【セミナーレポート】警報発令の9時間前からスピード対応!自治体主導の気象観測で安心のまちを目指す。
令和3年8月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は第6次評価報告書を発表。地球温暖化に伴い異常気象の発生率も上昇すると予想しています。本セミナーでは、超高密度の気象観測サービスと、それを活かした茨城県の取り組みを紹介し、地域を守るために何ができるかを考えました。
当日の様子をダイジェストで紹介します。
概要
□タイトル:激甚化する自然災害からまちの安全を守る
□実施日:2021年8月26日(木)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:33人(※自治体職員のみにて)
□プログラム:
第1部:豪雨がもたらす自然災害から、まちの安全を守る(※著作権の関係上記事掲載はありません)
第2部:超高密度気象観測・情報提供サービスPOTEKAの紹介
第3部:守谷市の防災と地域の天候
超高密度気象観測・情報提供サービスPOTEKAの紹介
毎年のように起こる“これまでに経験のない”気象災害。各地で甚大な被害が発生する中、明星電気は官民連携でこの課題を解決しようと、超高密度気象観測・情報提供サービス「POTEKA(ポテカ)」を展開している。同社の担当者が、その内容を事例もまじえて解説する。
<講師>
岡田 崇志(おかだ たかし)さん
明星電気株式会社 気象防災事業部営業部
気象予報士
プロフィール
平成22年気象予報士資格取得。民間気象情報会社に勤務し、国土交通省、自治体、航空・鉄道・道路会社などへの気象コンサルティング業務に従事。平成28年明星電気入社。気象予報士の経験を活かし、POTEKA担当として自治体や民間企業などへ広くアドバイスしている。
天候の変化を細かく読み災害からの逃げ遅れを防ぐ!
近年、平成30年の西日本豪雨や令和元年の台風19号、令和2年の熊本豪雨など、気象災害が局地化・集中化・激甚化しており、今年もすでに熱海の土砂災害や、各地で発生した線状降水帯による水害などが起きています。そうした中、国の施策として国土強靭化基本計画に基づき、「国土強靭化5か年加速化対策」や「地域の強靭化」といった視点のもとで、インフラの老朽化対策やデジタル化推進などが重点課題となっています。
これらは全て、人命を最大限守り、経済活動の致命的な被害を回避することを目的として、安全・安心な国土・地域・社会の実現を目指すものです。特に自治体においては、地域防災という観点のもと、地域の実情に即した個々の対応が重要だと当社では考えています。
まずは、現状どのような防災情報を皆さんが使われているか、主たるものを紹介します。下図青枠の4点です。
多くの自治体で行っているのは、こうしたものから得た情報を、防災無線などにのせて地域住民に発信する、といった流れでしょう。しかし、これだけの情報を流しても、住民の逃げ遅れは繰り返し起きています。一番難しいのは、“避難の判断をする”、“判断した情報を伝達する”ということです。この問題に自治体の皆さんも直面していることと思います。それらをふまえ、地域防災で大切なのは、市区町村ごとに出るような注意報・警報などでは情報の粒度がまだ粗いため、さらに細分化された地域独自の防災情報を収集することによって、災害時の対応の優先度をエリアごとに見極め、迅速な判断につなげるということです。
この課題を解決できるのが、当社のPOTEKAです。POTEKAは気象庁のアメダスを補完するかたちで、小型の気象計を地域のしかるべきところに設置し、高密度に観測情報を取得することができます。平成27年の7月にサービスを開始し、現在は1,000を超える観測局、自治体だけでも353の観測局が実稼働中です。これらの地域を守る“眼”で、災害対応時の行動判断の精度を高め、地域防災の高度化を支援したいと考えています。
住民に切迫性を伝える身近な観測地点からの情報
ここからは、簡単にPOTEKAのシステムや、小型気象計の紹介をしたいと思います。まずシステムの説明です。POTEKAの全体像は、地域に小型気象計を設置して、エリアに特化したピンポイントの気象現象を観測する、というものです。この観測情報はインターネットを介し、リアルタイムで下図のように、情報提供サービスサイト「POTEKA NET(ポテカネット)」で見ることができます。
観測機器自体は、設置スペースが1×1m、高さが1.5mほどで、重量が130kg。電源はソーラーパネルとバッテリーの併用で稼動します。例えば日本海側の地域のように冬場の日照時間が限られたところでも、約3日は無日照の条件下で電源供給が可能。これでも足りないようであればAC電源につなぐことができます。
