令和5年に「孤独・孤立対策推進法」が成立し、孤独や孤立状態にある人に対して状況に応じた支援を継続的に行う施策が推進されている。日本が国家戦略として取り組む研究政策、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の中では、重要課題として「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」が進行中だ。包摂的コミュニティとは「自律性」と「寛容性」を備えた共同体のこと。プロジェクトはABCDの4つのサブ課題で構成され、さらに9つのテーマに細分化されている。研究チーム全員の共同目標は包摂的コミュニティを形づくるプラットフォームの実用化、事業化だ。
令和6年11月20日(水)に行われた今回のシンポジウムでは3つのテーマを軸に、高齢者と女性の健康増進に焦点が当てられた。当日の様子をダイジェストでお届けする。
[主催]国立研究開発法人産業技術総合研究所/株式会社アシックス/パナソニック ホールディングス株式会社
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※掲載情報は公開日時点のものです。
プログラム
▼ 開会あいさつ
▼ 基調講演1 内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォーム構築」の目指す方向性
▼ 基調講演2 健康まちづくりに関するコンセプトとエビデンス
▼ 基調講演3 女性特有の健康課題とWell-being ー生産性とパフォーマンス、QOL向上に向けた施策ー
▼ 活動報告1 健康寿命延伸を目指す「デジタル同居サービス」の開発
▼ 活動報告2 行動変容支援サービスを高度化する個人類型化技術の研究開発
▼ 活動報告3 行動変容に向けた対話AI技術の活用
▼ パネルディスカッション 行動変容を促すサービス開発を通じた包摂的社会の実現
▼ 閉会あいさつ
開会
少子高齢化を迎える中で包括的社会をどのように実現するか?
サブプログラムディレクターを務める唐澤 剛氏が開会のあいさつを述べた。
内閣府SIPプログラムは、日本が国家プロジェクトとして取り組む研究政策だ。
今回のシンポジウムはその中の重要課題の1つ「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」に関係する。自己の自律性が尊重され、他者に寛容な社会を包摂的な社会と定義。それを実現するために必要なプラットフォームはどのようなものか、研究の経過報告が行われる。「少子高齢化を迎える中、包摂的社会をどのように実現するかという課題に関心を持ちながら、ご参加いただければと思います」と、開会のあいさつが締めくくられた。
基調講演1
内閣府SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」が目指す方向性
基調講演1には、プログラムディレクターとして全体統括を行う筑波大学大学院・久野 譜也教授が登壇。
「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」研究チームが目指す「包摂的社会」とは何か、取り組みの方向性を共有してもらった。
包摂的社会とは寛容性と自律性を備え、支援者とつながる社会
包摂的社会には2つの要素があり、1つ目は多様な個人を受容する「寛容性」と、一人ひとりが主体的に行動する「自律性」を備えた社会だ。「包摂的」という言葉自体が難しく馴染みのないワードだが、「インクルージョン」と表現される社会のあり方がそれに近い。包摂的社会の2つ目の要素は、困難に直面したとき相談できる、支えてくれる人とのつながりがある社会。「孤立や孤独の解消もカギになりますが、何でも1人で解決することは誰しも難しいものです。寛容性と自律性を備えながら、つらいとき、困難なときに支援者とつながる社会が包摂的社会だと考えています」。
研究チームの全体像として、まず「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」は全体が共有するメインの課題だ。それを4つのサブ課題に分け、A「社会の寛容性向上策」、B「個人の自律性向上策」、C「子育て世代・女性の幸福度向上策」、D「障害者・高齢者の生きがい向上策」に振り分けられている。
