「将来のために資金づくりをしたいけど、何から手を付けていいのかわからない…」「資産運用したいけど、投資はちょっと怖い」…
本企画では、元公務員で、現在は公務員専門のファイナンシャルプランナーとして活躍している岩崎大さんに、気になる「公務員のお金」について執筆いただいた。
公務員は安定しているからこそ「お金のワナにハマりやすい」と岩崎さん。元公務員ならではの、公務員に実情にあった実践的アドバイスにより、マネーリテラシーを身に着けよう。
公務員世帯が抱えるお金の弱点
「お金の知識を身につけた公務員は、控えめに言って最強です。」
これは、公務員の方からお金のご相談をいただいた際にいつもお伝えしていることです。
僕は数年前まで、自治体の職員として働いていました。現在は、公務員専門の独立系ファイナンシャルプランナーとして活動しています。公務員時代に「今のお金の知識があればどんなに良かっただろう…」と後悔していますが、後悔先に立たず。時間は巻き戻せません。
この世の中には、お金についての間違った常識やワナがたくさん存在します。そして悲しいことに、公務員は「お金のワナにハマりやすい職業」なんです。これは、僕自身の公務員時代を振り返ってもそうですし、日々、公務員の方からのご相談をお聞きする中で実感していることでもあります。
では、なぜ公務員はお金のワナにハマりやすいのでしょうか。1つの答えは、「それなりに生きていくには困らない」からではないかと思います。少なくとも現役期間、つまり給与がもらえる間はなんとなく暮らしていても、生活が困窮するということは少ないはずです。
公務員の給与は、民間の給与実態調査に基づき、民間企業の給与水準に均衡させること(民間準拠)が基本となっています。つまり、仕組みとしては「平均的な暮らしが実現できるようになっている」ということですね。
裏を返せば、お金の勉強をすることへの動機づけが働きにくく、いわゆるマネーリテラシー(お金の知識をうまく活用する能力)が身につきにくいという弱点が見えてきます。
公務員が恵まれているがゆえのウィークポイントです。逆に言えば、適切なマネーリテラシーを身につけ、弱点を克服すれば、公務員は「かなりタフで賢い消費者」に変身できる、そんな潜在能力を秘めています。
この記事が変身のキッカケになればうれしいです。
現役公務員に知ってほしい「共済組合のメリット」
公務員には、共済組合の制度や互助会の給付など、独自のメリットが複数存在します。これらの「公務員ならではのメリット」を活かしつつ、お金に弱いという弱点も克服すれば、生活は安定し、老後の不安解消にも繋がるはずです。
ご自身の共済組合や互助会のメリット、把握されていますか?ここを知らずして、公務員世帯の家計改善・資産形成はありませんので、もし「よく分からないな…」ということであれば、しっかり確認しておきましょう。
共済組合のメリットは、公務員なら誰もが標準装備している武器や防具のようなものです。ですが、知らない間に勝手に装備させられているので、どんな性能があるのか、どんなときに役立つのか、イマイチ分からないという方も多いのではないかと思います。
そこでこの記事では、公務員の生活を守ってくれる装備品について見ていくことにしましょう。
正規雇用の自治体職員の方なら、以下の共済組合のいずれかに加入されているはずです(2021年10月時点)。
・各道府県の職員…地方職員共済組合
・都庁と特別区の職員…東京都職員共済組合
・政令市の一部の職員…指定都市共済組合
・各市町村の職員…市町村職員共済組合
・仙台市、北海道と愛知県の都市の一部の職員…都市職員共済組合
いずれの共済組合でも、「短期給付」という事業を行っています。短期給付の具体的な内容は、病気やケガ、出産、休業などの際の給付です。
たとえば休業給付である「傷病手当金」は、1日につき日給のおよそ90%程度の給付が受けられます。(正確には日給ではなく、標準報酬日額をベースに計算されます)。なお、土日など本来勤務を要しない日は支給されません。
共済組合によって条件が異なる場合もありますので、詳細はご自身の共済組合のサイト等でご確認ください。
その他、実生活で役立つシーンとして多いのは病院にかかったときなので、この記事では数ある短期給付の中でも「医療費」にフォーカスしたいと思います。
公務員は「医療費ダメージ軽減の盾」を初期装備している
共済組合に加入していると医療費の自己負担額が軽減されますが、どれくらい軽減されるかご存知でしょうか。
多くの共済組合では、月の自己負担をMAXで2.5万円に抑えてくれます。給与が多い職員の方は自己負担額が5万円になることもありますが、月の総医療費が100万円でも、1,000万円でも、1億円でも、2.5万円~5万円にしてくれるということなので、かなり強力な制度ですね。
一方、一般の会社員が加入する「協会けんぽ」の場合、月の総医療費が100万円なら約9万円、1,000万円なら約18万円、1億円なら約108万円の自己負担額が生じます(70歳未満で、標準報酬月額28万~50万円の場合)。