センサーの構成要素は、弊社独自開発の小型気象計と、転倒ます型の雨量計の2つです。小型気象計は日射量、感雨、風向・風速、気圧、気温・湿度を計測します。サイズは人間の大人の頭くらいの大きさです。風速、気圧、気温・湿度、雨量計の5つについては気象庁の測器検定品なので、自治体からの防災情報として、住民にこのまま観測情報を提供することが可能な仕様です。
機器の設置事例についてですが、例えばアメダスや国交省の雨量観測地点がどこにあるのか、一般の方はほぼご存知ないと思います。こうしたことが有事の際に、災害を身近なこととして捉えづらくなる原因の一つだと思うのですが、POTEKAの場合は自治体が持っている公的施設、例えば住民に周知性の高い小学校の屋上とか、公民館の屋上などに設置するケースが大半です。多くの人は、自分が住んでいるまちの小学校の場所は分かるはず。そうした身近な地点の気象情報を住民が知ることで、より災害時の切迫性が伝わりやすくなるのです。
重要情報を画面上に一元化!POTEKA NETで雨雲の動きを追う
次にPOTEKA NETの紹介です。情報サイトは「POTEKA NET」で検索すると、誰でも無料で見ることができます。気象防災情報を1画面で同時閲覧できるので、国交省のサイトや、気象庁のアメダス、雨雲レーダーなど様々な情報が同時に得られます。ユーザーインターフェースも良く、従来は色々なサイトを開いて、それらの情報を頭の中で合成・分析していたものを、システム上で重ねて見ることができるのです。
続いて、実際の観測事例を紹介します。後にご登壇いただく守谷市の、令和3年7月11日の局地豪雨について、POTEKA NETを通して見てみましょう。下図、赤い破線で囲んでいる部分が守谷市で、10の観測地点があります。これが時間雨量と雨雲レーダーを重ねたものです。
時間の経過と共に、西側から雨雲が湧いてきて、雨が強くなってきます。15時41分には大雨注意報が出て、その後16時頃には守谷市南部で冠水を確認。この時のPOTEKAの観測地点、特に守谷市南部では時間雨量20ミリを超えるような雨になっています。その後には警報が出て、次々に冠水を確認しています。この時点で多いところでは1時間に84ミリの雨が降っています。
このように面的な情報とピンポイントの観測データによって、災害が起こりそうなところ、一番気象状況が激しい部分を特定できます。
災害対策における行政DXと業務効率化の推進に貢献する
他、浸水の危険度分布や降水強度も、マップ上にビジュアライズされた情報として確認することができます。周辺のデータも見られるので、近隣自治体と連携して防災に取り組む上でも非常に有効です。
参考までに、POTEKAは1基で約4平方キロメートルを網羅します。アメダスは1局あたり約290平方キロメートルです。POTEKAが圧倒的に緻密なデータを取得できるので、先ほどの画面のように地域の気象状況を細かく捉えられるようになります。ここまでの内容をもとに、POTEKAの特徴を簡単にまとめたものが以下の図です。
最後に、POTEKAの管理・運用のメリットについて紹介します。
POTEKAは機材を販売するようなものではなく、情報利用料で契約いただくかたちになっているので、機械の購入費はもちろん、更新費用、通信費、メンテナンス費なども不要です。機械の管理といった雑務も発生しないため、自治体の業務効率化、DX推進にも貢献できます。
その他、POTEKAの機能として、河川水位と雨量の相関グラフを確認できる、水位監視カメラと連携できる、WEB・APIシステム連携が可能、などといった特長があり、幅広い運用が可能です。スマートフォンアプリを介して地域住民へ気象情報を提供することもできるようになります。地域防災の高度化に繋げる対策として、ぜひご活用ください。
守谷市の防災と地域の天候
ここからは、実際にPOTEKAを導入している守谷市の鬼柳さんが登壇。導入に至った経緯や、防災上の活用事例を中心に、災害後・平時の運用、近隣自治体での広がりなどについて語ってもらった。
<講師>
鬼柳 一樹(おにやなぎ かずき)さん
茨城県守谷市 交通防災課 副参事(防災担当)
プロフィール
平成28年 陸上自衛隊定年退職。同年、守谷市役所に入庁。防災担当として市の安全・安心を守る業務に携わる。
地域は自分たちの力で守る!河川に囲まれた守谷市の選択
守谷市は茨城県の南西端に位置しています。河川環境は南を利根川、西を鬼怒川、北を小貝川の3河川に囲まれており、利根川沿いの低地を大野川、五反田川、羽中川の小河川が貫流して利根川に注いでいます。そうした環境ですが、守谷市にはアメダスがありません。一番近いのが隣の市にある坂東観測所で、他にも付近に3カ所ありますが、市内には観測ポイントがないのです。