これらをさらに9つのテーマに細分化し、サブ課題Dは3つのテーマを担当するチームが、それ以外のサブ課題はそれぞれ2つのテーマを担当する研究チームが各自並走しながら、お互いを補完し合い研究が進められている。
女性の健康課題解決には、当事者と周囲の人の変容が必要
今回のシンポジウムは女性の健康課題も大きく取り上げられた。「若年女性の運動実施率は20%以下で、女性のやせの者が先進国で最も多いのが日本の現状です」。さらに20代から30代の女性の体力は全世代の中で最も低い。その世代の女性が重労働の子育てを担い、メンタルヘルスも悪化させている現状がある。「女性は若い頃から健康づくりのための運動習慣をもつ人が少なく、母親になってからも自身の健康問題が後回しになっているのです」。
個人の課題だと思われがちだが、実は社会の課題だという。「例えば母親がジムに通おうとしても、子どもを置いて自分のことをやっていると捉えるネガティブな社会的雰囲気があります。問題解決には本人の行動変容も重要ですが、社会も変えていく必要があるのです」。当事者を変えながら周囲の寛容性を高める包摂的社会の実現が、女性の健康につながる。「健康的な女性が増えることで企業の生産性向上や人手の確保にもつながり、日本の多様な社会問題に貢献すると考えています」。
無関心層も含めて望ましい価値観・行動へ変容できる基盤的社会技術の開発
医学的に正しい知識があっても、現実社会では実際の行動に結びつかないことが多い。例えばフレイルは運動で予防可能だと科学的に証明されているが、フレイルになる人は増え続けている。その理由は「予防のための運動をやらない人、無関心な人が圧倒的に多い」と久野教授は指摘。研究チーム全体が目指すのは、健康に無関心な人も含めて自分から行動を変えてもらう技術を開発し、世の中に送り出すことだ。「その技術を我々は“社会技術”と呼び、各テーマごとにサービス開発を進めています」。
基調講演2
健康まちづくりに関するコンセプトとエビデンス
基調講演2には、千葉大学予防医学センター・近藤 克則特任教授が登壇。
健康的な行動を促す環境づくり「ゼロ次予防」の考え方をオンライン講演で教えてくれた。
健康的な環境づくり「ゼロ次予防」で無関心層に働きかける
予防医学は個人を対象にした健康づくり(一次予防)に長年取り組んできた。しかし近年の研究で、一次予防だけでは不十分なことも徐々に判明し、予防医学のトレンドは健康的な環境づくりで集団全体に働きかけるポピュレーションアプローチにシフトしている。「ゼロ次予防」とも呼ばれる考え方だ。ゼロ次予防は無関心層も含め全体に働きかける平等さがある。「一次予防は病気になった人や健康に関心がある人に対しては有効です。一方で、無関心な人には響きません。しかし例えば、東京駅に新幹線で向かえば、健康への関心は関係なく乗り換えのために歩かないといけません」。
物理的環境と同じくソフト面での健康づくりも有効だという。「全国の高齢者20万人を対象に行った調査では、公園や建物でつくった建造環境だけではなく、地域レベルで社会参加しやすい社会環境や情報の入手しやすさも健康に影響することが分かっています」。
▲ 登壇資料より引用(クリックで拡大)
ウォーキングポイントで年間12.6億円の医療費抑制、死亡リスクも低下
横浜市のウォーキングポイント事業に参加した高齢者を調査した結果、歩行時間が1日3.6分増加し、運動機能と老年期うつのスコアが改善。3.6分とわずかな時間だが、全体で見ると経済効果は大きい。「1日1歩増えると年間医療費が2.36円安くなると過去の研究でも出ています。参加した高齢者は延べ15万人、年間12.6億円抑制できた試算です」。さらに参加者を4年間追跡したところ、専用の歩数計で歩数をオンライン上に記録した高齢者は介護認定を受ける、あるいは死亡する確率が23%低いことも分かった。
▲ 登壇資料より引用(クリックで拡大)
基調講演3
女性特有の健康課題とWell-being ー生産性とパフォーマンス、QOL向上に向けた施策ー
基調講演3では、サブプログラムディレクターを務める順天堂大学 医学部産婦人科講座・北出 真理教授が登壇。女性のライフステージ別の健康課題について語っていただいた。
