「将来のために資金づくりをしたいけど、何から手を付けていいのかわからない…」「資産運用したいけど、投資はちょっと怖い」…
元公務員で、現在は公務員専門のファイナンシャルプランナーとして活躍している岩崎大さんに、気になる「公務員のお金」について教えてもらう本企画。
今回は、「持ち家か?賃貸か?」について執筆いただいた。
持ち家を買うべきか、賃貸住宅を借り続けるか。コストや日々の満足度、転勤の有無など検討する点も多く、興味のある人も多いだろう。以下見ていこう。
こんにちは。公務員専門FPの岩崎です。先日、こんなご質問をいただきました。
30代の地方公務員をしています。夫婦2人暮らしで、近く出産予定です。持ち家の購入か、一生賃貸かで悩んでいます。今のところ、次の理由から一生賃貸を考えています。
・マイホームに憧れがあまりない
・賃貸は住居手当がある
・転勤を考えると職住近接が良い
・子どもが独立後に実家に住むか分からない
・近隣トラブルや、施工不良リスクも気になる…
ですが、職場は持ち家派が多く、親戚からも「家を持て」と言われています。持ち家・一生賃貸どっちが良いのかアドバイスをいただければ幸いです。
ご質問ありがとうございます。きっと同じようなことでお悩みの公務員の方も多いのではないでしょうか。実際、同様のご相談は本当によくいただきます。
ということで今回は、「持ち家と賃貸どっちがいいの?」という永遠のテーマについて取り上げたいと思います。
「持ち家派vs賃貸派」という呪縛から解放されよう
最初に提案したいのは「持ち家派vs賃貸派」という呪いから逃れよう、ということです。なぜなら、どちらも正解になり得る話で、二項対立で考えても不毛だと思うからです。
よくあるのは「コスト比較」でしょうか。トータルコストを比べて「こっちが有利!」みたいな話、よく目にしませんか?もちろんコスト比較は重要ですし、決断前の有効な材料にはなります。
ですが、物件選び、金利、寿命などなど…いろんな要素が複雑に絡み合っているので、前提条件でいくらでも変わりますし、あくまでもシミュレーションにとどまります。結局のところ、最終的には価値観・人生観という部分が大きな役割を果たします。
「持ち家vs賃貸」論争が絶えない理由
人間ですから、みんな「自分は良い判断をした」と思いたいし、まわりの人から「あの人は良い判断をしたよね」と思われたいものです。それが意識してのことなのか、はたまた無意識下の産物なのかは別として、人が社会的な生き物である以上、このような縛りから逃れるのはちょっと難しいと思います。
マイホームを購入した場合
…賃貸なんて家主の資産にお金をかけているだけだし、絶対持ち家だよね。
賃貸を選んだ場合
…持ち家なんて資産価値がないし、賃貸のほうが良いよね。
選んだ人自身がこのように思うのは自然なことですし、本人が熟考し、納得して決めたことであれば外野がどうこう言うのはやぼな話ですよね。
なので、大事なのは「自分が納得できるかどうか」に尽きます。そして納得するためにできることは、「コスト」と「コスト以外」にいったん分けて考えてみることです。
持ち家か賃貸かを考えるときは、まずvs構造から逃れて、損得だけで白黒をつけずに、「どんな人生を歩みたいのか?」に集中しましょう。
自分や家族の価値観と向き合う作業なので、一時の感情に任せるのではなく、しっかり時間を取って考えてみることをオススメします。
コスト以外の面から持ち家と賃貸を考えてみる
それでは、コスト面はいったん脇に置いといて、コスト以外の面から持ち家・賃貸それぞれの特徴を考えてみましょう。
持ち家のメリット・デメリット
ローンが終われば自分のものになるので、所有欲も満たされますし、リフォームも自由です。動物が好きな方は、ペットも自由に飼うことができますよね。
また、異動についてある程度考慮される場合もあるでしょう。これらは持ち家ならではのメリットだと言えます。
一方、持ち家のデメリットとしては「人生のコントロール可能な範囲が狭い」ことが考えられます。具体的には、下記のようなものでしょうか。
・その土地に縛られやすい
…隣人トラブルを引っ越しで解決する手段は取りにくいでしょうし、家族構成に合わせた柔軟な住み替えも難しくなります。
・長期の住宅ローンを負う
