【セミナーレポート】Day1:TikTokの事例で学ぶ自治体広報&プロモーション 動画&ライブ情報発信3Days
今、自治体の情報発信力が求められています。様々なツールや媒体があふれる中、メッセージを広く、強く届けるためには、どのような施策を打てばいいのでしょうか。本セミナーでは、3日間にわたって産学官の知見を集め、TikTokを軸に動画の持つ可能性とその活用法を探りました。各回の内容を3回シリーズでお伝えします。
概要
□タイトル:TikTokの事例で学ぶ自治体広報&プロモーション 動画&ライブ情報発信3Days
Day1:知る/自治体における動画広報の現状と課題
□実施日:2021年12月21日(火)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□参加者数:518人
□プログラム:
第1部:自治体の情報発信の課題とあり方/北海道大学 北村 倫夫 教授
第2部:TikTokの安全推進の取り組みについて/ByteDance株式会社(TikTok Japan) 山口 琢也 氏
第3部:TikTokの概要と特徴/ByteDance株式会社(TikTok Japan) 笠原 一英 氏
第4部:なぜ行政情報の発信にショートムービーを使うのか?Day1/広島県 石田 雅之 氏
第5部:動画による魅力発信のチャレンジ/茨城県 谷越 敦子 氏
Day1:知る/自治体における動画広報の現状と課題
セミナー初日は“知る”を主題に置き、専門家による地域マーケティング原論からスタート。TikTokの概要を通して動画による情報発信の重要性を共有した上で、独自の取り組みを進めている2自治体の事例を発表してもらった。
<講師>
北村 倫夫 教授
北海道大学大学院 メディア・コミュニケーション研究院 特任教授
山口 琢也 氏
ByteDance株式会社(TikTok Japan) 公共政策本部 執行役員・公共政策本部長
笠原 一英 氏
ByteDance株式会社(TikTok Japan)公共政策本部 公共政策マネージャー
石田 雅之 氏
広島県 総務局 ブランド・コミュニケーション戦略チーム グループリーダー
谷越 敦子 氏
茨城県営業戦略部 プロモーションチーム チームリーダー
自治体の情報発信の課題とあり方/北海道大学 北村 倫夫 教授
自治体の情報発信は、地域住民向けの“対内”と、地域外に向けて行う“対外”に分けられます。今回は後者について、「自治体の対外情報発信はマーケティングの一要素である」という視点で話します。
まず前提として、自治体や地域の間でも競争は存在します。大別して「市場競争」「制度・基盤競争」「マーケティング・広報競争」の3つです。市場競争は、居住・交流・関係人口の誘引や、ビジネス・投資・購買力をいかに地域に持ってくるかといった競争です。制度・基盤競争は、特区やふるさと納税、インフラの誘致などが対象になります。
そしてもう1つ、本日のテーマであるマーケティング・広報における地域間の競争が激しくなっています。これら3つの競争が同時に起きている、というのが自治体の置かれている状況です。
こうした競争に対応していくには、「人口力」「経済力」「購買力」「基盤力」の4つの力を外から地域内に取り込む政策展開が重要となります。その実現に向けて、戦略的な地域マーケティング・広報が求められるのです。
ところが、そもそも日本の自治体においては、マーケティングがあまり重視されていません。一方、世界に目を転じると、英語圏の多くの国や地域では、重要な政策キーワードの一つがマーケティングになっています。こうした差が生じる理由として、以下が挙げられます。
■マーケティングは“PRプロモーション”のことであるという誤解
■マーケティングは“企業がモノを売るためにやるもの”という偏見
これらを改めるため、もう一度マーケティングの原点に回帰する必要があります。マーケティングには二つの定義があります。狭義のビジネス的定義は、「企業が、顧客のニーズを捉え、商品を売れるようにすること」です。一方、広義の社会的定義というのがあり、これが広まっていないことが日本の問題です。
例えば、日本マーケティング協会の定義では、マーケティングを実施する主体として行政も入っており、対象となる顧客には機関・個人および地域住民も含まれる、とされています。また、世界で最も権威のある米国マーケティング協会(AMA)の定義はこうなっています。
