自治体の制度の中でも、とりわけ神経を使う“人事評価”と“給与”。時に職員の不満を生むこれらの制度に対し、前例のない改革を進めたリーダーと、実現への仕組みを提供する事業者から、実践に向けたヒントを語っていただきました。
概要
■タイトル:人材データの一元管理!職員の潜在能力を最大化する人事戦略とは?
■実 施 日 :2021年5月27日(木)
■参加対象:自治体職員
■開催形式:オンライン(Zoom)
■プログラム:
第1部:頑張る職員に真に報いる人事制度の導入経過
第2部:人材データの一元管理!職員の潜在能力を最大化する人事戦略とは
第3部:質疑応答
第1部:頑張る職員に真に報いる人事制度の導入経過
「年功序列を廃止した唯一の自治体」と呼ばれる箕面市。その改革はどのようにして進み、どういった効果を生んでいるのか。制度改革の陣頭指揮を取った前市長の倉田さんが当時の状況と舞台裏を語る。
<講師>
倉田 哲郎 さん
前・箕面市長
プロフィール
郵政省、総務省などの勤務を経て、2008年より箕面市長を務める(就任当時は34歳2カ月で全国最年少市長)。3期12年を経て2020年8月退任。市長就任の翌年度、5年連続赤字だった市の財政を黒字に転換。徹底した行財政改革を進める一方、多彩な政策とスピード感のある行政運営を展開。箕面市は10年間で人口8%増を達成、住みよさランキング大阪1位を獲得した。
職員から聞いた“愚痴”が改革のトリガーになった
私は12年間、箕面市で市長を務めました。その間、様々な取り組みを進めましたが、今回はその中の1つ“人事給与制度改革”についてお話しします。
改革のきっかけは、居酒屋で若手の職員から聞いた愚痴でした。その職員の言葉は、「自分たちは一生懸命に頑張っているが、そうでない職員もいる。こちらは仕事ばかり増えて報われることもない。これではモチベーションが下がる」というものだったのです。
私も公務員をやってきた経験上、その言葉は理解できました。役所が組織として強くなり、地域のために頑張っていくには、そうした部分を放置してはいけません。そこで給与・人事制度の見直しに着手したのです。
「年齢」ではなく「責任」を処遇と一致させる制度への転換!
まずは給与制度の見直しについて説明します。
公務員の世界は年功序列です。もちろん若手の抜擢を推進している自治体も増えており、必ずしも年齢だけで昇格する訳ではありません。しかし、若くして昇格していく職員と、同期で入って昇格していない職員と、給与の格差がほとんどないという現実があるのです。
図の左下、Aさん、Bさん、Cさんは同期で入庁したとします。順調に行くとみんな同じように昇給していきますが、ある年、Aさんはそのままで、B・Cさんが監督職に昇格しました。ところがB・Cさんの給与は“直近上位”と呼ばれるところに位置付けるのが基本的なルールになっているため、基本給がほぼ変わらないということが起きてしまうのです。
これは図のように、役職が違っても給与の幅に“重なり”があるために起きるものです。そして、次にCさんが課長などの管理職になったとしても、直近上位に位置付けられて基本給は横にスライドするため、3人の役職は全く異なるのに給料の格差がほとんどない、といった状況になります。これが公務員の給与制度の仕組みです。“若手の抜擢”などと言われていますが、年功序列はこの仕組みの中に温存されているのです。
その結果どうなるか、というのが図の右側です。入庁9年目のやる気あふれる職員が主査に昇格したのに、入庁19年目で一般職の部下の方が高い給料をもらうことになります。誤解を恐れずに言えば、19年間全く昇格できなかった人と、9年で主査になった人とでは、やる気が全然違うと思うのです。加えて監督職の方が責任は重く、色々な仕事がまわってきます。これではモチベーションが下がるのも無理はありません。
こうした状況を改善するために、箕面市では以下のように、「責任と処遇の一致する給料表」を導入しました。
従来の制度だと、前述のように俸給表の“重なり”があります。そこを極力なくし、役職に応じて給料も上がっていくという仕組みにしました。
同時に、9級から1級まで上がっていく制度の、9・8級にあたる部分を廃止し、主査、課長、次長、部長に昇進する時に重複ゼロのポイントを設けました。これにより給料の逆転が起こらない、という制度にしたのが給与制度改正の中身です。
ちなみに、これらは基本給の話で、実際は管理職手当が上乗せされます。しかし、その手当の差が小さいのが現実です。以前の箕面市の場合だと、係長と部長の間でも最大3万7,000円の差しかありませんでした。新しい給与制度では、最大8万円の差がでるように調整しています。
また、退職手当の見直しも行いました。以前の退職手当は、退職する時点から過去5年間の給料に基づいて算定していました。しかしこの制度だと、6年前以前の実績は無視されてしまうのです。