…長期にわたり返済計画を立てるため、年収が下がるような転職やセミリタイアがしにくくなります。資産価値のある物件であれば、マイナスを出さずに売却することも可能かもしれませんが、そういった物件は購入価格も高額であることが多いですし、将来的に不動産相場が下がる可能性もあります。
賃貸のメリット・デメリット
賃貸のメリットとしては、「人生においてコントロール可能な範囲が広くなる」ことが挙げられます。住環境を柔軟に変えることができるので、隣人トラブルへの対処や家族構成の変化に対応しやすい面があるでしょう。
そのほか、住宅ローンを負わないので「公務員を辞めて起業!」というチャレンジもしやすいかもしれませんね。余談ですが、公務員からの転職についてもよくご相談があります。
一方、デメリットといえるのは下記です。
・自分の資産にならない
…いくら家賃を払い続けても、自分の資産になることはありません。ローンと違って「完済」することがなく、将来に渡り家賃を払い続けなくてはならないので、現役期は良くても、年金暮らしになった後が心配だという方も少なくありません。
・こだわりの実現が限られる
…水まわりなどの設備や床・壁などの内容、そして間取りも「現在賃貸で出ているもの」から選ぶしかありません。自由なリフォームなどもできないことが多いでしょう。
賃貸が向いている人・持ち家が向いている人
いったんここまでをまとめると、
自由を重視したい、選択肢を残しておきたい人
…賃貸のほうが向いている
そんなことよりも持ち家の充足感が上回る人
…持ち家のほうが向いている
ということが言えそうです。とは言え、価値観は変容していくものですし、磨かれていくものでもあります。繰り返しですが二者択一じゃなくてOKなんです。
とりあえず今は賃貸を選んでおいて、後々家を買う、という選択肢もアリですよね。もちろん、そのための貯蓄や資産形成は必要です。
仮に寿命を100歳としましょう。そうすると、
30歳…あと70年分のライフイベントが残っている
50歳…あと50年分のライフイベントが残っている
70歳…あと30年分のライフイベントが残っている
このように、当たり前ですが若い時期は今後のライフイベントがたくさん残されています。未来も無数に存在している若い間は、選択肢を狭めなくても良いのかなとも思います。
また、持ち家が欲しい!という欲求を見つめることも重要です。
その欲求は「素の自分」から湧き上がったものなのか?
他者や常識・世間の空気などによって喚起されたものではないか?
持ち家の満足感は、賃貸では代替不可なのか?
こういったことを冷静に熟考した上でマイホームを購入した場合と、まわりに流されて購入した場合とでは、後悔する可能性や、後悔の大きさもかなり変わってくると思います。
実際のところ、「マイホームを買ったけど後悔しています…」というご相談もいただきます。持ち家を購入した分、「旅行をする回数を減らさなくてはならない」「子どもの教育費を削らなくてはならない」……そういう現実もあるわけですね。
誤解される方は少ないとは思いますが、僕はマイホーム購入がダメだとか、賃貸のほうが良いとか、そういうことをお伝えしたいのではありません。
持ち家という固定資産の購入は、その後の人生の選択肢にも大きく影響するライフイベントなので、まわりに流されずにしっかりと自分で考えたほうが楽しく充実した人生になるよね、という話です。ということで今回は、持ち家と賃貸について、コスト以外の面から考えてみました。
次回はもう1つの側面、コスト面から検討していきたいと思います。公務員メリットの活用という観点からの話もありますので、ぜひお読みください。
重要な側面、コスト面について検討していきましょう
後編に続く
岩崎 大(いわさき・だい)
公務員専門FP事務所代表。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP®。
1984年生まれ。熊本県出身。自治体職員として、生活保護・地域おこし・防災・選管・児童福祉などの業務に携わる。在職中にFP資格を取得し、2017年に退職・独立。公務員世帯に特化した独立系FP事務所を運営中。
ブログやメルマガ、YouTubeなど各種メディアで「公務員にとって本当に役立つお金の知識や情報」を発信中。YouTubeチャンネル「公務員専門FP」はチャンネル登録者7,000名(2021年10月時点)。