「将来のために資金づくりをしたいけど、何から手を付けていいのかわからない…」「資産運用したいけど、投資はちょっと怖い」…
元公務員で、現在は公務員専門のファイナンシャルプランナーとして活躍している岩崎大さんに、気になる「公務員のお金」について本企画。
今回は、「保険」について執筆いただいた。
何らかの保険に入っている人が大半の世の中。一方で、自分の入っている保険について、詳細まで理解し納得している人は少ないのではないだろうか。
「家の次に高い買い物」と言われる保険。無駄にお金を払うことがないよう、以下解説していく。
保険っていろんな種類がありますよね。
生命保険、医療保険、自動車保険に火災保険などなど…。おそらく、「どんな保険にも一切入っていない」という方は少ないと思います。
実際、公務員世帯の家計相談を日常的に受けている筆者の肌感覚としても、何らかの保険に加入されているケースがほとんどです。そんな身近な「保険」ですが、一方でこう思ってる方も多いはず。
「保険は複雑でよく分からない…」
これもまた、相談時によく寄せられる「あるある」のお悩みです。でも考えてみれば、なんだか不思議な話だと思いませんか。よく分からない物に大金を払うって、ちょっとヘンテコな状況ですよね。
保険は高い買い物だから「なんとなく」で入るのはもったいない
保険は「家の次に高い買い物」と言われることもあります。ふだんの買い物を思い出してみましょう。高額な物を買う前は、自分なりによくよく吟味して、その価値を見出し、納得してから購入するのではないでしょうか。
人間なので時には衝動買いもあるかもしれませんが、商品が高額になればなるほど、衝動買いのトリガーは引きにくくなるはずです。
ですが、保険は高額な買い物であるにもかかわらず、その中身・本質をよく理解しないままに加入しているケースが非常に多い、という特徴があります。これはなぜなのでしょうか?
そもそも保険は複雑なものだから?……たしかに、複雑に設計されている保険もあるので分かりにくい、という理由もあると思います。
ですが、シンプルな掛け捨ての保険でさえ、自信をもって内容を理解している人は少ない印象です。「いくつ保険を契約しているか分からない…保険証券って何だっけ…?」という方も珍しくありません。
その背景には、「そもそも保険って何?どんなときに入ると効果的なの?」という素朴な疑問に、利害関係無しで答える人が少ないという構造的な問題があるのではないかと考えています。
そこで今回の記事では、独立系のFPである筆者が「保険って何?」という疑問に対して、できるだけやさしく、また、実践的にお伝えしたいと思います。
保険はリスク・マネジメントの一手段
保険は、「人生を破壊するほどの金銭的リスクを、保険会社に肩代わりしてもらうサービス」のことで、人生におけるリスク・マネジメントの1つです。
「リスク・マネジメント」とは主に経営分野で使われる概念ですが、今回の記事では「人生で発生しうるリスクを予測し、事前に対処することで、不安を和らげるための技術」としておきましょう。人生で身につけたいスキルの1つですね。
僕たちの人生は時に困難なもので、望ましくないことが予期せず起こる可能性があります。これらを一般的に「リスク」と呼びます。そんなリスクに対処するための手段の1つとして保険が存在するのですが、「リスク・マネジメント=保険に入ること」ではないことに注意が必要です。
あくまでも、保険は数あるリスク・マネジメントの一手段であり、全てではありません。保険が無料で無制限に使えれば話は別ですが、対価として保険料というコスト負担が必要になります。余計なコストを抱え込むこともまた人生のリスクになり得ますから、ここは最小限に抑えたいところです。
「保険はリスク・マネジメントの一手段で、全てではないんだね」と知っておくだけでも、「とにかく保険に入っておけば安心」という誤解に陥ることなく、保険をとても上手に活用できるようになります。それでは、保険の上手な使い手になるために、これからリスク・マネジメントの手順を見ていきましょう。
リスク・マネジメントの手順(見つける→計算する→処理する)
リスク・マネジメントは、次のようなステップで行います。
1、リスクを見つける
2、リスクを計算する
3、リスクを処理する
