高知県が平成15年度より実施している、市町村に県職員を配置する「地域支援企画員制度」。地域のニーズや思いをくみながら活性化に向けた取り組みを支援するとともに、県の情報を伝え、その市町村に住む人たちの声を県政に反映させる活動を展開している。
取り組みの開始から約18年。県庁と市町村をつなぐパイプ役として高い評価を得てきたこの制度について、同県の池澤さんに聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.12(2020年11月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]高知県
行政サービスよりも住民の主体性を引き出す活動を。
中山間地域で高齢化・人口減少に歯止めがかからない状況にある高知県。「当時は、ユズなどの地域資源を活用した活性化の成功事例が一部あるものの、取り組みが県内全域に広がっていないという課題がありました」と池澤さんは振り返る。
解決のヒントとなったのは、平成14年に開催された「よさこい高知国体(第57回国民体育大会)」だ。
「できるだけお金をかけない手づくりのイベント開催でした。そのため、ボランティア活動や民泊の展開など住民による主体的な活動が盛り上がり、地域の絆を認識できました。この経験から、行政が一律でサービスを提供するより、住民の主体性を引き出す手助けをする方が、地域の実情に合わせやすいのではないかと考えたのです」。そこで、平成13年から行っていた中山間地域に県職員1人を駐在させる“支援事業”を平成1 5年に拡大し「地域支援企画員制度」を確立したのだという。
Interview
地域支援企画員制度は、住民が「ここに残って暮らしていける」と思えるきっかけの一つになっていると思います。
高知県 産業振興推進部 計画推進課 課長 池澤 博史さん(いけざわ ひろふみ)
県内7つのエリアに駐在した県職員が、住民を支援する。
同制度は、県職員が知事や県庁の“眼”“耳”“手足”となり、駐在先の地域との対話を実行すべく始まったものだ。「県庁職員が企画員として市町村に赴き、そこに住む人たちと一緒に汗を流し、活動することが大きな特徴です」。
県内7つのエリアに分かれ活動する企画員は、県の支援制度の活用を促したり、関係機関へとつなぐ支援役という位置付けだ。これにより市町村職員と県職員が協働する体制づくりが進められた。7人で始まった制度は、翌年度には5 0人、翌々年度には6 0人に増員され、体制を強化。組織的に県の重点施策を遂行する活動へと移行し、平成 2 7年度からは6 4人体制へ。若手をはじめとする現場職員と、マネジメントを担う副部長級の人員を各エリアに配置する構成となった。34市町村のうち31市町村では役場に席が用意され、市町村と連携した様々な活動を実施している。「副部長級の人員を配置したことにより、各地の首長と直接対話できるようになった効果は大きいと感じています」。
市町村の声が県庁に届けば、物事が円滑に進む。
中でも、住民の声が県庁に届くようになったことは、この取り組みの大きな成果といえるだろう。令和元年に高知新聞社が実施したアンケートでは、34市町村の97%が「絶対必要」「あった方がよい」と回答。「住民が足を運びやすい場所に職員を配置することで、物事が前に進むようになりました」と実感を語る池澤さん。
その一方で、課題もあるという。企画員の業務は前例がなく、職員個人の属人的な資質や能力によってプロジェクトへの関与の度合いが異なる。そのため、一部の市町村からは「能力の個人差が大きい」と不満の声も。同県は指導的立場の総括職員を配置し、企画員のフォローや広域的なコーディネートを行う対策を講じている。
地域支援企画員制度は、同県が平成21年から実施する「産業振興計画」の地域アクションプラン推進の、大きな役割の一つでもある。多方面からのアプローチにより、地域の資源や特性を活かした産品や雇用が生まれ、移住者の増加にもつながっている。「活動内容はその時々の重点政策によって変わることはありますが、住民の声を県政に反映し、県や国の施策を各地域へつなぐ役割は今後も変わらないと考えています」。
地域支援企画員の支援事例
▶香美市(物部川エリア)
高知発のクラフトビール
大阪府からの移住者によるクラフトビールづくりに地域支援企画員が関わった事例。企画員が香美市に入ったことで農工連携がしやすくなり、移住者の声も拾いやすくなった。
▶東洋町(安芸エリア)
体験型・滞在型観光の推進
農漁村の民泊の推進、海上アスレチックの整備、観光案内所などの体験型観光の創設。令和元年の体験者数は2,941人となった。産品づくりにとどまらない高知の魅力を伝えている。
地域支援企画員の皆さん(一部)
課題解決のヒント&アイデア
1.市町村の首長と対話できる意思決定者を現場に配置
現場には、若手職員に加え、職員をマネジメントする副部長級・課長補佐級の職員を配置。以前と比べて市町村首長との対話が容易になり、県政に反映しやすくなった。
2.業務の垣根を越えたチームワーク
地域支援企画員は部署に関わらず、自ら志願した職員を中心に構成。支援を進める際は、県庁の関係部署から人を集め“実行支援チーム”を結成し、業務の垣根を越えたチームワークで地域をサポートする。市町村とも連携し「どこに相談したらよいか分からない」という住民の声をとらえ、機能的に動ける体制を整えている。
3.若手職員の現場経験が人材育成につながる
コミュニケーション能力が必要とされる企画員の活動経験は、若手職員にとって有意義。現場経験を通じた意識の変容や調整技術の向上、そこで築いたネットワークは、その後の業務にも活かせる。住民の声を県政に反映する経験そのものが、県の未来をつくる人材育成にもつながっている。