以前は市内3カ所に独自の雨量計を設置していました。しかし、ランニングコストが高いということと、雨量情報が不確実である、という点が課題でした。契約の終了を控え、異常気象に対応するにはどうすべきかと悩んでいたところ、明星電気の話を聞き、地域単位の超高密度気象観測網が構築できるということで、POTEKAを導入しようということになりました。当初は8台で観測を開始しましたが、より高密度の2キロメッシュを目指そうということで2台追加し、現在は10台で観測しています。
警報発令に先行して避難所の開設準備を実現
当市でPOTEKAの試験運用を開始したのが平成27年8月1日で、同年9月1日から本運用を開始しています。その同じ月に起こったのが関東・東北豪雨です。鬼怒川が氾濫し、激甚な災害が我々を襲いました。
9月9日の朝7時、市内の西板戸井地域に設置したPOTEKAで雨量31.5ミリを確認しました。当市では注意報を出すレベルです。同じ頃、坂東のアメダスが25ミリを計測しています。職員がその雨量から異変を感じ、自治会長に「土砂災害避難所の開設準備をしておいてほしい」と依頼しています。そして同日16時36分、守谷市に大雨洪水警報が発令されました。つまり、警報が出る9時間前にはPOTEKAの観測で避難所の開設準備を依頼していたということです。
その後、9月10日の4時15分に土砂災害警戒情報が発令され、同16分に警戒区域内の20世帯に避難勧告を発令しています。さらに7時45分、大雨特別警報が発令され、同46分には土砂災害警戒区域内の20世帯に避難指示を出し、同日12時には他の地域に対しても避難勧告などを発令した、という流れです。
この時には、各地で体験したことのないデータを覚知していました。2日間の総雨量が最大で200ミリ、比較的雨量が少ない南側のエリアでも175ミリを観測しています。当時の課長は、「POTEKAの観測があったから、避難勧告・避難指示を迷わず発出できた」と評価しています。
平時にも活用の場が広がる!POTEKAで目指す安心のまち
守谷市でのPOTEKA設置場所は、学校や図書館など概ね公共施設です。収集したデータについて、災害時は災害対策本部で活用しています。例えば、令和元年台風19号の時の災害対策本部では、設置したいくつかのディスプレイの一つにPOTEKA NETを映し出し、市内地域ごとの気象情報の把握をしたり、POTEKAの予報機能を活用したりしました。また、ブリーフィング・会議の最後にはPOTEKAが出す地域の予報について説明・共有しました。さらに、近隣のPOTEKA情報も表示して、現在の気象データ等を把握しつつ、どちらから雨が降っているのか、現在どういう結果なのか、といったことを観測しました。
災害が終わった後は、市民から「どのくらいの雨量だったのか」「今回の台風ではどのくらいの風が吹いたのか」といった質問を受けるので、そうした際には観測した気象データを公表してお答えしています。また、罹災証明の手続きなどにおいても、「この時にこういう災害で壊れた」という申請があればデータを活用し、罹災証明発行の裏付けとして活用しています。
平時の活用については、例としてゲリラ豪雨への対応があげられます。具体的には、近隣自治体の降雨状況をPOTEKAで観察したり、ナウキャストのデータと比較したりして、脅威を探るといった活動です。先ほどの岡田さんの話でも出ましたが、下図の右上画像は今年7月11日のPOTEKAの情報です。上の方はほとんど雨が降っていないような状況、それに対し中央から南の方は降っております。当時私はこの南エリアで防災講和をやっており、15時半頃に終了して質問等に答えていたところ、16時頃から猛烈な雨が降り出しました。
すぐにPOTEKAを開いて確認し、これは異常だと分かったのですが、同時に北の方はそこまで降っていないと確認できたので、すぐに当庁して災害対策に入りました。ちなみに私が現地を出たのが16時頃で、その約10分後には道路が冠水していました。
他、平時にはWBGT(暑さ指数)の機能も活用しています。上図の下部にある画面はPOTEKAのWBGTを示す画面で、様々な数値が表示されています。当市ではPOTEKAの小型気象計を各公営小学校に設置しているので、小学校の現地がどのくらいの数値になっているのかを個別に確認し、熱中症に注意が必要だと伝えたり、運動会の開催について助言したりといったことにも役立てています。
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