こうして比較してみると、共済組合の医療給付の手厚さがよく分かるかと思います。
2021年10月時点の話なので今後改定があるかもしれませんし、各共済組合によって細かな違いもあります。ご自身の共済組合のサイトや福利厚生の手引などで最新情報をチェックしておきましょう。
共済組合のサイト内で「附加給付」や「一部負担金払戻金」などのキーワードで検索すると見つけやすいかと思います。分からなければ、共済組合に問い合わせてみましょう。
また、あくまでも保険適用の治療が対象です。食費や差額ベッド代、先進医療など保険証が使えないものは対象外ですので、その点はご注意ください。
僕は、このような自己負担軽減メリットを「公務員の盾」と勝手に呼んでいるんですが、この盾、対医療費への性能が異常なまでに高いんです。
・自己負担ダメージを数万円に抑えるガード性能の高さ
・何回でも使えてしまう驚異的な耐久性
・扶養家族も守ってくれる守備範囲の広さ
RPGの世界なら物語の後半でやっと手に入るクラスの性能を誇るこの盾、自治体職員ならなんと初期装備です。
もちろん、無料で装備しているわけではありません。毎月キッチリお代を払っています。そういう意味ではレンタル品ですね。
給与明細を取り出してじっくり見てみましょう。「共済短期掛金」や「共済医療」などの名目で天引きされている金額があるかと思います。
その金額が、この盾の使用料というイメージです。つまり、身銭を切って医療保険に入っているということになります。
そんな最強クラスの盾を装備しているにもかかわらず、ほかの防具(民間の医療保険など)も装備する必要があるかどうかは、吟味が必要です。
装備すれば装備した分だけ、守備力は上がるかもしれません。ですが、その分重くもなります。家計の負担が増えるということです。
医療保険の家計負担はバカにできません。長期間、漫然と支出し続ければ数百万円という大金をつぎ込むことになります。加入するにしても「なんとなく」ではなく、明確な目的と意志を持って判断するようにしましょう。
公務員世帯の医療保険の見直し例
ここで、実際にご相談いただいた事例を少し紹介します。
終身の医療保険で、月に2万円くらいの保険料を負担されていました。1年で24万円、10年で240万円、30年で720万円の保険料負担です。なんとなくで払うには、かなりの大金だと思います。それだけのコストをかけてでも回避したいリスクなら話は別ですが、「公務員の盾」によってリスクの多くはガードできるので、「なぜ今の医療保険に入っているのか」、理由の明確化が必要です。
この世帯の方の場合は、最終的には先進医療のみ民間保険で対応すると判断されました。その結果、月の保険料負担は1,000円程度に軽減できました。
節約効果は、ひと月で約1.9万円、1年で約23万円、10年で約230万円、30年で約690万円にもなります。
もちろん、どんな医療保険に入るのかは完全に自由ですし、「いかなる場合も医療保険は不要だ」なんてお伝えするつもりはありません。
だだ、漫然と支出するには大金すぎますし、共済組合のメリットを知らずに医療保険に入っている公務員の方を何人も見てきましたので、考えるキッカケにしてほしいと思っています。
もしも医療保険を契約していた場合、見直しでどれくらいの節約効果が見込めるのか、ご自身のケースに当てはめてぜひ計算してみてください。契約を継続する・しないにかかわらず、この試算は必ずやっておきましょう。
まとめ
それでは最後に、今回の内容をおさらいしていきましょう。
・公務員は給与が安定しているため、お金に無頓着になりがちという弱点がある。
・弱点の克服には、お金の知識をうまく活用する能力「マネーリテラシー」を身につける必要がある。
・マネーリテラシーを身につけ、公務員のメリットを活用すれば、タフで賢い消費者に変身できる。
・公務員のメリットの1つに、医療費の自己負担を軽減してくれる共済組合の制度がある。
・共済組合の制度は無料ではなく、給与天引きで掛け金を払っているため、更に上乗せの医療保険が必要かどうかはしっかり検討する。
自治体の職員さんなら、お昼休みに医療保険の勧誘を受けることも多いですよね。そんなときには、今回の内容を思い出して「これは公務員の盾では防げないリスクかな?」と考えてみてください。
今回の記事が、マネーリテラシー向上の一助としてお役に立てればとてもうれしく思います。
「資産運用でお金をふやそう」にひそむ問題とはどういうこと?
第2回へ続く
岩崎 大(いわさき・だい)
公務員専門FP事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP®。
1984年生まれ。熊本県出身。自治体職員として、生活保護・地域おこし・防災・選管・児童福祉などの業務に携わる。在職中にFP資格を取得し、2017年に退職・独立。公務員世帯に特化した独立系FP事務所を運営中。
ブログやメルマガ、YouTubeなど各種メディアで「公務員にとって本当に役立つお金の知識や情報」を発信中。YouTubeチャンネル「公務員専門FP」はチャンネル登録者7,000名(2021年10月時点)。