「マーケティングとは、一般顧客、得意先客、パートナー、そして社会全体にとって価値ある提供物を、創造し、コミュニケーションし、配送し、交換するところの活動、一連の制度および過程である」
この「価値ある提供物」というのがポイントで、地域(自治体)が「価値ある提供物」を創造すること、それがすなわち地域マーケティングである、ということなのです。
では、地域マーケティングで何をやるべきかというと、上図に全てが記載されています。流れとしては、
(1)目標の設定→(2)環境調査→(3)市場戦略立案(STP)→(4)マーケティングミックス計画の策定→(5)計画の実行→(6)分析評価、となります。
特に(4)について、マーケティングミックスの要素は、モノを中心に据えていた従来の4Pから、サービスの視点を取り入れた7Pへの転換が必要です。
■4P=製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)
■7P=4P+人(People)、物的要素(Physical Evidence)、過程(Process)
この中でも重要な「プロモーション(地域の広報・PR)」について、世界の現状はどうなっているかというと、「ペイド」「オウンド」「アーンド」の3のメディア(POEMと呼ばれる)を統合運用した、メディアミックス戦略が主流となっています。
自治体が使えるメディアを分類すると、公式ホームページなど自分で所有・管轄しているのがオウンドメディア、SNSを使った住民の口コミなどがアーンドメディア、お金を払って情報を広めるのがペイドメディアです。それぞれ訴求する対象が異なっているため、それを意識して統合運用するのがメディアミックス戦略の重要なポイントになります。
今回のセミナーで扱うTikTokはどこに位置するかというと、公式アカウントでコンテンツ配信するならオウンドメディアであり、ユーザーが反応して拡散する場合はアーンドメディアになります。このあたりがTikTokをうまく使い分けする上でのポイントになるでしょう。
TikTokの安全推進の取り組みについて
/ByteDance株式会社(TikTok Japan) 山口 琢也 氏
私からは、TikTokを自治体の広報ツールとして使う際に質問が多い「安全性」について説明します。
TikTokは、プラットフォームとしては後発にあたりますが、これまで他のプラットフォームが経験してきた問題を先行する形で対策しています。安心・安全に楽しんでいただく環境の維持が最優先なのです。具体的には、下図の通り4つの安心・安全の取り組みがあります。
まずルールの整備です。法令等に則る形で、利用規約やプライバシーポリシーを定めています。また、TikTok上でどのようなコンテンツが投稿できるのか、あるいは禁止されているのかといったことを定めたコミュニティガイドラインを制定しています。これらのルールにもとづき、専門チームがユーザーや外部機関等からの報告に対応する体制を構築。四半期ごとに透明性レポートを発行し、対外的な説明を行っています。
次にツールの整備について。例えば、全ユーザーを対象に年齢認証を導入しており、13歳未満の方は利用できません。ダイレクトメッセージ機能も16歳未満は使えない仕様になっています。保護者がTikTokでお子さまのアカウントを連携すると、お子さまの使用時間やコミュニケーションの相手を保護者の端末からコントロール可能です。
安全教育・啓発の推進については、様々な施策を行っていますが、特に大事にしているのが本当にユーザーに届く教育・啓発をするという点です。若年層を含む幅広い世代に影響力を持つクリエイターと連携し、安全の確保や自殺防止、誹謗中傷の防止などを推進しています。
外部連携も推進しており、「セーフティパートナー・カウンシル」では、様々なNPO団体、ネットの安全に関する専門家、政府の皆様と知見を共有し、製品や取組にフィードバックしています。これらの体制づくりと共に、TikTokは情報セキュリティにも配慮しています。TikTokのユーザーに関するデータは、シンガポールと米国で保管。サーバーは認証を受けたサードパーティのものを利用しており、安全な環境を構築しています。
なお、自治体とも様々な取り組みを進めていますが、住民等の機微情報をTikTokが受け取ることは原則としてなく、一般的な啓発や周知・告知の場合でも、ユーザーの個人情報を受け取ることはありません。情報セキュリティマネジメントについては、ISO27001を取得済みです。
