ジチタイワークス

三重県鳥羽市

ICTで複数の離島診療所を連携し、“バーチャル離島病院”を実践。

伊勢湾の入口付近に位置する鳥羽市には、湾沿いに神島、答志島、菅島、坂手島と4つの有人島がある。いずれも市営定期船で10~30分と本土から比較的近い立地ながら、全国的な離島・へき地の医師不足を受け、これら離島地域での安定的な医療提供が困難になる事態に直面していた。その解決策として同市が取った方法が、ICTで島々の診療所と医師・看護師とをつなぐ“バーチャル離島病院”だった。

※下記はジチタイワークスVol.15(2021年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

離島での安定した医療提供へICT活用を医師から提案。

鳥羽市の4つの有人島には、それぞれ医師1人と看護師が常駐する市立診療所がある。しかし、医師の急な退職で医師が常駐できない期間が発生するなど、安定した医療提供が課題となっていた。「離島人口の減少に伴い、患者数も減っていることから支出超過となり、運営コスト的に厳しさもあります」と、同市の中村さん。神島診療所に延べ10年勤める医師の小泉さんも危機感を抱き、医師が常駐しなくとも質の高い医療を提供できる方法を模索していた。

そこで提案したのが、各診療所の情報をクラウドでつなぎ、複数の医師で複数の診療所を担当、兼務するオンライン診療を視野に入れた“グループ診療”。平成29年頃より小泉さんを中心に市健康福祉課、県など関係機関で検討しはじめたが、クラウド化に必要な電子カルテは医療機器ではないため、管轄省の補助対象外となり市の予算がつけられずにいた。しかし、令和2年度の国土交通省の「スマートアイランド推進実証調査」に応募し採択されたことで、必要機材・環境の導入が進み、プロジェクトが動き出したという。

遠隔での医療体制が実現し医師が島に不在でも安心に。

令和2年11月から実証調査がスタートした「TRIMet※(トライメット)バーチャル鳥羽離島病院実証プロジェクト」は、各島および本土側の診療所計7カ所と医師・看護師をつなぎ、1つの病院“バーチャル離島病院”として捉える取り組み。各診療所にパソコン・タブレット・ネット環境を整備し、「セコム医療システム」のクラウド型電子カルテと遠隔診療支援システムを導入した。「操作がシンプルで、パソコンに慣れていない人でも使いやすい」と、小泉さんは話す。

看護師が使用する機材。測定した患者のバイタルデータをリアルタイムで送信し、遠隔から確認できる。

カルテはオンライン上で共有され、医師が島に不在でも看護師が患者のバイタルを計ってリアルタイム送信でき、医師がクラウド上の電子カルテを見ながら診療ができる。「荒天や夜間など医師が島に渡れないときの急患も、映像を見ながらオンライン診療ができ、島在住の看護師に指示して薬の処方や点滴ができるため、医師・看護師とも不安を軽減できた」と、小泉さん。独自性が目立った各診療所の業務フローの統合や、電子化による事務作業軽減などの業務効率化にもつながったという。
※TRIMet=Toba Rural area&Island Medical team。離島間で構築したバーチャル鳥羽離島病院で、医療従事者が連携を取りながらチームを組むこと

 

■TRIMetバーチャル鳥羽離島病院の仕組み


高い医療の質を保持しながら島民の“生活の質”を向上する。

令和3年3月に実証調査が終了し、島民の反応はおおむね好評。一方で課題や改善点も見えてきた。一番は、医師が自宅や出先でオンライン診療に応じると自由診療扱いとなり、患者の医療費負担の増大につながる、医療報酬制度のアンマッチだ。そのため小泉さんは、島外では休日・夜間応急診療所に移動してオンライン診療を行ったという。現在、同市から関係各所へこの改善を呼びかけ中だ。「オンラインで医師同士の情報交換もできると、よりこの仕組みが成熟すると思う」。「離島振興に熱い思いを持つ他部署の職員たちの力も借りながら、島民が安心して住み続けられる環境を整えたいです」と、中村さんも展望を語る。

今後は運送会社と組み、オンラインで薬を処方後、島へ配達しオンライン服薬指導を行う“オンライン処方”を実現したいと検討中。また、介護福祉とも連携することで、少子高齢化が進む離島でのQOL向上にもつなげられる。「この離島で、未来の日本に応用できる医療システムを、先んじて構築できたと思います」と、小泉さんは手応えを感じている。

左:
鳥羽市立神島診療所 所長
小泉 圭吾(こいずみ けいご)さん
右:
鳥羽市 健康福祉課 健康係長(へき地診療担当)
中村 孝之(なかむら たかゆき)さん

実証実験を通して、離れた診療所同士でも同じ病院内に勤めているかのような一体感を感じました。この連携をますます強めていきたいです

課題解決のヒント&アイデア

1.現場医師の声を確実に拾い、旗振り役として実行へ導く

へき地離島医療に関して全国的にも有名な小泉さんの尽力があり、プロジェクトの立案・運営まで運べた。自治体は現場の声の情熱を取りこぼさず実現を目指した。

2.小まめな情報収集で補助金や支援を活用

医療に関わる補助金をICT分野で取るという“離れ技”的な方法で、バーチャル離島病院を実現。関係者の小まめな情報収集や連携があってこそ参画できた。

3.様々な部署で培ってきた人脈や経験をフル活用

中村さんは以前財務係に在籍し、診療所の財政難などを把握。また人事係時代の経験から、どの課の職員が一緒に動いてくれるかを見極め、協力を仰いだ。

 

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