鳥羽市
元・健康福祉課（現・市民課）
係長 中村 孝之（なかむら たかゆき）さん

医師が動く方法ではなく、車両が動くことで診療機会の拡充を目指す。

漁村集落で、人口減少と高齢化が進む同地区。大学病院から非常勤医師の派遣を受け、1診療所と2分室を運営しているが、十分な診療機会が確保できていなかったそうだ。「医師が各施設を巡回で診療しているため、開所できる曜日や時間が限られ、 “受診できなくて困る”という声が寄せられていたのです。当市では、令和2年から離島の市立診療所でオンライン診療を始めていましたが、より広くこの技術を活用したいという思いがありました」と中村さんは振り返る。

そんな中、新聞記事を見て知ったのが、「モネ・テクノロジーズ」の医療MaaS^※（マース）事業だ。遠隔診療機器を搭載した車両に看護師が乗り込んで患者のもとへと向かい、オンライン診療をサポートする仕組みだという。医師は移動せずに遠隔で患者を診ることができる上、診療所までの移動が困難な人も自宅近くで受診できる。「車両の機動性を活かすことで、施設の立地に左右されることなく、診療機会を拡充できます。将来を見据え、導入の検討を開始しました」。

※MaaS=Mobility as a Service（サービスとしての移動）

看護師にも視察に同行してもらい現場目線で使いやすさを追究。

運用イメージを具体化するため、視察できる事例はないかと同社に相談。紹介を受け、同市のオンライン診療を主導してきた市立診療所の医師と看護師とともに、京都府宮津市（みやづし）へ向かった。「実際に車両に乗り、患者と接するのは看護師。実車両の様子を見て安心できたようです」。

その後、令和5年にデジタル田園都市国家構想交付金を獲得。同社と正式にタッグを組むこととなり、地域や医療関係者との合意形成に向けて調整を始めた。「地元医師会への説明の際に、“患者の自宅からの移送も重要では”との意見があり、事業に組み込むことが決定しました」。

車両の運行については、同社が地域交通事業者と協議を進め、運転士を確保。同年の11月に住民向けの体験会を開き、12月からレンタル車両による実証事業を始めた。「住民からは“対面の診察と比べて遜色ない”“受診しやすい方法を考えてくれるだけでもありがたい”といった声が寄せられました」。

手応えを得た同市は、令和6年7月より市独自の車両を導入し、本運用を開始。外装は明るく目立つデザインに、内装には看護師の声を取り入れた。手すりの追加や小物収納の設置といったカスタマイズを施し、使いやすくなるよう工夫したという。

“動く医療”を導入したことで移動が困難な人も受診可能に。

同市の医療MaaSは、令和5年12月から令和7年5月末までに延べ232件利用されており、診療所の患者数減少に歯止めがかかったそうだ。医師の提案をきっかけに、移送サービスを利用して隣の地区の診療所へ通い、痛み止めを打つ人が増えているのだという。「漁で腰や肩を痛めても、最寄りの診療所が開いている時間に行けず、我慢していた人が受診しているのではないでしょうか。家族に頼らずに移動できることが喜びになっている人もいるようです」と笑顔を見せる。

今後の展開として、歯科領域や保健指導といった分野でも、車両の活用を検討中だという。「今後、へき地の医療人材は減少していくでしょう。制度面ではまだ課題がありますが、規制改革を見据えて準備を進めています」。用途が広がれば、さらなる住民の利便性向上も期待できるだろう。「地域ごとに課題は異なると思いますが、へき地だからこそできる工夫も多いと感じます。次の展開を検討する際は、同社が他自治体や関係省庁とつないでくれるので心強いですね。今後も車両の機動力を活かし、サービスを維持していきたいです」。人口減少下の高齢社会でも、工夫次第で道は開けることを同市の事例は教えてくれる。“動く医療”が、地域医療の新たな一手として力を発揮しそうだ。

鳥羽市での運行の様子を
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自治体別の導入事例は
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