なお、保険に入るかどうかを検討するのは、3番目の「リスクを処理する」段階です。また、あくまでも「検討」であり、加入必須ではありません。保険での処理が向いているリスクのみ、保険加入を検討するのがベターです。どんなリスクが保険での処理に向いているのかについては、後編の記事で詳しく解説します。
それでは、リスク・マネジメントの各ステップに入っていきましょう。
Step1.リスクを見つける
まずは自分の世帯にどんなリスクがあるのかを見つけていきましょう。頭で考えるのではなく、ノートやメモアプリを使って、実際に書き出して列挙するのがオススメです。家計上のリスクを考える際には、大枠として次の二つを意識してみましょう。
・収入が減るリスク
…世帯主の死亡や就業不能、減給、リストラなど
・支出が増えるリスク
…病気、災害による損害、長生きなど
ちなみに支出が増えるリスクの例として挙げた「長生きリスク」については、公的年金という保険で、ある程度は処理されます。年金が保険?と思われた方は、ぜひ【人生の3大リスクに備える!公務員が知っておきたい「年金」の基礎知識】をお読みください。
自分の世帯のリスクを見つけることはできましたか?それでは次に、列挙したリスクを計算していきましょう。
Step2.リスクを計算する
家計改善にも言えることですが、より効果の高いものや緊急性の高いものから手をつけると効果的です。キズの手当てでも、大けがで大出血してる部分を後回しにして、さかむけ(ささくれ)を優先してケアする、なんてことはありませんよね。優先順位をつけることは重要です。
ということで、このステップの目的は、Step1で列挙したひとつひとつの「リスクの重大さ」を把握し、対処の優先順位をつけることにあります。具体的には、それぞれのリスクの「発生頻度」と「損害額」を把握することによって、リスクの重大さを可視化できます。
また、リスクの発生頻度や損害額は、世帯構成によって変動することもあります。例えば、公務員夫婦であればリストラで収入が減るリスクは低いでしょうが、公務員+フリーランスの場合は収入が減るリスクは相対的に高くなるかもしれません。ご自身の世帯に応じて考えてみましょう。
ここでは、具体例として「自動車事故」のリスクを算定していきます。Step1で「自分の世帯は車を日常的に運転するから、事故を起こしちゃったら損害賠償を求められるリスクがあるな…」と見つけたような場合ですね。
リスクの発生頻度を見込んでみよう
自動車事故の発生頻度は、警察庁や公益財団法人の交通事故総合分析センターなどの統計資料を使って算定することができます。
統計資料を見るのがベターではありますが、実際には「毎年のように自動車事故で損害賠償責任を負っている」なんてことはまずないと思います。そう考えると、重大な自動車事故を起こす頻度はそう高くはないでしょう。
リスクの損害額を見込んでみよう
では、「損害額」はどうでしょうか。事故の規模にもよりますが、自動車事故では賠償額が億単位になる事例もあり、起こしたら最後、1発で人生を破壊する金額になることもあり得ます。そう考えると、いざリスクが実現した場合の損害額は大きいと言えるでしょう。
このような要領で、各リスクを算定していきましょう。もちろん、計算や把握が不可能なリスクもありますが、なるべく詳細に把握することで、リスク・マネジメントの質が向上します。
ここまでのステップで、家計のリスクを見つけ、計算してきました。いよいよ次が最終ステップです。最終ステップでは、保険での処理が向いているリスク、向いていないリスクを知ることができます。ぜひ後編もご覧ください。
最も重要なプロセス。リスクの処理の段階に入ります。
後編に続く
岩崎 大(いわさき・だい)
公務員専門FP事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP®。
1984年生まれ。熊本県出身。自治体職員として、生活保護・地域おこし・防災・選管・児童福祉などの業務に携わる。在職中にFP資格を取得し、2017年に退職・独立。公務員世帯に特化した独立系FP事務所を運営中。
ブログやメルマガ、YouTubeなど各種メディアで「公務員にとって本当に役立つお金の知識や情報」を発信中。YouTubeチャンネル「公務員専門FP」はチャンネル登録者7,000名(2021年10月時点)。