女性の健康課題が経済損失や次世代への悪影響につながる
学童・思春期では運動不足による体力低下、過度なダイエットによる「やせ」が目立つ。コロナ禍の影響もあり、令和1年度の体力測定結果では男女ともに体力低下が顕著に見られた。女子中学生はさらにその傾向が高い。中高生時代の運動経験は、更年期以降のサルコペニアや骨粗しょう症のリスクを下げることも分かっている。しかし実態は、週1回の運動実施率も女性は15歳頃から急激に下がり、運動機会にも男女差がある。また、日本人は先進国の中でもやせ女性の割合が最も高い。過度な「やせ」は貧血や糖尿病など本人の健康を損なうだけではなく、不妊や低出生体重児、子どもの糖尿病リスクも上げることから、やせ女性の問題は次世代にも影響が及ぶ深刻な健康課題だ。
▲ 登壇資料より引用(クリックで拡大)
出産回数の減少で月経回数は9倍、74%の就労女性が月経で悩む
働く女性世代では月経に関係する問題も深刻だ。晩婚・晩産化による少子化、女性のキャリアアップによりライフスタイルが大きく変化している。出産回数が減ったことで現代女性は生涯の月経回数が9倍に増加。「何が問題かというと、女性ホルモンに暴露され続けることで子宮筋腫・子宮内膜症といったホルモン性疾患の増加、不妊症の高年齢化や妊娠合併症にもつながります」。就労女性の約74%が月経の症状で悩み、生理痛で仕事を休むなど労働損失を含めると約7千億円の経済損失を生んでいる。
正しい情報、適切な対応で予防・改善は可能
女性のライフスタイルの変化は晩産化・少子化傾向を増長し、女性特有の課題も顕在化しつつある。「正しい情報を知って適切な対応を行うことで、予防や改善は十分可能です」。正しい情報の周知や個人の健康リテラシーを高めることがまず必要だと指摘。さらに北出教授は、「定期的な健診に加えて、妊娠出産時期を考慮した長期的なプランニングが女性のウェルビーイング向上につながる」と提言した。
▲ 登壇資料より引用(クリックで拡大)
活動報告1
健康寿命延伸を目指す「デジタル同居サービス」の開発
活動報告1ではパナソニック ホールディングスの山岡 勝氏が登壇。健康寿命を延ばすために開発中の「デジタル同居サービス」の進捗を報告してくれた。
2040年に要介護者のピーク到来。施設難民を防ぐには健康寿命を延伸し在宅を維持する
2040年をピークに要介護高齢者は増え続けるが、一方で需要減も明らかなため介護施設の今後の増加は見込めない。将来の日本では施設に入れない高齢者が増え、自宅で過ごす要介護者の重度化も進むとみられている。「今こそ健康寿命を延伸し、在宅生活を維持するサービスをつくる。これが私たちの使命」。と山岡氏は語る。
デジタル同居サービスでビジネスケアラー対策をする
介護予防のアプローチとして「デジタル同居サービス」の開発が進む。介護を必要とする前段階で導入し、高齢者の日々の様子をモニタリングする。高齢者自身は無関心な時期でもあるが、子世代は将来の親の介護問題を考え始めるタイミングだ。「我々の戦略として親の老化を感じる子世代にアプローチして、ビジネスケアラー対策を事業化する方針です」。
▲ 登壇資料より引用(クリックで拡大)
日常動作やチャットから介護リスクを予測、来年度に大規模実証
今年度開発されたのは、日々変化する高齢者の状態を適切に評価する「指標」。さらに、来年度の大規模実証に向けた実証システムも開発された。スマートウォッチから収集した日常動作のデータ、本人と専門家のチャットのやりとり、この2つのデータを分析して数値化する。健康な状態の高齢者が要介護状態となるフレイルにどれだけ近づいているか数値で表し、介護リスクを予測するシステムだ。
活動報告2
行動変容支援サービスを高度化する個人類型化技術の研究開発
活動報告2では、個人類型化技術の開発を行う産業技術総合研究所の木村 健太氏が登壇。個人の性格や価値観、属性や環境など多角的なデータを分析してカテゴライズ。ユーザーに最適な支援を提案する技術の開発状況を報告してくれた。
データから人物像を分類、その人に合った支援で行動を変える