例えば若い頃に一生懸命頑張って、年配になってからは振るわなかったという人もいるでしょう。しかし、その若い頃の頑張りは評価されるべきです。そこで、過去5年だけでなく、入庁から退職までの“生涯賃金”を退職金算定の基礎にしました。在職期間中にどれだけの職責を果たしたのか、ということによって退職手当が変わってくるという制度改革です。
“多面評価”を採用し誰もが納得できる人事制度へ
次は人事制度の話です。給与制度が変わっても、サボっている人が上にゴマをすって昇格するようでは困ります。まっとうな人が評価されることが大事なので、人事評価制度の見直しも行いました。
私が実現したかったのは、「多くの人がその評価をできるだけ納得する」という制度です。例えば酒の席で話をする時に、「あの人はすごい」とか、「○○課の□□さんは頼りになる」といった話が出てきます。それらの評価は、実際の仕事面と一致していることが多いものです。
ならば、その率直な評価をできる限り合理的に数値化できたら、みんな納得いくのではないか。そんな発想から制度づくりをしました。もちろん簡単にはいきません。どうかたちにしていくか、苦心した末に作ったのが”多面評価”の制度です。
これは、部下、同僚、上司、所属長、他の課の同僚、他の課の上役の評価を総合する仕組みです。全員が平等に評価するのではなく、距離感の近い人により多くのパーセンテージを持たせています。
ポイントは、上司と反りが合わず不当な評価をされてしまうような場合も想定しているというところです。上司1人の評価よりも、同僚や部下などまわりの人たちの評価の合計が高くなりうる設定をしています。
被考課者に付ける評価は6ランクで、「標準」といった真ん中はありません。上回っているか、そうでないかという点は、苦しくても判断しないと評価の意味がありません。こうして評価を出し、それを割合に応じて集計することで出た点数が一次評価になります。
ここで注意が必要なのが、ある課は厳しい、ある課は緩い、といった点数の相場の食い違いが発生するということです。その調整作業を「部内調整会議」という場で行います。部の中で各課の課長が集まり、課内の評価を突き合わせて相対的に調整するのです。
部内調整会議で評価一覧ができたら、それを各部が全庁で持ち寄り、「全庁調整会議」で同じ作業を行います。そして最終評定の中で、上位○○%という分布図に基づいて評価点を決定します。
また、「昇格降格リスト」を作り、2年連続で評定ⅠまたはⅡに入っている人たちが昇格候補者リストに、2年連続評定Ⅴの職員は降格候補者リストに載ることになります。
この制度を作る時には、「機械的にやると昇格できない人が出てくるのでは」といった意見も出ましたが、決して機械的ではありません。一人ひとりの職員をまわりの人が評価して、課長、部長が集まってアナログな調整を重ねていく―これはまさしく合意形成のプロセスです。
職員が自信を持てる評価制度が地域の幸福度も高める!
実際に制度がスタートしてから、人事評価の結果を私も見ましたが、非常に納得できるものになっていました。ちなみに、制度を作った時の試算では、34歳で課長になるのが超スピード出世で、こういうことは滅多にないだろうと読んでいたのですが、実際に36歳で課長になった人は出てきています。職員も「彼なら納得だ」と口々に言っていました。
また、地味な人でも評価されているという一面も垣間見えました。「見ている人は見ているんだな」という印象です。
このように箕面市は制度改革を進めました。特に給与制度の改革はハードルが高く、政治力も必要になります。それでも、できるだけ各自治体で進めた方がいいと思いますし、仮に給与制度を変えられないとしても、評価制度を納得感のあるものにしていくだけで、職員が「きちんと評価されている」と自信を持って頑張れることに繋がると思います。
そうした職員の頑張りは、地域住民の幸せに繋がっていきます。ぜひ参考にしていただいて、各自治体の職員さんがのびのび活躍できる制度作りの一助になれば幸いです。
第2部:人材データの一元管理!職員の潜在能力を最大化する人事戦略とは
人事評価は、ともすれば人力に依存した泥臭い仕事になってしまいがちだが、この分野でもテクノロジーは活用できる。ここからは、人材開発サービスを手掛ける「カオナビ」の福田さんから、自治体の人事評価におけるIT活用についてアドバイスをいただいた。
<講師>
福田 智規 さん
株式会社カオナビ アカウント本部 エンタープライズセールスグループ マネージャー
プロフィール
大手メーカー系IT関係会社に新卒入社。主にITインフラ全般のソリューション営業業務に従事。営業企画を経験後、グループ共通サービスの企画、クロスセルなど間接販売業務も経験。大手企業向け営業ノウハウを学ぶ。2019年カオナビに入社しエンタープライズ領域の新規開拓を担当、現在はエンタープライズセールスグループで新規・既存向け営業のマネジメントを担当。
人材情報の一元化が人事関連業務を効率化するカギ
カオナビは、人材開発・マネジメント領域に特化したサービスを提供しているタレントマネジメント企業で、2,000社以上の企業で導入されており、自治体や公共団体でもご利用いただいています。
