
吉永 正敬(よしなが まさたか)さん

自家焙煎のコーヒー豆を販売。住民から厚い支持を得ている。

Q1:企業誘致を進めるために、どのような支援をされましたか。

A:東京で開催された企業誘致イベントに同行し、天草で事業を行っている立場として、話をしました。2日間のイベントでしたが、天草の魅力を十分に伝えられたと実感しています。そのほか、視察ツアーで天草に来ていただいた企業の方とも、食事の場などで、ざっくばらんなお話をさせてもらっています。また必要に応じて、進出企業と地元企業とのマッチングもお手伝いしています。

Q2:これらの取り組みによって、まちに起きた変化はありますか。

A:企業誘致が進んでいることは、まだ天草市民全体に浸透しているとはいえません。近いところで、実際に関わっている私としては、ある意味“産業構造革命”が起こっているような気がしています。これまで天草に存在しなかった多種多様な仕事が、まちにあふれ出しました。それに伴い、将来、子どもたちの職業選択の幅が広がり、様々な可能性が生まれる予感がしています。

Q3:これらの取り組みに関する今後の展望を教えてください。

A:誘致活動の第1フェーズとしての活動は、成功を収めているといえます。第2フェーズは、誘致した企業が長期にわたり天草で事業活動していくこと。誘致した行政はもちろん、地元企業も島外からの企業を受け入れる柔軟性をもち、積極的なサポートが必要になってきます。私も微力ながら継続して支援していきます。

 

進出企業

株式会社ビム・アーキテクツ
代表取締役
山際 東(やまぎわ あずま)さん

建築設計業務やBIM※を活用した業務支援などを行っている。

Q1:天草市への進出を検討することになったきっかけや進出の決め手は何ですか。

A:東京の人材不足と最低賃金引き上げで、地方にも拠点が必要だと考えていました。そんなとき、企業誘致の案内が届き、天草市の視察ツアーに参加。もともとほかの地域への進出を検討していましたが、同市の視察を通して、環境の良さや人材教育の可能性、行政の協力体制などに魅力を感じました。2度目の視察では高校や地元建築企業を訪問。当社の進出が、就職先の選択肢を増やすこと、地元企業の人材確保にもつながると感じ、進出を決意しました。

Q2:進出してみていかがですか。率直に感じていることを教えてください。

A:良かった点は、短期間で多くの人材を確保できたことです。また、天草市などの支援により、色々な地元企業や進出企業とのつながりをもつことができました。意識の高い人たちが集まる同市で、これから仕事をすることがとても楽しみです。

Q3:まだ進出したばかりですが、企業としての今後の展望はありますか。

A:今は事務所の環境がやっと整い、採用人材を教育している段階です。まだ試行錯誤の状況ですが、これから実務へ展開し、収益を得られる体制へ早くシフトしたいと思っています。この天草第1期採用者が実務で稼働するようになれば、2期採用者や高卒対応へと進むことができます。同市の人材の伸びしろに期待しています。

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TEL:080-1136-4004(担当:大矢)
住所:〒730-0022 広島県広島市中区銀山町3-1 ひろしまハイビル21 16F
E-mail:motoki.ohya@go-mirai.jp

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