「将来のために資金づくりをしたいけど、何から手を付けていいのかわからない…」「資産運用したいけど、投資はちょっと怖い」…
元公務員で、現在は公務員専門のファイナンシャルプランナーとして活躍している岩崎大さんに、気になる「公務員のお金」について本企画。
今回は、ネガティブな印象を持つ人も多いであろう「年金」について執筆いただいた。
「公的年金の本質は保険」と岩崎さん。どういうことか、お届けする。
公的年金は老年期の主な収入源であり、老後の生活を支える重要な柱の機能を果たします。年金制度への正しい理解は、人生の充実度を高めることにつながります。この記事では、公務員を取り巻く年金制度について理解を深めていきましょう。
今回お伝えする内容は大きく5つです。
1、公的年金と私的年金の違い
2、国民年金と厚生年金の違い
3、公的年金の本質は保険
4、世界から公的年金が消えたなら
5、公務員専用の年金情報サイトのご紹介
公的年金と私的年金の違い
年金は、大きく公的年金と私的年金に分けられます。
公的年金とは、国の社会保障制度の1つです。「老後は誰にでも訪れるからみんなで助け合おうね」という趣旨の制度なので、「年金って将来どうなるか分かんないし、入るのやーめた!」という選択肢は基本的に選べません。
最近の給与明細を取り出してみてください。公務員の場合、「厚生年金掛金」や「長期掛金」といった名目で、強制的に天引きされている金額があるはずです。それが公的年金の掛金=保険料ということになります。
この「保険料」とは、公的年金の本質を理解するための重要なキーワードです。後ほど説明しますので、ここでは「保険料って掛金のことなんだね」と心にとどめておいてください。
あなたが納めた保険料は、ご自身の財産として蓄えられているわけではなく、現在の年金受給者へ給付されています。この仕組みを賦課(ふか)方式といいます。
一方、私的年金とは、自分で積み立てる年金です。公的年金が強制加入であるのに対し、私的年金への加入は任意です。自治体職員の方なら、職場で私的年金制度が準備されているケースも多いでしょう。僕の公務員時代を振り返っても、職場で年に1回ほど案内がありました。
このように、公的年金は強制加入、私的年金は任意加入という特徴があります。
国民年金と厚生年金の違い
国民年金と厚生年金はどちらも公的年金の一種ですが、「加入する人」が少し違います。
国民年金は20歳から60歳の国民全員が加入する
国民年金は「基礎年金」とも呼ばれ、その名のとおりベーシックな年金です。20歳から60歳までの40年間、月数にして480カ月の間、しっかりと保険料を支払っていれば、誰でも満額を受け取ることができます。
満額は一定ではなく、賃金や物価の変動などを考慮して改定されます。なお、2021年度の満額は年額78万0900円です。実際に納めた月数が480カ月よりも少なければ、その分が満額から減額されるというイメージです。
国民年金の保険料は納付書で支払うのが一般的ですが、公務員の場合、納付書は届きませんよね。かと言って、保険料を払っていないわけではありません。給与から天引きされている金額に、国民年金の保険料も含まれている仕組みになっています。
厚生年金は公務員など「雇われている人」だけが加入する
誰もが加入するベーシックな国民年金に加えて、雇われている人だけが加入する年金が厚生年金です。
収入が多ければ多くの保険料が天引きされ、逆に少なければ保険料も少なくなります。納める保険料が人によって違うので、将来もらえる年金額も人によって違います。
公務員の場合、基本的には昇給していくので、保険料も比例して上がっていきます。もしも数年前の給与明細をお持ちでしたら確認してみましょう。「厚生年金掛金」や「長期掛金」といった金額が、今よりも少ないケースが多いと思います。
厳密には、毎月の給与額そのものではなく、「あなたの月収はこれぐらいですね」と決められる基準金額があって、その金額をベースに保険料が計算されます。これを「標準報酬月額」といいます。基本的には4、5、6月の3カ月間の給与をベースに1年間の標準報酬月額が決められます。
このような仕組みになっているので、3~5月の残業が多く、4~5月の時間外勤務手当がたくさんついた場合、保険料負担も増えます。ちょうど年度末・年度初めなので、繁忙期の部署も多いですよね。僕も公務員時代に補助金の精算事務などで3月、4月の時間外がドカッと増えて、厚生年金の保険料が増えた経験があります。
保険料が増えれば目先の手取りは減ってしまいますが、そのぶん将来の年金額も増えますし、遺族年金や障害年金の額も増えます。本題の年金からは少しそれますが、傷病手当金や出産手当金、育児休業手当金などの金額も増えるので、一概に損とは言えなかったりもします。
このような損得勘定はよく分かりますし、実際の相談の現場でも「何歳から年金を受け取れば得ですか?」とよく聞かれます。やっぱり気になりますよね。ですが、「公的年金の本質は保険」なので、損得で捉えても仕方ない部分があることも知っておきましょう。
公的年金の本質は保険
人生には、望ましくないことが予期せず起こる可能性があります。一般的に「リスク」と呼ばれるものですね。リスクに対処するための手段の1つとして、保険が存在します。適切な保険に入っておけば、万が一のリスクが降りかかった時に、壊滅的なダメージを負わなくて済みます。
ここで思い出してほしいのが、公的年金の掛金の呼び方です。覚えていますか?「保険料」と呼ぶのでしたね。この呼称が示しているのは、「公的年金は保険の一種」だということです。換言すると、「僕たちは保険料というコストを負担し、公的年金保険に加入することで、何らかのリスクに備えている」ということです。では、どんなリスクに備えているのでしょうか。