続いて、当社の笠原がTikTokの特徴について説明します。
TikTokの概要と特徴/ByteDance株式会社(TikTok Japan) 笠原 一英 氏
TikTok は、中国を除く150の国と地域で展開しているショートムービープラットフォームです。スマホ・タブレット・ブラウザで、縦型・短尺動画並びにライブ配信の閲覧・投稿・共有が可能です。動画は180秒まで投稿でき、ライブに秒数の制限はありません。外部機関(Sensor Tower)の調査では、全世界で30億ダウンロードを突破しました。
動画のコンテンツは、文化・教育に関するものをはじめ、弁護士や税理士の先生による法律・税務の豆知識、防災関連のNPOによる災害時の非常用トイレの作り方など多様です。年齢層も、若年層はもちろん30代以降にも広がっています。ユーザーの視聴時間は、1日平均70分間。通勤や休み時間、寝る前などの日常のスキマ時間に利用されています。
続いて特徴です。大きく3つあります。まず、フォロワー数に関わらず拡散しやすい特徴を採用している点。一般的なプラットフォームでは、フォロワーやチャンネル登録者がいないと広がりません。しかしTikTokではフォロワー0人でも一定数のユーザーの「おすすめフィード」に表示される仕組みになっています。
次にレコメンデーション機能。画面には「おすすめフィード」があり、その人の興味・関心がありそうな動画を表示しています。野球が好きであれば野球関連、ペットが好きならペット関連、といった具合です。
最後に、無関心層に対して関心のきっかけを創るという部分。ユーザーが見たら関心を持ち得る情報に加えて、少し関心からずれた情報やユーザーがまだ知らないであろう情報をプッシュしているので、無関心層へのアプローチには適しているのです。ここで、今日から使えるTikTokの簡単編集ツールを4つ紹介します。
フォトモーション機能は、写真素材があれば簡単に動画を自動生成する、アプリ内の機能です。例えば風景の画像を数枚用意すれば、あとはTikTokアプリが自動的に動画を生成し音楽もつけて、公開できるようになります。テキスト機能は、動画の中に観光地の名前や発信内容の説明などを文字で表示し、より伝わりやすくする機能です。アフレコ機能では、音声ナレーションをつけることができます。行政のメッセージなど、動画に後から説明を加えたいときにこの機能で補足することが可能です。
さらに自動字幕起こし機能。文字起こしをすることなく動画内の音声情報を自動的に活字化でき、英語圏のユーザーのフィードに表示されれば自動的に英語に翻訳されるという機能も実装されています。アジア圏でも同様です。動画投稿とアカウントの運用については、以下のような特徴を活かした運用体制も検討できます。
こうした機能や特徴を持つTikTokは、様々な行政機関と連携し、啓発活動、防災情報発信、コロナウイルス関連情報の提供、観光プロモーションなど多様な目的に合わせて活躍中です。
ここからは、そうした事例について自治体の担当者様から語っていただきます。
なぜ行政情報の発信にショートムービーを使うのか?Day1/広島県 石田 雅之 氏
広島県では、昨年(2020年)の春からTikTokを活用しています。運用を始めたきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大です。県民に感染対策を呼びかける必要があり、広報媒体やSNSなどを活用して取り組んでいたのですが、10~20代の方へもっと訴求していかなければならないということで、TikTokを活用しようと考えました。また、動画は訴求力が強いので、“読む”から“見る”広報に視点を変える取り組みに挑戦したい、という狙いもありました。そこで、2020年の4月にアカウントを開設し、同年7月にバイトダンスと連携協定を締結したのです。
当県におけるTikTok上でのコロナウイルスに関する取り組みを、いくつか紹介します。
1つ目は「プロフェッショナルシリーズ」です。コロナウイルス禍の中でも、若い方が未来に向けてチャレンジするのを応援する企画です。広島で働いているホテルシェフ、水族館の飼育員などが、それぞれどういった思いで今の仕事をしているのか、なぜ広島にいるのか、コロナウイルスでどんな影響があったか、といったことを語っています。
2つ目は「TikTok×地元ラジオ局」です。若年層に感染対策やワクチン接種を働きかけていく取り組みの一環です。地元広島FMの中高生向けラジオ番組に知事が生出演し、その様子をTikTokでライブ配信しています。
