高齢化が進み、どの自治体でも健康推進事業の取り組みが強化される中、課題となるのが“健康無関心層”へのアプローチ。そんな中、蒲郡市では8年前から市を挙げた健康づくり事業が継続的に実施されている。無関心層も取り込む工夫があるという施策について、それまでの経緯や成果を担当の石黒さん、小林さんに聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.18(2022年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
メタボ増加による財政の圧迫でトップダウンの最重要施策に。
蒲郡市が平成26年度から継続する、市民参加型の健康づくり事業「体重測定100日チャレンジ」。この事業に立ち上げから携わる石黒さんは「平成23年度の国民健康保険被保険者の特定健診の結果から、メタボリックシンドローム(以下、メタボ)該当者の割合が、県内ワースト1位になったことがきっかけでした」と話す。メタボ該当率だけでなく、特定保健指導終了率も県内で最も低いという結果に危機感を抱いたという。
「加えて、市の更生医療費も増加傾向にありました。状況を危惧した当時の財政担当部長とも話し、“これは最重要課題だ”ということで、すぐに市長へ話が上がりました」。これまで、健康政策はあるものの、市の目玉になることはなかった。しかし、この危機感が市長にも伝わったことで“市民の健康は財政にも影響する”と、健康政策を転換するきっかけに。こうして、全庁横断的に健康政策を進めようと、平成25年度に「健康化政策全庁的推進プロジェクト」が立ち上がったという。
課を超えて生まれた推進力で100日チャレンジがスタート。
プロジェクトで特にこだわったのは、メンバーの人選だった。「通常、課の推薦で募ることがほとんどですが、機動力のあるメンバーに声を掛け、こちらから人選する形にしました」と石黒さん。このことで柔軟で活発な意見が集まるチームができ上がり、高い推進力が生まれることになった。
内容を検討する中、1つのグループが、メタボと体重の関係性に着目。まずはグループ内で毎日体重を量り、変化を見る検証を開始した。そこで、体重測定が生活習慣や健康管理の意識向上につながるという結果を得て、この動きを庁内全体へ広げていくことに。「ただ毎日体重を量るだけですが、自然と健康に意識が向くのです。これなら市民へも展開できるということで、平成26年度に『体重測定100日チャレンジ!めざせ1万人!』がスタートしました」。
企業や団体を巻き込むPR活動が無関心層取り入れのカギとなる。
同市のチャレンジ方法は、専用のWEBシステムもしくは書面で申し込み、期間中に体重を記録するだけ。簡単に記録できるようにICTを活用した仕組みを構築しつつ、手書きの記録表も用意した。ただ、それだけでは無関心層には響かないと考え、“参加賞”や“達成賞”として、市の名産品などの賞品も用意したという。さらに、職員自ら企業や老人クラブなど団体訪問も実施。チームで楽しく競い合うことでやる気向上を目指した。「最初はまわりに言われ渋々参加した人も多かったようですが、参加してしまえば体重と向き合うことに楽しさを見出す人も多く、100日チャレンジを完走した参加者は6割を超えました」と小林さん。その結果、男女ともに体格指数(BMI)の適正値の人数が増加した。また、教育委員会・学校とも連携し、小中学生には「朝ごはん100日チャレンジ」を実施。これらの参加者を合わせ、初年度は目標の1万人を突破できたという。
適正なBMIの人が増加!
その後も毎年継続的に実施する中、3年前からはWEBシステムに「てくてくマップ」というアプリを追加。これは、ウォーキングやサイクリングの距離・歩数を入力すると、バーチャル旅行が体験できるもの。利用者からは「ゲーム感覚で楽しめる」といった声があり、石黒さんはマンネリ化防止対策として期待を寄せているという。「保健師として長年、健康づくりを第一としてきましたが、市民が健康になることが財政の負担を軽減し、こういった取り組みは、部署を越え展開できることが分かりました」。8年目を迎えた今年度は「体重・体温測定100日チャレンジ!」と名称を変更。市民が健康で生き生きと輝ける暮らしを目指す同市の取り組みは、これからも続いていくだろう。
1万人参加を達成するために実施したこと
講師を招いたイベント
チャレンジ開始前に、キックオフイベントとして講演会を開催。健康と体重はつながりがあることを周知した。さらに、プロジェクトメンバーによる寸劇も披露し、参加を呼び掛けた。
市内全域でのPR活動
企業・団体ほか幼保育園、小中学校の会議で参加を依頼。さらに、チラシの全戸配布や集客施設へのポスター掲示、駅前看板の設置、市のホームページや広報紙にも掲載しPRした。
蒲郡市
健康福祉部 健康推進課
右:課長 兼 統括保健師
石黒 美佳子さん(いしぐろ みかこ)
左:保健師
小林 かおりさん(こばやし かおり)
市民の健康はもちろん、様々な企業や団体との関係性が構築できたことも財産です。今後は参加者数にこだわらず、健康のための行動変容を促す取り組みにしていきたいですね。
課題解決のヒント&アイデア
1.企業や団体などを訪問しチーム参加を呼び掛け
無関心層を取り込むには、職場や家族などを巻き込んでの参加が有効。職員自ら企業・団体を訪問して参加を呼び掛けることで、チーム参加を実現させる。
2.毎日記録しやすい管理専用システムを用意
測定・入力の手間を減らすため、専用のシステムを用意。パソコンやスマホから記録でき、希望者には通信機付き体重計の貸し出しで連動できる仕組みに。
3.継続的なフォローアップで脱落者ゼロへ!
参加者には、毎月1回健康情報を配信し、記録の入力が途切れた際にはリマインド。また、庁内や公民館など市民の立ち寄りが多い市内10カ所に「体重測定小屋※」を設置した。
※体重測定小屋は、令和2年度より新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止中(令和3年12月末時点)