具体的には、次の3つです。
1、長生きリスク
2、障害リスク
3、死亡リスク
なお、法律(国民年金法、厚生年金保険法)でも、長生き→障害→死亡の順に規定されています。興味のある方は条文もお読みください。それでは、順番に解説していきます。
長生きリスクに対応する「老齢年金」
「長生き」と聞くと、なんだかおめでたいイメージが想起されますが、「長く生きれば生きるほど、老後の費用も増えていく」という切実な問題もあります。
そして、自分が何歳まで生きるのか、死の瞬間まで分かりません。平均寿命や平均余命という参考指標はあれど、最終的には神のみぞ知る世界です。何歳まで費用がかかるのか事前には分からないから「長生きリスク」というわけですね。
この長生きリスクを公的年金はカバーしてくれます。なぜなら、終身年金、つまり死ぬまで給付される年金だからです。具体的には「老齢年金」と呼ばれ、原則65歳から支給開始となります。「年金」と聞いて真っ先にイメージされるのは、この老齢年金でしょう。
もちろん、老齢年金が長生きリスクをどの程度カバーできるかどうかは、給付額や家族形態、生活水準など様々な要因の影響を受けます。そのため、自分での老後資金準備も大切です。
障害リスクに対応する「障害年金」
病気やけがで障害を負ってしまうリスクは、誰もが持っている人生の大きなリスクです。そんな障害リスクに対応するのが、「障害年金」です。
長生きリスクは老後特有のリスクなので、65歳から支給開始でも良いかもしれませんが、障害リスクとなるとそうも言ってられません。若くても障害を負う可能性はあります。
もしも30代で障害を負ってしまったときに、「障害年金の給付は65歳まで待ってくれ」なんて言われたら途方に暮れますよね。そのため、障害年金は「障害を負ったときから死ぬまで給付される」という特徴があります。
障害の状態・程度の審査や、保険料の納付要件などはありますが、万人が持つ障害リスクに一定程度は対応できるように設計されています。
死亡リスクに対応する「遺族年金」
家計を支える方が亡くなってしまった場合、遺族は「今後の生活費の捻出」という問題に直面します。それをカバーするのが、遺族が一定の年齢になるまで支給される「遺族年金」です。単身の方はあまり関係ないかもしれませんが、人生はどうなるか分かりません。今後、家庭を築くかもしれませんしね。
世界から公的年金が消えたなら…
ここまで見てきたように、公的年金は「長生き」「障害」「死亡」の3つのリスクに備える保険です。そしてこの保険は、現代を生きる僕たちにとって、とても重要な役割を果たしています。その重要度を知るために、もしも公的年金がなかったら…そんな世界を想像してみましょう。
その世界で生きる僕たちは、3つのリスクに対して、個人や家族で立ち向かわなければなりません。生活費は人それぞれですが、仮に月に15万円としましょうか。この場合、3つのリスクに対処するにはどれくらいの金額が必要になるのか、ざっくりと見てみましょう。
・長生きリスク…寿命を80歳とすると、65歳からの15年間で2,700万円。
・障害リスク…40歳で障害を負い、寿命を80歳とすると、40年間で7,200万円。
・死亡リスク…5歳の子どもを残して死亡した場合、子どもが18歳になるまでの13年間で2,340万円。
これらの金額を個人や家族で準備するとなると、なかなかハードな人生になりそうです。
公的年金がなかった時代、親の老後の面倒は子どもや子どもの妻が見ることが当たり前でした。時代の価値観といった社会的な側面だけでなく、旧民法上も、家長の同意なしに結婚することはできませんでした。法律でも縛られていたんですね。
そう考えると、結婚相手を自由に決める、家を出て就職する、気ままに一人暮らしをする、そんな現代では当たり前のような生き方の裏側に、公的年金の存在意義が浮かび上がって見えてくると思いませんか。
公務員専用の年金情報サイトとまとめ
最後に、地方公務員専用の年金情報サイトを紹介します。「地共済年金情報Webサイト」というサイトです。年金見込額の試算が可能で、「ねんきんネット」よりも更新が早いので、自治体職員の方は登録しておくことをオススメします。詳しくは公式サイトをご覧ください。将来の年金額の試算は、ライフプランを考える上でも重要です。
なにかとネガティブなイメージもある公的年金ですが、その役割が保険であることを知っておけば、上手に向き合っていけるのではないでしょうか。この記事が、年金制度への理解の助けとなれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「自分の定年って何歳?」「給与って減るの?」「退職金ってどうなるの?」
次回に続く
岩崎 大(いわさき・だい)
公務員専門FP事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP®。
1984年生まれ。熊本県出身。自治体職員として、生活保護・地域おこし・防災・選管・児童福祉などの業務に携わる。在職中にFP資格を取得し、2017年に退職・独立。公務員世帯に特化した独立系FP事務所を運営中。
ブログやメルマガ、YouTubeなど各種メディアで「公務員にとって本当に役立つお金の知識や情報」を発信中。YouTubeチャンネル「公務員専門FP」はチャンネル登録者7,000名(2021年10月時点)。