個人の状況やタイプに応じた対応をすることは、あらゆる場面で実践されている。データに基づいて「この人はこんなタイプ」だと人物像を判断するのが個人類型化技術だ。「一人の人間には多くの側面があります。年齢、性別、家族構成といった社会的要因、性格やリテラシー、その人を取り巻く環境などを含めた膨大なデータを解析して、個人を分類する技術です」。個人類型化技術の目的は、その人に合わせた最適な支援や介入方法を提案すること。一人ひとりに合った支援を考える手助けをして、従来の画一的な支援が響かなかった人にも支援を届け、行動変容をサポートする。
▲ 登壇資料より引用(クリックで拡大)
個人の健康リテラシーを評価するテストを開発
現在、個人の健康リテラシーを評価するテストを開発した段階。そのテストをもとに、3問程度の質問項目で健康リテラシーを評価するテストアプリも開発された。それと同時に研究で集めたデータから、健康リテラシーの低い人、高い人とは具体的にどういった特徴をもつかを分析。その中から特に運動に関係する14の類型を見いだした。この類型からそれぞれに効果的な介入アプローチも予測できる。14の類型を別のチームとも共有して、開発中の対話型AIアプリや、デジタル同居サービスにも活用する方針だ。
活動報告3
行動変容に向けた対話AI技術の活用
活動報告3では、アシックスの田川 武弘氏とemotivE(エモーティブ)永井 秀敏氏の2名が登壇。行動変容に対話型AIを活用する計画を報告してくれた。
対話型AIが無関心層の行動変容の伴奏者
行動変容にはそれをサポートする伴奏者が必要だ。「運動に当てはめて示すと、行動を起こさない無関心期を経てから行動を起こすまでの間にも、誰かの運動の様子を見る、相談してアドバイスを受けるといった、他者からの影響を受けるプロセスが存在します」。しかし実際に、常に誰かに張り付いてサポートする役割を人間が担うとなれば、大勢のマンパワーと莫大なコストがかかる。そこで注目したのが自然言語対話AI技術だ。ユーザー個人を理解する対話AIアプリが伴走パートナーとなり、健康に無関心な人の行動を変えようという取り組み。まずは働く女性世代を対象に始める計画だという。
▲ 登壇資料より引用(クリックで拡大)
行動を妨げる要因を分析、個別の行動プランを提案
昨今話題のChatGPTは第三世代AIと呼ばれるものだが、開発中のAIは「熟考的AI」と「即応的AI」を組み合わせた新しいAI技術で、第四世代に当たる。「従来のヘルスケアアプリはAIが最適解を示すものでしたが、行動変容を妨げる要因を対話型AIが収集し分析、さらにそのユーザーがとるべき行動プランを示すところまで踏み込み開発を進めています」。
パネルディスカッション
パネルディスカッションには7人のパネラーが登場。唐澤氏、北出氏の2人がファシリテーターを務めた。
●ファシリテーター
唐澤 剛 サブプログラムディレクター/社会福祉法人サン・ビジョン 理事長
北出 真理 サブプログラムデイレクター/順天堂大学医学部産婦人科講座 教授
●パネラー
木村 健太 国立研究開発法人産業技術総合研究所 研究グループ長
田川 武弘 株式会社アシックス 部長付
山岡 勝 パナソニック ホールディングス株式会社 総括担当
阿部 祐樹 株式会社JDSC DXストラテジーマネージャー理学療法士
佐々木 裕子 株式会社チェンジウェーブグループ 代表取締役社長CEO
永井 秀敏 株式会社emotivE 部長
宮田 真一 株式会社つくばウエルネスリサーチ 執行役員
唐澤:SIPのゴールは社会実装、すなわち「持続可能なビジネス」「持続可能な政策」にすることです。行動変容サービスの開発のために取り組んでいることを教えてください。まずは本日初登壇の方から、宮田さんお願いします。
宮田:つくばウェルネスリサーチの宮田です。国や自治体に対するコンサル事業を行う企業で、行動変容を促すサービスとして健康ポイント事業の推進支援を行っています。そこから見えてきたのは、まず魅力的なインセンティブが何といっても重要。そして継続を促すために個別のプログラム処方を行っています。無関心層を取り込むためにはSNSやリールを含めた広告戦略で、口コミを生むしかけが大切だと感じています。
唐澤:ありがとうございます。女性の行動変容に対しては、どのようにアプローチすればよいでしょうか?「デジタル同居」の分担研究機関を務める佐々木さんに伺いたいです。