3つ目は「知事メッセージの発信」です。若年層の感染対策につなげるため、TikTokで知事のメッセージを出しました。できるだけ早く感染対策をしていただきたいので、スピード重視で取り組んでいます。
そのほか、TikTokのクリエイターやVtuberを起用して感染対策やワクチン接種を呼びかけたり、地元ラジオパーソナリティ、プロスポーツ選手などに協力いただき、若年層に向けたメッセージを発信しました。外部だけでなく、絵が得意な職員にイラストを描いてもらい、それをTikTokで流すという試みもしています。
これらの取り組みの結果、2021年の1月にはフォロワー数が1万を超えました。直近では1万6000ほどで、順調にファンが増えています。動画制作では内製化している部分も多いのですが、その際に心掛けていることは以下のような点です。
■フォロワーの共感
■コロナウイルス関連に関してはインハウスでスピード重視
■若年層に近い年代の担当者を中心に企画・実施
■外部パートナーを巻き込む
今後、コロナウイルスが再拡大することがあれば、それに合わせて必要なメッセージをできるだけ早く発信し、同時にコロナウイルス以外のコンテンツももっと作って発信していければと思っています。
動画による魅力発信のチャレンジ/茨城県 谷越 敦子 氏
茨城県では、地域の魅力をインターネット動画サイトの「いばキラTV」で発信しています。本県は、都道府県で唯一民放の県域テレビがありません。そこで映像での情報発信を強化しようと、自治体としてはかなり早くから動画広報に力を入れてきました。現在YouTubeを中心とした動画配信をしており、これまでの掲載数は1万本以上、2019年3月には、自治体が運営するYouTubeの公式チャンネルとして初めて登録者10万人を達成し、現在では15万人を超えています。
いばキラTVは、2017年4月からSNSにもアカウントを開設、2018年8月からは自治体初の公認Vtuberを起用し、現在も「茨ひより」というキャラクターがアナウンサーとして活動。茨ひよりのTwitterアカウントには「いいね」やコメントが多数寄せられています。
今、ネットには動画があふれていて、どんなに良い動画を制作しても、見ていただかないとPR効果は望めません。そこで私たちは、視聴が得られやすいテーマやキャストを選択する、インフルエンサーとコラボする、時にはターゲティング広告を活用する、などの工夫をしています。
最近の動画をいくつか紹介します。まず、コロナ禍でキャンプが人気となり、キャンプ場数日本一の本県としてはこの機を捉えたいと、キャンプ芸人のヒロシさんなどに出演を依頼しました。このキャンプ動画は3本シリーズで、合計100万回に迫る視聴数となっています。また、「体験王国いばらき」をキャッチコピーとして、デヴィ夫人を起用し、王国の女王という設定で県内の体験コンテンツを実際に体験しながら視察していただくという動画も展開しています。カヤック体験の動画は約124万回の視聴数です。
ほかに、県職員が女王の執事見習い役となって県内のスポットを視察する体験記なども配信し、話題になっています。
このように様々な動画を発信していますが、2019年からはTikTokにもいばキラTVのアカウントを開設し、試行錯誤しながら短尺動画を配信しているところです。
上図の左はあんこう鍋の紹介動画ですが、TikTokでは56万回を超える視聴数となっています。左から2番目はつくば市にある研究機関で開発されたアザラシ型ロボットに使われている技術などを紹介しており、20万回以上の視聴数です。そして右から2番目ですが、茨ひよりも時々TikTokに登場しています。
右は知事メッセージ動画で、コロナウイルスの状況が深刻化した際に外出自粛のメッセージを発信しました。エンターテインメント要素がないのにも関わらず50万回以上の視聴があり、TikTokで若年層にここまで情報が届く可能性があるということを知りました。
いばキラTVの取り組みを通し、動画プロモーションには見てもらう工夫が不可欠だと感じています。内容はもちろん、サムネイルや初動を工夫すること、インフルエンサーとのコラボや、ターゲット・目的に応じた媒体の選択なども重要です。今後もこれらのことに留意しながら、いばキラTVを運営して茨城県の魅力を多くの方に知っていただき、観光誘客や県産品の購入など、茨城を選んでいただくことにつながるPRに取り組んでいきたいと考えています。