「将来のために資金づくりをしたいけど、何から手を付けていいのかわからない…」「資産運用したいけど、投資はちょっと怖い」…
元公務員で、現在は公務員専門のファイナンシャルプランナーとして活躍している岩崎大さんに、気になる「公務員のお金」について本企画。
今回は、気になる人も多いであろう「資産運用」について執筆いただいた。「資産運用はシンプルで妥当な判断にも思えるが、問題もひそんでいると考えます」と岩崎さん。どういうことだろうか?前後編に分けてお届けする。
「資産運用でお金をふやそう」にひそむ問題
日々、公務員の方からお悩み相談を受けていると、よくいただく質問があります。それは、「資産運用のノウハウを教えてください」というものです。
2017年にiDeCoの公務員加入が解禁されたこともあり、資産運用に興味・関心を持つ公務員の方も増えてきているのではないかと思います。
加えて、公務員独自の年金制度だった「共済年金」が「厚生年金」に統一され、民間企業と同等の給付水準に見直されたことや、老後2,000万円問題が取り沙汰されるなど、将来への不安増大も背景にあるかもしれません。
将来不安が高まる現代において、「資産運用でお金をふやそう」というのは、一見シンプルかつ妥当な判断に思えます。ですが、問題もひそんでいると僕は考えています。
そう考える理由は大きく4つです。
1、個別の事情が加味されていない
2、不安は金融商品の売り手にとって好都合
3、忘れてはいけない資産運用の「リスク」の話
4、資産運用を検討するのは最後の最後でいい
前半ではこのうち、「1、個別の事情が加味されていない」「2、不安は金融商品の売り手にとって好都合」についてお話していきますね。
個別の事情が加味されていない
例えば老後2,000万円問題とは、ざっくりいうと「老後30年で約2,000万円が不足するかもしれない」というものですが、あくまでモデルケースの話です。
自分の老後を考える際には、ほとんど参考になりません。なぜなら、世帯構成や貯金額、ライフスタイルなど様々な個別の事情によって、必要な金額は大きく異なってくるからです。
さらに言うと、老後2,000万円問題の元データは総務省の「家計調査」から抜き出したものなんですが、これって2017年のデータなんですよね。2018年以降はどうなっているのかご存じですか?せっかくの機会なので見てみましょう。
・2017年…約2,000万円の赤字
・2018年…約1,500万円の赤字
・2019年…約1,200万円の赤字
・2020年…約40万円の黒字
毎年金額が変わっていますね。2017~2019年は「夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯」、2020年は「夫婦とも65歳以上の無職世帯」の場合の数字です。ここで重要なのは、金額を見て、反射的に「足りる・足りない」と決めつけてしまわないことです。
たしかに、老後資金の確保というのは誰もが考えておかなければならない切実な問題ではありますが、モデルケースや統計データをいくら見たところで解決しません。
統計は切り取り方次第で幾通りも解釈できますし、なによりも、あなたの人生や価値観が反映された数字ではないからです。ここで必要な問いは「自分の世帯にとってどうなのか?」これに尽きます。
自分の世帯にとって、老後までを含めた人生単位でのトータルな収支計画を立てる必要があります。これを「ライフプラン」や「キャッシュフロー表」といいます。NPO法人の日本FP協会が、キャッシュフロー表を無料で配布しています。
ライフプランによっては、資産運用で積極的にリスクを取らずとも貯蓄のみで問題ないケースもあるでしょうし、共済貯金など公務員独自の制度活用だけでOKかもしれません。
資産運用はあくまで取りうる選択肢の1つです。始めるその前に、家計の収支を把握し、ライフプランをしっかり立てておきましょう。
不安は金融商品の売り手にとって好都合
とは言え、「老後は2,000万円不足しますよー!」というニュースが駆け巡ると、なまじ金額のインパクトが大きいぶん、不安が募りますよね。
不安は人間の根源的な感情なので、なかなかあらがいにくく「このままじゃヤバい…なんとかしないと…!」と焦って行動してしまう可能性は大いにあります。
感情が不安に支配されている状態では「理性的な判断が極端に難しくなる」という特性が僕たち人間には備わっています。気をつけたいのは、このような人間の特性を利用し、不安をあおって投資や保険を売り込む手法が存在するということです。
ためしに、インターネットで「老後2,000万円問題」というキーワードで検索してみてください。保険、ロボアド、不動産投資といった資産運用を促す記事がたくさん見つかります。端的に言えば「不安は金になる」ということです。
もちろん、資産運用それ自体は決して悪いものではありませんが、不安に駆られた状態や、収支把握もできていない状態で始めるのはやめておくのが賢明です。なぜなら、資産運用はリスクを伴うからです。
忘れてはいけない資産運用の「リスク」
後編に続く
岩崎 大(いわさき・だい)
公務員専門FP事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP®。
1984年生まれ。熊本県出身。自治体職員として、生活保護・地域おこし・防災・選管・児童福祉などの業務に携わる。在職中にFP資格を取得し、2017年に退職・独立。公務員世帯に特化した独立系FP事務所を運営中。
ブログやメルマガ、YouTubeなど各種メディアで「公務員にとって本当に役立つお金の知識や情報」を発信中。YouTubeチャンネル「公務員専門FP」はチャンネル登録者7,000名(2021年10月時点)。