ちょうど倉田さんからのお話であったような人材評価や、人員配置など、人材にまつわるデータを管理してマネジメントに活かす領域でサービスを展開しています。
これまでは、人材の情報が人事部門など一握りの部署だけで使われているケースが主流でした。こうしたデータを、上層部や現場の管理職の方々にまでタイムリーに活用できる体制を整え、組織の潜在能力を最大化していくことが、我々の考えるタレントマネジメントです。
そもそも、人材の情報は人事施策に応じて「何が必要か」が変わります。そこで、あらゆる立場の人が使えるようにするために、人材データも随時更新し、鮮度を保つことがマネジメント成功の秘訣です。こうした面も考慮してシステムを提供しています。
カオナビでできることを簡単にまとめたのが、以下の図です。
今回はこの中でも、「人材情報の一元化・見える化」、「評価運用の効率化」と、それらを活用することで何ができるのかという話をしていきます。
人材情報データベースの構築で組織内に横串を刺す
まず、マネジメントに関わる人材情報は、以下の3つにまとめられます。
【MUST】組織において必ず持っている個人の基本情報
【CAN】人材の評価やスキルなどといった情報
【WILL】仕事で何をやりたいか、どんなキャリアプランを描いているかなどの情報
このMUSTの情報は、基幹システムや人事台帳で管理するのが主流だと思いますが、CANやWILLの部分は紙やエクセルで管理していて、探すのが大変だったり、そもそも人の記憶に頼っていたりということも多いでしょう。
こうした情報を一元化し、様々な情報に横串を刺して見られる状態を作ると、職員の潜在能力を見つける、あるいはそれを活かした配置をするといったことに繋がってきます。
では、具体的にどう管理するのかという点を、操作イメージで説明します。
カオナビの「プロファイルブック」が人材情報を一元化したデータベースです。この画面は、登録されている人の顔写真と名前が並ぶシンプルなものになっています。組織単位などでの絞り込み機能もあります。
顔写真をクリックすると、その人にまつわる情報が集約された画面が開きます。先ほどのMUST情報を中心に、所属や職務内容の履歴、入庁するまでの履歴などが見られ、履歴書・職務経歴書などのPDFデータを格納することも可能です。
例えば、研修の受講履歴を管理しておいて、受けていない研修に対して今後の育成計画を立てたりすることもでき、過去の評価の推移などをデータとして保持しておくこともできます。
管理画面では、情報パーツを選択し、ドラッグアンドドロップで操作しながらデータベースを構築できます。ビジュアライズされているので操作性が良く、施策に応じて管理するデータを追加したり、入れ替えたりすることも可能です。既存システムの情報などをCSVデータとしてカオナビに投入することもできます。
また、必要な情報を必要な人が使っていくために、権限の設定も行えます。例えば自分の部下の経歴は閲覧できるが、他の課の情報は見られないとか、人事部は全て閲覧できるなど、しかるべき権限設定をしていく設計になっています。
HRテクノロジーの導入で様々なデータ活用が可能になる!
この一元化によって様々なことが実現できます。例えば、35歳くらいの優秀な人材を抽出して次のプロジェクトに登用したい、といった場合、その条件で抽出してリスト化表示することが可能。つまり、庁内の人材データに横串を刺して可視化できるのです。
また、人事評価を行う過程で、目標設定が終わっている人が何人いて、未入力が何人いるからフォローアップが必要、などといった進捗が見えるので、効率的に人事評価を進めるという点でも有効です。集計の手間も軽減できるので、評価制度をよりブラッシュアップすることに時間を使えるようになります。
その他、人材データをグラフ化する機能もあります。例えば横軸を組織、縦軸に評価を設定すると、組織内で優秀な人材がどのように分布しているかが可視化されます。これをもとに、優秀な人材をバランス良く配置するといった活用も考えられるでしょう。
こうした機能の広さと使い勝手の良さで、導入各社からも業務時間の短縮などが実現できたという声が寄せられています。
~カオナビで実現できること・まとめ~
・DXの流れもあり、HRテクノロジーの活用は自治体でも進んでいる。この流れに乗り、本来の価値ある業務に注力できる環境を整える。
・人材データの一元管理、可視化によって必要な人が必要な情報をタイムリーに使うことで、個人の能力の最大化、組織の力の最大化につなげる。
・ペーパーレスに貢献でき、テレワークでも業務を効率的に進められる。
カオナビは、導入実績やノウハウを多く持っていることも強みです。ユーザーコミュニティもあり、行政向けの特別価格プランもご用意していますので、興味のある自治体様はぜひお問い合わせください。
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