佐々木:チェンジウェーブグループの佐々木です。変革の波が由来の会社名から分かる通り、企業変革のための人的資本経営、ダイバーシティ推進を手助けする企業の創業者です。私自身がビジネスケアラーかつダブルケアラーの立場で開発に関わっています。ビジネスケアラーを支援する企業向け研修サービスを当事者との接点にして、そのデータから知見を提供する。もう1つ「おせっかいネコ」というチャットボットをプロトタイプとして開発し、高齢者の方のLINEにメッセージを送り「スクワットしたら?外に行ったら?」とおせっかいを焼くサービスも約3年続けています。ここでのインサイトを「デジタル同居」に提供しながら共同開発しています。
唐澤:ありがとうございます。同じく、阿部さんにもお話を伺います。
阿部:JDSCの阿部です。東大発のAIスタートアップの企業で、理学療法士のキャリアを活かし技術開発しています。電力データでフレイルを検知する事業に関わり、スマートメーターという装置から収集した電力データをAIで分析し、フレイルを検知するものです。日中の活動、例えば電気をつけ洗濯機をまわすといった生活パターンは自宅の消費電力と連動しています。その電力の波形にはパターンがあり、特徴的な変化から高齢者のフレイルを検知する事業を実装化し、今年度は全国12の自治体で導入されました。フレイル対策コンソーシアムという取り組みの中で、パナソニックとも共通目標として健康寿命延伸を掲げて産学官の連携をしています。
唐澤:佐々木さんと阿部さん、両者のお話は「デジタル同居」にどう生かされているか、山岡さんにお聞きしたいです。
山岡:ビジネスケアラーのニーズは潜在的で、社会への必要性のアピールや当事者とのつながりが重要です。「おせっかいネコ」のサービス実装も経験した佐々木さんの知見が我々の社会実装も早めると考えています。阿部さんのJDSCが参画するフレイル予防コンソーシアムには、SIPの参画前から協力関係にありました。当初、介護状態からの回復を目指していましたが、元気な高齢者の介護を未然に防ぐことも可能では?という気づきをそこから勉強しました。
北出:いろんなチームが混在し、対象もビジネスケアラーや高齢者、女性とそれぞれですが、全対象に共通するのが「無関心層」の存在です。ポピュレーションアプローチが届きにくい無関心層に行動変容を促すにはどうすればよいでしょうか?
阿部:フレイルに関しては、気づく機会を与えることが重要だと思います。自治体の後期高齢者健診の参加率は3割未満。介護予防教室でフレイルを発見する事業もありますが、会話の場に出る方が5%台と非常に低いことが課題です。デジタルの力で掘り起こしてきっかけをつくり、次のサービスにつなげることが大切だと思います。
佐々木:社会構造の変化が必要ですが当事者本人には難しい。一番スピードが速いのは「おせっかい」だと思います。デジタルを介したおせっかい、子どもが親を心配するおせっかい、強制力を帯びたしかけづくりをして、組み合わせることが大事だと考えています。
北出:それぞれありがとうございます。生身とデジタルの組み合わせですね。女性や高齢者、弱い立場の人を守らなきゃといいながら、周りの人もどうすればよいか分からない現状もあります。無関心の人たちも併せてどのように今後動くか楽しみにしています。
閉会
「包括的社会」という新しい概念を創造するために
サブプログラムディレクターを務める目﨑 祐史氏が、イベント全体を総括して閉会した。
SIPは戦略的“イノベーション”創造プログラムという名の通り、「技術」が主な対象だ。包摂的社会を実現するために、新しい素材や複雑な機械ではなく「社会技術」を使う。「包摂」の概念は政府が2016年に“1億総活躍”を提唱した時代から使われ始め、インクルージョンの日本語訳に当てたというが、「両者は完全に同じものではないとプロジェクトを通して感じます」。久野教授は包摂を「自律性と寛容性の合成」と明確に定義し、「包括的社会」という新しい概念を創造するために、それぞれの研究チームが技術を開発している状況だ。今回はそのうちの“自律性”にフォーカスした内容が発表された。
Information
SIPの総合シンポジウム「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」
開催日:2025年2月4日(火)
テーマ「社会の寛容性を高め、個人の自律を尊重する社会技術」
多くの方のご参加をお待ちしています。