神奈川県横須賀市は令和2年7月、市民を対象に1回目の新型コロナウイルス感染症の抗体検査を始めた。抗体検査は過去にコロナにかかったかどうかを調べる検査だが、これほど大規模に実施する行為は、当時全国でも珍しかったという。しかし「もはやそんなことを言っている段階ではない」という、同市医師会の危機感が計画を後押しした。取り組みの概要や狙い、見通しなどを理事の水野さんに聞いた。
※下記はジチタイワークスINFO.(2021年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供] 株式会社つばめLabo
無症状の場合も多いコロナでは罹患者の実態調査が大事!
令和2年4月24日、横須賀市は同市救急医療センター駐車場内に「横須賀PCRセンター」を開いた。新型コロナウイルスの感染拡大に備えるのが狙いだ。これと同時期に「コロナは無症状であることも多いので、市民がどれくらい感染しているかを調べるべきです。しかし、多くの自治体で、無症状者を検査するような仕組みができていないのが実情であり、課題です」という水野さんの意見が、市長の考えと一致。無症状の市民1,000人への抗体検査ができるように、早い段階で検査体制の構築に踏み切った。
同市は居住地、性別、年齢などの偏りがないように一般市民1,500人を選定。手紙で意思確認をした上で希望者約1,000人に対して検査を実施した。この抗体検査のときに使用したのがVazyme社のコロナ抗体キットだ。
濃厚接触者を細かく追うよりも大きな網をかけるほうが効果的。
コロナの感染はさらに拡大し、同市では令和2年12月31日に913例目が発表された後、加速度的に感染者が増加、1月21日には1,523例目が確認された。感染の拡大により、これまでのように症状のある人と濃厚接触者にPCR検査を実施。抗体検査で全体像を把握するフェーズから、今どこで感染が起こり、広がっているかを把握するために広くPCR検査を行うフェーズに移行した。「陽性者が出てから濃厚接触者を追うのでは物理的にも人的にも間に合わない」と水野さん。
できれば全市民に、予算的に無理ならばサンプリングした対象に広くPCR検査をすることが望まれる。その仕組みを担うツールとして期待されているのが、医薬品商社「つばめLabo」の検査キット「スマート検査ラボ」だ。
この検査キットの利点は、“簡便であること”と“スピーディーであること”。実際、自宅で採取した唾液を送れば翌日には結果が分かる。一般的なPCR検査では、結果が出るまでに2日、一部地域では3日もかかることを考えると優位性が高いといえるだろう。また、利点は簡便さだけではない。唾液検査なので採取時に痛みを伴わず、精度が高い検査を可能にする。さらに採取後は、唾液に保存液を入れることで、ウイルスによる感染性をなくすことができるという。このように安全性の高さも特徴だ。
通常のPCR検査は、医療施設で行われることが多い。しかし、多くの対象に一斉に行う場合、“密集”という本末転倒の状態を招く危険性をはらむ。「自宅で検査できることは、無症状者をあぶり出す最適なシステムといえるでしょう」と水野さんは評価する。問題は、この検査をどこが行うかだが、こうした疫学的なアプローチには費用もかかるため、収益性を考えると民間での対応には限界がある。
「それを考えずにできるのは自治体。だからこそ、自治体が主導で検査キットを導入する意味があるのです」と強調する。
トップダウンではなく、地域の実情に応じた個別アプローチを。
「国の施策は全国の自治体の主要な声を寄せ集めたものです。従って、かゆいところに手が届きにくい。それは、自治体の規模も風土も人の流れも異なるからです」と、水野さんは国と自治体との関係を説く。「だから、国からのトップダウンではなく各自治体の実情に応じた個別のアプローチで臨むことが大切です」。
その具体策として、PCR検査で得られるデータや情報が役立つと水野さんは考える。「様々な情報や検査に携わるノウハウを持っているのは、医療機関やつばめLaboのような企業です。そこから得られた地域独自の情報を、今後のコロナ対策の判断材料にしてほしいですね。規模の大小に関わらず、新しいことができる自治体になるために大切なのは、“人の話に広く耳を傾けること”です。その上で、様々なデータを集めて国に上げ、一つひとつの小さな声をデータとして大きな指針にまとめ上げることです」。
いわば市民ファーストで導入に踏み切った横須賀市の取り組みは、差し迫る医療崩壊に歯止めをかけるための試みの一つといえそうだ。
横須賀市医師会理事
水野 靖大(みずの やすひろ)さん
「スマート検査ラボ」の強み
土日や祝日、年末年始も休まず、検査キットの発送・検査を実施
スマート検査ラボは365日体制で稼働。土日や祝日はもちろん、年末年始も休まず検査キットの発送から結果通知までに対応する。検査結果は検体到着後48時間以内にウェブ上やメールで通知される。陽性の場合には、検査ラボの医師が行政へ感染症法にもとづく届出を速やかに共有する連携体制を整えている。
国立感染症研究所の作業手順に準拠した徹底的な精度管理で対応。
スマート検査ラボでは検査機器、試薬ともに日本のバイオ機器メーカーであるタカラバイオ社製を使用。メーカー指定の精度管理を定期的に行っているため、高い精度でウイルスを検出することができる。PCR検査には専門的な知識を有する経験豊富な医学部教授や医師、基礎医学研究者などが当たり、精度に目を光らせる。
こんな場面でも活用できます
1.老人ホームなどの高齢者用施設で配る
一般的に、無症状者にPCR検査を実施する自治体は極めて少ない。このため、見過ごされた高齢の感染者が重症化し、亡くなるケースが増えている。特別養護老人ホームや介護老人保健施設をはじめとする様々な高齢者用施設でスマート検査ラボのキットを配布すれば、早期に感染者の把握・クラスターの発生防止に取り組める。
2.検査体制のない保健所と提携する
感染の疑いがある人のPCR検査の窓口となる保健所は、検査体制を整えている所ばかりではない。こうした施設に対してスマート検査ラボのキットを配布する。
3.市中病院やクリニックで利用してもらう
感染の疑いがあるが、保健所や地方衛生研究所などではなく、各自治体所属の医師会が提携する市中病院やクリニックなどで受ける人が対象。各医療施設にスマート検査ラボのキットを置き、迅速な確定診断を図る。
つばめLaboが手がける事業
事業の柱として、長年ワクチンの輸入を手がけてきたつばめLabo。感染症に精通した病院やクリニックなどが主な取引先となっており、全国800以上の医療機関との取引実績がある。また、PCR検査キットや抗体検査キットだけでなく、医療機関向けの個人用防護具(N95マスク・プラスチックガウン・フェイスシールド)なども取り扱っている。